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【某まとめサイトの管理人による考察②】

 私は今回、コロナ禍連続殺人事件の容疑者として全国で指名手配されている石戸谷洋平が立てたと思われるスレッドをまとめる作業をするにあたり、興味深い書き込みが複数存在しているという事実に気が付いた。

 それらの書き込みは、スレッドの流れを完全に無視しており、しかもやたらと長い文章であるため、便乗した誰かの創作だと他の者達には相手にされていないものばかりだったが、私はこれらの文章を書いているのが、逆瀬川茜本人なのではないかと疑っている。

 根拠はない。
 しかしこれらの書き込みがもしも逆瀬川茜だったとしたら、石戸谷洋平と思われる人物の書き込み内容を補足するうえで重要なものとなり得ることから、別途まとめておこうと思う。

 ただしまったく脈絡のないタイミングでの書き込みであり、しかも不定期なのでIDが参考にならなず、全てが同一人物によるものであるという確証がないことだけは念頭に置いておいて欲しい。
 あくまでも文章の内容だけが私の判断基準である。
 
 さて、ではいったい誰がこのような文章をスレッド内に鏤めたのか?

 仮に書き込まれている内容が全て真実だとするのならば、今回のコロナ禍連続殺人事件は、世間一般の人達が想像している以上に闇が深いということになるのだと私は考えている。



――スレッド内に鏤められていた意味深な書き込み その①――

「お母さん……お腹が痛いよう……」

 わたしが幼い頃の記憶を思い出そうとすると、必ずと言ってもいいくらい、トイレの便座に座っている映像が蘇ってくる。
 しかも決まってわたしは体を前に曲げて、苦痛に耐えている。
 口の周りは嘔吐したことで汚れ、床は不自然な匂いを放つ吐瀉物で濡れている。
 母親は側にいて背中を優しくさすってくれているけれど、いつも口角は上がっていた。
 まるでわたしが苦しむのを見て楽しんでいるかのように……。
 母親の口から出てくる言葉は、いつも決まっていた。

「大丈夫よ娘ちゃん。ちゃんとお母さんにウソをついたことを謝れば、すぐに痛みは消えるから」

 わたしは苦痛から逃れたくて、何度も何度も母親に「ごめなんなさい」と繰り返した。
「だから助けて」と涙ながらに懇願した。

「娘ちゃん、二度とお母さんにウソはつかないって誓う?」

「誓い……ます」

「絶対に?」

「はい」

「じゃあ、絶対にもう、お母さんにウソはつかないってここで言って」

「絶対に……もう、お母さんにウソはつきません」

 言い終えるのと同時に、またしてもわたしは口から吐瀉物をまき散らした。

 全身が脂汗で覆われ、意識も朦朧としている。
 当時のわたしはまだ3歳だ。
 普通の母親なら、救急車を呼んだりしなければならないはずだ。
 しかし母親にそんなことをする様子はない。
 ただただ、わたしの背中をさすりながら耳元で囁き続けている。

「娘ちゃんが本当にもうウソをつかないのなら、お腹の痛みなんてすぐに治まるわ。だからたとえ口に出して言えなくても、ちゃんと頭の中では反省の言葉を繰り返すのよ」

 こんなことが何度あったのかは覚えていない。
 ただ、母親にウソがバレる度に、普通にお腹を壊しただけでは絶対にあり得ない、それこそ死んでしまうんじゃないかという苦しみに、わたしは襲われ続けた。

 他にも、母親に隠しごとをした時には、急に何も考えられない状態になったりもした。

 何をどうしたいのか?
 自分がどうすればいいのか?

 そんな単純な思考をすることすらできなくなるのだ。
 自分自身の存在さえ曖昧になる、暗闇の中に体が溶けていくような恐怖が、心の奥底からジワリジワリと滲み出してくる。
 そんな状態になったわたしに、母親はいつも優しく微笑みかけてきていた。

「お母さんに隠しごとをすると、どんどん頭がバカになっていくのよ。あんまり繰り返すと、その内何も考えられなくなっちゃうかもね。
 だから娘ちゃんは、絶対、お母さんに隠しごとはしちゃダメなの。
 ちゃんと反省しないさいよ。そうすればいずれもとに戻っていくわ」

 他にもほんの些細なことで逆らった時には、いきなり全身から力が抜けてしまったり、オシッコが数分間隔で止まらなくなったり、もの凄く眠いのに全然眠られなくなったり、体中が痒くなったり、立っていられないくらいの目眩に襲われたり、口が閉じられなくなったり、わたしは本当に様々な苦痛を味わった。
 それら全てが“天罰”なのだと教えられた。

『苦しみたくないのなら、絶対に母親に逆らってはいけない』
『都合の悪いことでも、母親に秘密にしようとしてはいけない』
『母親から言われたことは、絶対に守らなければならない』
『常に母親の幸せを願わなければならない』
『自分の幸せよりも、母親を優先して行動をしなければならない』
『世界の中で、母親が一番大切な存在だ』
『わたしは母親を幸せにするために生きることを許されているのだ』

 もしかしたら普通の子供だったら、こういった教えを真に受けていたのだろうか?
 11歳になった現在、わたしは時折そんなことを考える。

 自慢するわけではないけれど、わたしは普通の子供よりも頭がよかった。それは勉強ができるといった単純なものではない。
 必要な知識を集め、正解を導き出すための論理的思考能力には自信があった。
 だから大好きだったあの人を殺した7歳の時点で、すでに母親が自分に何をしていたのかは知っていた。
 薬物や毒物を使用され、虐待と呼ばれる行為によって洗脳されているってことは、とっくに理解できていた。

 それでも母親にすり込まれた恐怖や強迫観念からは抜け出せなかった。
 ちょっとでも逆らおうとすると、途轍もない苦痛を再び味わうのではないかという、言いようのない恐怖に襲われる。
 幼少期からの洗脳というのは、本当に怖ろしい。
 体の随まで染み込んでしまっていて、もう、自分の意思ではどうすることもできないのだから。

 以前、意を決して絶対にバレないウソをついてみたことがある。
 勿論、バレていないから、下剤や洗剤などは飲まされていない。
 だけどその日、わたしは強烈な腹痛に襲われた。

 ――何も悪い物は口にしていないのに?!

 脳が勝手に苦しむような指令をお腹に出したのだとしか思えない現象だった。
 病院に行った。でも原因不明だった。薬を飲んでも治らなかった。どうしようもできなくなって、泣きながらウソをついたことを母親に告白した。狂ったように謝り続けた。
 そしたら不思議と体の苦痛は治まっていった。

 わたしには自分が母親に洗脳されているという認識がある。
 なのに抜け出せない。逆らえない。
 そういう事実を強烈に認識させられて、わたしは自分の置かれている状況に絶望した。
 もう、一生母親からは逃れられないと覚ったからだ。
 幼少期から繰り返された洗脳が、自分の自由な未来を完全に奪ってしまっていた。

 印象深い母親の言葉がある。
 あれは10歳の誕生日だった。
 母親としては、たぶん大して考えたわけでもなく、ぽろりと漏らしただけなのだろう。

『娘ちゃんって、本気でお母さんに酷いことをしたら、たぶん自殺しちゃうわね。だって罪悪感に堪えられないはずだから』

 驚いて母親の顔を見ると、酷薄な笑みを浮かべていた。
 わたしはこの時、途轍もない戦慄を覚えた。
 どんなに頭の中を掘り起こしてみても、自殺をするようなそんな洗脳をされていた記憶は出てこない。
 ただ、母親の顔はどう見ても確信している。
 わたしが覚えていないだけで、そういった強迫観念を植え付けられているのは間違いなかった。

 もう、わたしには逃げ場がない。
 母親の指示に従い、母親の望むことをし、母親のために一生を費やす。それ以外の選択をすることなど、おそらくわたしには不可能なのだ。



――スレッド内に鏤められていた意味深な書き込み その②――

 わたしはベッドから立ち上がり、廊下へ出ようと歩き出した。その途中で全身鏡に映る自分の姿が見えた。表情が死んでいる。でも周りの人達はきっとわからない。自分だと漂う空虚さがハッキリと感じ取れるのに……。
 これが見慣れた自分の姿だった。

 ワイくんと一緒にいられた数日間の、生き生きとしていた自分の方が例外なのだ。
 村井教授と、ワイくんだけが、本当のわたしを引き出してくれた。
 だけどワイくんは現在、コロナ禍連続殺人事件の容疑者として警察に追われている。
 村井教授の方は、すでに死んでしまった。
 どちらもわたしのせいだ。
 わたしと関わったせいで、2人とも不幸な目に遭ってしまったのだ。

 まだ7歳だった頃、わたしは母親がお世話になっていた村井教授を紹介された。
 とっても優しかったけど、ふとした瞬間にわたしの演技を見抜いたから、最初はちょっと嫌な人だと思っていた。
 だけど今にして思えば、彼と一緒にいる時間は不思議と心が安らいでいたような気がする。

 11歳になった現在ならわかる。
 わたしはたぶん、村井教授を信頼できると判断していたのだ。
 そしてハッキリと確信できたことがある。
 それは母親の異常性だ。
 母親はわたしの意思など関係なく、全てのことを勝手に決める。
 しかも周りには、わたしが望んでそうしたのだと言いふらす。

 村井教授との出会いがきっかけとなり、わたしは心理学や精神医学に興味を持った。そのお陰で、わたしは母親のことが本気で怖ろしくなり、同時に嫌悪するようにもなった。
 でも、わたしは母親のことを絶対に批判してはいけない。否定してはならない。
 むしろ母親の言った通りの自分を演じ続けなければならない。
 そうしないと酷い目に遭ってしまうのだから……。

 そもそもわたしの中に、母親に逆らうという選択肢はない。
 ちょっと頭に浮かぶくらないなら大丈夫だけど、じっくり考えるのはダメだ。
 母親の機嫌を損ねることだけは絶対にできない。
 だって母親がほんの少しでも不機嫌にしていると、わたしは怖くて仕方がないのだから。
 母親の異常性については、絶対に指摘してはいけない。
 誰かが冗談でも妙な疑いを持っているような発言をすると、母親は相手を本気で憎む。殺そうとする。
 私に『アイツを殺して欲しい』と、断れない迫力でお願いしてくる。

 だからこそわたしは、父親のことを愚かだと思う。
 夫婦なのに母親の異常性に気付かずに過ごしていたのだから。
 そればかりか、絶対にやってはいけない行為を――母親の異常性を指摘するだなんて愚かなことを――してしまったのだから。

 ギイという音を鳴らしながらドアを開けて廊下に出る。天然の木材を使用した床や壁が、大きな窓から差す陽光を受けて輝いている中を歩き、半円形の階段を下りていく。
 広いリビングの窓の側で、安楽椅子に揺られながら母親がスマホをイジっていた。

「あら、娘ちゃ~ん」

 気持ちの悪い猫なで声を発しながらわたしに歩み寄って来る。どうやら機嫌がいいらしい。
 わたしは母親が望んでいるであろう微笑を返した。するといきなりギュッと抱き締められた。
 過剰なスキンシップに吐き気を覚える。でも不機嫌でいられるよりはマシなので、為すがままに体をベタベタ触られておく。

「娘ちゃん、今回は村井教授の時よりも、ずっと上手くやれたみたいね」

「ええ。勿論です。お母さんが望んだことをわたしが失敗するわけにはいきませんから」

 わたしが自嘲していることに、母親は全然気付いていない。

「本当に可愛い娘だわ」

 さらに強く抱き締められる。
 心底不快な感触だった。でもわたしはそのことを面には出せない。母親が唐突に怒り出す可能性があることは、怖くて実行に移せない。
 自分でもこういった思考回路が、洗脳による結果だとわかっている。
 なのにどうしても抜け出せないのだから仕方がない。

「娘ちゃんは今回、本当にいい羊さんを見付けてくれたみたいね」

 耳元に囁かれ、わたしはゾワッという不快感に鳥肌を立たせてしまった。

「娘ちゃんの見付けたワイくんって、就職氷河期世代で、ずっと非正規雇用だった人なんでしょう? これだけでもう、世の中に恨みがあるはずだって、ニュースを見た多くの人達は勝手に想像してくれるわね」

 わたしはワイくんの姿を思い出すと、少しだけ哀しくなった。
 社会にも他人にも酷い目に遭わされながら、それでも根の部分で優しさを失わなかったワイくんは、凶悪な見た目だけど、本当の意味で美しかったような気がする。
 むしろ美容外科手術などによって、外見的には圧倒的に美しいはずの母親の方が、見ていて気持ち悪かった。

 しかし母親は、わたしがそんな風に考えていることになどまったく気付かず、楽しそうに言葉を続けた。

「就職氷河期世代の非正規雇用者は、世間一般的には犯罪者の予備軍として扱われているものね。
 川崎で児童に包丁を振り回した人も、就職氷河期世代。
 国家公務員を引退した人が、このままだととんでもない犯罪を犯すんじゃないかと心配して、前もって殺害した息子も、同じく就職氷河期世代。
 しかも今回、娘ちゃんが見付けた羊さんは、あの凶悪そうな見た目ですものね。
 お母さん、娘ちゃんを保護した警察から写真を見せられて、思わず悲鳴をあげっちゃったのよ」

 そのことはわたしも知っている。
 離れた部屋で女性の警官に抱き締められていた時に、大袈裟なまでの金切り声が響いてきていたからだ。

「しかも追い詰められた羊さん、娘ちゃんを人質にして逃げ出そうとしたんでしょ? 
 わたし、その話を聞いた時にちょっと怖くなっちゃったわ。もしかしたら大切な娘ちゃんが、殺されちゃってた可能性もあったかもしれないって……」

 もしかしたらだけど、私が殺されていた方が、母親にとっては都合がよかったのかもしれない。
 だってわたしが死んでいれば、もう面倒な子育てをする必要がなくなるのだから。
 それに(表面上は)仲睦まじかった夫だけではなく、(あくまでも世間体的に)大切に育てていた一人娘も失えば、母親に同情する世間の声も大きくなったはずだから。

 仮にわたしが殺されていたら、今頃は悲劇のヒロインとして哀しんでいるフリをしながら、実際はその快感に酔いしれていたはずだ。

「それで――なんだけどね」

 急に母親の声のトーンが低くなる。凍て付く眼差しでわたしを射抜いてくる。こういう時は要注意だということを、わたしはこれまでの経験から学んでいた。

「娘ちゃんが羊さんとして選んだワイくんって人は、実際はどんな感じの人だったのかしら?」

 わたしは一度ツバを飲み込んだ。
 母親の望まない回答をするわけにはいかないということはわかっている。だけど洗脳による強迫観念によって、ウソをつくこともできない。
 緊張から背筋を冷や汗が伝っていく。

 わたしは一度深呼吸で心を落ち着け、絶対にウソをつくことができないように洗脳されている自分なりに、母親の望む答えを組み立てていった。

「ワイくんは、頭で考えていることを口にするのがとても下手でした」

「口下手ってこと? いいわねぇ~」

 母親が楽しそうにうなずく。

「弁が立つ人だと、逮捕されたあとで周りが真実に気付いちゃうかもしれないものね。そこは重要だわ。まずは合格よ。娘ちゃん」

「それからワイくんは、警察や報道番組のコメンテーターが推測している通り、社会に対してかなりの不満があったのは間違いありません。
 実際、彼の仕業に見せかけてわたしが殺した9人には、本当に酷い目に遭わされていたという内容の発言をしています」

「うんうん」

「交流のある友達もほとんどいませんでした。むしろ自分の容姿にコンプレックスがあったからなのか、人間関係をあえて構築しないようにしていたみたいです」

「それはとっても好都合ね!」

 母親はワイくんを小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
 このタイミングなら、少しくらいなら不都合な真実を口にしても大丈夫かもしれない。
 そう判断したわたしは、少し緊張しながら「だけど頭は悪くありませんでした」と続けた。
 途端に母親の目つきが鋭くなる。

「バカじゃなかったってこと?」

 ピクリと細い腕の筋が動くのが見えた。不機嫌になりかけている時のサインだ。
 身が竦みそうになる。
 でも本当に竦ませるわけにはいかない。わたしが怖がっているとわかるようなリアクションをするだけで、母親は急に激昂することだってあるのだから。

「娘ちゃんには、なるべくバカな人を選ぶように言っておいたわよね? 警察に捕まったあとのことを考えて」

「いえ、でも、あくまでもワイくんの頭が悪くないというのはわたしの主観です。実際のところはわかりません」

 慌ててフォローをするように付け加える。
 しばらく緊張感を伴う時間が流れた。
 やがて母親が深く息を吐き出す。
 一気に空気が柔らかさを取り戻したと感じたのは、母親の口角が上がっていたからだ。

「まあ、娘ちゃんを人質にして逃げ出したことで、もうどんな言い逃れをしても説得力はないでしょうし、別に少しくらい頭がよくたって、現状を覆すことは不可能よね」

 腕を組んで考え込むような仕草をする。

「娘ちゃん、羊さんがいくら言い訳をしても無駄なように、ちゃんと細工はしてあるのよね?」

「勿論です」

 わたしは即答する。

「殺害方法は基本的に全員同じにしてあります。他にも全ての現場に、ワイくんの毛髪と指紋を残しています。
 逆にわたしの髪の毛は落とさないように、細心の注意を払いました。
 本当のターゲットだったお父さんを包丁で刺した時にも、ワイくんの使用済みの靴下を手袋代わりにしたので、わたしの指紋は絶対に付いていません」

「まあ、羊さんは口下手なんだし、就職氷河期世代の非正規雇用者っていう、社会的にも信用のない立場だし、仮に頭がよくたって、どんなことを言ったって、説得力はないわね」

 納得するように母親はうなずき「どうやら今回も、娘ちゃんが犯人だと疑われずに済みそうで、一安心だわ」と微笑んだ。

 バカバカしい。
 どうせわたしが真犯人だとバレても、母親にとってそこまで痛手とはならないはずなのに……。

 わたしはまだ11歳だ。
 法律上、殺人を犯しても刑罰を与えられない触法少年だ。
 それにわたしが犯人だとバレた時の言い訳だって、母親の命令で予め用意している。
 どっちに転んでも、母親にだけは危害が及ばない。
 母親だけは、世間からも同情される。

 母親が再びわたしを抱き締めてくる。それから耳元へ囁くように言った。

「……もしも娘ちゃんが事情聴取をされたら、カンの鋭い人なら何かに気が付いちゃうかもしれないわよね。
 だって娘ちゃんって、ウソをつけない真面目な性格なんだもの。
 だからしばらくの間は、精神的ショックが大きいってことにして、警察から事情を聞かれないようにしておいてあげるわ」

「はい。ありがとうございます」

「絶対にマスメディアからのインタビューも受けちゃダメよ。
 SNSばっかりやってる人には、発言の矛盾を過剰に気にするようなクズが多いんだから」

「はい。わかっています」

「わたしへの取材でお家に記者が来てる時は、ずっと部屋に閉じ籠もってなさい」

「はい。そのようにします」

「しばらくは学校にも行っちゃダメよ。緊急事態宣言が解除されても、精神的な苦痛を理由にお家からは出ないこと」

「はい」

「外からお家を撮影される可能性もあるから、窓の側にも行っちゃダメよ」

「はい。気を付けます」

「それから――」

 ……はい。

 …………はい。

 母親が指示を出している間、わたしは機械的な相槌を繰り返す以外のことが許されていない。

 これはわたしが小学生になる以前から続く、絶対のルールだった。


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