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本屋を入口に、地域に学びの場をひらく。 子どもの主体性を育む「でこぼこ書店」



さいたま市の住宅街に、ちょっと変わった本屋があるのを知っていますか? その名も「でこぼこ書店」。1階は本屋、2階は学習塾という二つの顔を持っています。

店主の富井弥さんは、「このお店は一見すると本屋ですが、私がいちばん力を注いでいるのは、子どもたちの教育なんです」と話します。
受験テクニックを教えるのではなく、子どもたちが自ら考え、学び、未来を切り開く力を育てたい。そんな想いが詰まったこの書店を訪れました。


本屋と学習塾、二つの顔を持つ「でこぼこ書店」


JR北与野駅から徒歩15分。喧騒から一歩離れた閑静な住宅街にひっそりと佇んでいるのが、小さな本屋「でこぼこ書店」です。

でこぼこ書店を外から見た様子


1階の書店には、新刊や地域の人が出品する貸し棚の本、オリジナルグッズが並びます。ここを訪れる人は本を探すだけでなく、本や人との思いがけない出会いを楽しめます。

一方、2階は学習塾となっており、古本コーナーのほか、学習教室や貸しスペースがあります。ここが、でこぼこ書店のもう一つの顔です。表の看板は本屋だとしても、富井さんが最も時間とエネルギーを注いでいるのが、この2階の教室。書店は、その学びへ自然につながる入口なのです。


塾での様子


現在、学習塾では、小中学生向けの学習サポート教室や国語教室が開かれており、学校や塾で学んだ内容の復習や基礎の定着を中心に、少人数制で一人ひとりに寄り添う指導が行われています。子どもたちにどんなサポートをしているのか尋ねると、富井さんはこう話します。

「小学生にはまず『机に座る習慣』をつけることから始めてもらいます。最初は鉛筆を持つだけでもいいんです。たとえ1分でも机に向かう経験を重ねることで、次第に『学ぶ姿勢』が身についていきます。実際、以前は宿題になかなか手をつけられなかった子が、今では自ら机に向かえるようになっているんですよ」

中学生になると学習内容が増え、やるべきことが複雑になります。そこで富井さんが心がけているのは、あえて問題の答えを教えないこと。
「どう進めていく?」「次はどうする?」と問いかけ、子ども自身に考えさせることを大切にしています。

たとえば、その日の宿題をどの順番で進めるか決めるだけでもいい。こうした小さな選択の積み重ねこそが、将来「自分の意思で選び取る力」につながると考えているのです。


ロボット教室


また、でこぼこ書店ではロボット教室も開かれており、子どもたちはロボットを組み立てながら、もののしくみや原理、プログラミング的思考を学んでいます。
試行錯誤を重ねることで育まれるのは、創造力や論理的思考です。さらに、大人向けの読書会も時折開催され、本をきっかけに多様な価値観や経験が交わる場となっています。


店内での富井さん


富井さんが「塾」でありながらも「本屋」という形にこだわったのは、学習塾だけでは外から活動の様子が見えにくく、どうしても閉じられた印象を持たれがちだから。
一方で、本屋は誰にでも開かれた場。本を手に取りに来た地域の人との会話から、「実は子どもが勉強で困っていて……」という相談につながることも少なくありません。

「本屋は塾の閉じたイメージをやわらげてくれる存在。本を通じて人と人が出会い、そこから学びへの道が開けていくんです」と富井さん。
たとえば、本を探しに立ち寄った親が「ここでは学習教室もやっているんですね」と関心を持ち、子どもを通わせることになる──そんな自然な流れが生まれています。

このように、でこぼこ書店は「1階は本屋」「2階は学びの場」という二つの役割を持つことで、本を通じて地域に開かれた交流の拠点となっています。


自分で決められない学生との出会いが、教育への道を開いた


今でこそ子どもたちの教育に情熱を注ぐ富井さんですが、その歩みは教育の世界から始まったわけではありません。

富井さんは、青山学院大学を卒業後、保険会社に5年間勤務。その後、昭和女子大学に転職し、キャリア支援やイベント運営を担当しました。職員として働きながら東京大学大学院教育学研究科に進学し、教育や学びに関する専門的な視点を養います。


そして、教育現場での経験をさらに広げるため、大学スポーツ協会へ活動の場を移します。ここでは運動部学生を対象にキャリアや学修をサポート。部活動に打ち込んできた学生たちがキャリアの岐路で悩む姿に向き合ったことも、教育に目を向ける大きなきっかけとなりました。
その過程で見えてきたのが、「自分で決めた経験が少ない」学生の存在です。

「学生に『どうしてこの大学に入ったの?』と聞くと『先生に勧められたから』と答える子もいました。 『この部活を選んだ理由は?』と尋ねると、『友だちがいたから」という声もあって。
進学や部活といった人生の節目で、自分ではなく親や先生、友人の判断に頼って決めてきた子が少なくないと感じました」

就職活動の場で立ち止まる若者を目の当たりにし、富井さんは「大学生になってから自分で決める力を育てようとしても、もう遅い」という“手遅れ感”を抱きました。
自分自身での意思決定の経験がないまま大学に進み、その段階で初めて進路という大きな選択を迫られても、どうやって考えていいのかわからない、そんな学生が何人もいたからです。

だからこそ、早い年代のうちから「自分で決める」経験を少しずつ積み重ねることが必要だと考えるようになりました。
「小さな選択を重ねることで育つ力こそが、将来の大きな選択を支える力になる」という信念が「でこぼこ書店」立ち上げの原点になっています。


店内ではオススメの本がディスプレイされている


子どもたちの学びの世界を広げる「折本づくり」


でこぼこ書店では、日々の学習支援で基礎を積み上げる一方、学びを生活と結びつける体験も用意しています。ノートやドリルだけでは得にくい手応えを、実際に手を動かして味わってほしい、そんな狙いから生まれたのが「折本づくり」のプロジェクトです。


子どもたちの作った折本が並ぶ

折本とは、A3用紙1枚に切り込みを入れて折りたたみ、8ページの小冊子にしたものです。子どもたちは自分でテーマを決め、原稿を書き、本を完成させます。

テーマは自由です。たとえば、折本づくりはでこぼこ書店の国語教室の授業の中で行う学習活動のひとつで、テーマ選びから文章構成、見出しづくり、イラストの配置まで、生徒一人ひとりが自分の言葉で表現していきます。

実際に、小学生の作品『僕の好きなお菓子 グミ編』では、好きなグミについて歯ごたえ・味の特徴・パッケージの面白さなどを本人ならではの視点で紹介しており、身近なテーマをもとに「自分の感じたことを言葉にする」練習として取り組まれた一冊です。
こうして完成した冊子は実際に販売まで行い、収益を得るところまで体験します。


折本制作の様子

折本一冊を完成させるまでには、テーマを決め、何度も書き直し、仕上げてから製本するなど、いくつものステップを乗り越えなければなりません。「自分の本を世に出す」という経験は、子どもたちに生みの苦しみと社会とのつながりを実感させてくれます。

こうした活動で価値を置いているのは、単に知識を身につけることではなく、「自分で決めて形にする」プロセスそのもの。本を「読む側」から「つくる側」に立ってみる体験が、子どもたちに新しい視点を与えます。

たとえば「この内容は読んだ人に伝わるかな?」「もっとわかりやすい言葉にしよう」と考えるうちに、読み手の立場に立って表現を工夫する力が育ちます。
さらに、自分のアイデアを形にする難しさや、完成したときの達成感も知ることができます。そうした経験が、日常で目にする本や文章をより深く味わえる感覚へとつながっていくのです。

富井さんが重視するのは、机上の勉強だけではなく、生活や社会とつながる学び。折本づくりをはじめとするこうした実践が、子どもたちに「学ぶっておもしろい」と思える瞬間を生み出しています。



小さな決断の積み重ねが、未来をつくる力になる


でこぼこ書店が本当に大切にしているのは、にぎやかさや話題性ではなく、子どもたちが自分の力で小さな行動を起こせる瞬間をつくること。
本をきっかけに訪れた人が教室の存在を知り、思いがけず学びの世界へ足を踏み入れる。そんな自然な出会いが日常の中で生まれる場でありたいと願っています。

富井さんは、子どもたちに「選んだ道を自分の足で歩いていく経験」を重ねてほしいと話します。日々の小さな決断が積み重なり、やがて大きな挑戦にも立ち向かえる力になると信じているのです。


県庁所在地カルタで遊ぶ様子

 
「子どもたちには、自分で決めて、その選択に向き合う経験を重ねてほしいんです。たとえば、その日の学習の段取りを自分で組み立てたり、取りかかる課題を自分で選んだりする。
そうした細やかな決断の積み重ねが、やがて大切な局面で道を選び取る力へつながるはず。
でこぼこ書店は、その日々の一歩を支えるためにある場所なんです」

本屋としての開かれた顔と、教室としての実践を並走させながら、でこぼこ書店は地域に根ざした学びの場として歩み続けます。

ここでの経験が、子どもたちにとっての「未来を切り開く力になる」と信じて。



【 店舗情報 】

店名
でこぼこ書店


住所


営業時間
平 日 12:00~19:00
土日祝 10:00~18:00


定休日
月・火(不定休あり)


アクセス
JR北与野駅から徒歩15分
JR大宮駅から徒歩18分


公式サイト
※貸しスペース・国語教室/学習サポート教室の申し込み、ご案内はこちらから



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