錦繡枕 第一巻 (前半)
「錦繍枕」は元禄5年(1692)に伊藤伊兵衛のはじめての著作として
発表されたツツジとサツキの園芸専門書です。
このページは国立国会図書館所蔵公開の原本を、そのまま影印し
1頁づつに読み下し文を添えたものです。
なお読み下し文には、現代人に読みやすくするため、原著を損なわない範囲で手を加えました。
ところどころに、読解に四苦八苦している私たち😂😂 の“ナマの呟き”を差し込んでいます。
皆様のご意見 をお待ちしております。

錦繍枕巻一 序
万歳と治まれるなれば 国富み民も
ゆたかにして 四節の遊興花見など
せんは 唯この御代にや侍らん
かかる いみじき時にこそと
その名を 集め見侍れば
つつじ さつき の二種よりして
昔今年々増加して 千変万化
なる事 すべて三百余品あり。
大概花形を図にあらはし
並びに 大小色を印し
初中後の咲き合い 接ぎ指し

木の時分を加える。
実《げに》家を立ちさらで
数花を評して見侍れば
暫時みし塵室《じんしつ》を
仙家のごとく思い
肘をまげたる枕のうち
錦の床の手枕となん
楽しむならんかしと
錦繡枕というなりし。
1-2 ~1-3 現代語訳:
ずっと平和が続き 国も民も豊かになったおかげで 四季の遊びに花見などするようになったのは 今の世なればこそでございます。
こういう時にこそと花の名前を集めてみましたら つつじさつきの二種類でさえも年々増加していろいろと違う花が 三百品種以上もありました。
だいたいの花はその形を図として表し 加えて大きさと色 咲きはじめの時期また接ぎ木さし木の適期も記しました。
まことに自宅にいて花を観察しておりましたなら 私のあばら家も夢のごとき家に思えて 肘枕を錦の枕と思うほど楽しい気分なるがゆえに この書を「錦繡枕」と名付けたのでございます。


目録凡例
一、花形を図画にあらわし色品を印すは
今町店荷売を見るに 花と名とことごとく
相違の侍ればなり
一、合紋をして 同時に咲く花を断るは
接ぎわけなどする人のためなり
接ぎわけに花の前後あれば
見る目もくるしきもの也
一、つつじさつき接ぎ様いろいろ図を
以てしるす ならび時分までくわしく

一、同指し木の仕様 色々
土の調様枝ぶりさしやう まま
図を以てしらせ ならび水のうちようまで
やしない 土の配剤付こやしの加減
一木に多名あるをば 其下にあらわす
立花につかいて よき枝の分も其の下に断る


〇此の印 初咲のるいをあつむる
大概 二月時正のころよりさく
■此の印 中咲のるいを断る
時正より三十日程おうやうたがわず
咲く組 きりしまという花
と 同時に咲くるい也
▲此の印 後咲く るいをあつむる
之も つつじ の るいにて侍れども

きりしま よりおそく 又 さつき よりも
早ければ 此のるい をあいのものという
つつじ と さつき のあいに咲けばなり
一、いわゆる春咲く るいを つつじといい
初夏より咲くを さつき というとぞ
しかあれど 春咲く さつき 有
木の性 さつき なれば さつき

の内にしるす また夏咲くつつじ有
これも性 つつじ なればつつじの部に記する
おくにつまびらか

太りん図
太りんとは 大概 これほどなるをいう
すえの色付けの下に 大中小輪を しるす
ゆえ その分限を ここに あらわすなり

大りん図
是また太りんよりちいさく 中りんより
大きければ 是も大りんとして
そのしるしに このくらいなるには
大の字をもってしらせ まえの大きなる
には 太字に

てんを打ちて断る
中りん図
此のくらいなるを 中りんとする也

小りん図
是を小りんと定むる
少りん図
是又小りんよりも小さければ
是もしるすに少

の字を書す
右は大概なり その内また大小のちがひ
少しづつ これ有
さきわけ図
この如くなるを さきわけと


いう すべていろいろ大筋にて
咲きわくるいう也
とびいり図
あらあらと かすりて
少しづつ筋あるを飛入という


さらさ図
大すじ少しづつまじり こまやかなるすじ
たくさんなるを さらさという

しぼり図
是も大すじ少しずつ 入り
ちぢめる すじなど有り
またこまやかなる ほしもあり
しぼりと云う

かのこ図
少しずつ 大すじあり ほ
そきすじもありて
ちいさきほし たくさん
いるを かのこという


こしみの図
花の腰に そのかたちのあれば
こしみのという 花形いろいろ侍れども
腰を見せんため わざとそらにむけて
図する也

せんゑ図
此の如く しべもなく 中ほど
高く 段々かさねたるを
せんゑといふ せん葉と
いう 同断なり


まんゑ図
花形五葉にして 中
にほそながき葉 たく
さんあり 是の中ほど
ひくく咲くを 万重と云う
万葉というも同断也


目録凡例終わり
