【勇者】の冒険記──なぜ流行り、なぜ廃れたのか?(《流離のグリフォンライダー》解禁記念)
1.はじめに
こんにちは、なごにゃんです。
今回は、ひさびさにテーマの歴史の話でもしようかと思います。

覚えてますか? 彼らのことを──
【勇者】は、2021年〜2023年にかけて大きな活躍を見せた、11期を代表する出張テーマです。
全盛期には "見ない日がなかった" と評して過言ではなく、「【勇者】を採用できるかどうか」がデッキの評価を左右するほどの支配的地位を築き上げていました。
規制されてなお勢いは衰えず、元凶である(と思われた)《流離のグリフォンライダー》が禁止指定されてからも思わぬ活用法で環境に残るなど、「テーマ特性そのものがデザインミスなのでは」と疑われるほどに暴れ回ったことが記憶に新しいです。

ところが、2025年現在、彼らの姿を見かけることはほとんどありません。
OCGはともかく、《グリフォンライダー》が健在なマスターデュエルでも同じ状況であることには首を傾げます。
いくら4年経ったとはいえ、その間に "2022年" のハイパーインフレがあったとはいえ──あれほどの隆盛を極めた【勇者】はどこに行ってしまったのでしょうか?
2025.6.22 追記
この記事の初稿は《グリフォンライダー》禁止期間中に執筆されましたが、つい先ほど制限復帰が発表されました。
ところどころ《グリフォンライダー》が禁止である前提の記載がありますが、追記で補足するためご容赦ください。
謎多き【勇者】の興亡を紐解くと、いちテーマの浮き沈みに留まらないゲーム性の変遷が見えてきます。
「最近始めたから【勇者】のことはよく知らない」という方にも伝わる解説を目指しますので、ぜひお暇つぶしにご一読いただけますと幸いです。
2.【勇者】の足跡を振り返る
【勇者】の第一歩は、2021年8月の「グランド・クリエイターズ」に刻まれます。
本記事はその少し前、いわば【勇者】の誕生前夜から順にその歩みを振り返ることにしましょう。
2-1.誕生前夜──【勇者】が何者でもなかった頃

信じがたいことですが、【勇者】の事前評価は非常に低く、環境どうこう以前にデッキを組めるか怪しいと見られていました。
それも無理はなく、
多くのカードが「勇者トークン」の存在を前提としているが、それを生成できるカードが《アラメシアの儀》しかない。
全体的にパワーが低く、「勇者トークン」の存在下でも使い物にならないレベルのカードが多い。
という状況で、純構築の【勇者】が破綻していたのは事実でした。
以下は公式サイトから借用した12枚のスポイラーですが、過半数のカードは使われているところを見たことがないのではないでしょうか。

もっぱら「好きなトークンカードを勇者として扱える」という "エモさ" にフォーカスした構成で、およそ実用性のあるカード群とは思われていなかったのが実情でしょう。
(※ 筆者個人としては……知らないラノベの挿絵だけ見せられてる気分で、あまり興味を持てなかったのが正直なところです。)

もちろん、《グリフォンライダー》の強さに気づいている人はいて、《アラメシアの儀》から質の高い1妨害を構えられることは評価されていました。おさらいすると、以下のような動きになります。

《アラメシアの儀》を発動し、その効果で《勇者トークン》を生成しながら《運命の旅路》を設置。

《運命の旅路》の効果を発動し、《流離のグリフォンライダー》をサーチ。(手札を1枚捨てる)

《流離のグリフォンライダー》を特殊召喚。
その際、《運命の旅路》が誘発して《騎竜ドラコバック》をサーチ可能。
実戦では、《グリフォン》サーチ前に適当なモンスターを召喚・特殊召喚して《ドラコバック》をサーチ、それを《旅路》のコストに充てる方が主流でした。
(※ 《ドラコバック》は捨てても自身の効果で《勇者トークン》に装備できるので、実質ノーコストです。)
同じことが《アラメシアの儀》を(間接)サーチする《聖殿の水遣い》《おろかな埋葬》からもできるので、再現性に優れたムーブです。
ただ、様々な理由から、これを出張ギミックとして活用するのは懐疑的に見られていた印象です。

まずこのギミックは、出張と呼ぶにはいささか大所帯です。
《アラメシアの儀》3枚
《聖殿の水遣い》3枚
《流離のグリフォンライダー》1枚
《運命の旅路》1枚
《騎竜ドラコバック》1枚
と実に9枠、デッキの1/4近くを関連カードで埋めることになり、出張というより混合構築に近い比率になります。
それと引き換えにできることが「素引きに依存する1妨害の追加」なのは割に合わないとされ、そんな余裕があるのならその枠に手札誘発なり罠なりを突っ込んだ方がいいと考えられていました。

さらに、《アラメシアの儀》の持つ前例のない制約──「このカードを発動するターン、自分は特殊召喚されたモンスター以外のフィールドのモンスターの効果を発動できない。」が評価を迷わせていました。
直感的に厳しさがわかりにくかったのですが、ひとまず「召喚権を使う初動とは競合する」と理解され、かなりデッキを選ぶ縛りだと解釈されました。
具体的に照らしても、当時の環境上位だった【相剣】【鉄獣戦線】【ドラゴンメイド】などでは使えない(使いにくい)し、何よりこれに構築を寄せるほどの価値はないと思われたのです。

まとめると、
デッキとしての【勇者】は破綻している。
《グリフォンライダー》目的の出張は評価できるが、枠を取りすぎで、《アラメシア》の制約も厳しいので実戦レベルには届かない。
という見立てがなされ、まさかメタゲームを破壊するようなテーマだとは誰も思っていなかったのです。
2-2.一世風靡──【勇者】は "指名者" だった
ご存知のように、【勇者】は史上稀に見る番狂わせを引き起こし、2021年9月以降の環境を激変させました。
多くのプレイヤーが【勇者】の仲間になる選択を迫られ、相性の悪いデッキを環境からふるい落とすほどの活躍を見せることになります。

どうしてこんなことになったのでしょうか?
当時のプレイヤーが評価を見誤った理由を探るには、今もなお環境のフィクサーとして機能している2種のカード群について振り返る必要があります。

それが、 "手札誘発" と "指名者" です。
先に言ってしまうと、【勇者】が破壊したのはこの暗黙のバランスだったのです。
前提として、この時代の手札誘発は今よりも相対的に強力でした。
手数の少ないデッキが多く、マストカウンターもわかりやすかったので、1枚の手札誘発で沈黙させることが現実的だったからです。
たとえば【相剣】は《莫邪》に《無限泡影》を当てれば止まることが多かったですし、いわゆる展開系デッキも《ハリファイバー》や《アウローラドン》を挫いてやれば後が繋がらないことがほとんどでした。

もちろん、《龍淵》や《龍相剣現》の素引きもあり得ましたし、【鉄獣戦線】の《レスキューキャット》+《フラクトール》のような誘発貫通の保証された組み合わせ初動もありましたが、これらは "上振れ" と片付けられていました。まだ "手数で貫通" という発想はあまり浸透していません。
【ドライトロン】のように手数の多いテーマもありましたが、そういったデッキには1枚初動がなく、そもそもの安定感に難がありました。
いずれにせよ、手札誘発はそれなりに信頼のおける盾だったわけです。

"手数で貫通" が未確立である以上、手札誘発の対策となるのはもっぱら指名者です。
この時代はまだ規制が甘く「《墓穴》2枚・《抹殺》3枚」の計5枚を投入できましたが、それでも枚数上では手札誘発側の優位です。単純に考えて、手札誘発の総数より少ない枚数しか積めませんからね。
要は、手札誘発を指名者で弾くのも "上振れ" の一種であり、基本的に手札誘発は通るものと考えてよかったのです。

枚数上は誘発が優勢で、後手のハンデになっていた
【電脳堺】【鉄獣戦線】のような「マストカウンターを絞りにくいデッキ」が評価されやすく、【ハリラドン】のような「特定のパワーカードが通るかどうかに依存するデッキ」が勝ち残りにくかったのは、この手札誘発と指名者の枚数に拠るものだったと言えます。
……もちろん、実際には「先攻優位」が前提にあり、ぶっちゃけ既に「《抹殺》3枚のせいで誘発が通らない」体感もあったので、これを良環境と美化する気はありません。
ただ、
手札誘発だけで後手を拾える可能性が今よりも高かった。
展開系デッキを選ぶこと自体に一定のリスクがついていた。
ということで、後年に比べればギリギリバランスの取れた時代だったと言えるのではないでしょうか。
翻って、【勇者】はこの均衡に何をもたらしたでしょうか?
7枚の "指名者" です。

もう少し丁寧に解説しましょう。

《流離のグリフォンライダー》を展開前に出力することは、それ自体が誘発を1回弾く "先置きの指名者" のようなものです。
そして、その状況にアクセスできる札が《アラメシアの儀》《聖殿の水遣い》《おろかな埋葬》の計7枚存在し、これらが疑似指名者として採用できるようになってしまったのです。
(※ ここが大きな見落としポイントで、《グリフォンライダー》が手軽な1妨害であることはわかっていても、疑似指名者であることにまで辿り着けた人は少なかった印象です。)

「《アラメシア》の制約は?」というのも杞憂で、思ったより回避しやすい縛りでした。
「通常召喚できない」ではなく「通常召喚したモンスターが効果を使えない」なので、たとえばリンク1に変換されて作用する《クリッター》・プランキッズなどは問題なく利用可能です。
また、制約と競合しても指名者増量の方が重要と考えるデッキも存在し、《ティアースケイル》初動を諦めた【幻影勇者】、《アルベル》を《烙印開幕》から呼ぶことにした【勇者デスピア】はその代表と言えるでしょう。

あーあ
結果、指名者の枚数が5枚→12枚に急増したことで、均衡はいとも容易く崩れ去りました。
手札誘発は通らないのが当たり前になり、《グリフォン》を盾にパワーカードを押し通すデッキが肯定される環境になってしまったのです。
これが【勇者】環境の本質であり、展開系だらけの大味なゲームを推し進めるきっかけとなってしまいました。
2-3.自縄自縛──【勇者】環境は息苦しい?
かくして訪れた【勇者】の時代ですが──うすうすお察しの通り、「つまらない」「息苦しい」という感想が主に聞かれ、競技環境としての評価は芳しくありませんでした。

筆者個人の感想は差し控えますが、息苦しさの原因は各所に見当たります。
第一に、ゲーム体験について。
これが最も実感しすいでしょう。
ただでさえ先攻優位のゲームなのに、【勇者】の登場により後手の要求値が上がり、ゲームは先手必勝にグッと傾くことになります。後手のプレイヤーは常に《グリフォン》に頭を押さえつけられているような格好になり、手札誘発1枚程度ではゲームに介入する余地がなくなってしまったのです。
(※ 後述しますが、悪質なことに【勇者】そのものにはある程度の後手適性があり、【勇者】が憎ければ【勇者】入りの何かを使うのが効果的という閉鎖的な状況を作り出していました。)

第二に、デッキ構築について。
【勇者】は入れ得と言えるギミックです。先ほどは説明をわかりやすくするため "指名者" としての側面にフォーカスしましたが、実際にはそれ以外の役割も多角的に担っています。
《騎竜ドラコバック》により、後手捲りの要素をある程度兼ねることができ、《スキルドレイン》などの雑多な置物対策としても機能する。
《勇者トークン》も《グリフォン》もそれぞれ攻撃力が2000あり、ライフカットに十分貢献できる。(※ 基礎打点の低い【プランキッズ】で特に有用。)
ランク3を作れるデッキでは、《彼岸の黒天使 ケルビーニ》から《水遣い》を落としてギミックにアクセスすることができ、素引きしていない場合でも使える。(※ 主に【幻影騎士団】で活用される。)
《グリフォン》が不成立あるいは不要になる状況なら、《勇者トークン》は《リンク・スパイダー》に変換しつつリンク値に回してもいい。(※ 場合によっては《グリフォン》さえも《バロネス》や《ギャラクシー・トマホーク》の素材にして扱ってよい。)
そもそもが万能無効持ちなので、指名者として使わなければ盤面に1妨害が追加される。
一度使えば《グリフォン》はデッキに戻って循環するので、継続リソースとしての側面もある。

あまりにも "できること" が多すぎます。
よって、真っ当に "強いデッキ" を組むにはまず【勇者】の枠を用意するところから始めたいですが、前述の通り彼らは大所帯であり、ともすればメインギミックを食いかねないスロットを要求します。

間の悪いことに、当時大流行しており準必須と考えられていた「アナコンダデスフェニ」も枠を食うギミックであり、この二者を合わせるだけでデッキの半数近くを出張ギミックが埋めてしまう形になります。
ここに少数の幻影騎士団を足すだけで完成してしまう【幻影勇者フェニックス】は非常にわかりやすいサンプルでしょう。

ご覧の通り、固定枠があまりに多く、幻影騎士団パートをすげ替えるだけで【プランキッズ】にも【ハリラドン】にもなるお手軽仕様です。
細部をチューンする楽しみはあれど、大枠の "正解" が提示されてしまっており、同じようなリストに収束しがちで自由度の低い時代だったのは間違いありません。

第三に、デッキ分布について。
「思ったより回避しやすい」というだけで、《アラメシア》の制約はやはりデッキを選びます。召喚権を使うデッキに取り入れるには工夫が要りますし、出張の大先輩《召喚師アレイスター》のようなカードとはそもそも組ませようがありません。

では、そういった【勇者】と相性の悪いフェアデッキはどうなったのか?
答えはシンプル。環境から消え失せました。

考えてみれば当たり前です。
【勇者】のあるなしでデッキパワーが大きく変わってしまうので、これを受け入れられないことが莫大なデメリットとなる時代だったのです。
(※ 「【勇者】が入らない分だけ自由枠が多い!」と考えることも可能でしたが、その枠に【勇者】以上に入れたいカードなどありませんでした。中途半端に積んだ手札誘発は【勇者】に否定され、主張としてあまりに弱かったのです。)

この煽りを最もダイレクトに食らったのは【相剣】でしょう。
ほんの少し前までTier1として持て囃された新進気鋭のデッキでしたが、【勇者】を受け入れられなかったばかりにTire3以下まで放逐されることになりました。
以降は【ハリラドン】系のサブプランとして《莫邪》《龍淵》の出張が見られる程度まで落ち込んでしまい、完全に主客が逆転する格好になっていまいました。
結果、【勇者】なしでも生き残ったのは、
【ドライトロン】【鉄獣戦線】のような、自前の手数がある程度あるタイプのデッキ。(※ 枠の関係で仕方なく不採用になったという経緯が正しく、【電脳堺】のようなデッキは取り入れることを選んだ。)
【ふわんだりぃず】【エルドリッチ】のような、軸をずらして戦うメタビート系のデッキ。(※ ただし、【エルドリッチ】には【勇者】入りも存在した。)
といったデッキ群のみで、大局的には「【勇者】入りの類似デッキばかりの環境」になってしまったのです。
(※ 当時の大会結果を見ても、おおむね過半数、多い場合は7割程度が【勇者】入りであり、かなり支配的な状況だったことがわかります。)
以上、長くなりましたが、
先手必勝に傾いたゲーム体験
工夫の余地がないデッキ構築
似たり寄ったりのデッキ分布
の3点から、【勇者】環境に横たわる閉塞感は確かなものだったと言えるでしょう。「つまらない」「息苦しい」と評されるのもやむなし、と言えます。
2-4.快刀乱麻──《グリフォン》を断て!
当然、こんな状況が長く見過ごされるわけもありません。
【勇者】の悪評はふだんOCGをプレイしない層にまで知れ渡ってしまい、早々に手が打たれることになりました。公式の示した "リミットレギュレーション" という名の見解は以下となります。
2021年10月
《抹殺の指名者》 無制限→準制限
2022年1月
《抹殺の指名者》 準制限→制限
《アラメシアの儀》 無制限→準制限
《聖殿の水遣い》 無制限→準制限
2022年4月
《アラメシアの儀》 準制限→制限
《聖殿の水遣い》 準制限→制限
「"指名者" の実質枚数を元に戻そう」というのが狙いだったようで、本家《抹殺》も含め "指名者" に相当するカードが見事に削られました。
12枚→11枚→8枚→6枚と減少し、結果「《墓穴》2枚+《抹殺》3枚」時代とほぼ同じところまで絞られることになります。
これは筋の通った規制で、減少に伴って徐々にシェアを落とし、最後のひと押しにより【勇者】環境はひとまずの収束を迎えることとなったのです。
(※ 根絶されたわけではなく、初期の【スプライト】などで一定の採用は見られましたが、定着には至らずフェードアウトしていきました。理由は後述。)

一方で、「ここまでズタボロに規制しなくても《グリフォン》を禁止すればよかったのでは?」と感じた方も多いのではないでしょうか。筆者もそう思いました。
【勇者】を "指名者" たらしめているのは他ならぬ《グリフォン》であり、これさえ取り除けばこのテーマ否定に等しい規制は不要だったと思われました。
(※ 元から純構築の【勇者】は成り立っているか怪しかったですが、この規制により構築不能といって差し支えない状況になりました。さすがに制限カードでしか生成できないトークンに依存するデッキは……。)
商業的観点から見て、発売から間もない「グランド・クリエイターズ」の表紙にも姿を見せる《グリフォン》を禁止指定するのはまずかった。
今後も《グリフォン》に近い役割の仲間を増やす予定があり、いたちごっこになることを避けたかった。
といった仮説も立ちましたが、大局的には巻き添え規制を増やしているだけのように見え、あまり良い印象は抱けなかったのが正直なところです。

実際は無理だが、言いたいことはわかる
そして、やはりと言うべきか、ユーザーアンケートでその手の要望が多く集まったからなのか──。
最後の規制から半年後、以下のような方針転換がなされることになりました。
2022年10月
《流離のグリフォンライダー》 無制限→禁止
《聖殿の水遣い》 制限→準制限

ようやく、元凶(?)が断たれ、冤罪(?)の《水遣い》が仮釈放されることになったのです。
「よくやった」と「最初からそうしとけ」が半々くらいの割合で聞かれましたが、おおむね歓迎される決断だったと言えるでしょう。
時期についてはやや謎が残りますが、直近のレギュラーパックで新規カード《テセア聖霊器》《禁呪アラマティア》を獲得していたこともあり、さすがに純構築を構築不能レベルで放置するのはまずいと判断した苦肉の策だったのかもしれません。
(※ もっとも、この2枚の活躍については推して知るべしです。)

なお、この改訂が環境に与えた影響は皆無です。環境に【勇者】を使うデッキは既になく、《グリフォン》の死を悼む声が聞かれることもほとんどありませんでした。
(※ 【勇者】どころではない世紀末環境になっていたので気にかける余裕がなかったのが正直なところですが、その話はまたの機会に……。)

むしろ、《グリフォン》という翼をもがれた【勇者】に規制が不要なのは明らかであり、入れ替えで帰ってきたのが《水遣い》1枚だけなのは慎重すぎるという意見が中心でした。
大方の予想通り、次の改訂では更なる緩和が施され、
2023年1月
《アラメシアの儀》 制限→準制限
《聖殿の水遣い》 準制限→無制限
残すは《アラメシアの儀》1枚となったところで2023年を迎えることになります。
2-5.捲土重来──《水遣い》黒幕説?
このまま忘れ去られるかと思われた【勇者】ですが──意外なことに、2023年に再ブレイクの機会を得ます。
【勇者シンクロン】の発明です。

2022年末〜2023年初頭は、《アサルト・シンクロン》《超重神童ワカ-U4》《百檎龍-リンゴヴルム》《レボリューション・シンクロン》といった強力なチューナーが続々とリリースされた時期でした。《グローアップ・バルブ》の復帰もこの時ですね。
となると、これらをフルに活かした【シンクロGS】のようなデッキを組みたくなるのがビルダーのサガで、開拓の機運が高まっていました。

当たり前ですが、チューナーだけでシンクロ召喚はできません。
チューナーの展開力がインフレした分、それに見合う非チューナーの供給源がなければデッキとしてまとめるのは難しいですよね。
この部分には【スプライト】【ビーステッド】など様々なギミックが試され、どれも一定の評価を受けていたのですが、その中で最終的に浮上したのが【勇者】だったのです。

かつては《グリフォン》もトークンも維持前提だったため意識されませんでしたが、考えてみれば、もう場に残さなければいけないカードはないんです。最初から素材に回すつもりで何の問題もありません。
そうなると、召喚権なしで勇者トークン+好きな仲間を用意できる【勇者】の素材供給力は破格と言えます。
加えて、
勇者トークンのレベルが4と扱いやすく、仲間のレベルも3・4・7から好きなものを選ぶことができることから、シンクロ素材適性が高い。
盤面に触ることができる《騎竜ドラコバック》は健在で、シンクロ召喚が苦手とする永続罠なども展開前に除去することができる。
《アラメシアの儀》へのアクセスが豊富であり、競合ギミックと比べてメインプランに据えやすい。
と数々の利点を備えることから、これを非チューナーの供給源に据えた【勇者シンクロン】が脚光を浴びることになったのです。
(※ この活用法による恩恵を最も受けたのは《遺跡の魔鉱戦士》でしょう。かつてはいないも同然の扱いでしたが、レベル4という扱いやすさ、サポートを受けやすい戦士族・炎属性というステータスから、特に【焔聖騎士】型では必須クラスに昇格することになりました。)

【勇者シンクロン】そのものはTier2〜Tier3止まりで環境を荒らす存在ではなかったものの、もはや亡き者と思われていた【勇者】の再浮上に驚かされた人も多かったのではないでしょうか。
この流行はきちんとマークされ、既定路線と思われた《アラメシア》解除が延期されることになるなど、公式の動揺が見てとれます。

面白い話として、この時期にわかに「《水遣い》黒幕説」が盛り上がったことに触れておきましょう。
《禁呪アラマティア》の不穏なイラストと挙動、「アラメシア・アラマティア」が「リセマラ・リタマラ」の逆さ読みであることから「《水遣い》が怪しい」とは前々から言われていたものの、メタゲーム上でもそれをなぞったかのような悪女ムーブを見せていたことが話題になりました。
自身と《アラメシア》の規制が進む中で、「悪いのは《グリフォン》なのに身代わり逮捕された」という印象を強め、ヘイトの矛先を《グリフォン》に逸らしていった。
目論見通り、《グリフォン》に全ての罪をなすりつけ、自身は制限解除された。
しかし、実際は《水遣い》《アラメシア》自身も規制が妥当なパワーカードであり、最初の規制も間違ってはいなかった。
公式にすら力量を見誤らせ、仲間に罪を被せて脱獄した後、ちゃっかり新しい囲いを見つけて担ぎ上げられることになったわけです。
これはもう黒幕だと疑われても仕方ありませんね。

「簡単にトークン+テーマモンスターを展開できるギミックの方に問題があり、《グリフォン》は巻き込まれただけだったのでは?」という1年越しの判官贔屓が聞かれるようになったのもこの頃です。「ろくに純構築が組めないくせに、出張ギミックとしては強すぎる」テーマ特性そのものに懐疑の目を向け、デザインミスと言い切る人も現れていました。
筆者個人としては……《グリフォン》擁護はさすがに【勇者】環境を美化しすぎと感じましたが、ギミックそのものがアカン寄りなのではという点は同意でした。
かといって再規制が必要なほどのシェアはないのが微妙なところで、おそらく当面【勇者】は形を変えて生き残り、《アラメシア》も謎の準制限に留め置かれ続けることになるのだろうと感じたものです。

しかし──。
幸か不幸か、思いのほか、冒険の終わりは早くに訪れます。
2-6.盛者必衰──冒険の終わり
2024年最初の改訂で、《アラメシアの儀》に完全釈放が言い渡されました。
2024年1月
《アラメシアの儀》 準制限→無制限
旬を過ぎたとはいえ、まだ細々と【勇者シンクロン】系の活躍が見られていた時期だったので、「もう許していいの?」と拍子抜けしたのを覚えています。
この頃には《黒魔女ディアベルスター》を取り入れて【罪宝勇者シンクロン】となるなど、いよいよ【シンクロGS】を名乗るに相応しいごった煮の様相を呈し始めていました。

余談ですが、筆者はこの手のユーザーデッキを追いかけるのが昔から好きです。そのギミックや規制状況の変遷にはOCGの歴史がみっちり詰まっており、古参プレイヤーの嗅覚が騒ぎます。
古くは【デブリダンディ】【ジャンクドッペル】、少し進んで【シンクロダーク】【たんぽぽサンバ】【ドラゴンリンク】なんかが相当しますが、こういう展開全振り系のユーザーデッキは数年に1度現れ、手ひどい規制を受けて消滅する傾向にあるんですよね。
【罪宝勇者シンクロン】からもいよいよそれ系の匂いがし始めたので、「ほんとに緩めてよかったのか〜?」とニヤニヤしながら経過を見守っていた記憶があります。

結論から言うと、筆者の勘は大ハズレでした。な~にが古参プレイヤーの嗅覚だ。【罪宝勇者シンクロン】は【ジャンクドッペル】や【ドラゴンリンク】にはなれませんでした。もともと大した母数ではありませんでしたが、規制もなしに徐々に数を減らし、夏を迎える前にほぼ全滅に等しい状態となったのです。

おや? と筆者が首を傾げるのもよそに、世間の【勇者】への関心は急速に失われていきます。
2025年に入ってからはその名前をトーナメントシーンで見かけることもなくなり、【勇者】の冒険はあまりに呆気なく不自然な形で終わりを迎えることになったのです。
2025.6.22 追記
その後、2025年7月に《グリフォンライダー》制限復帰という大きな動きがありましたが、後述の理由により、これがきっかけで【勇者】が復興することは恐らくないでしょう。
3.なぜ【勇者】は廃れたのか?
かくして、ドラマチックな活躍と裏腹に、誰にも看取られずひっそり消えていく奇妙なエンディングを迎えた【勇者】ですが、どうしてこうなったのでしょうか?
正直、全盛期にはその性質もあって好きなテーマではなかったのですが、いざこうしてワケの分からない消え方をされてみると経緯が気になってしまいます。
「《グリフォン》さえいれば」という言説も耳にしますが、冒頭にある通り、《グリフォン》が禁止指定されなかったマスターデュエルでもおおむね同じ状況であることが悩ましいポイントです。

ということは、
《グリフォン》禁止後の "素材供給役" としての用途
《グリフォン》禁止前の "指名者" としての用途
のどちらにおいても、【勇者】以上の適任が登場しているか、あるいはゲーム上不要になっているかという仮説が立ちます。この観点で検証を進めてみましょう。
3-1."素材供給役" として──上位互換がいる
これは想像しやすいでしょう。
最たるは【デモンスミス】のことで、ちょうど登場時期と【勇者】がフェードアウトし始めた時期が同じです。

【デモンスミス】の特性は、【勇者】の強化版といって差し支えありません。
【勇者】と同様、複数の1枚初動から、召喚権を使わず、扱いやすいレベルの非チューナーを連続展開できる。
【勇者】の《ドラコバック》と同様、展開過程で《デモンスミス》の効果によるオマケ除去ができる。
【勇者】の《ケルビーニ》よりもお手軽に、汎用リンク2の《ナンナ》からギミックにアクセスできる。
【勇者】と違ってギミック単体でもリンク4またはリンク2+ランク6まで展開でき、《アポロウーサ》を先置きすれば疑似的に《グリフォン》を再現できる。
【勇者】と違って引きたくないカードがなく、ギミックのカードはどこを引いても使える。
ギミックがデッキ・EXデッキに帰って再利用可能であり、【勇者】以上の継続リソースとして機能する。
【勇者】と違ってレベル3・レベル7を扱えない(ひと工夫要る)ことなど差異はありますが、強みを挙げればキリがなく、大局的には【勇者】のエッセンスを継承した上位互換と言えるでしょう。
まあでも、まだ結論を出すのは早いです。
【デモンスミス】と比べたら大半の出張ギミックが下位互換扱いになりますし、当の《デモンスミス》《刻まれし魔の詠聖》が早々に制限カードに指定されています。

強いて言うならベアト?
さすがに「制限カードに比べて弱い」と言われてもそれはそうであり、【デモンスミス】が抜けた穴を【勇者】が補い得るのでは、と期待もされたものです。
ところが、ぜんぜんそんなことにはならなかったんですね。
【デモンスミス】の勢いが落ちたところで、二番手・三番手のギミックが控えているからです。

マスターデュエルでの大躍進が記憶に新しい【千年】は、召喚権なしでレベル6・8の非チューナーを展開してくるとてもパワフルなギミックです。
素引きしなくてもランク4の《御影志士》からタッチできる、《光子卿》を先置きして《グリフォン》っぽい振る舞いができるなど、【勇者】に似ている部分が多くほんのり強化版の匂いもします。

自身をコストにした万能無効を持つ
あっ
まだいます。【アザミナ】もそうです。
《罪宝の欺き》《ディアベルスター》から、もろ《グリフォン》な《シルヴィア》を通りながら展開できますね。最終的には【デモンスミス】へのアクセスと【スネークアイ】【白き森】との連結を兼ねてしまうすごいギミックで、汎用性はこれまでの面々より劣りますが、明らかに【勇者】の出力を凌駕しています。

恐ろしいことに、これらはすべて2024年産のギミックであり、《アラメシア》の解除後に続々と現れたのです。
逆に言えば、年始の微妙なタイミングに《アラメシア》が釈放されたのは、これら【勇者】の上位互換めいたギミックの登場が近づいていたからかもしれません。
3-2."指名者" として──もういらない
誤解なきように注釈すると、《墓穴の指名者》《抹殺の指名者》はバリバリ現役です。むしろどちらの重要性も上がっており、筆者個人としては1階級ずつ規制を強めてもいいとすら感じています。

なら、それと同等の働きをする《グリフォン》さえ使えれば【勇者】はまだまだ現役ではないかと感じますよね。なのに、なぜマスターデュエルでそうなっていないのでしょう。
理由は非常にシンプルです。
いま、"指名者" で最も弾きたいタイプの誘発とはなんですか?

こういう、発動ターン中ずっと影響を及ぼす、いわゆるターンスキップ系の誘発ですよね。
これらは《グリフォン》着地前に切られるので対応できません。
なので、いま "指名者" に求められる役割を果たせず、そもそも "指名者" 枠として換算することが不適当になってしまったのです。

「いやいや、単発無効系の誘発もまだ現役だし、これを防げるだけで十分だろう」という声もあると思います。
間違いではないのですが、最近のテーマは指名者に頼らなくても無効系誘発を貫通できるようになっており、この用法は相対的に重要性が薄れているのです。

わかりやすく、【勇者】の規制と入れ替わりに登場した【スプライト】を例に挙げてみましょう。
対面の【スプライト】が《素早いビーバー》を召喚してきました。ここに《エフェクト・ヴェーラー》を当てるとどうなりますか?

ほとんどの場合止まりませんよね。
案の定、手札から《スプライト・ブルー》が出てきたので、慌てて《無限泡影》を撃ちます。これで止まりますか?

止まりません。
レベル2が2体いるので《ギガンティック・スプライト》が成立し、そのまま《スプライト・ジェット》なり《鬼ガエル》なりが出てきてあとは好きなようにやるでしょう。
【スプライト】側は "テーマカードを重ねて持っていただけ" なのに、無償で2誘発貫通して展開を始めてしまいました。

この、「すべてのテーマカードが貫通札であり、引けば引くほど誘発を無視できる」構造は、【スプライト】を元祖としてその後のテーマの標準装備になりました。
新時代のテーマはそもそもが1〜2枚の無効系誘発では崩れないようにできているので、専用の対策を積む必要が特にないのです。
(※ 初期の【スプライト】に入っていた【勇者】がすぐ抜けた理由もコレで、テーマカードを増やすだけで誘発を貫通できるので不純物に頼る必要がなかったのです。)

一方で、こういうテーマにもターン中の行動を縛る誘発はちゃんと効きます。
というかそれくらいしか効かないと言うべきで、次第に指名者に求められる役割は「これらによるターンスキップを防ぐこと」に寄っていき、誘発を撃つ側も「《ヴェーラー》をブラフにして《G》を通す」のような動きを求められるようになっていったのです。

(※ 結局、単発無効系も現役ですが、1枚では貫通されることがほとんどなので重ね打ちが前提になり、「積むのなら《ヴェーラー》も《泡影》も3枚ずつ」のような極端な構成が主流化していきました。)

《グリフォン》に話を戻しますが、要は、《グリフォン》で弾いていた無効系誘発はテーマギミックだけで超えられるようになったし、本当にどうにかしてほしいターンスキップ系の誘発には手が出せないので、相対的に価値が薄れてしまったのです。

考えてみれば、【デモンスミス】【千年】【アザミナ】はどれも《グリフォン》っぽいものを先置きできますが、そのことはあまり重要視されないですよね。
【デモンスミス】の《ウーサ》先置きなんかは机上ではかなり《グリフォン》に近いですが、実際は下ブレを拾うための最低保証でしかないことからも伺えます。
以上のことから、
ゲーム性の変化により、たとえ《グリフォン》がいてもかつてのようには活躍できないと思われる。
現に、《グリフォン》先置きに似た動きは後発テーマでもできるが、あまり重要視されていない。
事実、マスターデュエルでは《グリフォン》が使えるのに使われていない。
というのが結論になります。
3-3.【勇者】は "オワコン" なのか?
使用率だけ見れば "終わった" と見て差し支えない【勇者】ですが、実のところどうなのでしょうか。
筆者の見解は、
マスターデュエルでは言うほど "オワコン" でもない。
OCGでも《グリフォン》が帰ってくれば使い道はある。
です。

まず、《グリフォン》への先入観は捨てましょう。こいつは指名者ではなくただの1妨害です。
そう割り切ると質が高く、《G》《フワロス》に対する止まりどころをかなり早期に用意できる時点で悪くない性能です。
(※ 《アラメシアの儀》に《G》を打たれた場合、《グリフォン》の特殊召喚を相手メインフェイズまで延ばすことで1ドローに抑えることが可能です。全盛期には必須のテクニックでした。)

その使い方なら上位互換の後発テーマがあるという話でしたが、ここはプライドを捨てましょう。頭を下げてその後輩たちと組むのです。

要は、一般的なデッキにおける "出張枠" を勝ち取ることは難しくとも、出張テーマで構成されたグッドスタッフのようなデッキで居場所があるかもしれないのです。
そういった環境では、【勇者】にはハブとしての適性が見いだせます。
《水遣い》《ドラコバック》のような捨ててよいカードを擁するので、【ホルス】などを迎えやすい。
《水遣い》は《石版の神殿》のコスト適性も高く、実質無料で扱うことができる。
無償でリンク値2を稼げるし、重ねて引いた《水遣い》なども手札から吐き出せるので、【デモンスミス】などへの繋ぎとして扱うこともできる。

……かつての悪女ムーブが信じられないほどの気の利きようです。
《水遣い》は派遣会社のマネージャーにでもなるべきかもしれません。もちろん《グリフォン》と和解してもらうことが前提ですけどね。
2025.6.22 追記
本当に和解してくれました。えらいぞ《水遣い》。
まとめると、
競技環境からは消えたが、別に "オワコン" と唾棄するほど時代遅れのギミックでもない。
《グリフォン》が使えるのなら、グッドスタッフ系デッキのハブとして出番がある(かもしれない)。
といったところです。
せっかくマスターデュエルという実験場があるので、【勇者】入りのグッドスタッフでひと通り遊んでみてこの項に追記したいと思います。
それか、「ランクマッチを【勇者】入りデッキで登っているよ」という方がいらっしゃれば、ご遠慮なくどんなデッキかコメントでお教えいただけますと幸いです。
4.おわりに
いかがでしたでしょうか?
例によってなかなかの長文記事になってしまいまして、ここまでお付き合いいただいた方には感謝しかございません。
個人的にあまり好きなテーマではなかった【勇者】ですが、
とても低い事前評価に反して大暴れしたこと。
規制の方針転換が行われ、それが妙なストーリー性を帯びていること。
再流行したと思ったらよくわからないタイミングでパタッと消えたこと。
など、掘ってみると劇的な要素が多く、楽しみながら筆を走らせることができました。
また、全盛期について語る記事は数あれど凋落の理由を掘り下げている文献は見当たらなかったので、これを言語化することができ満足しています。

ところで、【勇者】の新規カードは3年間出ていません。
そのせいで《水遣い》が本当に黒幕なのかわからないまま宙ぶらりんですが、このテーマが腫れ物のように扱われてきた経緯を思えば仕方ないことかもしれません。
マスターデュエルのおかげで《グリフォン》が問題ないことはわかっているので、そろそろ制限解除とストーリーの続きを期待したいところです。
2025.6.22 追記
本当に帰ってきましたね! ありがとう。
それでは、ご高覧ありがとうございました!⚔️🛡️
