わたしがワインを愛すわけ
この記事は、2022年夏コミにて発行される『3000円ワインの民 Vol.3』の中から抜粋しました。今、わたしがここに紡ぐことに、小さいながらもなにか意味があると思い、発売前ですが全文公開いたします。
― My favorite things. ―
3000円のワインと、それにまつわる「わたしのお気に入り」。
No.9:ワインの多様性
わたしは、「多様性」を心から大事にしています。
人はそれぞれ、違うもの。これは、わたしが生きるうえで中心に据えている価値観のひとつ。そして、何度でも心に刻みたい、大切な哲学でもあります。
生まれながらに不平等なわたしたちは、ほとんどただの「運」のようなもので、今この場所に生きています。見た目も、身体の機能も、仕事も、才能も、自然に湧き出てくる情動でさえ、わたしたちが自分の手で選べるものは極々少なく、限られているのです。
「お金がないなら、働けばいい」「環境が嫌なら、飛び出せばいい」。
すべてを個人の努力に帰する文化は、息苦しいです。しかし一方ではそのような思考や信念を持つことでさえ、わたしは「多様性」のひとつとして許容したい。賛成することと、許容することは、似ているようで違います。どのような考えも、気持ちも、状況さえも、あっていい。あったほうがいい。上も下もなく、善も悪もなく、ただそれが「ある」ことに頷きたい――
それは何よりも、不器用で不寛容な”わたし自身”が、この世界をなんとか受け入れていくための、大切な「心の持ち方」なんだと思っています。
2020年に婦人科系の手術を受け、5日ほど入院しました。そこは産科の病棟だったため、日々赤ん坊が生まれてきます。静まった夜の廊下に響く、赤ん坊の小さな泣き声。生まれたての赤ん坊の声は、ふやふやしていて、まったく頼りないのです。生まれたての人間とは、こんなにもささやかな存在なのかと驚きました。まだうまく「訴える」こともできず、自分の欲求にも気づかず、ただ情動に任せて声をあげる、それだけの存在。
そんな泣き声を聴きながら『この世界は、そんなに悪くないよ』と思ったことを覚えています。ようこそいらっしゃい、世界へ。わたしはこの世界が、わりと好きだよ。
この世はきっと、あなたが生きるに値するよ――
ワインを飲むと、その多様性にいつも驚かされます。味はもちろん、国や気候による違い、造り方における信念や矜持の違い、伝統を守る立場、新しさを受け入れる姿勢。そこには多様な選択と、様々な思いが見え隠れします。
そしてワインの多様性は、造り方だけではなく「飲み方」さえも許容します。好きなワインにじっくり向き合うひともいれば、たくさんのワインと出会いたいひともいます。グランヴァンを追い求める道に進むひともいれば、安ワイン街道をひた走ることもできます。
仲間とワイワイ飲むことも、ひとりで静かに飲むことも、どちらもおなじ「好き」のマトリクス上。1本のワインに美学を感じるときも、ただ酔っぱらいたいだけのときも、それらすべてを受け入れてくれるワインの「寛容さ」をこそ、わたしは心から愛しているのです。
ワイン、その、不思議な魅力。
わたしはこの「ただ美味しい液体」の多様性に、世界の広さを見ています。
そうして少しだけ救われて、少しだけこの世界に生きることに自信を持つのです。わたしは、きっと、この世界にいてもいい。
今夜も心地よい酔いに身を任せながら、世界のどこかに、そっと思いを馳せています。

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※ 夏コミ発行予定のエッセイ本と、ワイン紹介のためのサブ本、本日どちらも無事に脱稿しました!お知らせは、近々出します。今回もイベント売りとBOOTHによる通信販売の予定です。


よろしくお願いします!
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■ ますたやとは:
関東在住の30代、3000円ワインの民(たみ)。ワインは週に約5本(休肝日2日)、夫婦で1本を分けあって飲みます。2021年J.S.A.認定ワインエキスパート取得、2022年コムラードオブチーズ認定。夫もワインエキスパートを取得、現在はWSETLevel2を英語で挑戦中の、ワイン大好き夫婦です!
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