短編小説9「死なない中学生、藤実柊也」
《俺はこいつが理解できねぇ!!マジか!!》
学校の廊下を歩く藤実柊也(とうみ・しゅうや)を廊下に出ている生徒が横目で見る。コソコソと話し、クスクスと笑い、しかしすぐに次の会話へと移る。毎日のことで慣れている藤実は早足でトイレへと歩を進めていた。
「柊也っ」
「……」
早足でトイレへと向かう藤実を松葉大兵(まつば・だいへい)が呼び止めるが、藤実は歩を緩めること無く、トイレへと入っていった。
「無視すんなよなぁ。悪かったって。まじで。悪かった」
松葉は、軽い笑い交じりに藤実の肩に手を置く。特に振りほどくわけでもなく、藤実はそのまま抑揚もなく返事する。
「別に怒ってないし」
「それが怒ってんだってー」
ニヤニヤと言う松葉だが、それを無視する藤実。
「……」
「うわっ、血出てんじゃん。まじごめん」
松葉が見たのは藤実が手を洗っている洗面器だった。いま、薄赤色の水が排水口へと流れていっているところだ。
藤実は何か怪我をしている。さすがに何か思うことがあったのか、少し真面目に松葉は真面目に謝っていた。
「僕は慣れてるから気にしないで」
「……ごめん」
相変わらず肩に手は置いたままだが、ニタニタはしていない。
「あとは大兵だよ」
「え?」
「僕に気軽に話しかけないでもらえるかな」
「なんでだよ」
藤実の抑揚のない言葉に少しイラついたのか眉間にしわを寄せる松葉。
「君は自分を守ってればいい。僕はそれに協力してるんだ」
「どういうことだよ」
「僕がターゲットで居続けてあげる」
「まじで!? 助かる! さんきゅ!」
おそらく虐めのターゲットのことだろう。松葉も自分がターゲットになりたくない。その理由で藤実を虐めているのかもしれない。
「大兵は友達だからね」
表情のない藤実が言い終わる間もなく、松葉はトイレから出て行った。
★
その日、下校時間を少し過ぎて藤実は頭を濡らし校門に姿を現した。すぐ後ろからは数人の男女と共に松葉が楽しそうに歩いてくる。
「明日も頼むな」
松葉は追い越し際に囁き、数人の男女とともに先を歩いて行く。
「うん。明日もね」
小さく呟いて藤実は帰宅する。
家に着くと、そのまま部屋に向かい、すぐに座り込んでいた。
部屋の中央にはいつもの様に輪っかのついた紐が垂れ下がっている。
「今日は机の中に画鋲が入ってた。上履きは靴底が剥がされていた。机の落書きは昨日よりも一つ『死ね』が増えていたな。教科書はボンドで接着さていたから読めなかったよ。誰も貸してくれないし、見せてもくれない。放課後は雑巾の水をかけられて。何回蹴られたかわからないけど痛かったな。内臓くん、大丈夫かい? うんうん、そうかそうか大丈夫ならいいんだ。さて、明日は何されるのかな」
一日分の我慢を吐き出しながら啜り泣く藤実は、ゆっくりと立ち上がると天井から垂れ下がる紐に近づいて行く。
その下に用意された台座に足をかける。
深く息を吐きながら紐へ両手を伸ばす。
ぎゅっと握る。
力を入れて紐を引き寄せた。
「……ひもQ、おいし」
モグモグ。
完
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