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余白のある旅〜新潟十日町〜

10月中旬、ずっと行きたかった新潟へ。
なぜ、行きたかったのかというと、

逢いたい人がいたから。

わたしが旅を選ぶ理由は、
・行ってみたい場所がある
・どうしてもみたい景色がある
そして
・逢いたい人がいる
のいずれかだ。

いつもなら、綿密な計画を立てて無駄なく行動するのだが、
今回は

流れに身を任せて

が、旅のテーマ。
とにかく、逢いたい人に逢えれば旅の目的の半分は叶ったようなもの。
あとは、感じるままに行動したい、
そう思っていた。

自由気ままのおともにはやはり車がいい。
そして、登山のときと違い夜中の出発ではない。
朝7時、関越自動車道に向かう道には多くの車が走っていた。
昼までに着けばいいので、好きなポッドキャストを聴きつつのんびり車を走らせる。

天気予報は曇りか雨。
そもそも無計画だったので、登山とは違いあまり天気は気にしていなかった。そのせいか、週末にも関わらず関越自動車道は渋滞というほどの混雑はなく比較的スムーズに進んだ。

少し早く着きそうだったので、遠回りをして新潟の景色を眺める。
のんびりとした風景とラジオの組み合わせが心地いい。

12時前、待ち合わせの場所に到着。

イベントが開催されていた施設 ”段十ろう”

約束をしていた彼女の前には数人が並んでおり、わたしはニヤニヤしながら彼女の視線がこちらに向くのを待った。

志水八千代さん
今回、わたしが新潟まで会いに来た人だ。

志水八千代さん

彼女とは数年前の撮影で出逢った。
5年ほど前に新潟へお子さまと共に移住されている。
なぜ移住したのか、
どうして新潟を選んだのか、
新潟で何をしたいのか、
聞きたいことが渦をまき、訪ねずにはいられなかった。

八千代さんは新潟県十日町市で、黒文字を使ったフレグランス製品を製造・販売されている。黒文字の採取から蒸留、販売まですべてご自身で行っているのだ。

私たちが暮らす地域には、黒文字だけではなく、杉やタムシバなどの香木が未利用資源として放置されています。

この自然由来の香木から抽出したフレグランス製品を製造・販売し、嗅覚への心地よい刺激をもたらすことで日常の忙しさで余裕がなくなりがちな人々の心を癒すと共に、生活の質を向上させることができると考えています。

香遥屋WEBサイトより引用

数年ぶりの再会に興奮気味の二人。
八千代さんの制作されたフレグランスは森の中にいるような心地よさがあり、やわらかくわたしを包み込む。
これで登山に行けなくても山を感じることができる。

香遙屋ブースにて
アロマオイルを中心とした商品

少し話すと後ろには”八千代さん待ち”の人が列をなしていた。
わたしは少し離れたところから全体を見まわした。
『十日町市地域おこし協力隊の活動成果を市民に紹介し、定住・起業など地域活性化への広がりを伝える交流イベント』ということで、そこには他の移住者も協力隊という形で参加していた。
八千代さん待ちをしていると、2年前に移住してきたという女性が声をかけてくださった。
すかさずインタビューをしてしまうのはもはや職業病に近い。

しばらく話すとすっかり打ち解け、30分ほど立ち話に花が咲く。

そして、八千代さんが「ここのお弁当おいしいですよ」と勧めてくださったMURA PUBさんのお弁当をいただき、イベントが終わるまでアート散策に出かけた。

MURA PUBさんのお弁当
おしゃれだしおいしいし大満足!

十日町市といえば20年続くという「大地の芸術祭*」があり、アートの町としても知られている。
(*開催場所は越後妻有で、新潟県十日町市と津南町が所在地)

大地の芸術祭とは

世界最大級の国際芸術祭であり、日本中で開催されている地域芸術祭のパイオニア。アートを道しるべに里山を巡る新しい旅は、アートによる地域づくりの先進事例として、国内外から注目を集めています。

大地の芸術祭サイトより

2000年から越後妻有で開催が始まったトリエンナーレ(3年に一度開催される国際的な芸術の祭典)は、前回2024年に開催されたので次回は2027年の予定といわれているが、トリエンナーレの期間外でもアートが愉しめる。

八千代さんとの待ち合わせまで、イベント会場から車で10分の場所にある越後妻有里山現代美術館 MonET」へと足を伸ばした。
この美術館は「道の駅クロステン十日町」と隣接していて、一瞬、道の駅の中にあるの?と思ってしまった。

看板の先へ行くと、中庭の池がお出迎えをしてくれる。

MonET エントランスにある中庭の池

池を囲むようにアート作品が置かれ、風に吹かれて奏でる音に思わず足を止める。

音を奏でる作品たち
動物たちの彫刻
動物たちの彫刻

看板をすり抜けた先にこんな空間が広がっていたとは!
”千と千尋の神隠し”のトンネルをふと思いだす。

中に入るとさまざまな作品が静かに空間を彩っていた。

白い服 未来の思い出
movements
16本のロープ
Force
LOST #6

ほぼ独り占めの空間で、ゆったり流れる時間を漂う。
予習をしてきたらもっといろいろなことを知れたであろうが、
予習をしてこなかったからこそ、瞬間の感動に出逢えた。

想像以上に美術館を満喫し再び八千代さんの元へと向かうと、

「よしこさん、連れて行きたいところがあります」

ドキドキするようなお誘いに思わず胸が高鳴る。
黒文字の心地よい香りに包まれた助手席へと乗り込むと、もうマシンガントークの幕開けだ。
曇り空の中、車は山へ山へと向かっていく。

到着したのは、

コーヒーとタープ

「コーヒーとタープ」という美味しい珈琲をいただけるお店。
目の前には「やぶこざきキャンプ場」というテントの張れる眺めの良い空間が広がっている。

やぶこざきキャンプ場

ここで珈琲と米粉のチーズケーキをいただく。

珈琲と米粉のチーズケーキ

ものすごく美味しかった。
いや、どこで食べても美味しいと思うが、木の温もりと積もる会話がさらに美味しさを引き立ててくれた。

話を聞きにきたのに、聞けば聞くほど自分が整理されていく。

「そうなんですよ」
「わかります」

そうして飲み干した珈琲をいつまでもすすりながら、暗闇が近づいてくるのを感じた。

予報通りポツポツと冷たくなりはじめた雨が降りはじめたので、待ち合わせの場所まで再び引き返す。

2時間ほどひとり時間。
外は雨。
ふと、先ほどの美術館を思いだす。
あの中庭の池の周りにはベンチがあった。
そこでしばらく奏でる音に揺れながら、ひとり想いを巡らせる。

思考の時間

1時間近くいただろうか。
寒くなってきたので、次の待ち合わせまで車の中でひとり時間を愉しむことにした。

次の待ち合わせは夕食。

「よしこさんと行きたいお店があります」

どれだけの時間をわたしにくれるのだろう。
感謝の気持ちで待ち合わせの場所に向かう。

ゆげ

カウンターが好き。
どうも真正面に座るのはニガテで、隣かコの字に座るのが好きだ。
カウンターのあるお店ではカウンターを選ぶ。
この日はわたしたち二人だけがカウンターを独占できたので、贅沢な時間をここでも過ごすことができた。
そのうち店主である弓削さんも話に加わり、完全に3人の女子会とばかりに盛り上がった。
そう、ノンアルコールなのに。

”ゆげ”は十日町の食材をふんだんに使用し、素材の良さを活かした料理と店主の粋なはからいが魅力のお店だ。
やさしい味付けと素材の旨みがからだに沁み渡ってゆく。

ゆげのお料理

なんて幸せな時間なのだろう。

オンラインの便利さは世界を変えてくれたけれど、こうして同じ空間で美味しい料理をいただきながらの語らいは、五感を刺激し創造力を豊かにしてくれる。

深い夜がはじまり、ようやくカウンターから身をおこし、忘れえぬ時間をくださったゆげに別れを告げ、今日の宿へと向かった。

宿

今回の宿は車中泊と決め込んでいた。
知らぬ土地での車中泊にはワクワクとドキドキがついてくる。
でも、八千代さんがご自身のアトリエでの宿泊をご提案くださった。

車中泊はわたしも自分がするまではかなり恐怖なものという感覚があったので、人に話すと大抵不安がられる。
八千代さんもおそらく心配してくださったのだろう。
そんな温かいお気持ちに甘え、この日はアトリエに宿泊させていただいた。
でもベッドを汚したくなかったのでベッドの上にシュラフで。

間違いなく心地よい眠り。

二日目

いつも通りめざめの時間は早い。
さすがにいつものヨガと筋トレは割愛し、八千代さんに伺った早朝からやっているという温泉へと向かった。
靴箱に靴をしまい、眼鏡を下の方にかけた受付スタッフ(どうも店主だったらしい)にお金を支払いロッカーの鍵を受け取る。
薄手のダウンを着たわたしに、
「そこまで寒い?」
と店主は苦笑い。
数種類のシャンプーとリンスが置かれていて、好きなものを選び小さなプラスティックの容器に入れて使えるらしい。
ここはじっくり説明書きを読む。
結局、なんとなく良さそうだと感じる文言を頼りにひとつを選び、浴場へと向かった。

雨の朝

雨の露天風呂

いつもより長く浸かる。
温泉のある国に生まれて本当に幸せだと思う。

まだ、朝だった。
ふと、Googleに聞いてみたら車で30分ほどのところに景色のきれいな場所があるようだったので、もしかしたら雲海が見えるかも?と車を走らせた。
目的地は少し標高の高い場所。
上がるほどに雲の中に忍び込んでゆく。

わかってはいたが奇跡を信じるのが登山家である。
いや、ここで登山はしないのだが。
そして、奇跡は起きずやってきたのは大粒の雨だった。

それもいい

そうして八千代さんのアトリエに戻る。

「今日のスケジュールを発表します」

修学旅行の部屋割りを聞くみたいに、ワクワクしながら発表を待った。
その中にはわたしが気になっていた「最後の教室」も入っていた。

「ではまず "最後の教室” に行きます」

そうして、わたしの車はアトリエに置き、また黒文字の香りに包まれた助手席へとからだを滑らせた。

「その前にちょっと寄り道していいですか?」

寄り道は大好きだ。
八千代さんは、絶対に他の人はいないであろう場所に車をとめ、

「この辺にあると思うんですよね」

と、森深くズンズン進む。
人は来ないだろうけれど、なんとなく持ち場を任された気持ちになり車の側で待っていると、嬉しそうになにやら葉っぱを手にした八千代さんが戻ってきた。

黒文字を手にした八千代さん

「ありました!」

その手には黒文字。
茎からもあの香りが漂ってくる。
車の助手席と同じ香りだ。

「よしこさんに実物を見せたくて」

嬉しそうに黒文字を抱えている彼女の姿は、まるでクリスマスプレゼントを抱えたサンタさんのようだった。
そうして黒文字に視覚も嗅覚もわしづかみにされ、目的地 "最後の教室" へと向かった。

ただならぬ空気感を思わせる外観。

「最後の教室」が展示されている旧東川小学校

校舎の前に咲いたひまわりが立ち枯れし、ここから演出がはじまっているような気さえする。

立ち枯れしたひまわり

体育館を入ると闇に慣れるまでまったく何も見えない。
数分経ち、自分がどんな空間に存在しているのかが見えてきた。

体育館

そこから階段をのぼり、2階、3階の展示室へと向かう。

廊下
展示のひとつ
展示のひとつ

なんだろう。暗い教室というだけで恐怖が襲ってくる。
保健室、理科室、という看板はそれだけで不安を煽る。

決してお化け屋敷のように怖いところではない。
ただ、ひとりではわたしはきっと前に進めなかったと思う。

ただ、暗くて不安な空間にも懐かしさや温かさを感じた。
神経が研ぎ澄まされる、そんな時間をここでは過ごすことができた。

次に向かったのは「家の記憶」

「家の記憶」

ポツンと一軒の古い家が建っている。
なんて窓の配置がおしゃれなんだろう、などど外観から惚れ込んでしまった家に一歩入るとそこは、

「家の記憶」の中

黒い糸で張り巡らされた空間だった。

これはもしや!

塩田千春さんの作品だった。
塩田千春さんは六本木の森美術館で2019年に開催されたインスタレーション
「魂がふるえる」の作家である。
わたしはこの展示で初めて塩田さんを知ったのだが、その想像を超える展示にずっと鳥肌がたちっぱなしだったのを覚えている。
まさに、魂がふるえる時間だった。
その塩田さんの作品がここ十日町市にあったとは!

八千代さんはわたしが塩田さんの作品の話をしていたので、黙ってここに連れてきてくださったのだ。
なんという粋なはからい!

塩田千春さんの作品
2階も黒の糸が張り巡らされている

興奮しながら部屋の隅々まで見学する。
すると、この展示室の守人が「これなんだかわかる?」と外から声をかけてくれた。

雪囲い用のフック

豪雪地帯では、雪の重みで窓や壁が壊れてしまうのを防ぐために、板を立てかけ寒さや強風から守るよう行う伝統的な工法のようだ。

「これも珍しいでしょ?撮っておきなよ」
やさしく案内してくださる守人もまた、ここにきたくなる所以になっているに違いない。

昔の暮らしがここには息づいている

そうして外に出ると、「こっちこっち」と案内された家の裏には怪しげな洞穴があった。
この家の元の主人がシェルターがわりなのか、食料の保存のためか、掘られたのではないかと推察されていた。
中に入る勇気はない。

家の裏にあった洞穴
家の前に置かれた動物のモチーフ
「家の記憶」近くにある大宝神社
神社の横にある御神木は樹齢300年以上といわれる巨大な杉の木

朝から、いや前日から存分に新潟は十日町を満喫している。
ちょうどおなかが空くころとなり、お昼を食べに出かけた。

お昼に八千代さんが選んでくださったのはなんとラーメン。
新潟でラーメンとは珍しい気もするが、ラーメン好きのわたしには逆に新鮮だった。

それは「越後妻有大厳寺高原キャンプ場」にある。

「越後妻有大厳寺高原キャンプ場」
食堂はこの中にある
ニラたっぷりのラーメン

スタミナラーメンのようだけれど、そこまでこってりしておらず美味しかった。
このキャンプ場が魅力的で敷地はかなり広く、池ではsupもできるよう。
一度キャンプでも訪れたい。

広大な敷地
ロッジも可愛い
supのできる池

最後に「美人林」に少し立ち寄り八千代さんのアトリエへと向かった。

美人林

無計画だった旅が、わたしひとりではいけないところや、地元人ならではの目線で魅力あふれる十日町を案内してくださった八千代さんには感謝しかない。おまけに寝床まで!

そんな八千代さんのアトリエは、とてもおしゃれな空間だった。

志水八千代さん

今回の新潟の旅は、何より人ではじまり人の温もりで終わった旅だった。
その町が好きになるかどうかは、そこにいる人に魅力を感じるかどうかでもある。
地に足をつけて生きている八千代さんの力強さに、たくさんの刺激をいただいた旅であった。

また、訪ねます。
今度はテント泊かな(笑)。

さあ、これで帰宅の途につくと普通は思うであろう。

これは実は前半戦。
このあとわたしは東京ではなく山梨へと向かった。

つづきは次回。

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