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仕舞う人、建てる人 8

「——あかん」
 静かに、けれどはっきりと、そう言うた。反射やない。考えたうえでの言葉やった。
「そのうちの一人として死んでいく……言い方としては、ようできとる。聞こえもええですわ。死を受け入れてるようにも聞こえる。せやけどな、あんた、まだ生きとるんや。生きとる限り、自分を過去の誰かに重ねて諦めるのは、ちょっとちゃいますやん」
 事務所の空気がぴんと張った。由衣の両親は黙ったままや。父親は少し身を引いて、椅子の肘に手を置いた。母親は視線を落とし、沈み込むように座っていた。
「ワシらはお墓をつくる。確かにそれは死にまつわる仕事かもしれん。でもな、それは、生きてきたことを讃えるためのもんでもあるんや。そやから、あんたがまだ生きとる間に、自分を死者の一人みたいな言い方はなんか、ちゃうんやないですか?」
 声を荒げたわけやない。むしろ落ち着いた口調やったと思う。内心ではどこかで拳を握っとった。
「生きている間に墓を建てるなら、ちゃんと生きとる自分として建てなはれ。これまでの私として、ではなく、これからの私のために。それができひんのやったら、もうちょっと時間をかけて考えたほうがええ」
 由衣は、何も言わんかった。まぶたを少しだけ閉じたまま、まるで遠くの音に耳を澄ませるみたいに、しばらく黙っとった。その沈黙を、ワシは無理に破らんかった。
 やがて、彼女が目を開けた。
「……津田殿は、変な石屋だな。説教までついてくるとは思わなかった」
「そら、年季だけは入っとるでな」
 由衣は鼻で笑ったように見えたが、その表情はどこか安堵を帯びていた。言い合いというよりは、何かの確認が済んだあとの静けさのような空気が、そこに漂っていた。
「……考え直すつもりはない。でも、もう少し考えてみる。たぶん、墓を建てるということ自体、私が思ってたより、深い行為なのかもしれない。思い上がってたのかもな」
 その声には、わずかな翳りと、わずかな敬意が混じっていた。ワシは頷いた。
「せやろ。お墓いうのは、自分のためにも、誰かのためにもなる。欲張ってええんや。そのかわり、軽く考えたらあかん。そういう場所や」
 彼女は深く、静かに一礼した。両親もそれに倣った。母親はまだ顔を上げなかったが、頬がわずかに濡れていた。父親は手を膝に置いたまま、ただ力強く頷いた。
「じゃあ、また来る。いずれ。そう遠くないうちに」
 そう言って、由衣は踵を返した。ワシは彼女の背中を目で追った。小さな背中やけど、歩く姿勢は変わらずまっすぐやった。静かな足音が、床に落ちていく。父と母が後に続く。戸が開いて、風がまたひとつ流れ込んできた。蝉の声が混じっていた。秋がすぐそこに来ている。
 扉が閉まり、事務所に静けさが戻った。田村が何か言いかけたが、やめて、コーヒーを一口啜った。ワシもそれに倣った。

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中島亮 一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!