ボルドーから世界に流出したカベルネ・ソーヴィニヨン(経済の話です)
日本の農産物が世界で高い評価を受けています。
シャインマスカット・巨峰、あまおう・白いイチゴ、和牛、お米、そして日本茶。
真面目で研究熱心な日本人は、長い期間をかけて品種改良を繰り返し世界が驚くほど美味しい品種を作り出してきました。
しかも、日本の農業の凄いところはそれだけではありません。
作物を育てるときも、世界が真似できないほど丁寧で丹精込めた方法で育て、一つひとつの作物の品質も圧倒的に高いものを作り出してきました。
日本の農産物の品質に驚いた外国人が日本の農法を勉強しにきたとき、皆、日本の農業の懇切丁寧さに度肝を抜かれるといいます。
それぐらい日本の農産物はすごいのです。
さて、そんな世界に誇る日本の農産物ですが、無断で海外に流出しているという話はお聞きになったことがあると思います。
日本からこっそり種を持ち出し、海外で育てて日本のブランドをそのままパクる。
または、日本産っぽい農産物を安価で大量に作って、それを流通させて儲けようとする。
そんな事例が後を絶ちません。
国としても種苗法を改正したり、海外での品種登録の促進や地理的表示の保護制度を様々な国と締結することで、何とか対応しようとしています。
本来なら、もっと事前に対応できていれば良かったと思いますが、日本としてもそういった知識の無い段階で狙われてしまったということが悔しいですね。
ところが、優れた品質の農産物を作りながらも世界に流出して後悔してしまったという事例は何も日本だけには限りません。
例えば、ワイン用のブドウとして有名なカベルネ・ソーヴィニヨン。
カベルネ・ソーヴィニヨンはもともと、フランスのボルドー地方で作りだされたブドウでしたが、今では世界の至る所で栽培され、高品質のワインを作るために使われています。
実は、ボルドーから流出したブドウはカベルネ・ソーヴィニヨンだけに限りません。
シャルドネやメルローなど、ボルドーから流出したブドウ品種は数え上げたらきりがありません。
今回は世界で最高のワイン用ブドウ品種を作り続けながらも、ほぼ全てが世界に流出してしまったボルドーが如何にして挽回したのかをお話ししたいと思います。
ブドウの栽培に適していた奇跡の土地
先ほども少しお話ししましたが、ボルドーは世界で有名なワイン用ブドウ品種を非常に多く生み出しています。
そして、そのほぼ全てが世界に流出してしまっています。
そもそもなのですが、なぜボルドーはこんなに高品質のブドウに恵まれたのかご存じですか。
まず初めに、前提としてボルドーでは複数の品種のブドウをブレンドしてワインを作るという伝統があります。
これは天候が不安定で、1つの品種に限定してブドウを栽培していると何かあったときに全滅してしまうリスクがあるため、リスク分散をするために同じ畑に様々な品種のブドウを植えてブレンドするという技術を発達させました。
そして、この同じ畑で様々な品種を育てていたというのがポイントです。
近い距離で異なる品種を育てた結果、偶然に異なる品種で受粉することが起こります。
その結果、自然に掛け合わせが行われ、偶発的に新しい品種が発生するのです。
タイトル名に挙げたカベルネ・ソーヴィニヨンも、畑の中で偶然カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランが交配して育ったものを、人間が発見して増やしていったものです。
勿論、気候と土壌の影響もありますし、ボルドーが一時期イギリス領になった歴史的経緯も関係しますが、これ以上はワイン愛好家の方にお譲りすることにして、一旦、この辺りで止めたいと思います。
これ以上入り込むと、出てこられなくなりそうですからね。
ここでお気づきになったでしょうか。
ボルドーで高品質のワイン用ブドウ品種が沢山あるのは、気候や土壌に支えられた偶然の産物です。
綺麗にいうなら奇跡です。
一方、日本の品種改良は、日本人が何代もかけて品種改良してきた努力の賜物です。
だからこそ、日本のお米などは日本中あちこちの都道府県で、色んな気候、色んな土壌でありながら新しい品種が次々と開発されているのです。
日本の品種改良、すごいですね。
世界に広まったボルドーのブドウ
話を戻します。
偶然、高品種のブドウを大量に保有していたボルドーは、自分達の“誇り”を世界に広めようとせっせと輸出します。
先ほどは日本の品種改良の凄さをお話ししましたが、ボルドーの方たちだって、勿論、それはそれは丹精込めてブドウを作っています。
そして、せっかくこんなに良い品種のブドウが出来たのですから、世界中の人たちにも良いワインを味わって欲しいですし、こんなすごいブドウを広めることが出来る自分達も嬉しい。
そんな気持ちでブドウを世界に広めていきます。
世界でブドウを見せると、世界中の人たちが喜んでくれて、賞賛してくれる。
まさに、自分達がこれまで育ててきた努力を認められる訳です。
そんな中、あるとき、ボルドーは大災害に見舞われます。
アメリカからフィロキセラというブドウ根アブラムシが持ち込まれ、ボルドー中のブドウを壊滅させました。
今も昔も外来の害虫は恐ろしいですよね。
害虫は瞬く間に流行し、なんとボルドーではブドウを作ることが出来なくなってしまいました。
しかし、ボルドーの方々は諦めません。
自分達の大切な苗木を持ってアメリカ大陸に渡り、そこで新たに害虫に強い品種に接ぎ木するなどして、害虫に打ち勝つ道を選んだのです。
何とも頭が下がる熱意ですが、皮肉にも、この動きが外国へのブドウ品種の流出を加速させました。
当時は知的財産の発想もなく、ボルドーの方たちは特に流出について気にも留めていなかったのです。
ところが、そんなボルドーの方たちを驚愕させる出来事が起こります。
ボルドーのブドウ畑が壊滅し、ボルドー産ワインの出荷が激減したため、世界中でボルドー産の偽ワインが出回ったのです。
当然ながら、偽物のボルドーワインが本物のボルドーワインの代わりになる訳はありません。
その結果、偽のボルドーワインを飲んだ人達が美味しくないという評判を広め、大変悔しいことにボルドーワインの評価自体が下がっていってしまったのです。
同じような出来事はシャンパーニュ地方でも起こりました。
フィロキセラの病害でシャンパンの出荷が減ったときに、同じように偽物のシャンパンが出回ったのです。
シャンパーニュの人たちはこれに激怒し、偽ワイン業者を襲撃しました。
この騒動はどんどん大きくなり、街に火をつけるというところまで発展したため、一時は軍隊を動員せねばならぬほど深刻化したといいます。
シャンパーニュ暴動です。
これを受けて、フランスは大慌てで対策を練ります。
まず初めに、産地を厳格化する地名保護法を制定しました。
しかし、それでもまだ不十分で、悪質な業者はボルドーやシャンパーニュの土地で畑を作り、低品質で安価なワインを作って売りさばきました。
そして次に出来上がったのが、原産地呼称統制(AOC)です。
ブドウの産地だけでなく、品種や栽培方法、さらには収穫量やアルコール度数まで細かく規定しました。
こうして、フランスの高品質ワインを守ろうとしたのです。
ちなみに、これと同じ動きは日本でもありますよね。
地理的表示(GI)保護制度です。
但馬牛や神戸ビーフ、夕張メロンなどが有名ですね。
ですが、これだけではまだまだ十分ではありません。
ブドウの生産量を回復していったフランスですが、その後、またしても衝撃的な出来事がおこります。
1976年の目隠し試飲会で、カリフォルニアで品種改良されたカベルネ・ソーヴィニヨンを使って作った格下ワインが、ボルドー産の最高級ワインに勝ってしまいという驚愕の出来事が起きるのです。
日本で言えば、日本よりもおいしい外国産のシャインマスカットが出てくるといったところでしょうか。
こんなことが起きたら、もう耐えられませんよね。
フランスとしても、もはや、カベルネ・ソーヴィニヨンという品種は広く世界に流通しており、フランスだけに取り戻すことは出来ません。
そこでフランスがとった戦略は、醸造所(シャトー)のブランド化です。
フランスの醸造所は、なんと細かく格付けされていて、「この由緒正しく歴史あるワインを作るためのブドウは、世界でもこの畑でしか作ることはできない」とブランディングするのです。
本当、ヨーロッパ人ってブランディングが上手ですよね。
残念ながら、日本ではまだそこまで産地のブランディングが出来ているとは思えません。
シャインマスカットをとってみても、シャインマスカットという果物自体は高いブランド力を持ちますが、山梨や岡山といった地域の名前までは世界に広まっている訳ではありません。
今後、日本が日本の農産品のブランド価値を高めていくのであれば、是非品種だけでなく、日本の産地や、その産地のこだわりや歴史までブランド化していかないといけないのかも知れませんね。
松本 佑介 @ 枚方を動かす新しいチカラ
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