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【ホラー小説?】もしかしたらワイって、ちょっとおかしくなってるかもしれんけど、どう思う? その14

1:気付いたら名無しだった
 悪い。
 12の最後と13の最初が汚染されてたから、何となく嫌になって、別のスレを立てさせてもらったわ。
 一応、2スレ目以降を立ててくれた人達に敬意を表して、お決まりの文言とかもコピペさせてもらう。
 ワイの書き込みの続きはその後で。

10:気付いたら名無しだった
 >>1 立て乙

11:気付いたら名無しだった
 >>1 本人か?

12:気付いたら名無しだった
 どうせ今回もニセモノだろ

14:気付いたら名無しだった
 >>11 >>12 ニセモノも本人って名乗ってるから、ワイが本人って言っても信憑性低いだろ。
 そういうのは面倒だから、内容で勝手に判断してくれ。
 さて、んじゃさっそく始めさせてもらうわ。

15:気付いたら名無しだった
 その日、ワイは久しぶりに外に出ていた。
 天気は生憎の雨だったけど、長い間ずっと家の中にいた影響なのか、鬱屈とした気分が少しだけ和らいだような気がしていた。
 それに窓から動く景色を眺めるのが、少しだけ楽しかった。

17:気付いたら名無しだった
 動く景色? 窓から眺めてるってことは、イッチ、電車にでも乗ってたのか?

21:気付いたら名無しだった
 >>17 説明忘れてたな。
 この時ワイは、K太の運転する車の後部座席に座っていた。
 時期的には、1回目の緊急事態宣言が解除されてから、1ヶ月くらいが過ぎた頃だったかな。
 梅雨の時期だったから、ムシムシ暑かったのを覚えてる。

 しかもワイは連続殺人事件の容疑者として指名手配されている身だったから、迂闊に顔をさらすわけにはいかない。
 他人の目を気にして、車内だったけど、ずっと地味なレインコートのフードを被ってた。

 当然のようにマスクも使用してたし、よほどでなければワイの正体に気付く人なんていなかったはずだ。
 ちなみに横にいるミイミイも同じような格好だった。

24:気付いたら名無しだった
 何でミイミイも一緒に怪しげな格好してんの?

27:気付いたら名無しだった
 >>24 ミイミイの場合は紫外線が苦手みたいでな。コロナ禍とか関係なく、昔から外に出る時は、なるべく紫外線を防ぐような格好をしてたらしい。
 サングラスも使用してるから、ワイよりも見た目の怪しさでは上だったかもしれない。

28:気付いたら名無しだった
 そんな怪しい2人がいたら、絶対職質されるだろw

30:気付いたら名無しだった
 >>28 それはワイも思ってた。
 でも車での移動だったし、別に気にしなくてもいいかなって……。
 ちなみにワイらが向かっていたのは、五反田だった。

31:気付いたら名無しだった委
 何故に五反田?

36:気付いたら名無しだった
 >>31 ちょうどこの日、ミイミイやK太とずっと話し合ってきた作戦を実行する予定だったんだ。

40:気付いたら名無しだった
 >>36 作戦?

41:気付いたら名無しだった
 イッチはいったい何をしようとしてたんだ?

49:気付いたら名無しだった
 >>41 一言で言うと、復讐だな。
 A子の母親とA子に対する、ワイとミイミイの復讐。
 まあ、詳しくはこれから書いていくけど。

51:気付いたら名無しだった
 復讐?

53:気付いたら名無しだった
 何か面白いことになってきたような……

55:気付いたら名無しだった
 現実にあったことなんだよな?
 てことは……

58:気付いたら名無しだった
 もしかしたら彩胡が逮捕されたことと関係してるのか?

149:気付いたら名無しだった
 >>58 彩胡の逮捕って、覚せい剤取締法違反とかじゃなかったっけ?
 イッチが関係してるとは思えないんだが

61:気付いたら名無しだった
「着いたぞ」

 K太が目的地からほんの少し離れている路肩に車を寄せて駐めた。
 比較的裕福な家庭の多い場所だったということもあって、物静かな雰囲気が漂っていた。

 長いこと最底辺で生きてきたワイにとっては、無縁の世界だったな。
 豪邸と言ってもいい家々が建ち並ぶ中、一際目立つ立派な豪邸が、斜め前に建っていた。
 K太の説明だと、どうやらこれがA子の自宅らしい。

64:気付いたら名無しだった
 これ、ひょっとしてイッチがA子を誘拐した時のエピソードか?

67:気付いたら名無しだった
 >>64 先にネタバレみたいになるけど、その通りだ。

68:気付いたら名無しだった
 A子の誘拐って、イッチだけで実行したんじゃなかったのか?

70:気付いたら名無しだった
 >>68 警察の発表だと、そうだったはずだけど……

77:気付いたら名無しだった
 >>70 確かに警察はワイ単独による犯行だと発表してたみたいだな。
 だけど実際は違う。
 ワイにはこの時、ミイミイとK太という2人の共犯者がいた。

80:気付いたら名無しだった
 これは完全に嘘松だな。共犯者がいたのなら、いくら何でも現場に証拠残ってるだろ

81:気付いたら名無しだった
 残念ながらこのイッチはニセモノですわww

85:気付いたら名無しだった
 ウソだと思うのならそれも自由だ。
 まあ、色々思うところはあるけど、いちいち反論してたら長くなるから、このまま続けていくぞ。

 車載の時計に目を向ける。
 16時を少し過ぎたところだった。
 A子の母親が帰宅すると聞いていた予定よりも、30分ほど早い。

86:気付いたら名無しだった
 K太が車のエンジンを止める。
 全員がシートベルトを外す。
 それからK太が、助手席に置いてあったちょっと大きめのハンディカメラを手に取った。
 ちなみにこのカメラは、今回の作戦のためだけに、わざわざネット通販で購入したものだった。

88:気付いたら名無しだった
 ハンディカメラ?
 何か撮影する予定だったのか?

90:気付いたら名無しだった
 スマホでよくね? ミイミイかK太か、誰か持ってるやろ?

93:気付いたら名無しだった
 この偽イッチ、60代とかじゃないよな? 
 スマホさえあれば、ハンディカメラなんていらんってこと、誰でもわかるやろw

94:気付いたら名無しだった
 何人か言ってるけど、撮影ならスマホで十分だってことくらい、ワイだってわからないわけないだろ。
 このカメラは撮影目的で用意したんじゃない。
 そもそも、電源すら入らないジャンク品だ。

96:気付いたら名無しだった
 >>94 何でわざわざガラクタなんか用意したんだ?

99:気付いたら名無しだった
 >>96 A子の母親と接触をする際、周りの目を誤魔化すためだ。
 報道関係者だって思われれば、通報とかされる確率が少しでも減るかなって思って。
 そんなわけでこのハンディカメラは、大きくてごつくて、テレビ局っぽいってだけで選んだものだった。
 実際、用意しておいてよかったと思う。
 詳しくはもうちょっと後で書くと思うけど……。

107:気付いたら名無しだった
 車の中でA子の母親が帰ってくるのを待っていると、隣にいたミイミイが「今の内にこれを渡しておく」とスマホを取り出した。

「これは?」

「ワイくん用に、プリペイド式のスマホを購入しておいた。あった方が便利だろ? 遠慮しないで使うといい」

 たしかにプリペイド式なら、所有者を割り出される心配はほとんどない。
 指名手配をされているワイとしてはありがたかった。でも、

「お金は大丈夫なのか?」

 プリペイド式についてあんまり詳しいわけじゃないけど、前もって必要な分の入金をしておかなければならなかったはずだ。

 だからワイは「いくら出せばいい?」と、ミイミイにお金を渡そうとした。

 手元には逃走資金として、カードローンとかから引き出しておいた80万円以上が残ってたからな。

 でもミイミイは、「お金ならわたしが支払うから心配するな」と面倒くさそうに言った。

「どうせわたし達は、これから大金を手に入れることになるはずだからな。ワイくんのスマホ代くらい、大した額じゃない」

109:気付いたら名無しだった
 ひょっとしてイッチ、A子の誘拐ついでに、彩胡からお金も奪ってたのか?

113:気付いたら名無しだった
 >>109 奪ったわけじゃない。
 A子の母親が自発的にくれたんだ。
 まあ、ワイはその場にはいなかったんだけど……。

115:気付いたら名無しだった
 >>113 くれた? 彩胡がお金を?

138:気付いたら名無しだった
 >>115 そう表現はしてるけど、実際は奪ってるのと同じなんじゃねw

121:気付いたら名無しだった
 車の中で待ち始めてから、だいたい20分くらい経った頃だったかな。K太がゆっくり前の方を指さした。
 何だと思って目を向けると、黄色いタクシーがウィンカーを点けて減速し、A子の自宅の前に止まったところだった。

 ミイミイが淡青色の瞳を細める。

 「A子の母親だ……」

 ワイとK太がほとんど無意識にうなずきを返す。
 事前に仕入れていた情報と、ほとんど誤差のない帰宅時間だった。

123:気付いたら名無しだった
 さっきから気になってたんだけど、イッチはどこから母親の情報を仕入れてたんだ? 帰宅時間なんてよっぽど近い人じゃないとわからんじゃろ?

127:気付いたら名無しだった
 >>123 他にも仲間がいたとかじゃね?

130:気付いたら名無しだった
 >>123 事前に2週間くらい、K太にA子の母親の尾行をさせてたんだ。
 それでテレビ収録の時間や、帰宅時間のデータを取った。
 その上で、帰宅するであろうタイミングを割り出して、行動に出たってわけだ。

133:気付いたら名無しだった
 はえ~。なかなか面倒くさそうなことしてるな

140:気付いたら名無しだった
 タクシーのドアが開く。
 降りたのは、予想通りA子の母親だった。

「行くぞ」

 ミイミイの合図を皮切りに、ワイらは一斉に車を降りた。
 急いで母親のもとへ駆け寄って行く。
 門の脇にあったドアを潜り抜けようとしていた母親が、ワイらに気が付いた。
 一瞬、驚いた表情を浮かべたけど、それだけだった。
 たぶんK太がカメラを抱えていたから、マスコミと勘違いしたんじゃないかと思う。

141:気付いたら名無しだった
 都合よく勘違いしてくれてるこの隙を逃すわけにはいかない。
 ワイは勢いよく腕を伸ばして、母親の口を塞いだ。
 そのまま体ごと押して、敷地の中へ入っていった。
 雨の降りしきる中での異様な光景に、通りすがりの人が驚いたような目を向けてきているのが見えた。

 ワイやミイミイみたいな怪しい格好をしている人が、有名人でもあるA子の母親を襲っている状況だ。
 警察に通報されてもおかしくなかったと思う。
 だけどすぐ後ろで大きなカメラを抱えたK太が、撮影している演技をしていたお陰なのか、通報はされずに済んだ。
 むしろ通行人は見ないふりをしたくれていた。

144:気付いたら名無しだった
 >>141 彩胡、近所付き合いが悪かったんだろうな

147:気付いたら名無しだった
 >>144 警察への通報や、マスコミ関係者による取材が続いていたせいで、近隣の住人もこういうのに慣れてた可能性がある。

150:気付いたら名無しだった
 >>144 >>147 普段の行いってのは、こういう時に影響するんだろうなって、ワイも思う。
 ワイやミイミイみたいに怪しい人物が襲いかかってる状況なのにも関わらず、むしろ関わってはいけないとばかりに、目撃者はそそくさと立ち去ったからな。

 ただ、あんまり長いこと外でこんな状況を続けるわけにはいない。
 さすがに怪しいと疑われてコッソリ警察に通報をされるかもしれないし。
 だからワイらは、行動を急いだ。

151:気付いたら名無しだった
「喉を潰されたくなかったら、おとなしくしろよ」

 ワイはいつもよりドスを効かせた声でそう警告をした上で、自分のマスクをずらして顔を見せた。

「僕が誰なのか、あんたならわかるよな?」

 尋ねながらニッコリ微笑む。
 そんなワイを見つめながら、母親は顔を強張らせていた。

153:気付いたら名無しだった
 どうせ微笑んだと思ってるのはイッチだけで、相手には凶悪な表情に見えてたんやろ?

172:気付いたら名無しだった
 >>153 例のごとくww

161:気付いたら名無しだった
 ワイは震えてる母親の襟首を掴みながら、眉間にシワを寄せるように凄みながら言った。

「今すぐ、僕達を家の中に入れろ」

 恐怖からなのか、母親は泣きそうに目を潤ませながら、小さくうなずいた。
 その様子を見て、ワイは襟首を掴んでいた力を弱めた。
 これがいけなかった。
 母親がいきなり逃げ出すように道路の方に向かって走り出したのだ。
 しかもスマホまで取り出した。
 警察に通報するつもりなのだと察したその時、ミイミイが母親の腕を蹴った。

162:気付いたら名無しだった
 ワイとは違って、ミイミイはちゃんと母親の動きに反応してたんだな。
 蹴られた衝撃でスマホが宙を舞った。
 降り続く雨で濡れた芝生の上に落下した。

 さらにミイミイは、ポケットに忍ばせておいたナイフを手に取り、道路側からは見えないように気を付けながら、母親のお腹に突きつけた。

「次に余計なことをしたら、これでお前を刺す」

 そう言って、サングラスを少しだけずらす。
 途端に母親が両眼を見開いた。

「――あなたは?!」

 たぶんこの時に気付いたんだろうな。
 目の前にいるミイミイが、かつて村井教授をA子に殺害させた際、冤罪を被せた人物だってことに。

163:気付いたら名無しだった
 ミイミイは「は?」とわざとらしく首を傾げ、「……あなたは?」と母親の台詞を繰り返した。

 それから鼻を鳴らし、かと思うといきなり母親の脇腹をナイフで刺した。

 ワイは目を疑った。
 まさか有無を言わさずナイフで刺すだなんて、思いもしていなかった。
 母親もかなり驚いていたと思う。 
 でも叫んだりはしなかった。

166:気付いたら名無しだった
 刺されたのに叫ばないって、不自然じゃね?

169:気付いたら名無しだった
 >>166 ちょっと無理があるなww

173:気付いたら名無しだった
 >>166 ミイミイはかなり力を加減してたんだ。
 刺したといっても、服越しに薄らと血が滲むくらいの傷しか負わせてない。
 ナイフが単なる脅しじゃないってのを伝えるのが目的だったんだと思う。

「余計なことをしたら刺すって、わたしは忠告してたよね?」

 ミイミイの口調は淡々としていた。
 感情が感じられなくて、母親はどうすればいいのか戸惑っている様子だったな。
 しばらく困ったように目線を震わせている彼女に、ミイミイは囁くように続けた。

「わたしにはお前の勝手な発言を許すつもりはない。わたしが許可したこと以外は、今から何もするな。破ったら遠慮無くナイフで刺す」

 正直、この時のミイミイは味方だってわかっているのに不気味で怖かった。

176:気付いたら名無しだった
 >>173 何となくサイコパスっぽいな

181:気付いたら名無しだった
 >>176 ワイも同じことを思った。
 もしかしたら相手にそう思わせるための演技だったのかもしれんけど。

「早く鍵を開けてわたし達を中に入れろ」

 ミイミイの命令に従って、母親がゆっくりと立ち上がる。玄関のドアの前に移動する。
 震える指でキーケースを取り出す彼女は過呼吸になりかけてたような気がする。
 マスクに隠れた鼻から、ずっと小刻みで、だけど大きな呼吸音が漏れ出していた。

182:気付いたら名無しだった
 母親は鍵をなかなか鍵穴に入れることができなかった。
 何度かチャレンジを繰り返して、ようやく開けることに成功したのは、たしか5~6回目の時だった。

 ドアが開く。
 同時にその場にいた全員で中へ雪崩れ込んだ。

183:気付いたら名無しだった
 玄関だけでもわかるくらい、かなり広い家だったな。
 ちょっとした段差の先には来客用のスリッパが用意されてたけど、ワイらは何かあった場合に備えて、泥で汚れた靴を脱がずに上がり込んだ。

 先頭にいたミイミイが、母親の髪の毛を引っ張りながら、ズンズン前に進んでいく。
 反射的に母親が「痛い!」みたいな悲鳴を発した。そしたらミイミイが、母親のフトモモにいきなりナイフを突き刺した。
 外で脇腹を刺した時とは違って、もの凄い勢いで血が溢れ出すのがわかった。

 さすがに「ヤバいんじゃ」ってK太が後ろから口を出したけど、「ちゃんと刺す場所は考えてるよ」とミイミイは振り向かずに口の端を上げた。

「簡単に死なれると、つまらないからね」

185:気付いたら名無しだった
 やっぱ完全にサイコパスやんwww

186:気付いたら名無しだった
 この女さん、ヤベーな

187:気付いたら名無しだった
 ミイミイがレインコートのフード部分を脱ぐ。サングラスも外す。
 それから母親を床に押し倒し、血で汚れたナイフを、今度は眉間に突き付けた。

「お前のせいで、わたしは色々大変な目に遭わされたよ」

 一応言っておくけど、ミイミイはこの時、母親の目をちゃんと見ていなかった。
 視線を中空に漂わせながらだったから、傍目には怖ろしいだけじゃなく、かなり気持ち悪い光景だったような気がする。

 さらにミイミイは無表情のまま、滔々と続けた。

「3年前のあの日、わたしはいきなり警察に連行された。突き付けられたのは、わけのわからない容疑だった。
 取り調べをしている連中は、わたしがいくら本当のことを話しても、まるで聞いちゃくれなかった。延々と同じ質問ばかりを繰り返してきた。
 そんな不毛なやり取りを数時間続けたことで、わたしは理解した。これは予定された回答以外は認められていない、一方的な答え合わせだということをね」

188:気付いたら名無しだった
 ミイミイの独白が続く。ワイやK太は勿論、ナイフを突きつけられてる母親は何も言わずに黙っていた。

「わたしはちょっと普通の人達とは違うみたいだからね。幼少期から会話のできないヤツだと色んな連中から小馬鹿にされながら育ってきた。
 確かに融通の利かない部分がわたしにはあったのだろう。
 だけどそんなわたしでも、取り調べをしている連中に比べれば遙かにマシだと思ったよ。
『本当のことを言え』とわたしに高圧的な態度で迫っておきながら、実際には本当のことを答えさせないのだからね。
 意味不明な押し問答が延々と続いて、いつまで経っても会話が先へ進まなかった。
 普通の人であれば、ああいった理不尽な状況にも堪えられたのかもしれない。
 だけどわたしには無理だった。わたしよりもバカなヤツらに、自分の言い分を全て否定され続けることが、どうしても我慢ならなかった。
 一方的に、自分達の推測ばかり押し付けられた。
 推測通りの答えを返すことを強要された。
 そんな理不尽さに堪えられず、わたしは半狂乱になったよ。
 なのにヤツらの頑なな態度は変わらなかった。
 むしろわたしが精神的に追い詰められている状況を見て、嘲笑っていた。
 だからわたしは諦めたんだ。こんなヤツらとは会話にならない。……ってね。
 わたしは真実を伝えるよりも、精神的苦痛から逃れることの方を優先させた。
 でも、その選択は完全に失敗だったというのが、外に出てこられた現在ならよくわかる」

189:気付いたら名無しだった
「刑務所での生活は地獄だったよ。食事や作業時間、睡眠時間など、生活のリズムが一定なのは我慢できた。
 むしろ毎日が同じ繰り返しというのは気楽でさえあった。刑務官にも気に入らないヤツはいなかったし……。
 最悪だったのは、他の受刑者達との人間関係だ。
 わたしは世間一般的には変わり者らしいからな。それに頭脳や知識は優れていても、応用力には欠ける。周りの空気を読む能力も低い。相手が何を望んでいるのかを察することなんてできない。
 これらは全部、小・中学生の頃にイジメを経験していたからわかっていたことだ。
 だからあまり周りとは関わらないようにしてきた。
 ただ、周りもそれなりに優秀なヤツらばかりだったから、知らなかったんだ。
 一部の短絡的なくせに狡い連中にとって、わたしみたいなタイプは格好の獲物となってしまうってことをね。
 刑務所の中で、わたしは色んなヤツらから嫌がらせを受けることになったよ。集団で罠にハメられたこともあった。
 ……屈辱だった。外であれば絶対に相手にしないようなクズばかりなのに、刑務所という限られた空間に閉じ込められている以上、たとえ可能な限り無視をするという選択をしていても、最低限は関わることになってしまう」

190:気付いたら名無しだった
 ミイミイは長い瞬きをしながら深々とため息をついた。
 それからおもむろにナイフを上に翳し、思い切り母親の頭を目掛けて振り下ろした。もの凄い憎しみの込められた一撃だった。
 ワイは母親を殺してしまったと本気で思った。
 だけどこの時にミイミイが刺したのは、母親の顔ではなく、すぐ側の床だった。
 でも母親にとってはかなりの恐怖だったんだろうな。
 失禁して、床がびちょびちょになっていく様子を、ワイは生まれて始めて目の当たりにした。

 その時、二階からガチャリとドアの開く音が聞こえた。
 反射的に向き直る。
 すると幼い顔の少女が、ドアの陰からこっちを覗き見ていた。
 ほんの少ししか見えなかったけど、ワイにはすぐにわかった。A子だ。

「……ワイくん?」

 小首を傾げるようにしながら階段を静かに下りてきた彼女に、ワイも「A子……」と返した。

「ワイくん、ここで何をしてるの?」

 呟いたA子の頬が一瞬緩みかけ、しかしすぐ不安げな表情に戻った。

 不思議だった。母親が酷い目に遭っているのは明らかだし、A子も表情だけは哀しそうなのに、悲哀や困惑といった感情はまったく感じられない。
 むしろこの時のA子からは、喜びや愉悦に近いものが漂っていたような気がする。

192:気付いたら名無しだった
 A子って、マッマのこと嫌いだったんかな?

193:気付いたら名無しだった
 >>192 洗脳されてるんだったら、むしろ大好きだったって方が自然だけどな

219:気付いたら名無しだった
 >>192 洗脳されてるって自覚してたんだろ?
 じゃあ、本当は凄く憎かったって可能性もあるんじゃね?

199:気付いたら名無しだった
 >>192 正直、ワイにはA子の母親に対する感情が、どんなものなのかはわからん。
 この時は、ミイミイから聞かされていた推測が本当に当たっているのかを確かめることしか考えてなかった。

「A子、いくつか訊きたいことがあるんだけど」

「どんな話?」

「世間では僕が殺したことになってる人達は、本当は全員、A子が殺していたのか?」

「えと……」

 A子は少し困ったような微笑を浮かべ、母親をチラリと一瞥した。
 どう答えればいいのか、その判断を委ねようとしていたんだろうな。
 するとすかさずミイミイが母親に耳打ちした。

「お前が娘に行っていた洗脳については、すでに把握している。
 A子はお前に逆らうことができないんだろ?
 このまま殺されたくないのなら、わたし達の質問に、正直に答えるように命令しろ」

 さらに酷薄な笑みを浮かべながら「嫌なら断っても良いけどね」と続けた。

「あと5秒以内に指示通りにしなかったら、まずはお前の耳を切り落とす」

200:気付いたら名無しだった
 母親はこの時、かなりの恐怖を感じてたんだろうな。
 喉を引き攣らせるような音を漏らして、「A子ちゃん、この人達にきちんと本当のことを答えてあげなさい」と命じた。

「わかりました、お母さん」

 A子がうなずく。
 それから改めてワイに向き直って、「そうだよ」と肩をすくめた。

「ワイくんの推測した通りで合ってる。ワイくんの昔の上司達はみんな、わたしが殺したの」

 あまりにも飄々とした態度にワイは息を呑んだ。
 人を何人も殺しているはずなのに、何の悪気も感じられない。

 むしろ「いったい何のために?」と尋ねたワイの方が、動揺していたような気がする。

「あれ? わたし達の目的に気付いていたから、ワイくんはこうしてここに来たんじゃないの?」

「いいから……全てを、正直に、話して欲しい」

「まあ、お母さんからも本当のことを答えるように命令されてるから、別にいいけど……」

201:気付いたら名無しだった
 A子が小さく嘆息する。

「わたしがワイくんの元上司達を殺したのはね、お父さんを殺した時、容疑をワイくんになすり付けるためだったんだよ」

 その回答はミイミイが推測していた通りで、同時にウソであって欲しいとワイが願っていたものだった。

 まだ11歳のA子が、本命の父親を殺した容疑をワイになすり付けるという目的のために、関係のない9人を殺していた。
 その事実を素直に認めたくなかったワイは、ウソであって欲しいと願いつつ、回答次第ではウソであることがわかる質問をした。

「A子はどうやって、僕の元上司達が住んでいた場所を見つけ出せたんだ?」

「ワイくんの携帯で、名字や名前を確認してから、ダークウェブの住人に調べてもらったんだよ」

「ダークウェブ?」

「そうだよ。グーグルとかサファリとかじゃ見ることのできないサイト」

202:気付いたら名無しだった
 A子が楽しそうに頬を緩める。

「こちらで提供できる情報次第ではあるんだけどね、個人名と勤務先がわかってる人だったら、だいたい1人10万円くらいからで、現在の住所とか、家族構成とか、あとは行動範囲なんかも、詳細を調べてくれる人がいたんだ」

203:気付いたら名無しだった
 >>202 ホントにそんなサービスあるんかい?

205:気付いたら名無しだった
 >>203 イリーガルドラッグでも拳銃でも何でも手に入るらしいからな
 殺人請負とかもあるくらいだし、そういう個人情報特定サイトが実在してても不思議じゃない

209:気付いたら名無しだった
「ワイくんの上司達の場合は、名前がわかってて、いつ頃、どの会社で働いていたのかっていうことも特定できてたからね。割と格安で調べて貰えたよ。費用は全員で130万円くらいだったかな」

 話を続けるA子は何だか楽しそうだった。

「じゃあ……僕がホテルとかで記憶を失っていたのは、どうしてなんだ?」

 ずっと気になっていたことを尋ねてみる。
 するとA子は頬を緩めながら言った。

「それはわたしが睡眠薬で眠らせてたからだよ」

「睡眠薬?」

「うん。でもそれだけじゃワイくんが途中で目覚める可能性もあったから、少しリスクはあったけど、お父さんのクリニックから手術用の麻酔薬を持ち出して、追加で何回か注射してる。
 ワイくんの腕に、注射針の痕とか残ってなかった?」

 そういえば腕に小さな痕があったのを思い出す。

211:気付いたら名無しだった
「移動や買い物に、僕のスマホやクレジットカードを使用した理由は?」

「答えなくたって、ワイくんならもうわかってるんじゃないの?」

 たしかに予測はできていた。
 でもここまできたら、ワイはA子の口から直接聞きたかった。
 だからあえて反応をせずにじっと見つめ続けた。

 するとしばらくして、A子は苦笑を浮かべながら言った。

「移動や買い物の履歴をあえて残すことで、ワイくんが『自分は記憶を失ってる』って勘違いしてくれるのを期待してたんだ」

 どうやらワイは、A子の目論見通りの思考をしていたらしい。

「そうそう、ワイくんのスマホ、いつでもわたしが起動できるように、追加で指紋登録もしておいたんだ。
 それに“クライ”っていうアカウントも、より勘違いして貰えるようにって目的で、わたしが作っておいたものなんだよ」

 A子は楽しそうにケラケラ笑い「どうかな? ワイくん?」と首を可愛らしく横に倒した。

「自分が多重人格者で、“クライ”に入れ替わってる時に殺人を犯してたって、ちゃんと勘違いしてくれてたかな?」

212:気付いたら名無しだった
 微笑むA子の様子は無邪気で、普通の小学生にしか見えなかった。

「全部……。A子の狙い通りだったってわけか?」

「完全にってわけじゃないけどね」

 戯けるように舌を出す。

「まさかワイくんがあんなにも必死にバレないように振る舞うだなんてのは、予想外だったよ。
 もっと取り乱すと思ってた。なのにずっと冷静なフリを続けてたし……。
 あの必死な姿を見てね、わたし、ワイくんは凄く頭がいいんだって思ったんだ」

 そこでA子はワイから目を逸らして、「うん。ワイくんは頭がいいって確信したんだよ」と繰り返した。

「わたしがあえて用意した、いくつかの違和感にも、ちゃんと気付いてるっぽいしね」

213:気付いたら名無しだった
「わたしからもいくつか質問をさせてもらうぞ」

 ミイミイがナイフの刃先で母親の頭をなぞるようにしながら割り込んできた。

「4年前に村井教授を殺害したのも、今回、実の父親を殺したのも、全部母親の命令だったからなのか?」

「うん。そうだよ」

 A子があっけらかんと首肯する。

「わたしは触法少年っていう、殺人をしても罪に問われない立場だったからね。『バレても絶対に大丈夫だから、『A子ちゃん、お願いね』ってお母さんに頼まれてたの」

「村井教授を殺害した際にも、最初から誰かに――わたしに罪をなすり付けるつもりだったのか?」

 そう続けたミイミイに、「違うよ」A子は首を横に振った。

「アレは本当に偶然だった。だってわたし、最初から殺人がバレた時のために、世間が納得してくれるような理由ってヤツを、ちゃんと準備してたし」

「……世間が納得してくれる理由?」

 ミイミイが何かを考えるように斜め上を見上げる。それから答えに気付いたのか、鼻を鳴らした。

「村井教授のパソコンに保存されていた、卑猥な画像や動画のことか?」

「あっ……。知ってたんだ?」

215:気付いたら名無しだった
 A子はおどけるように肩をすくめた。

「アレは全部お母さんからのアドバイスだったんだよ。村井教授から性的虐待を受けてたって証拠を残しておけば、わたしが殺したってバレても、むしろ世間からは同情されるはずだって」

「――性的虐待?!」

 頓狂な声を裏返させたワイに向き直り、A子がケラケラ笑った。

「本当にされてたわけじゃないよ。村井教授はロリコンじゃなかったし。
 でも、わたしがお風呂に入ってる姿を隠しカメラで盗撮しているような動画を、教授の使ってたパソコンのハードディスクにはたくさん入れといた。
 他にも、教授の部屋に隠しておいたピンホールカメラの前で、誤解されるような動きもたくさんしたよ。
 教授に痒いからってお願いして、お尻やお股の部分をさすってもらうように促したりとかね。そういう画像や動画をいっぱい用意しておいたの」

 懐かしむようにA子が遠くに目を向ける。

216:気付いたら名無しだった
「ちなみになんだけど、今回、お父さんを殺した時も、わたしだってバレた場合に備えて、ちゃんと準備をしてたんだよ」

「いったい、どんな準備を……?」

「村井教授の時と同じだよ。
 わたしって普通の小学生よりも体の成長が早かったからね。お父さんにわざと体の成長を確かめてもらってる画像とか動画を隠し撮りしておいたんだ。
 ちなみに音声は無しで、カメラにわたしの顔が映る時には、ムリヤリやられてる感を出すために、本気で嫌そうな演技をしたりとかもして」

218:気付いたら名無しだった
 そういえばコロナ禍の自粛生活で、家庭内の性的虐待が増えたって記事になってたような気がする

220:気付いたら名無しだった
 >>218 増えたのは、未成年の妊娠中絶な。
 その相手として、勝手にお前らみたいなのが、父親とか兄だろって推測してるだけ

224:気付いたら名無しだった
 >>220 でも自宅でみんな引きこもってるわけだし、一番疑わしいのは、やっぱり身内じゃね?

227:気付いたら名無しだった
 お前らが気になりそうな話題なのはわかるけど、付き合ってたら疲れるから、ワイは本筋を続けてくぞ。

「やっぱ男ってダメだよね」

 A子はそう言って、小馬鹿にするように顔を歪めた。

「性的な意味で社会的な信頼がないから、ちょっと怪しい画像とかを用意して、まだ子供のわたしが泣いたりすれば、みんなわたしの言い分を信じてくれるって確定してるんだもん。
 まあ結果的に、今回も前回も、そんな演技の必要は無かったんだけど」

 上手く表現できないけれど、ワイは行き場のない不快な感情が体の中でグルグル渦巻いているような感覚に襲われていた。

 改めて母親のことを最低だと思った。
 実の娘に殺人を実行させたばかりか、前準備として性的被害者を装わせるだなんて……。

229:気付いたら名無しだった
 鬼畜の所業ってヤツだな……

236:気付いたら名無しだった
 最低な過去を語っておきながら、当のA子からは、悲壮感みたいなものがまったく漂って来ていなかった。むしろ平然としていた。
 しかし実際に母親に強要されていたことを思うと、飄々としている様子が逆に痛々しく見えた。

「ワイくん」

 ミイミイが鼻を鳴らしてワイを一瞥する。

「これでハッキリしただろう?
 今回、ワイくんは巻き込まれただけで、本当の悪人が誰かってことがさ」

239:気付いたら名無しだった
 思ったんだけど、この会話を録音しておいて、SNSとかで公開したら、世間のみんなは、イッチやミイミイが犯罪者じゃないって、わかってくれたんじゃないのかな?
 警察に聞かせれば、イッチが逮捕されることもなくなるような気がするし
 何でやらなかったんだ?

290:気付いたら名無しだった
 >>239 録音を公開しても無駄だったはずだ。
 ネットを見てればわかるだろ?
 一度でも犯人扱いし始めると、他の人が違うってホントのことを伝えても、全然効果がない。

292:気付いたら名無しだった
 >>290 たしかに。SNSで本当のことを教えても、「お前は犯人を擁護するのか」って責められたりしてるヤツは何度も見てきた

301:気付いたら名無しだった
 >>290 >>292 いや、でも、本当は冤罪だっていう決定的な証拠があるんだぞ
 警察はしっかり判断してくれるやろ?

305:気付いたら名無しだった
 >>301 補強法則ってのがあってだな。
 自白以外の証拠もなければ、有罪無罪の決め手にはならないってルールがあるから、すんなりイッチが無罪ってことにはならないと思う。

248:気付いたら名無しだった
 今回の作戦を実行に移す前、ミイミイはワイにこう言っていた。
 
『マスコミなんかによって本名が公表され、犯罪者であるかのように扱われてしまったわたしやワイくんにとって、“本当の真実”なんていう都合のいい言葉はもはや意味がない。
 一度社会的に殺されてしまったわたし達は、冤罪だと主張しても、世間一般的には容疑者のままだし、司法の場で何年も戦い、仮に冤罪だと証明できたとしても、その事実はなかなか広まっていかない。
 一度でも冤罪を着せられてしまったら、二度と平穏無事な日常に戻ることはできないんだ』

250:気付いたら名無しだった
 >>248 たしかにそうなのかもしれないな

286:気付いたら名無しだった
 >>248 痴漢とか、容疑者の時点で名前を出されるくせに、冤罪だったとしても訂正情報は流して貰えないもんな

333:気付いたら名無しだった
 >>250 >>301 2003年の福岡市で行われたとされてる“教師のいじめ事件”も、実際は被害者やその家族が嘘の証言をしてて、最高裁で冤罪だって確定してただろ
 でもそこまでいくのに、10年近くもかかってる
 しかも裁判の結果を受けて認められたのは、“懲戒処分の取り消し”だけ。
 マスコミでもほとんど報道されてないから、教師が生徒をいじめていたってニュースを覚えている人はそれなりにいても、それが実は嘘で、教師が無罪だったって知ってる人はほとんどいない。
 あの先生、人生取り返しが付かないレベルで終わらせられてるのに、あれは酷いと思ったわ

287:気付いたら名無しだった
 実際、表に出てきてないだけで、弁護士への相談では、いじめの冤罪被害や、痴漢の冤罪被害は、もの凄く多いらしい。
 だけど仮に裁判で争って勝っても、一度狂わされた運命は元に戻らない。

298:気付いたら名無しだった
 >>287 失ったものや無駄にした時間のこと考えたら、冤罪の証明だけじゃちょっとキツいよな

303:気付いたら名無しだった
 >> 298 だからこそ、ミイミイは、直接的な仕返しをしようと決意して、同じ被害者のワイに協力を求めてきたんだと思う。
 お互いにもう、どうせ犯罪者として扱われているわけだし、たとえもっと犯罪的な行為を重ねることになったとしても、相手を叩き潰した方がマシだって考えて。

304:気付いたら名無しだった
 >>303 あんまり良い考えだとは思わんけど、気持ちはわかる
 ワイも同じ立場なら同じことをするかもしれんし

316:気付いたら名無しだった
 ちょっと間は空いたけど、本筋に戻るぞ。

 ミイミイが改めてナイフを、A子の母親の眼前に突きつけた。
 するといきなり母親が奇声を発しながら、ミイミイの体を思い切り弾き飛ばした。
 このタイミングで逃げなきゃ、さすがにヤバいと感じたんだろう。

 不意を突かれたこともあって、ミイミイは後ろへ転がった。
 その隙を付いて母親が立ち上がった。
 ナイフで傷ついた足だというのを感じさせないくらいの勢いで離れていった。

 その動きに、K太が反応した。
 逃げようとする母親に追い付き、そのまま後ろからジャンプキックをかました。
 容赦のない背後からの一撃に、母親は無様に床を転がった。
 それでも母親は、地面を這って逃げようとし続けた。
 ただしその先では、すでにワイが待ち構えていた。

317:気付いたら名無しだった
 イッチのラスボス感ww

320:気付いたら名無しだった
 ワイは母親の腕を掴んだ。
 母親も抵抗しようとはしていたのだと思う。だけど膂力に差があり過ぎる。
 ワイがほんの少し力を入れただけで、彼女の体は驚くくらいワイの思い通りに動いた。

 足払いをくらわせ、背後から床に倒す。その上で腕ごと押さえ込むように馬乗りになる。

 この体勢、経験のある人はわかると思うけど、乗っかられてる方は、どんなに頑張っても動くことができなくなる。
 マウントを取った状態で、しかも両腕の動きも封じてるわけだからな。

321:気付いたら名無しだった
 母親が、急に絶叫した。
 一瞬、ワイは体重をかけ過ぎてしまったせいかと思った。
 だけど違った。後ろでバタバタ振動を感じたから目を向けると、ミイミイが母親のフトモモにナイフを突き刺していたんだ。

「余計なことをしたら刺すって、さっきわたしは忠告してたよね?」

 ミイミイはあくまでも淡々とした態度で、ナイフを抉るように動かした。
 またしても甲高い悲鳴が鼓膜を劈く。

324:気付いたら名無しだった
 ミイミイさん、よほど強い憤りを抱きながらこの数年間を過ごしてたんだろうな

328:気付いたら名無しだった
 このままだとミイミイは本当に母親のことを殺してしまいそうだった。
 だからワイは、少し強引にナイフを奪い取った。
 それから改めて母親に向き直った。
 苦痛と、脅えと、怒りの感情が複雑に混ざり合っている彼女の眼差しを、ワイは真っ正面から受け止めた。

331:気付いたら名無しだった
 ちなみにこの時点で、ワイはA子から聞いていた話が全て本当だったという確信を持っていた。
 つまりA子は、母親から洗脳に近い教育をされていて、母親には絶対に逆らえない。

332:気付いたら名無しだった
 ちょっとタイミング的にはアレだけど、ここでワイとミイミイの今回の作戦について、簡単に説明しておくわ。

 まずは復讐の内容を箇条書きにすると、こんな感じかな。

① 母親の人生をメチャクチャにする
  a)本人に何らかの刑事罰を与える
  b)本人を社会的に殺す
  
② 実行犯であるA子の人生をメチャクチャにする
  a)完全に自由を奪う
  b)触法少年であるため、法的に罰を与えられない以上、直接的な苦痛を与える

335:気付いたら名無しだった
 母親に対しては、ミイミイがずっと温めていた方法があったらしいので、ワイは完全に任せることにした。

 一方でA子の方は、一度母親から引き離して、こちらで身柄を拘束しないと、じっくり復讐することができない。
 そこでワイとミイミイは、母親から受けているであろう洗脳を利用しようと考えていた。

336:気付いたら名無しだった
 身動きできずにいるA子の母親を見下ろしながら、ワイはできるだけ声を低くして言った。

「一つだけ、あんたが助かる条件ってのを出してやってもいい」

 この時、母親は瞬きを止めてたな。
 ワイが何を考えてるのか読めずに戸惑っていたのかもしれん。

「A子を、僕に差し出せ」

 母親はたぶん、ワイが何を言ってるのか理解できてなかったんだと思う。
 ずっと無言だったから、ワイはもう少しだけわかりやすいように言い直した。

「A子を、僕の所有物にしてもかまわないのなら、あんたを助けてやってもいいと言っているんだ。
 どうする? A子を僕に差し出すか?
 それとも娘を庇って、あんたがこのまま殺される方を選ぶか?」

 母親の瞳は中空を彷徨っていた。
 色々なことを考えていたんだと思う。
 だけどワイもミイミイも、母親がいったいどんな選択をするのかはすでに確信していた。

338:気付いたら名無しだった
 気に入らない人を殺すために、洗脳した娘を使うようなクズだ。
 毒親の中の毒親だ。
 性格がクソで最低なヤツだ。
 自分のことが大好きで、自分さえよければそれでいいという価値観の持ち主だってことは、ハッキリしている。

 たぶん母親の中でどうするかということは、あっさり決まってたんだと思う。
 その証拠に、何度かA子の方に目線が動きかけていたけど、情や戸惑いみたいな感情は一切含まれていなかった。

 逡巡してるのは、間違ってもA子を差し出すべきかどうかで悩んでいるわけじゃない。
 A子を犠牲にするだけで、本当に自分が助かるかどうかについて考えていたからだ。

339:気付いたら名無しだった
 ワイは「どうする?」と口元を歪めながら答えを急かした。

「どうしても娘を差し出したくないのなら、予定通り僕達であんたを殺すことになるけど?」

 ミイミイに目配せをする。
 すると無感情な顔のまま、口元だけを薄らと笑わせた。
 狂気染みた表情に、母親は明らかに恐れおののいていた。

 しばらくして母親は「……わかったわよ」と口を開いた。

「――ん?」

 何て言ったのか確認しようと、首を傾げる。
 すると母親は舌打ちをして、「だからわかったって言ったのよ!」とヒステリックに叫んだ。

「あなたの言った条件ってのを受け入れるわよ! A子ちゃんは、あなた達にあげる! 身も心もあなた達の好きにしてかまわない!
 だからわたしは! わたしにだけは! これ以上酷いことはしないで!」

342:気付いたら名無しだった
 彩胡、自分が助かるために娘を差し出したのか……

343:気付いたら名無しだった
 これが日本を代表する教育評論家ってのは、ホント、悪い冗談でしかないな

350:気付いたら名無しだった
 ミイミイが、生ゴミでも見ているかのような眼差しでA子の母親を見下ろす。
 途端に、母親が逆ギレするように叫んだ。

「もうA子ちゃんをあなた達にあげるって言ったんだから、いい加減わたしを解放しなさいよ!」

 ワイは恥を知らない身勝手な発言に呆れつつ、でもいちいちまともに相手をしても不毛なだけなので、素直に離れることにした。

 それからA子の側へ歩み寄っていった。

「母親はああ言ってる。だから残念ながらもう、A子は僕の所有物だ」

 A子がジッとワイを見据え、それから母親を一瞥した。
 母親が顔を背ける。

 たぶんだけど、母親は恥ずかしさや後ろめたさを、全然感じていなかった。
 今の仕草は、生贄として差し出したA子に対し、もう自分には関わってくるなという意思表示だったのだと思う。

351:気付いたら名無しだった
 以上が、ワイがA子を誘拐した時の真実だ。

 このあとで、ワイはミイミイと一度別れ、A子を外に連れ出している。
 そして現在進行形でA子を連れ回しながら、逃亡生活を続けてるってわけだ。

 ちなみにワイがいなくなったあと、A子の母親に対して、ミイミイとK太が何をしたのかは知らない。
 ネットニュースやSNSではちょっと目にしたけど、真実かどうかの判断はできない。

 A子を家から連れ出して以降、ワイはミイミイやK太とは連絡を取ってないからな。

355:気付いたら名無しだった
 てなわけで、ワイが語れるのはここまでだ。
 ここから先は、ワイが現在いる場所とかが特定される危険性があるから、まだ書くわけにはいかない。

357:気付いたら名無しだった
 イッチ、これ、本当の話なのか?

380:気付いたら名無しだった
 >>357 信じるなよww

383:気付いたら名無しだった
 どうせ嘘松ww

392:気付いたら名無しだった
 何度も言うけど、ワイの書いてることは全部真実だ。
 多少の脚色や記憶違いはあっても、大筋では間違っていない。
 信じるか信じないかは自由だけどな。

 とりあえずフィクションだと疑ってるヤツらも、信じてくれてたみんなも、最後まで付き合ってくれてありがとう。

 いつかまた、気が向いたら続きを書くわ。



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