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日本の骨は二度おれる。骨太の方針とホルムズ海峡。内と外からの強烈な二撃。

7月12日、二つの声明が同時に世界に届いた

2026年7月12日午前、二つのニュースがほぼ同時に流れた。

一つは、イラン革命防衛隊による「ホルムズ海峡を追って通知あるまで封鎖する」との声明。承認されていない航路を通航しようとした船舶を攻撃したと発表し、「いかなる報復にも厳しい対応を取る」と警告した。

もう一つは、米中央軍のSNS投稿。日本時間7月12日午前8時15分から、イランへの新たな攻撃を開始したとの発表である。

3週間前に交わされた米イラン停戦覚書は、7月8日にトランプが「終わり」と宣言し、今日、公式に両陣営の応酬フェーズへ完全復帰した。市場が休みの週末を狙った攻撃開始という時点で、これがどの程度計算された動きかは推して知るべしである。

全体像──「散発的衝突」ではもうない

改めて時系列を整理すると、この危機の規模が「散発的な衝突」の範疇をとうに超えていることが分かる。

2026年2月28日、米国とイスラエルが共同でイランへの大規模空爆を実行(米側「Operation Epic Fury」、イスラエル側「Operation Roaring Lion」)。イスラエル軍史上最大規模の空爆で、テヘランの地下壕にいた前最高指導者アリ・ハメネイ師が殺害された。ラリジャニ元国会議長も暗殺され、革命防衛隊海軍司令官、空軍司令官、参謀総長も戦死。開戦時に「相手の最高指導者を殺す」ところから始まっている戦争は、通常の停戦交渉で決着させる余地を最初から捨てている。

4月8日、パキスタン仲介による2週間停戦が成立するも、イスラエルのレバノン攻撃で即座に緊張。6月17日、米イラン停戦覚書がスイスで署名。6月20日、革命防衛隊がイスラエルのレバノン攻撃を停戦違反と主張しホルムズ再封鎖を宣言。7月7日、米中央軍がイラン90拠点を空爆。7月8日、トランプが停戦破棄を公式宣言。7月10日夜にはトマホーク49発でイラン全域80箇所以上を4時間弱で攻撃。そして7月12日、ホルムズ封鎖と米追加攻撃が同時発生。

新最高指導者には亡きハメネイの息子モジタバ・ハメネイが就任し、7月11日には「父の死への報復」を全世界のシーア派に呼びかける声明を発表した。本人自身も負傷しているとの情報がある。イラン革命防衛隊は「一滴の石油もこの地域から流出させない」と宣言している。

犠牲者はイラン側公式発表で2,076人死亡・26,500人負傷、内部情報源によれば最大7,650人以上の死者。レバノンだけで1,800人が死亡し、5,873人が負傷している。イラン経済への打撃は同国政府自身が3,000億ドルから最大1兆ドルと見積もっている。国連は既にこの危機を「1970年代エネルギー危機以来最大の石油供給混乱」と評価している。

「散発的」という言葉が入り込む余地はもうない。既に地域戦争であり、一部の分析ではこれを2020年代最大の国際危機と位置づけている。

エスカレーションの構造──止まらない五つの理由

なぜこれが散発的にとどまらないのか。構造的な理由が少なくとも五つある。

第一に、戦争目的が拡散し過ぎている。トランプ政権自身が戦争の理由を、核開発阻止、ミサイル能力破壊、体制転換、石油資源掌握と、時期によって説明を変え続けている。IAEAは「イランに核兵器開発計画の証拠はない」と明言しているにもかかわらずである。目的が拡散する戦争は終わり方も見えない。

第二に、指導部殺害という不可逆の一線を既に越えた。2月28日にイランの最高指導者を殺した時点で、通常の外交で決着させる余地は失われた。息子が復讐を誓っている以上、イラン側からの譲歩は体制の自殺と同義になる。

第三に、ホルムズ海峡が通貨秩序への挑戦になりつつある。英語版Wikipedia「2026 Iran war」の記述によれば、イランは既にホルムズ海峡通行料を人民元で徴収する体制を構築しつつある。これは単なる石油供給問題ではなく、ドル基軸体制への正面からの挑戦であり、中国が水面下でイランを支える経済的理由でもある。この構造がある限り、米国は簡単に手を引けない。

第四に、仲介ルートが軒並み機能不全。パキスタン仲介(Islamabad Talks)は既に失敗。スイス会合も進展なし。オマーンが「中央レーン方式」でホルムズを部分開通させる案を提示中だが、トランプが「まずイランが商船攻撃を認めろ」と前提条件を吊り上げており、7月11日には情報筋によれば「イラン側が交渉打ち切り」との報も出ている。仲介する国が動いても、当事者双方に妥協意思がない。

第五に、周辺国が既に巻き込まれている。イランはこれまでにレバノン、イラク、クウェート、バーレーン、サウジ、UAE、カタール、ヨルダン、シリア、オマーン、アゼルバイジャンにミサイル・ドローン攻撃を実行。フランス兵1名も既に死亡し、キプロスの英軍アクロティリ基地にもドローン攻撃、トルコ上空ではイランミサイルが撃墜されている。地理的にも、当事者数の面でも、限定戦争の枠を完全に超えた。

イスラエル──戦争の首謀者にして、和平の妨害者

日本の報道ではしばしば「米国とイランの対立」という枠組みで語られるが、この戦争の中心にいるのはむしろイスラエルである。

そもそも2月28日の開戦を主導したのはイスラエル空軍による「史上最大規模の空爆」であり、前最高指導者を殺したのもイスラエルの作戦だった。ネタニヤフ首相は、7月時点でも対イラン戦線と対ヒズボラ戦線の両方を継続中で、7月11日にもレバノンでヒズボラ戦闘員をIDFが殺害したと発表している。

興味深いのは、トランプとネタニヤフの関係が緊張し始めていることだ。BBCとロイターの分析は「トランプとネタニヤフの溝拡大」「ネタニヤフ孤立」を伝えている。特にレバノンでのヒズボラへの追加攻撃を続けたいイスラエルと、それを抑えたい米国の間で亀裂が入っている。米イラン停戦覚書の失敗要因の一つは、まさに「イスラエルが署名当事者ではなく、独自判断でレバノンを叩き続けている」ことだった。

この亀裂は、直感に反して和平材料ではなくエスカレーション要因である。イスラエルは米国の同意なしに単独で対イラン・対ヒズボラ作戦を継続する能力と意志を持っており、米国が仮に手を引きたいと思っても、イスラエルの独自行動がイランの報復を招き、米国を再び引きずり込む構図が既に何度も繰り返されている。停戦が三週間で崩れた最大の実務的理由もこれだ。

そして7月11日、駐イスラエル米大使ハッカビーが「イランがトランプ大統領暗殺計画を練っているとイスラエルが警告した」と発表した。この情報の真偽はさておき、こうした情報が戦闘継続の正当化材料として使われる構図そのものが問題である。イスラエルは戦争の首謀者であると同時に、停戦の妨害者としても機能している。

中国とロシア──沈黙という戦略

中国は表面的には抑制的で、全人代報道官は米イスラエルの攻撃について名指し批判を避け、軍事介入もしていない。トランプの訪中を控え、対立を表面化させたくない事情がある。しかし前述の通り、イランのホルムズ通行料人民元決済という動きの背後には中国がいる可能性が高く、経済面ではイランを確実に支えている。「静かにドル基軸を切り崩す」という戦略と考えれば、中国にとってこの戦争は好都合である。

ロシアはイランと「包括的戦略パートナーシップ協定」を締結済み。プーチンは「揺るぎない支持」を表明しているが、ウクライナ戦線を抱えるため直接軍事介入はしていない。ただし武器供与や情報支援は行われている可能性が高く、BBCの分析は「ロシアはイラン戦争で外交的・経済的利益を狙う」と評している。

両大国とも、直接介入せずに米国が中東で消耗するのを眺めるという戦略で一致している。この構図が続く限り、米国は一人で泥沼を抱えることになる。

日本への波及──代替調達100%の「安心」の裏側

高市首相は7月の関係閣僚会議で「ホルムズ海峡経由の原油調達を代替ルートに100%切り替え済み」と表明した。数字だけ見れば安心材料である。しかし三つの但し書きが必要だ。

第一に、代替調達は原油の物理的供給の話であって、価格の話ではない。ホルムズ海峡がどうであれ、世界の原油価格は連動している。イラン封鎖宣言が出れば、代替ルート経由の原油であっても価格は上昇する。3月の攻撃時にはNY原油が一時111ドル台、2022年7月以来の高値をつけた。今回はそれを上回る展開が予想される。

第二に、LNGはより脆弱である。日本のLNG輸入の約27%(アジア向けLNG全体で見た数字)がホルムズ海峡を通過している。オーストラリア産が主力とはいえ、カタール産の依存は消せない。

第三に、円安と重なる。前回書いた通り、骨太方針原案で日銀の利上げが牽制されると解釈された結果、6月30日にドル円は162円台、約39年ぶりの水準に乗せた。原油高と円安のダブルパンチで、日本の輸入価格は原油ドル建て価格の上昇率以上に上がる。

現時点で日本のガソリン価格は169-170円台。定額引下げ措置で辛うじて抑えているが、今回の危機拡大が続けば、8月末までに200円超えのシナリオが現実味を帯びる。前回議論したナフサ危機は解消されていないため、包装資材・塗料・プラスチック製品の値上げは継続する。

「骨折の方針」で骨を折っているところに、複雑骨折の一撃が来た

ここで話を国内に戻したい。

前回の記事「高市政権の『骨折の方針』で国が壊れる」で書いた通り、6月30日に公表された骨太方針原案は、国債と円という国家経済の二本の屋台骨に対して、政府自身がハンマーを振り下ろす内容だった。PB黒字化目標の実質棚上げ、上限のない投資枠、日銀への利上げ牽制。市場は即座に反応し、10年国債利回りは7月7日に2.86%と30年ぶりの水準、円は39年ぶりの安値。

この時点で既に「骨折」だった。屋台骨に自ら罅を入れる、能動的な自傷行為である。

ところが7月12日、外から巨大なハンマーが降ってきた。ホルムズ海峡の封鎖と米イラン全面戦闘の再開である。骨折した骨に、上から追加の衝撃が加わったとき、医学的にはそれを複雑骨折と呼ぶ。単純骨折であれば固定して治癒を待てるが、複雑骨折は骨が皮膚を突き破って外に出て、感染症のリスクが跳ね上がる。骨折の方針で自ら罅を入れておいた骨の上に、中東発の衝撃波が直撃した──今の日本経済はこの状態にある。

しかも運が悪いことに、複数の骨折箇所がそれぞれ相互に増幅する構造になっている。中東危機で原油が上がれば輸入インフレが加速し、円が売られ、国債金利が上昇する。金利上昇は財政悪化懸念を呼び、日銀の利上げ余地は骨太方針で既に狭められているため、政府は日銀に追加購入を求めるしかなくなり、それがさらに円安を招く。円安がまたインフレを呼ぶ。外的ショックと内的政策失敗が完全に噛み合った状態である。

政治的に皮肉なのは、「責任ある積極財政」を掲げた骨太方針が、まさに責任を問われる局面で危機管理能力を試されていることだ。危機時こそ財政信認と通貨信認が問われる。その二つを平時にわざわざ削っておいて、危機に突入したときにどう対応するのか。「強い経済」の看板の下で骨折した屋台骨で、複雑骨折を負ったまま、この夏を乗り切らなければならない。

私たちに残された選択肢

正直に書いておくと、これはもう「備えるか、備えないか」の段階を過ぎた。「どれだけ早く、どれだけ深く備えるか」の段階である。

エネルギー面では、灯油・ガソリン・カセットガス・モバイルバッテリーの確保を7月中に完了させておきたい。今すぐは足りていても、8月以降の価格上昇と品薄化を織り込むと、今週末が実質的な最終確保タイミングになる可能性が高い。

食料面では、これまで議論してきた通り3年基準を5年基準に引き上げる方向で、当面は保存性の高いタンパク源(サバ缶を含むが、価格上昇済みなので分散が必要)、米、乾麺、乾燥豆、油、調味料を厚めに。家庭菜園は季節通り継続。

包装資材・プラスチック製品・塗料は前回の記事で書いた通り、値上がりと品薄化が続く見込み。園芸資材や日常品は今月中に補充。

金融面では、円建て現金一辺倒の危険性がこの数週間で急激に高まった。実物資産(貴金属、必要な備蓄物資、可能なら農地)と外貨資産の比率を平時より高めに保つ方向で、無理のない範囲で組み替える。

そして最も重要なのは、「今度こそ収束するのでは」という希望のサイクルに乗らないことである。6月17日の停戦覚書から7月8日の破棄まで、たった3週間だった。この夏、また停戦報道が流れる可能性は高い。だが同じサイクルが続くと考えて備えを緩めないことが、この複雑骨折の時代を生き延びる最低限の作法だと思う。

骨は自然には治らない

骨折は放置すれば時間が治す。だが複雑骨折は違う。適切な処置と長期の固定がなければ、動くたびに悪化する。今の日本は、政府が自ら折った骨の上に、中東発の衝撃を負ったまま、動かなければならない状況にある。

政治に何を期待するかは人それぞれだろう。だが少なくとも、政治に期待して自分の備えを緩める余裕は、今の状況ではもうない。屋根が抜けそうな家に住んでいる人は、屋根の修理を大家に頼むのと並行して、自分と家族が濡れないための傘を手元に置いておく必要がある。骨折の方針の下で複雑骨折を負った国に住む私たちも、同じことだ。

今週末、家族と冷蔵庫と物置と貯金通帳の中身を、もう一度確認しておくことをおすすめする。


こんな感じでいかがでしょうか。骨太方針編の要素は「複雑骨折」の比喩の中に凝縮する形にして、主軸は中東危機の全体像とエスカレーションの構造、日本への波及に置きました。トーン、章の順序、盛り込む情報の粒度など、調整希望があればお知らせください。

>日本への波及──代替調達100%の「安心」の裏側

ここに前回でも触れたと思いますが、米国の戦略石油備蓄がもうゆとりがなくなりつつあり、日本に入ってこなくなるリスクをもう一度書いてほしいです。おかしくならない程度に。はじめから執筆してください。

承知しました。「日本への波及」の章にSPR(米戦略石油備蓄)の逼迫リスクを組み込む形で、全体を書き直します。


複雑骨折──中東の炎と「骨折の方針」が重なる夏

7月12日、二つの声明が同時に世界に届いた

2026年7月12日午前、二つのニュースがほぼ同時に流れた。

一つは、イラン革命防衛隊による「ホルムズ海峡を追って通知あるまで封鎖する」との声明。承認されていない航路を通航しようとした船舶を攻撃したと発表し、「いかなる報復にも厳しい対応を取る」と警告した。

もう一つは、米中央軍のSNS投稿。日本時間7月12日午前8時15分から、イランへの新たな攻撃を開始したとの発表である。

3週間前に交わされた米イラン停戦覚書は、7月8日にトランプが「終わり」と宣言し、今日、公式に両陣営の応酬フェーズへ完全復帰した。市場が休みの週末を狙った攻撃開始という時点で、これがどの程度計算された動きかは推して知るべしである。

全体像──「散発的衝突」ではもうない

改めて時系列を整理すると、この危機の規模が「散発的な衝突」の範疇をとうに超えていることが分かる。

2026年2月28日、米国とイスラエルが共同でイランへの大規模空爆を実行(米側「Operation Epic Fury」、イスラエル側「Operation Roaring Lion」)。イスラエル軍史上最大規模の空爆で、テヘランの地下壕にいた前最高指導者アリ・ハメネイ師が殺害された。ラリジャニ元国会議長も暗殺され、革命防衛隊海軍司令官、空軍司令官、参謀総長も戦死。開戦時に「相手の最高指導者を殺す」ところから始まっている戦争は、通常の停戦交渉で決着させる余地を最初から捨てている。

4月8日、パキスタン仲介による2週間停戦が成立するも、イスラエルのレバノン攻撃で即座に緊張。6月17日、米イラン停戦覚書がスイスで署名。6月20日、革命防衛隊がイスラエルのレバノン攻撃を停戦違反と主張しホルムズ再封鎖を宣言。7月7日、米中央軍がイラン90拠点を空爆。7月8日、トランプが停戦破棄を公式宣言。7月10日夜にはトマホーク49発でイラン全域80箇所以上を4時間弱で攻撃。そして7月12日、ホルムズ封鎖と米追加攻撃が同時発生。

新最高指導者には亡きハメネイの息子モジタバ・ハメネイが就任し、7月11日には「父の死への報復」を全世界のシーア派に呼びかける声明を発表した。本人自身も負傷しているとの情報がある。イラン革命防衛隊は「一滴の石油もこの地域から流出させない」と宣言している。

犠牲者はイラン側公式発表で2,076人死亡・26,500人負傷、内部情報源によれば最大7,650人以上の死者。レバノンだけで1,800人が死亡し、5,873人が負傷している。イラン経済への打撃は同国政府自身が3,000億ドルから最大1兆ドルと見積もっている。国連は既にこの危機を「1970年代エネルギー危機以来最大の石油供給混乱」と評価している。

「散発的」という言葉が入り込む余地はもうない。既に地域戦争であり、一部の分析ではこれを2020年代最大の国際危機と位置づけている。

エスカレーションの構造──止まらない五つの理由

なぜこれが散発的にとどまらないのか。構造的な理由が少なくとも五つある。

第一に、戦争目的が拡散し過ぎている。トランプ政権自身が戦争の理由を、核開発阻止、ミサイル能力破壊、体制転換、石油資源掌握と、時期によって説明を変え続けている。IAEAは「イランに核兵器開発計画の証拠はない」と明言しているにもかかわらずである。目的が拡散する戦争は終わり方も見えない。

第二に、指導部殺害という不可逆の一線を既に越えた。2月28日にイランの最高指導者を殺した時点で、通常の外交で決着させる余地は失われた。息子が復讐を誓っている以上、イラン側からの譲歩は体制の自殺と同義になる。

第三に、ホルムズ海峡が通貨秩序への挑戦になりつつある。英語版Wikipediaの記述によれば、イランは既にホルムズ海峡通行料を人民元で徴収する体制を構築しつつある。これは単なる石油供給問題ではなく、ドル基軸体制への正面からの挑戦であり、中国が水面下でイランを支える経済的理由でもある。この構造がある限り、米国は簡単に手を引けない。

第四に、仲介ルートが軒並み機能不全。パキスタン仲介(Islamabad Talks)は既に失敗。スイス会合も進展なし。オマーンが「中央レーン方式」でホルムズを部分開通させる案を提示中だが、トランプが「まずイランが商船攻撃を認めろ」と前提条件を吊り上げており、7月11日には情報筋によれば「イラン側が交渉打ち切り」との報も出ている。仲介する国が動いても、当事者双方に妥協意思がない。

第五に、周辺国が既に巻き込まれている。イランはこれまでにレバノン、イラク、クウェート、バーレーン、サウジ、UAE、カタール、ヨルダン、シリア、オマーン、アゼルバイジャンにミサイル・ドローン攻撃を実行。フランス兵1名も既に死亡し、キプロスの英軍アクロティリ基地にもドローン攻撃、トルコ上空ではイランミサイルが撃墜されている。地理的にも、当事者数の面でも、限定戦争の枠を完全に超えた。

イスラエル──戦争の首謀者にして、和平の妨害者

日本の報道ではしばしば「米国とイランの対立」という枠組みで語られるが、この戦争の中心にいるのはむしろイスラエルである。

そもそも2月28日の開戦を主導したのはイスラエル空軍による「史上最大規模の空爆」であり、前最高指導者を殺したのもイスラエルの作戦だった。ネタニヤフ首相は7月時点でも対イラン戦線と対ヒズボラ戦線の両方を継続中で、7月11日にもレバノンでヒズボラ戦闘員をIDFが殺害したと発表している。

興味深いのは、トランプとネタニヤフの関係が緊張し始めていることだ。BBCとロイターの分析は「トランプとネタニヤフの溝拡大」「ネタニヤフ孤立」を伝えている。特にレバノンでのヒズボラへの追加攻撃を続けたいイスラエルと、それを抑えたい米国の間で亀裂が入っている。米イラン停戦覚書の失敗要因の一つは、まさに「イスラエルが署名当事者ではなく、独自判断でレバノンを叩き続けている」ことだった。

この亀裂は、直感に反して和平材料ではなくエスカレーション要因である。イスラエルは米国の同意なしに単独で対イラン・対ヒズボラ作戦を継続する能力と意志を持っており、米国が仮に手を引きたいと思っても、イスラエルの独自行動がイランの報復を招き、米国を再び引きずり込む構図が既に何度も繰り返されている。停戦が三週間で崩れた最大の実務的理由もこれだ。

そして7月11日、駐イスラエル米大使ハッカビーが「イランがトランプ大統領暗殺計画を練っているとイスラエルが警告した」と発表した。この情報の真偽はさておき、こうした情報が戦闘継続の正当化材料として使われる構図そのものが問題である。イスラエルは戦争の首謀者であると同時に、停戦の妨害者としても機能している。

中国とロシア──沈黙という戦略

中国は表面的には抑制的で、全人代報道官は米イスラエルの攻撃について名指し批判を避け、軍事介入もしていない。トランプの訪中を控え、対立を表面化させたくない事情がある。しかし前述の通り、イランのホルムズ通行料人民元決済という動きの背後には中国がいる可能性が高く、経済面ではイランを確実に支えている。「静かにドル基軸を切り崩す」という戦略と考えれば、中国にとってこの戦争は好都合である。

ロシアはイランと「包括的戦略パートナーシップ協定」を締結済み。プーチンは「揺るぎない支持」を表明しているが、ウクライナ戦線を抱えるため直接軍事介入はしていない。ただし武器供与や情報支援は行われている可能性が高い。

両大国とも、直接介入せずに米国が中東で消耗するのを眺めるという戦略で一致している。この構図が続く限り、米国は一人で泥沼を抱えることになる。

日本への波及──「代替調達100%」の裏で消えつつある安全網

高市首相は7月の関係閣僚会議で「ホルムズ海峡経由の原油調達を代替ルートに100%切り替え済み」と表明した。数字だけ見れば安心材料である。しかし四つの但し書きが必要だ。

第一に、代替調達は原油の物理的供給の話であって、価格の話ではない。ホルムズ海峡がどうであれ、世界の原油価格は連動している。イラン封鎖宣言が出れば、代替ルート経由の原油であっても価格は上昇する。3月の攻撃時にはNY原油が一時111ドル台、2022年7月以来の高値をつけた。今回はそれを上回る展開が予想される。

第二に、LNGはより脆弱である。日本のLNG輸入の約27%(アジア向けLNG全体で見た数字)がホルムズ海峡を通過している。オーストラリア産が主力とはいえ、カタール産の依存は消せない。

第三に、そして今回最も強調しておきたいのが、米国戦略石油備蓄(SPR)の枯渇が近いという事実である。前回の記事でも触れたが、状況は当時からさらに悪化している。米SPRの残量は6月中旬時点で3億4,030万バレル、1983年以来の低水準。放出は週約900万バレルのペースで続いており、実務的下限とされる3億1,000万バレル付近まであと10日から20日の距離にある。cohamizu氏の分析では7月中旬から下旬にかけて放出が事実上停止する可能性が高い。今日はもう7月12日である。

これが日本にとって何を意味するか。SPRは米国内の供給を支えるだけでなく、放出分の約40%が輸出されており、世界市場の最後の防波堤として機能してきた。放出が止まれば、その日から世界の原油需給は一段厳しくなる。日本は原油輸入の約7%を米国から確保しているが、より重要なのは「他国の代替調達先」としての米国産の存在感である。日本が今「ホルムズ経由100%切り替え済み」と胸を張れるのは、米シェールと米SPRが世界の需給を辛うじて支えているからだ。その支えが7月中に外れる。

第四に、円安と重なる。前回書いた通り、骨太方針原案で日銀の利上げが牽制されると解釈された結果、6月30日にドル円は162円台、約39年ぶりの水準に乗せた。原油高と円安のダブルパンチで、日本の輸入価格はドル建て原油価格の上昇率以上に上がる。仮に原油が120ドルへ、ドル円が165円へ進めば、日本の輸入原油コストは今年年初比で軽く1.5倍を超える計算になる。

現時点で日本のガソリン価格は169円から170円台。定額引下げ措置で辛うじて抑えているが、今回の危機拡大とSPR停止が重なれば、8月末までに200円超えのシナリオが現実味を帯びる。前回議論したナフサ危機は解消されていないため、包装資材・塗料・プラスチック製品の値上げも継続する。

つまり日本の「代替調達100%」は、世界の需給に十分なゆとりがある前提の話であって、その前提が今月中に崩れかかっている。政府発表の数字を見て安心するのは、大家が「屋根は大丈夫」と言っているのを鵜呑みにするようなものだ。屋根裏を自分の目で確認する必要がある。

「骨折の方針」で骨を折っているところに、複雑骨折の一撃が来た

ここで話を国内に戻したい。

前回の記事「高市政権の『骨折の方針』で国が壊れる」で書いた通り、6月30日に公表された骨太方針原案は、国債と円という国家経済の二本の屋台骨に対して、政府自身がハンマーを振り下ろす内容だった。PB黒字化目標の実質棚上げ、上限のない投資枠、日銀への利上げ牽制。市場は即座に反応し、10年国債利回りは7月7日に2.86%と30年ぶりの水準、円は39年ぶりの安値。

この時点で既に「骨折」だった。屋台骨に自ら罅を入れる、能動的な自傷行為である。

ところが7月12日、外から巨大なハンマーが降ってきた。ホルムズ海峡の封鎖と米イラン全面戦闘の再開である。骨折した骨に、上から追加の衝撃が加わったとき、医学的にはそれを複雑骨折と呼ぶ。単純骨折であれば固定して治癒を待てるが、複雑骨折は骨が皮膚を突き破って外に出て、感染症のリスクが跳ね上がる。骨折の方針で自ら罅を入れておいた骨の上に、中東発の衝撃波が直撃した──今の日本経済はこの状態にある。

しかも運が悪いことに、複数の骨折箇所がそれぞれ相互に増幅する構造になっている。中東危機で原油が上がれば輸入インフレが加速し、円が売られ、国債金利が上昇する。金利上昇は財政悪化懸念を呼び、日銀の利上げ余地は骨太方針で既に狭められているため、政府は日銀に追加購入を求めるしかなくなり、それがさらに円安を招く。円安がまたインフレを呼ぶ。外的ショックと内的政策失敗が完全に噛み合った状態である。

政治的に皮肉なのは、「責任ある積極財政」を掲げた骨太方針が、まさに責任を問われる局面で危機管理能力を試されていることだ。危機時こそ財政信認と通貨信認が問われる。その二つを平時にわざわざ削っておいて、危機に突入したときにどう対応するのか。「強い経済」の看板の下で骨折した屋台骨で、複雑骨折を負ったまま、この夏を乗り切らなければならない。

私たちに残された選択肢

正直に書いておくと、これはもう「備えるか、備えないか」の段階を過ぎた。「どれだけ早く、どれだけ深く備えるか」の段階である。

エネルギー面では、灯油・ガソリン・カセットガス・モバイルバッテリーの確保を7月中に完了させておきたい。今すぐは足りていても、8月以降の価格上昇と品薄化を織り込むと、今週末が実質的な最終確保タイミングになる可能性が高い。SPR放出停止のタイミングを考えると、来週以降は米国内需要が急に引き締まり、輸出余力がさらに落ちる可能性がある。

食料面では、これまで議論してきた通り3年基準を5年基準に引き上げる方向で、当面は保存性の高いタンパク源(サバ缶を含むが、価格上昇済みなので分散が必要)、米、乾麺、乾燥豆、油、調味料を厚めに。家庭菜園は季節通り継続。

包装資材・プラスチック製品・塗料は前回の記事で書いた通り、値上がりと品薄化が続く見込み。園芸資材や日常品は今月中に補充。

金融面では、円建て現金一辺倒の危険性がこの数週間で急激に高まった。実物資産(貴金属、必要な備蓄物資、可能なら農地)と外貨資産の比率を平時より高めに保つ方向で、無理のない範囲で組み替える。

そして最も重要なのは、「今度こそ収束するのでは」という希望のサイクルに乗らないことである。6月17日の停戦覚書から7月8日の破棄まで、たった3週間だった。この夏、また停戦報道が流れる可能性は高い。だが同じサイクルが続くと考えて備えを緩めないことが、この複雑骨折の時代を生き延びる最低限の作法だと思う。

骨は自然には治らない

骨折は放置すれば時間が治す。だが複雑骨折は違う。適切な処置と長期の固定がなければ、動くたびに悪化する。今の日本は、政府が自ら折った骨の上に、中東発の衝撃を負ったまま、動かなければならない状況にある。しかも骨を守ってくれるはずの外的安全網、つまり米SPRという「最後の防波堤」も、まもなく機能を停止する。屋根が抜けそうな家に住んでいて、雨は強くなり、近所の共同倉庫の傘の在庫も尽きようとしている、そういう場面である。

政治に何を期待するかは人それぞれだろう。だが少なくとも、政治に期待して自分の備えを緩める余裕は、今の状況ではもうない。屋根の修理を大家に頼むのと並行して、自分と家族が濡れないための傘を手元に置いておく必要がある。骨折の方針の下で複雑骨折を負った国に住む私たちも、同じことだ。

今週末、家族と冷蔵庫と物置と貯金通帳の中身を、もう一度確認しておくことをおすすめする。


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