奈々の学園事件簿#10 赤と黒の枚数(問題編)
放課後の教室は、昼間よりずっと静かだった。
窓の外から、部活の声だけがかすかに聞こえてくる。
理美が、自分の机の中からトランプを取り出した。
「ねえ、トランプ占いしよ。」
「理美……。理美の机の中は、ドラえもんのポケットか!」
奈々は、半ばあきれながら、半歩身を引いた。
「……嫌な予感しかしない。また、だまそうって?」
「今日は大丈夫。ちゃんと健全。」
理美はそう言いながら、ジョーカーを抜き、カードを机の上で揃えた。
「五十二枚。これを二つの山に分けるの。二十六枚ずつ」
「それだけ?」
「うん。それだけ。」
急に、理美は声を落とした。
「でね。片方の山の“黒”の枚数と、もう片方の山の“赤”の枚数が同じだったら――両想い。」
(両想い?)
一瞬、奈々の頭の中に浮かんだ影。
(違う違う!)
「誰のこと考えてたのかなあ。ふふふ。」
分かっていて言っている笑いだ。
「うるさーい!」
奈々が手を振り回す。
「ほら。奈々が分けて。」
「なんで私……。」
文句を言いながらも、奈々はカードを手に取った。
机に座り直すと、教室の静けさがやけに気になる。
(考えない……。)
だが、「意識しない」と思うと逆に影が濃くなってきた。
一枚、左。
一枚、右。
単調な作業のはずなのに、彼の姿が頭に浮かぶ。
指先が、少しだけぎこちない。
「……できた。」
「二十六枚ずつ分けたね。じゃ、数えるよ」
理美は左の山を引き寄せる。
「黒……一、二、三……」
奈々は視線を机に落としたまま、動かない。
「……十二。こっちは黒が十二枚」
理美は、わざとらしく間を取った。
「じゃあ、次」
右の山。
「赤ね。一、二、三……」
数が進むにつれて、奈々の頬が熱くなる。
「……十二。」
理美が顔を上げる。
「ぴったりよ。」
「え……」
「両想い、確定ね。」
お見通しといった顔で、理美が告げる。
「両想いって、だれとよ!」
照れ隠しのように、奈々は両手をぶんぶん振り回す。
言いかけたところで、理美の視線がふと泳いだ。
奈々も、背後の気配に気づく。
いつの間にか、後ろに永野が立っていた。
(つづく)
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