雨の日のタクシーは人生の交差点。7組のお客様と、もらい事故と、古代のロマン。
雨が降る木曜日の熊本。
今日は朝から夕方までで計7件の乗務でしたが、まるで短編映画を何本も見たかのような、とても濃密な一日でした。
タクシーという四角い密室には、本当に様々な事情を抱えたお客様が乗り込んできます。
朝イチの配車アプリ(DiDi)からのご依頼は、まさかの逆方向トラップからのスタート(笑)。富合町までお送りし、高速を使って急いでリカバリーし、今日が始まりました。
ビジネスマンのお客様(第一テクノへ)をお乗せした際は、車内での電話の内容で「あ、急いでいらっしゃるな」と瞬時に察知。目的地に到着すると同時に「爆速」でお会計を済ませるのも、腕の見せ所です。
かと思えば、別のビジネスマンのお客様(市街地ホテルへ)は、車内でずっとお電話とメール対応。こういう時は、私は完全に気配を消し「黒子」に徹します。移動時間がそのまま快適なオフィスになるよう、静かに、そして安全に車を走らせます。
一方で、車内が賑やかな作戦会議室になることも。
中核工業団地へ向かう女性3人組のお客様は、「職場の『お土産ポリス』の目をどうくぐり抜けるか」という切実なテーマで大盛り上がり。数が足りない、切り分けるのは面倒と言われる、個別包装じゃないと…と頭を悩ませるお三方の様子に、心の中でこっそりエールを送りました。
そして今日、一番心に残ったのは、市内葬儀社へ向かう親子のお客様です。
悲しみの中にあるお客様をお乗せして、私が選んだのは、少し昔ながらの風景が残るルートでした。降車される際、「懐かしい道を通ってくれてありがとう」とポツリとこぼされたその一言。ただA地点からB地点へ運ぶだけでなく、移動の時間を通じてそっとお客様の心によりそうことができたのかなと、ドライバー冥利に尽きる瞬間でした。
予期せぬトラブルと、意地
そんな充実した乗務の合間、市街地ホテルでお客様を降ろして停車していた私の車に、後ろから来た一般車が接触する「もらい事故」がありました。
幸い怪我もなく、車の損傷もごくわずか。すぐに警察を呼び、保険会社への手配を済ませました。普通ならここで「今日はもう帰ろうか…」と心が折れそうになる場面かもしれません。でも、私の心の中には「やだ、まだ仕事する」という謎の意地が湧き上がってきました(笑)。これも、個人タクシーのタフさかもしれません。
気を取り直して向かった最後のお客様のご案内先でのこと。「田崎本町のスーパーキッドですね!」と自信満々にお伝えしたところ、「運転手さん、あそこは春日ですよ」とお客様から笑顔で訂正が。
すぐ横の交差点が「田崎本町」なので完全に思い込んでいたのですが、住所を調べ直すと確かに「春日」。長年走っていても、お客様から教わることはまだまだたくさんあります。日々アップデート、ですね。
待機時間の頭の中は、数千年前にタイムスリップ
雨の日の運転は神経を使います。待機時間にはシートを倒してしっかり仮眠を取りつつ、頭の中では明日の「観光ガイド」の予習を進めていました。
最近私が夢中になっているのが、宇土半島周辺の古代ミステリー。
今は完全に内陸の場所なのに、なぜか大量の海の貝が出土する「阿高・黒橋貝塚」。

そこから時代が下ると、今度は淡水のシジミばかりが出土する「御領貝塚」へ。

これらは、数千年前の熊本が海だったこと(縄文海進)、そして徐々に海が退いて陸になっていったことを雄弁に物語っています。
面白いことに、奈良時代の人々も内陸の貝塚を見て「なんでこんな所に貝が?」と悩んでいたそうです。『常陸国風土記』には「巨人が海まで手を伸ばして貝を食べ、その殻が積もった」というダイダラボッチ伝説として記されています。

最新の地形変化のダイナミズムと、古代人の想像力から生まれたファンタジー。そんな歴史のロマンに思いを馳せていると、もらい事故のモヤモヤなんてすっかりどこかへ消え去ってしまいます。
タクシードライバーとしての「一期一会」の人間模様。
そして、地形や歴史が教えてくれる壮大な地球のドラマ。
色々なものが交差した木曜日。
明日はタクシーを降りて、観光ガイドとして熊本のディープな魅力をたっぷりお伝えしてきます。明日も「余裕のアクセル」で、安全第一で楽しみます!
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