【ホラー小説?】もしかしたらワイって、ちょっとおかしくなってるかもしれんけど、どう思う? その1〈後半〉
628:気付いたら名無しだった
昨日作ったこのスレだけど、案外反応が多くて驚いてる。
あ、悪い。スレ主だ。
ワイの回顧録みたいなのに、こんなに付き合ってくれる人がいると思ってなかった。
とりあえずみんなありがとう。
さて、んじゃさっそくだけど、昨日の続きを書かせてもらうわ。
629:気付いたら名無しだった
しばらく進むと24時間営業のファミレスが見えてきたので、「ちょうどいいや、あのお店で食べていこうよ!」って、A子に半ば強引に連れて行かれた。
630:気付いたら名無しだった
>>628 イッチ、お帰り!
632:気付いたら名無しだった
これ、5月1日の話だよな? 緊急事態宣言中だったはずだけど、深夜にファミレスやってたのか?
633:気付いたら名無しだった
1回目の時は時短要請とかじゃなくて、営業自粛を促してたはずだ
遅くまでやってた所も、結構あった気がする
635:気付いたら名無しだった
当時のアルバイトが来ましたよ!
最初の頃は深夜営業も続けてた店、けっこうあったよ
結局客が来ないから、途中からはほとんどの店が閉めてたけど
637:気付いたら名無しだった
どこもかしこもデリバリー始めてたし
638:気付いたら名無しだった
ワシ、千葉県民だけど、牛丼屋とかはかなり混んでた印象ある
テイクアウトばっかりだったけど
640:気付いたら名無しだった
ワイとA子が店内に入ると、ほとんどの席が空いていた。
ウェイトレスに案内された席に着く。
メニューを見ながら適当に注文をする。
普段なら注文したのが出てくるまで10分くらいは待たされるはずだけど、ドリンクバーで飲み物を選んで戻ってくると、早くも料理が運ばれてきていた。
「ホントに誰も人がいないね。ゴールデンウィーク中なのにこれって、やっぱりみんな自宅に引きこもってるのかな?」
店員も接客がなくて暇なのだろう。
さっきから同じ場所を何度もアルコール除菌ばかりしている。
641:気付いたら名無しだった
「にしてもワイくんって、食べ方、綺麗だね」
A子がワイをジッと見つめながら言った。
「そうかな?」
「うん。かなり綺麗だよ。背筋が伸びてるし、カチャカチャ音を立てないし」
「まあ、僕はこんな見た目だからさ」
「見た目?」
A子が首を傾げる。
「僕って、見た目が怖いだろ?」
「あ、一応、自覚はあったんだ? よかったよかった」
ほっとけと思ったけれど、あえて口にはしなかった。
「僕は周りから余計な警戒心を抱かれないように、仕草とか作法とか、色々気を付けながら生活してるんだよ」
「もしかしてそんな顔のくせに、やたらと清潔感がある服装をしてるのも?」
642:気付いたら名無しだった
そんな顔……というのは、失礼でイラッとしたけれど、あえて気にしないフリをしておいた。
「少しでも不潔にしてたら、警察から職務質問を受けやすくなるからな」
「ワイくんって、職務質問された経験があるの?」
「しょっちゅうある」
「しょっちゅう?」
「たとえば前にヨレヨレのジャージ姿で近所のスーパーまで買い物に行こうとした時には、たどり着く前に、4回も職質を受けた」
643:気付いたら名無しだった
イッチwww
647:気付いたら名無しだった
A子はうつむいて、体を小刻みに震わせてたな。
たぶんだけど、口に入れたばかりのハンバーグを吹き出さないように堪えながら笑ってたんだろうって、今なら思う。
しばらくしてからから、A子は小さな咳をしてしみじみと言った。
「ホント、見た目って大切なんだね」
648:気付いたら名無しだった
人は見た目が全て定期
649:気付いたら名無しだった
人は話し方が九割定期
651:気付いたら名無しだった
>>648~649 どっちが正しいんかな?
654:気付いたら名無しだった
>>651 ワイの個人的な経験では、見た目の方が重要視されてる印象だな。
そんなことはともかく、話を続けるぞ。
食事を終えたワイらは、支払いカウンターに行った。
当然、ワイが全額負担するものだと思ってクレジットカードを用意していると、A子に肘で小突かれた。
「ワイくんは出さなくてもいいよ。ここはわたしが奢ってあげるから」
「え?」
予想外だったので、思わず眉間にシワを寄せてしまう。
するとA子は笑いながらワイの肩にパンチをしてきた。
「顔、怖過ぎなんだけど……」
たしかに側にあった鏡には、これからA子を殺そうとしているようにしか見えないワイの横顔が映っていた。
655:気付いたら名無しだった
イッチww
660:気付いたら名無しだった
悪いけど、ワイはそういう顔なんや。
「ちょっとその顔で横にいられると、色々勘違いされそうだからさ。先に外行ってて」
A子が害虫でも払うような仕草をする。
レジの女性を一瞥すると、ビクッと震えて目を逸らされた。
浮かべている営業スマイルも、明らかに引き攣っていた。
手がレジの下にあるけれど、もしかしたら防犯ブザーみたいなのを押そうとしていたのかもしれん。
何となく居心地が悪かったので、とりあえずA子に言われた通りにした。
スーツケースを転がしながら店を出ると、さっきまではあまり感じなかった肌寒さに、少しだけ身をすくめた。
自分を抱き締めるようにしながら赤紫色の空を見上げる。
しばらくそうしているとドアの開く音がした。振り返ると、A子がニヤニヤしながらワイを見つめてきていた。
「いや~。レジのお姉さんから、『大丈夫ですか? 警察呼びますか?』なんて確認されちゃったよ~」
普通の人なら明らかに冗談だってわかるのだろうけど、ワイの場合は見た目が見た目なだけに、本当かウソか判別できなかった。
661:気付いたら名無しだった
「どうかなワイくん? 小学生にご飯奢ってもらった気分は?」
そう言いながらA子がワイの腕に抱きついてきた。
「A子はまだ、自分が小学生だなんてウソを言ってるの?」
「いや、だって、ホントにわたし、小学生だし」
バカバカしいので、この話題に付き合うのは止めておいた。
代わりに「いつか食事代は返すよ」と言った。
「別に返さなくたっていいよ。どうせわたしのって、盗んだお金だし」
662:気付いたら名無しだった
言われてみればたしかにその通りだったな
663:気付いたら名無しだった
「それでも僕はお金を渡すよ」と言うと、A子は「どうして?」って首を傾げた。
「気分的に落ち着かないからだよ」
ワイの頑なな態度に、A子はやれやれと嘆息した。
「ワイくんって、かなり面倒くさい性格なんだね。たかが千円前後のお金の貸し借りで」
「たかがじゃない。僕は金銭の貸し借りで、面倒なことをいっぱい経験してるんだ」
「面倒なこと?」
A子がキョトンと首を傾げる。
「たとえば?」
「小銭を借りようとしただけなのに、周りの人達から、恐喝してるって勘違いされたりとか」
途端にA子が噴き出して、ツバがワイの顔にまで飛んできた。
もしもA子が新型コロナウィルスの保菌者だったら、間違いなくワイは感染していたはずだ。
「アハハハハハハハ! ワイくんって、ホント見た目で損してるんだね」
余計なお世話だと思ったけれど、どうせ何を言っても負け犬の遠吠えみたいなものになってしまうから、反論はしなかった。
「ところでワイくんってさ、今日はどこで寝るつもりだったの?」
本当は公園で野宿をする予定だった。けれど今はこうしてA子が一緒にいるし、どこかホテルを探した方がいいかもしれない。
664:気付いたら名無しだった
通報しました
665:気付いたら名無しだった
女児とお泊まりはアカン!
667:気付いたら名無しだった
だからイッチは、連続殺人事件の犯人だっていう設定
671:気付いたら名無しだった
>>567 設定じゃない定期。事実だ。
まあ、そんなことはともかく、A子はニヤニヤしながら「わたしは別に、ラブホとかでも全然OKだよ」って言ってた。
こんな可愛い娘にラブホに誘われたら、欲望的なものを抱く男は多いように思える。
やや体の線が細過ぎるし、女性らしさはあまり感じられないけれど、こういうモデル体型を好きな人も少なくはないはずだ。
けどワイは「それはないな」と鼻を鳴らした。
「どうして? ワイくんはわたしと一緒に寝るの、嫌?」
「恋人でもないのに、同じ部屋ってのはあり得ないだろ」
673:気付いたら名無しだった
何その古いラブコメの主人公みたいな意見?
677:気付いたら名無しだった
何人も殺してる凶悪犯罪者の言葉とは思えねーわ
680:気付いたら名無しだった
>>677 一応、この時点ではワイはまだ誰も殺してないからな。
けど、まあ、A子もみんなと同じ意見だったんだろうな。
ワイを指差しながら爆笑してた。
「ワイくんって真面目過ぎじゃね? ていうか、頭が硬いのかな?」
「僕はこういう見た目だからね。男女関係には人一倍慎重になってるんだよ」
「たしかにその顔だと、色々誤解されそうだけど……」
自分で言うのとは違って、かなり心にグサッときた。
でもワイは表面上は平然としておいた。
「ワイくんって、過去に女性関係で何かあったの?」
「まあ、色々……」
「訴えられたとか?」
「そこまではなかったけど……」
681:気付いたら名無しだった
A子にはあえて細かい事情まで話さなかったけど、ワイは30代になりたての頃、同じ職場で働く女性から誘惑をされて、性行為に及んだことがある。
決して欲望に負けたわけじゃない。
そもそもそんなに好みのタイプじゃなかった。
ただ、綺麗な女性に誘われているのに断るのは悪いなと、気を遣っただけだ。
それがいけなかった。
数日経った頃、何故かワイは職場の女性達から、憎悪を感じる眼差しを向けられるようになっていた。
最初は理由がさっぱりわからなかった。
居心地が悪かったけど、それでも普通に仕事をしていると、先輩の男性から『ワイさん、同じ職場の女性をムリヤリ犯すってのは、あんまりよくないって思いますよ』と言われた。
意味不明な台詞だった。いったいどういうことなのかを確認した。
その結果わかったのは、どうやら自分からワイを誘惑してきたあの女性が、周りの人達に対して、ワイにムリヤリ犯されてしまったという話をしているということだった。
682:気付いたら名無しだった
男の先輩がワイの剣幕にビビりながら教えてくれた内容によると、彼女はワイのことが怖くて、仕方がなく体を許すしかなかったと、涙ながらに語っていたらしい。
すぐにワイは「そんなことはしてません!」と否定した。
しかしどんなに本当のことを口にしても、誰一人として信じてくれる人はいなかった。
たぶんワイの見た目のせいなんだろうな。
いつの間にか既成事実化してしまっていた無実の罪で、ワイは周りから、もの凄く嫌悪されるようになった。
やがて派遣先のお偉いさん達にも、捏造された冤罪情報が伝わった。
遠回りに注意を受けた。
噂では会議中、今後のワイへの対応についても話し合われたらしい。
こうしたことが重なって、ワイは半ば強制的にその職場を辞めなければならない状況に追い込まれてしまった。
以来、可能な限りワイは、女性と肉体関係を持つことは避けるようにしている。
周りから誤解をされたら、見た目的に言い訳をしても信じてもらえなくなるからな。
688:気付いたら名無しだった
そういう恨み辛みが重なって、イッチは人を殺してしまったのか?
690:気付いたら名無しだった
>>688 わからん。そもそも殺したって記憶自体がワイにはないからな。
そんなことはともかく、話を続けていくぞ。
ワイにラブホテルを断られたA子は、苦笑を浮かべながら「仕方がないなあ」とため息をついた。
「ラブホじゃなかったとしても、同じ部屋で寝るのはNG?」
「できれば」
「だったら同じ部屋じゃなくてもいいけど、でも、泊まるホテルはわたしに決めさせてもらえないかな?」
どういうわけかこの先も一緒に行動することは決定事項のような物言いだった。
路上で立ち止まって、A子がスマホを使ってホテルの検索をする。
しばらくして、「ちょっとワイくん、これ見てよ」とスマホのモニターを眼前に突き付けられた。
表示されてたのは、1日3千円で宿泊できるビジネスホテルのプランだった。
「ここ、安くない?」
「ていうか、ちょっと安過ぎないかな? 怪しいような気が……」
「大手だから大丈夫だとは思うけどね」
たしかに都市部の駅前には必ずあるような有名なビジネスホテルだった。
691:気付いたら名無しだった
「新型コロナの影響で、ほとんどのホテルが空き部屋だらけになってるんだよ。だからこんな格安のプランを用意したんだと思う」
注意書きを読んでみると、仕事で通勤電車を使用している人が、帰宅することで家族へ感染させるリスクを減らすためのプランだという説明があった。
しかもこの格安料金でありながら、通常の宿泊と同じで、ビュッフェスタイルでの朝食も付いている。
「ワイくん、ここでどうかな?」
「そうだな。いいと思う」
「何泊する?」
「もしも大丈夫そうなら、ゴールデンウィークが終わるくらいまでで」
それくらい経てば、また仕事の募集をかける企業も増えるはずだという根拠のない予測を立てた上で、ワイは適当に答えておいた。
「国からの自粛要請が出てるから、今年のゴールデンウィークは5月9日までだったよね。じゃあ、えと、9連泊だよ」
例年通りなら関東圏のビジネスホテルの場合、遅くても1週間前や2週間前には部屋が埋まっているはずだ。
ゴールデンウィークなら尚更で、とても当日予約なんて無理だと思っていた。
しかしA子がすぐに「予約できたよ」と言った。
どうやらニュースなどで流れている通り、現在はホテルが空き部屋だらけになっているという情報は本当だったらしい。
692:気付いたら名無しだった
さっそくマップを確認しながら、海老名駅からあまり離れていないそのホテルへ向かった。
たどり着くと、ラウンジは閑散としていた。
Webで予約したことを伝えて、チェックインする。
「とりあえず支払いは別々で」とA子が伝え、現金を出した。
まとまったお金のないワイは、クレジットカードをキャッシュトレーに置いた。
カウンターの人の説明によると、会員証を作らないと格安のプランは使用できないらしい。
仕方がなくワイは追加で500円を支払い、さらには写真も撮られたうえでカードを作成した。
部屋のキーを二つ渡される。812と813。隣同士だ。
エレベーターに向かう途中、ワイはずっと訝しむような視線が背中に刺さっているのを感じていた。
理由はわかってる。
ワイみたいな凶悪な見た目の男が、A子みたいな可愛い女の子と一緒にいるもんだから、犯罪的な意味で勘ぐられてしまってたんだろう。
693:気付いたら名無しだった
イッチって、ホントにそんなヤバい見た目してるん?
695:気付いたら名無しだった
>>693
コロナ禍連続殺人事件で検索すれば画像出てくるから見てみ
699:気付いたら名無しだった
>>693
仮にイッチが石戸谷洋平本人だとしたら、ガチでヤバい顔やで
856:気付いたら名無しだった
>>693 ワイなら街で見かけても、絶対近付かんようにするな
711:気付いたら名無しだった
シャワーを浴びてから少しくつろいでいると、いきなりドアがノックされた。
「ワイくん! 早く開けて!」
A子だってのは声でわかったし、ワイはやれやれと思いながらドアを開けた。
すると両腕にコンビニのレジ袋を持ったA子が、ワイを押し退けるように中に入って来て、そのままベッドまで移動した。
「ワイくん、お風呂に入ってたの?」
乾いていない髪の毛を見てそう判断したんだろうな。
「A子は買い物に行ってたのか?」
「ワイくんが飲みたいんじゃないかって思って」
ニヤニヤしながらA子がベッドの上に並べていったのは、アルコールやお菓子だった。
「ま、わたしは小学生だからお酒は飲めないんだけど」
まだ自分を小学生だって言ってるのか……。
ワイは少し呆れてしまったけど、面倒だから突っ込みは入れないでおいた。
「お金はどうすればいい?」
「奢ってあげるよ」
「そんなわけにはいかない」
ワイは財布を取り出した。
「さっきの食事代もまとめて払うよ」
そうは言ったものの、ワイの財布の中には328円しか入っていない。
718:気付いたら名無しだった
そういやイッチ、無職なったばかりだったな
714:気付いたら名無しだった
ワイがお金を持ってないことを察したのかどうかはわからないけれど「じゃあ、今度ランチでも奢ってもらおうかな」とA子が提案してきたので、「わかった」とワイは財布をしまった。
「もうかなり遅い時間だけど、A子は眠くないのか?」
「全然平気。そんなことより、わたし、ワイくんと色々な話がしたいな」
A子がベッドの上で足をばたつかせる。
ワイはやれやれと側にあった椅子に座り、「それじゃあ、せっかくだから飲ませてもらうよ」と適当な缶ビールを手に取った。
「んじゃ、わたしはこれで」
A子がサイダーのペットボトルを開ける。
目の前に差し出してきたので乾杯をした。
炭酸の弾ける小気味のいい音が鼓膜を揺らす。
そういえば最近、ワイはあまりお酒を飲んでいなかったことを思い出した。
716:気付いたら名無しだった
イッチ、アルコール嫌いな人か?
719:気付いたら名無しだった
>>716 お酒自体は好きなんだけど、40歳を過ぎてたし、普段は仕事に影響が出ないように控えてたんだ。
720:気付いたら名無しだった
イッチ、真面目だな
756:気付いたら名無しだった
>>720 凶悪犯罪者のくせにな
768:気付いたら名無しだった
>>756 本人だってのが嘘松じゃなかったらの話だが
721:気付いたら名無しだった
この時点でワイはもう職無しだったから、明日のことを考えて遠慮をする必要がない。
気の向くままに、次から次へとお酒を飲んでいった。
そして気が付くと、A子に対して色々なことを愚痴っていた。
普段は静かに飲むタイプなのに、自分でも不思議だった。もしかしたらA子が聞き上手だったからかもしれない。
724:気付いたら名無しだった
どんな愚痴を言ってたんだ?
728:気付いたら名無しだった
>>724 ワイがこれまでの職場で体験してきた理不尽な扱いや、そこで出会った最低な人達の文句だな。
たとえば最後に働いていた工場で、責任者だったN島について「もの凄いパワハラ野郎だったよ」みたいなことをボソリと言ったら、「どんなパワハラだったの?」って訊かれた。
「N島の場合は、動画で撮影すれば一発でアウトになるようなことはしなかった。その代わり、日常的に小さな嫌がらせをネチネチと行うタイプだったかな」
「ワイくん、そのN島って人のこと、今でもムカついてるの?」
A子が半分寝そべるような体勢でワイの顔を見上げてくる。
「思い出したら、イラッとするくらいには」
「殺したくなる?」
「殺す……って、そこまでは……。
あ、でも、何度かそう思ったことはあったかもしれない」
勿論、これはあくまでも会話の中での冗談だった。
744:気付いたら名無しだった
>>728 まあ、酒飲めば『死ね』とかは普通に言うしな
729:気付いたら名無しだった
とりあえずこんな感じで、ワイはずっと溜めていたフラストレーションを吐き出すように、様々な職場で出会った最低なヤツらの話をA子にしていった。
たとえば、自分は仕事中でも遊びまくっているくせに、他の作業者がちょっとふざけただけで激怒し、理不尽な説教を繰り返していたM波のこと。
自分のミスを関係ない人になすり付けるN下のこと。
ターゲットを決めたら、ネチネチとモラハラを繰り返し、何人もの派遣社員を退職へ追い込んだT野口のこと。
女性に対して日常的にセクハラを繰り返していて、それを咎めた男には、尋常じゃない嫌がらせをしていたI藤のこと。
優しいフリをしておきながら、気に入らない人の悪い噂を広め、精神的に追い詰めていたA場のこと。
頭の悪い人を見付けては、詐欺に近いことをして金を奪っていたY田のこと。
これまでワイは、本当に最低な上司達を何人も目にしてきた。
731:気付いたら名無しだった
そういうヤツらって、どこの職場にでもいるよな?
819:気付いたら名無しだった
>>731 ホント、何でそういうクズに限って上の立場になってるのか不思議だわ
734:気付いたら名無しだった
幸いだったのは、ワイ自身は怖い容貌をしてるお陰なのか、それほど酷い目には遭ってこなかったということだ。
性格の悪い上司の被害に遭うのは、ほとんどがおとなしいタイプだったように思える。
781:気付いたら名無しだった
>>734 だろうな
831:気付いたら名無しだった
>>743 文句を言わない従順なヤツほど被害者になるのはしゃーない
740:気付いたら名無しだった
A子に色々愚痴ってたら、いつの間にかワイは寝てたらしい。
しかも愚痴ったことでストレスが発散できたお陰なのか、目覚めたあと、頭がもの凄くスッキリしていた。
壁掛け時計を確認すると、朝の7時だった。
明け方近くまでお酒を飲みながらA子と話をしていたのに、こんなにも早く目覚めてしまったのが少し意外だった。
741:気付いたら名無しだった
酒が入っていたせいか、もの凄い尿意がした。
体を起こしてトイレに向かう途中にも思ったけど、やっぱり体調がいい。
年齢のせいもあってお酒を飲んだ次の日には胃がもたれることも多かったけど、逆にお腹が減っていたくらいだった。
743:気付いたら名無しだった
鏡を覗くと、少し髭が伸びてて、いつにも増して凶悪そうな顔になっていた。
面倒だけど髭を剃らなきゃならないと思って、トイレが終わってからスーツケースに入れておいた電気シェーバーを取り出そうとした。
ベッドの下に隠しておいたスーツケースに手を伸ばす。
その時何故か、ヌルッとした感触がした。
不思議に思いながらも、大して気にせずスーツケースを引き寄せた。
次の瞬間、ワイは両眼を見開いた。
たぶん、数秒間はまばたきを忘れて固まっていたと思う。
746:気付いたら名無しだった
どうしたんだ?
748:気付いたら名無しだった
スーツケースの上に、大量の液体が付着していたんだ。
原因となったものが、上に載っていた。ワイのお気に入りだったポロシャツだ。
本来は白い生地のそれが、半分以上赤黒く染まっていた。しかも微かに生臭い。
「――え?」
ワイは一瞬、実際に見ているものを判別できなかった。より正確にいえば、状況を認識することを、脳が拒絶していた。
一度目を閉じて、深呼吸をしてから改めて現状を確認する。
ポロシャツを染めている赤黒い液体は、少し乾き始めていた。
ワイはいったい、いつの間にポロシャツをこんな風にしてしまったのか?
まったく覚えがない。
749:気付いたら名無しだった
どういうことや?
750:気付いたら名無しだった
イッチ、とうとう誰かを殺ったのか?
752:気付いたら名無しだった
まさかA子を……
755:気付いたら名無しだった
>>752
イッチがあの石戸谷洋平だとしたら、A子は最終的にイッチに誘拐されて、現在も行方不明中のはずだ。
758:気付いたら名無しだった
ワイはかなり困惑していた。
そもそもポロシャツに付いてるこれは、本当に血なのかという疑問が浮かんだ。
色や質感、臭いから、絵の具やインクじゃないのはわかる。
でも本当に血だとしたら、いったい何の血なのか?
人なのか? それとも動物なのか?
どちらにしても、これだけの量を浴びるというのは、絶対に普通の状況ではなかったはずだ。
しかし何故か、ポロシャツがこんな風になった時のことをワイ自身は覚えていない。
どんなに記憶を呼び起こそうとしても、断片的な映像すら浮かんでこない。
その時、コンコンコン………と部屋のドアをノックする音が響いた。
759:気付いたら名無しだった
ワイは思わず体を強張らせた。無意識に呼吸も止めていた。
コンコン……
もう一度ノックされた。
慌ててポロシャツから手を離し、スーツケースごとベッドの下へ滑り込ますように隠した。
それから「はい、ちょっと待って下さい」と震えそうになる声で言って、急いで手を洗った。
760:気付いたら名無しだった
備え付けのタオルで水気を拭きながら、ドアスコープを覗く。
そこには見知った顔があった。A子だ。
不自然な様子に気付かれるわけにはいかない。
ワイは必死に何でもない風を装いながらドアを開けた。
「おはよう、ワイくん」
挨拶をされたので、ワイも同じ言葉を返した。
するとA子が訝しむように目を細めた。
「あれ? ワイくん、顔色が悪いよ。大丈夫?」
「え? ああ……大丈夫だ」
とりあえずワイは適当にうなずいておいた。
「てか、何か部屋の中が生臭いような気がする……」
「あ……汗をかいたから、体臭だと思う」
「ふ~ん……」
762:気付いたら名無しだった
A子は首を傾げていたけれど、あまり気にしているわけではないようだった。
「ところでワイくんさ、昨日は1人で、どこに行ってたの?」
「――え?」
ワイには、その質問の意味がわからなかった。
「え……と、どういうこと?」
「だから、昨日、1人でどこに行ってたの? って訊いてるんだけど」
呆れ気味に言い直されても困ってしまう。
夜に厚木市役所前の公園でA子と出会ってからは、ずっとA子と一緒にいたはずだ。
763:気付いたら名無しだった
だからどう返せばいいものか悩んでいると、「1日中どこかに出かけてたみたいだから、もうワイくんがホテルに戻って来ないんじゃないかと思って、少し心配してたんだよ」とA子は続けた。
「どこかに出かけてた? 僕が?」
「うん。……違うの? だって昨日、何回ドアをノックしても、ワイくん、部屋から出て来てくれなかったんだけど」
765:気付いたら名無しだった
何やこの展開?
766:気付いたら名無しだった
イッチ、ひょっとして記憶飛んでるんか?
768:気付いたら名無しだった
ワイは慌てて机の上にあったスマホを手に取った。ロック画面に表示されている日付を確認する。5月3日だった。
前日――5月2日の記憶が丸々抜け落ちていることを知って、ワイは愕然とした。
「ねえ、やっぱり変な臭いするよ」
A子が眉間にシワを刻んだ顔で部屋の中を見回している。
このままだとポロシャツが見つかってしまいそうな嫌な予感がした。だからワイは慌てて彼女が部屋から出ていくように肩を押した。
「そんな汗臭いかな? 急いでシャワーを浴びるからさ。ちょっと外に出てて欲しいんだけど」
「え? まあ、別にいいけど」
ワイの強引な態度に少し戸惑うような素振りは見せたものの、A子は逆らうことなく通路へ出てくれた。
「ワイくん、シャワー浴び終えたら、一緒に朝ご飯食べに行こ」
「わかった」
「じゃあ、わたしの部屋に呼びに来てね」
ワイは何度か小さくうなずきながらドアを閉じた。
769:気付いたら名無しだった
A子の顔が見えなくなるのと同時に、ベッドに向き直る。体がガクガクと震えていた。
まずはあのポロシャツを何とかしなければならない。他にもスーツケースの中や、私物が変なことになっていないかをチェックする必要もありそうだ。
もう一度ベッドの下から、血の染み込んだポロシャツとスーツケースを取り出した。
先日、A子がアルコールやお菓子を購入してきた時のレジ袋が二枚ほどあったので、二重にした上でポロシャツを入れた。勿論、血が回りに飛び散らないように細心の注意を払っている。
それからウェットティッシュやポケットティッシュを使い、スーツケースの赤い汚れを拭った。
770:気付いたら名無しだった
幸いにも絨毯には血が零れ落ちていなかった。ただ、油断をするわけにはいかない。災害時用のために購入しておいた小型LEDライトで、念入りに確認する。すると数滴だったけれど、血痕と思われるものがあった。
狭いベッドの中に頭を突っ込み、ウェットティッシュで何度も何度も擦り取った。
こんな意味不明な状況でありながら、ワイは少しだけホッとしていた。血が付いていた私物がポロシャツだけだったからだ。
あくまでもパッと見た感じではあったけど、他に怪しい汚れの付いているものはない。
絨毯の汚れも何とか目視だけじゃわからなくなったから、次に体の汚れを洗い流すためにシャワーを浴びた。
すると頭を洗っている途中で、ふと、スマホを見れば昨日の自分の行動が、ある程度はわかるんじゃないかという可能性が浮かんだ。
たとえばSNSで呟いていることだったり、ネットの閲覧履歴だったり。
771:気付いたら名無しだった
すぐに確かめてみようと、急いで体中に付いていた泡を流し落とした。
一応、バスタオルは使ったけれど、体を拭くのは適当だった。髪の毛から雫が落ちた状態のままスマホを手に取り、さっそくいつも使用しているSNSを開いてみる。
すると普段から使っているのとは違うアカウントが表示されていた。
ワイには2つのアカウントがあったけれど、そのどちらでもない。
そのアカウント名は“クライ”という見覚えのないものだった。アイコンは指定されておらず、初期設定のままだった。
そのアカウントでログインしてみる。
登録情報が端末かOSのどっちかに記録されていたお陰で、指紋認証だけでパスワードは要求されなかった。
bioの部分には、何も紹介文が書かれていなかった。
使用し始めたのは今月からとなっている。ワイとしてはまったく覚えていないのだけれど、たぶん作ったのは昨日だと思われた。
呟いている回数は、16回。まだあまり多くはない。
773:気付いたら名無しだった
最初の呟き確認してみる。
【――このアカウントは、ずっと世の中の不条理に対して我慢し続けてきた私が、怒りを発散する目的で作成しました】
やっぱりこんなことを書いた記憶はない。
外部の誰かがやっていることなのかもしれないという疑念も抱いたけど、何故か位置情報が添付されていて、その場所は現在地と同じになっていた。
つまりワイの使用しているこのスマホで呟いたってことだ。
状況的には“クライ”というアカウントはワイが作り、この書き込みはワイがしたのだとしか考えられなかった。
774:気付いたら名無しだった
二つ目以降の呟きは、どれもこれも悪意に塗れていた。
怨念とでも表現すればいいのだろうか。これまでの人生の恨み辛みを、全て社会や他人のせいにして、感情のままに書き殴ってる感じだな。
その中には、見逃すわけにはいかない文章もいくつか混ざっていた。
たとえば前日、午前10時18分の呟きだ。
【やっぱり私は、N島のことが許せません】という言葉から始まり、【普通にぶん殴るだけでは気が済まないので、今から直接会いに行って、タヒることにします】と続いていた。
775:気付いたら名無しだった
えっ? ひょっとしてポロシャツに付いてた血の相手って……
777:気付いたら名無しだった
イッチ、N島を殺したんか?
779:気付いたら名無しだった
どう考えても作った覚えのないアカウントで、元上司であるN島への殺害予告のような呟きをしている。
さらに他の呟きも確認していくと、URLだけを貼っているものがあった。
いったいどこにリンクしているのかを確かめるためにタップする。
飛んだ先はブログのようだった。真っ黒な画面に【復讐の部屋】という、いかにもなタイトルが表示されていた。
下の方に何人かの名前が記されてある。全て覚えている名前ばかりだった。
ワイがこれまでの人生で出会ってきた、ろくでもない上司達である。
その内の1人、N島の文字だけ色が違う。しかもアンダーバーがある。
別の場所へのリンクが貼られているらしい。
783:気付いたら名無しだった
ワイは何だか嫌な予感がした。胃の奥が握り潰されるような感じだった。
できればこの先は見たくない。それでも必死に逃げ出したい心を奮い立たせ、“N島”の文字をタップした。
表示されたのは、何枚もの画像だった。
映っている人物の顔を、ワイは知っていた。
直近の派遣先だった工場で、自分の上司だったあのN島だ。
不自然なまでに全ての表情が同じだった。
力なく半開きになった目に、だらしなく開いた口。
さらには血の混じったヨダレが、顎を伝っている。
784:気付いたら名無しだった
どうしてN島はこんな顔をしているのか?
理由は考えなくてもわかる。明らかに死んだあとに撮影されたものだったからだ。
ワイは思わず笑っていた。頭が混乱して、どうすればいいのかがわからなかった。
973:気付いたら名無しだった
>>784 仮に殺してなくても、死体画像見て笑ってたらアウトだと思うで
788:気付いたら名無しだった
イッチ、完全にヤバい人やんww
790:気付いたら名無しだった
特定の感情がある一定以上になると笑ってしまう人っているらしいな。ワイが正にそれだったようだ。
一瞬、この画像は何らかの編集ソフトやアプリで加工したものなんじゃないかという疑念が浮かんだ。
しかし、だとしたらあまりにもリアルだった。
よほどのスキル、それこそ映像編集などを仕事にしている人でもなければ、不可能なレベルだ。
じゃあ、仮にこの画像が全て本物だとすれば?
ワイは咄嗟にブラウザで別のタブを立ち上げた。
殺人事件について検索をした。
細かく絞っていないせいもあって、あまりにもヒットしたサイトの数が多い。
そこでN島の自宅がある“八王子”と、“2020年”“5月”というワードを追加した。
大手のニュースサイトが次々と表示されていく。その中に、今日の日付になっているものがあった。
791:気付いたら名無しだった
試しに一つを開いてみる。するとそこにはこんな記事が書かれてあった。
【昨夜、東京都八王子市にあるアパートの一室で、男性の遺体が発見された。被害者はこの部屋の住人の男性と見られている。
刃物によって胸などを十数カ所刺されていたものの、金銭などが盗まれていなかったことから、何者かによる怨恨による殺人の可能性が高いと、警察は捜査を進めている】
短い記事だった。概要だけで、細かいことまでは書かれていない。
それでも記事を読み終えたワイの中で、怖ろしい可能性が急激に肥大化していった。
それは――N島を殺したのは、やっぱりワイなんじゃないだろうか? という、絶対に当たっていてはいけないものだった。
792:気付いたら名無しだった
まだ多くの疑問が残っている。
もしも本当にワイが殺したとして、あんなにも血の付いたポロシャツを着て、この部屋まで何事もなく戻って来られるものなのだろうか?
誰かが目撃したら、絶対に不審に思うはずだ。ホテルに、いや、自分の部屋にたどり着く以前に、通報されていなきゃ不自然だ。
793:気付いたら名無しだった
たしかにそうだな
795:気付いたら名無しだった
むしろイッチの見た目が怖くて、誰も通報できなかったとか?
799:気付いたら名無しだった
ワイが昨日の記憶を本当に失っているのだとして、何か行動を推測できるものはないかと、財布の中身を確認した。すると1万円札が2枚と、千円札が6枚入っていた。
一昨日――5月1日――の時点で、ワイの所持金は328円だったはずなのに……。
802:気付いたら名無しだった
さらに紙幣の間に、レシートが挟まってた。
何が書かれてあったのかを確認してみる。ホームセンターのものだ。購入したのは、
――包丁?
803:気付いたら名無しだった
アウト―――――!!
911:気付いたら名無しだった
>>イッチ、それ、間違いなく殺ってますわww
805:気付いたら名無しだった
改めてスーツケースの中も含めて、所持品を確認してみる。
だけど包丁はどこにも入っていない。
どんどん嫌な予感が強くなる。
ワイはガクブルと震えてた。喉もカラカラだった。
その時普段使用しているモバイルSuicaだと、使用履歴を確認することが可能だったことを思い出した。
さっそくTouch IDでモバイルSuicaを開く。
最後に使用したのは5月2日。つまり昨日だ。
どこで使用したのか詳細を見ていく。
履歴によると、まず、海老名駅から小田急線を利用して新宿駅へ向かい、そこでJRに乗り換え、八王子駅で降りている。それから8時間後、今度は北八王子駅から入り、新宿で乗り換え、また海老名駅まで戻って来ていた。
807:気付いたら名無しだった
どうやらワイは昨日、本当に八王子まで行っていたらしい。
ただ、全然覚えていない。
しかし履歴を見る限りでは、このスマホに入ってるモバイルSuicaを使って、八王子まで行っていたのは間違いない。
これはいったいどういうことなのか?
自分の頭を何度か殴ってみた。けれどやっぱり何も思い出せない。記憶の断片みたいなものすら浮かんでこない。
その時ドアがノックされた。
「ワイくん!」
A子だ。
808:気付いたら名無しだった
正直、今は誰かの相手をしていられるような精神状態ではなかった。
だけどこのまま無視をすると余計な心配をかけたり、変な疑いを持たれてしまうかもしれない。
ワイは仕方がなく「何だ?」とドア越しに尋ねた。
「もう8時だよ。さすがにシャワー浴び終わったんじゃないの? そろそろご飯に行きたいんだけど」
正直、1人で勝手に行けばいいと思った。
だけどさっき一緒に行くと約束をしていたし、反故にすることで勘ぐられたら厄介だ。
本当は乗り気ではなかったけれど、誤魔化すためにも「ちょっと待ってて」とワイは急いで適当な服を着てから、ドアを開けた。
809:気付いたら名無しだった
悪い。今日はここまでだ。
明日はちょっと出かけるから、続きが書けるかどうかはわからん。
いいなと思ったら応援しよう!
創作活動にもっと集中していくための応援、どうぞよろしくお願いいたします😌💦