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「すいません」と「ありがとう」で迷惑をかけながら育てよう

「ほんまに、あのひとはあてにならん。もうええ。私はこの子と二人で生きていく!」

2001年7月28日。夜が明け始め、窓の外が明るくなってきた頃、ベッドの上で身体を丸めて痛みに耐えながら、家で寝ている夫に腹が立ってきたよね。

私はこの子と二人で生きていく。

4年後の秋。いくつかの小さな不満と大きな不満が重なって、夫と人生を共にするのは無理やと思い、冬には古い小さなアパートで息子と二人で生きていくことになるねん。まあ、その話は長くなるから、また今度にしよか。

まずは、お疲れさま。陣痛から12時間、よう頑張ったよね。
え? 私? 
24年後のあなた、そう、『私』や。

あなたと息子が退院する前に、これから起こることと、大事なことを伝えに来たんよ。

えらい昔のことになってしもたから、思い出すのに時間かかりそうやなあ。まあ、朝まで時間はたっぷりあるし、明日から始まる親子三人の生活からゆっくり話そうか。

七五三の時の写真。なぜ息子がこのポーズを取ったのかは、よくわからない。

自宅マンションに帰ったその日から、今までと生活は一変した。朝夜関係なく、3時間おきに息子におっぱいあげて、オムツを替えて、夫が家にいる時間は、夫が息子の世話をして、その合間に家事をする。

1日は2時間、1週間は3日のようなスピードで過ぎていったなあ。

家から出るのは、週に2回ほど食材や日用品を買う数時間。夫以外に言葉を交わす大人は、宅配便と生協の配達の人。

そんな生活が1ヶ月ほど続き、自分が小さな円のなかに閉じ込められたような気分になって、ある日もう耐えられんって思ったんよ。

「1時間だけ家を出ます」

そう夫に言うて、駅前のミスタードーナツにひとりで行ったわ。そこで食べたオールドファッションとコーヒーは、今まででいちばん美味しかった。

もっと役に立つようなこと言えたらええんやけど、そんな記憶しかないんよ。言えることは、毎日あっという間で、子育てと生活をまわすのに必死で、しんどくて、でも、今までの人生で味わったことがないくらい充実した毎日やってこと。

そうして3ヶ月が過ぎた10月の終わり。初めて息子と二人でお出かけしたんよ。兄夫婦が譲ってくれた大きなベビーカーに、小さい息子をそっと乗せた。

マンションを出たら、大きな通りに出るまで坂道が続くよね。ベビーカーから手を離さないようにぎゅっと力を入れて、坂道を降りた。そうして駅前まで歩いて行ったわ。

ひとりで歩いていた時の倍以上時間をかけて、ようやく駅前のデパートに到着。美味しいパンでも買おうかなとエレベーターの前に並んだら、息子が突然大泣きしたんよ。

周りのひとたちがチラチラとこちらを見て、
「うるさいな」
「お母さん、なにしてんの?」

って言うてはるような気がしてね。

「大丈夫、大丈夫」って息子のお腹をとんとんしながら、自分にも「大丈夫」を言い聞かせていた。そして、周りのひとたちに「すいません」って小さい声で言うてたら、

「大丈夫ですよ」

って言うてくれる人がいててね。
自分の親世代の女性やった。彼女の優しい笑顔見て、ホッとしたんよ。

エレベーター乗って、ベビールームがある2階で降りた。その間も息子はずっと泣いててね。ベビールームの授乳室入って、おっぱいをあげたら泣き止んで、そのあとスヤスヤ寝てくれた。

突然、私はわかったんよ。

子ども育てることって、「すいません」「ありがとうございます」って他人様に言うて頭下げることなんやわ。このふたつを心から言えたら、私、この子を育てていけるわ。

外の世界から閉ざされたマンションの一室で息子と二人で過ごす時間は、安全やし、安心なんよ。息子と私を傷つけるひとはだれもおらんからね。

不安やったけど初めて息子と二人で外の世界に出て、「すいません」と「ありがとう」が言えた時、そして、それを大事にしたらええってわかった時、私のなかに『大丈夫』っていう思いが生まれた。

それは、家の中にずっといたら、わからんかったことやわ。

それからどうなったかって?
そうやねえ、こんなことがあったわ。


息子と二人で、バスに乗って出かけたことがあったんよ。その頃出回り始めた『スリング』いう抱っこ紐に息子を入れて、畳んだベビーカーとベビーバッグ持って、よっこらせとバスに乗り込んでね。

降りる停留所でバスが止まった時、前にいた女性が声かけてくれたんよ。

「お母さん、なんかひとつ、持ちましょか」

ベビーカーか、息子か、バッグか。
「すいません。ありがとうございます」
言うて、いちばん重たいベビーカー渡したら、軽々と持って降ろしてくれたわ。
私と息子がバスから降りたら、「これ、孫が使うてるんといっしょやわ」言うて、ベビーカー広げてくれてね。

「ありがとうございました」って頭下げたら「気ぃつけてね」と言いながら歩いていかはった。

そうそう。ベビーカーは畳んで乗車してくださいって電車でもバスでも言われるんやけど、24年後の今は畳まず乗ってええようになるんよ。
「昔は苦労して畳んだもんやけど」と、電車のなかで大きなベビーカーを見たら、ちょっと恨めしく思うこともあるわ。

そのあとも、息子と出かけるたびに、「すいません」「ありがとうございます」をたくさん言うていくんやけど、もうひとつ、あなたに伝えたいことがあるんよ。

よう聞いてね。

あなたと息子は、たくさんの人に迷惑をかける。

そんなん言われたら怖いよね。
「他人様に迷惑かけるな」って小さい頃から親に言われて育ったもんね。

大人になって、迷惑かけないようにって生きてきて、自分に迷惑かけるひと大嫌いやったから。

でもね。迷惑かけな、あなたと息子は生きていかれへんから。

さっき言うたけど、息子と二人で暮らすことになってからは、迷惑かけるひとがもっと増える。息子の父親(今はまだあなたの夫やけど)、私の父と兄夫婦。職場のひとたち。保育所や小学校の先生。息子の同級生のお母さんたち。近所の世話好きなおじいさんとおばあさん。

たくさんのひとに迷惑かけて、助けてもらって、「すんません」「ありがとう」ってあなたは言うて頭を下げる。そして、息子も「ありがとう」って元気に言う。

助けてくれると思った人が、そうでなかったこともある。
「小さい子どもがいるひとは、うちの職場には来てほしくない」と言われることもある。

夕方の通勤ラッシュの地下鉄に息子と手をつないで乗ってたら、スーツを着た男性が小さな息子を睨んで、「ちっ」と舌打ちしたこともある。

それでも、私はあなたに言いたい。

世の中、やさしい人の方が多い。
あなたと息子が生きる世界はやさしい。

たくさんの出会いと体験から、私はそれを本気で信じられるようになった。
だから、あなたもきっとそれを信じられる。

そういえば、息子は5歳になる頃、こんなん言うてたわ。

「ボクがいちばん好きな人は、ボク!」

自分のことがいちばん好きって言えること。それに私は感動したんよね。その後、根拠のない自信を持ち続ける中高生になって、まあそれはそれで、いろいろ親としては思うこともあるけれど。今はまだええか、その話は。

なんや、えらい長い話になってしもたね。

とにかく、明日からの毎日、楽しみにしててね。

先の見えない未来に不安になることもあるけれど、大丈夫。24年後、息子は、迷いながらも自分で考えて、自分の人生歩いてる。

そして私はしあわせに生きてるから。

2025年2月の息子。「この写真、このnoteの最後に載せてもええ?」って聞いたら「オレ、足長いな」言うて了解してくれた。自分のこと好きなのは変わらんね。

補足。3歳の頃のかわいい息子の写真は、本人の了承を得て使いました。24歳の今、ほとんど面影はありません。

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わたなべ ますみ 美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。