脚本34「リュックの中身」
《そのリュックを手放してはいけない》
●登場人物
◯中継太鼓(なかつぎ・だいご)
◯藍夏季(あい・なつき)
◯賀尾茸桃(がび・たけもも)
○程野宮幸(ほどの・みやゆき)
●美容室の入り口でリュックを抱える中継太鼓。
藍「いらっしゃいませ、ご予約ですか?」
中継「はい、三十分に予約してた中継太鼓です」
美容室に髪を切りに来た中継。
藍「はい、ではそちらの椅子でお待ちください。お荷物はお預かりしますか?」
中継「いえ、大丈夫です」
中継はリュックを預けず、抱えたまま髪を切ってもらうつもりだろうか。
藍「髪を切るときには邪魔になるかと思いますが」
中継「いいんです」
いいんです。といっても髪を切る側からしたら邪魔だから預かりたいのだが、頑なに荷物を離さない。
中継「今日は全体的に短くしてください」
藍「伸びた分を切る感じですかねぇ」
中継「そんな感じで」
藍「じゃあまずは髪を洗いましょうか」
中継「はーい」
中継はリュックを抱えたままシャンプー台へ向かう。
藍「リュック大事そうですね」
中継「はい、ちょっと、手放せなくて」
藍「何が入ってるんですか?」
中継「……秘密です」
藍「知ったらどうなるんですか?」
中継「知ったら……ふふふ、消されます」
藍「それは隠し通さなければっ」
中継「ええ、秘密なんです」
髪を切り終わった中継が店の外に出ると、男が突っ込んできた。突き飛ばされて転んだ中継からリュックを引っ手繰る。
賀尾「ははは!」
中継「おい、かえせ!」
賀尾「大事そうに抱えやがって、一体何が入ってんだ?」
中継「ダメだ! 開くな! 開いちゃいけない!」
賀尾「そんな焦ってるとこを見ると余程大事なものが入ってるんだな」
中継「待て! そっちは危ない!」
中継の制止は遅く、賀尾はトラックに突き飛ばされた。遠くに弾き飛ばされたリュックに一目散に駆け寄り、奪取した中継はそのまま走り抜ける。まるでアメフト選手のように。
中継「はぁっはぁっ」
程野「おい、待て! 君、待つんだ!」
中継「なんなんだよ」
リュックを持ち去る中継を引き留めようとしたのは、交番の駐在程野だ。彼は中継がトラックにひかれた賀尾の荷物を盗み去ったと勘違いをしていた。
轢かれた賀尾は他の駐在に任せ、程野は自転車に飛び乗り追いかける。
程野「待ちなさい!」
中継「なんでこうなるんだよ!」
ビルの中に逃げ込む中継。階段を駆け上がり屋上の防火扉の中に隠れた。程野も自転車を停め追いかける。
程野「どこに行った」
中継「……」
程野「乞食みてぇなやつだ」
中継「これは元々俺のもんだし」
程野「……屋上に逃げ込んだのは聞いてるんだ! 出てこい」
中継「目立ちすぎたか」
バンっと、防火扉の裏から飛び出す中継は、程野の後を駆け抜け屋上の扉に手をかける。と銃声。
程野「動くな!」
中継「嘘だろ……こんな街中で撃つかよ……」
程野「そのリュックを渡すんだ」
中継「これは、最初から俺の物なんだ」
程野「そんなことは知っている。いいから寄こすんだ」
中継「知ってるだって? ならなんで追って来た、あの引っ手繰りのだと思ったんじゃないのか」
程野「あいつがひったくり犯だということはすぐにわかったさ」
中継「わかってて」
程野「俺が欲しいのは、そのリュックだからだよ」
中継「なんでだよ、なんでみんなこのリュックを狙うんだよ」
程野「中身が知りたいからだよ」
中継「中身を知りたいだけで追い回すのか」
程野「中身は何なんだ?」
中継「……秘密だ」
程野「なら力づくで開くまでだ」
数発の銃声と金属音。中継はギリギリで屋上の扉を閉め、その場から去った。
程野「逃がしたか」
☆
中継「なんで皆このリュックを狙うんだ」
中継がビルから出たときには、逃げ場がなかった。一般の人も含めた近場の全ての人が仕事もほっぽり出して集結していたからだ。
全員の視線はリュックに集まる。
中継「嘘だろ」
パァンパァンパンッ。終結する群衆の一部が倒れた。直前に銃声が聞こえたという事は、誰かが撃たれたということ。群衆は一気に騒ぎ出した。
その騒ぎに乗じて、出来た隙間から逃げる中継。
その後方で。
程野「そのリュックは俺の物だぁぁぁぁ!」
グシャアアア。
群衆を撃った男は屋上から飛び掛かって来た。その男は地面に叩きつけられてはいない。群衆の中に着地していた。
程野「どこに向かった」
サイボーグのように立ち上がる程野。この数秒間で何人の負傷者が出たのかは、まだ計測されていない。
☆
中継「あの警官、やばい」
藍「こっち! 中継さん!」
中継「え?」
美容室の藍が手巻きする。全員がリュックを狙う中、藍が狙っていないとは思えない。無視して駆け抜ける中継の目の前に現れたのは、さっきトラックに撥ねられた賀尾。
傷だらけの男が一目散に迫ってくる。
藍の手招きに乗るしかないと踏んだ中継は、その建物へ飛び込んだ。
藍「隠れて、こっち」
賀尾「どこ行った!」
中継「ありがとう」
藍「まだあいついるよ」
賀尾「リュックの中身を見せろ!」
藍「なんだってリュックの中身ごときでこんな事になってるのさ」
中継「知らないよ! てかあんたはなんで助けたんだよ」
藍「助けたかったからよ」
中継「え?」
藍「ずっと気になってたの」
中継「え?」
藍「そのリュックの中身が!」
中継「お前もかぁーーー」
また逃げる。建物から飛び出す中継。
扉を突き破ると同時にブレーキをかけた。目の前に賀尾が立っていたからだ。
賀尾「見つけたぞ!」
中継「ひぃっ」
と、目の前から賀尾が消えた。ガッと鈍い音と一緒に。
自転車に乗った程野が体当たりしたのだ。
程野「さて、リュックを渡しなさい」
中継「まじかよ」
程野「はぁはぁ」
藍「渡さな」
パァン! 藍が言い終わるまでもなく発砲。
賀尾「てめぇ」
パァン! 賀尾も撃ち抜かれる。
中継「……」
腰を抜かしてへたり込む中継はリュックを強く抱えたまま動かない。
カチッ、カチッ。
程野は中継を撃とうとしたが、弾切れのようだ。
中継「……」
抜けた腰に力を入れ、程野を突き飛ばし、自転車を奪い取る。
程野「ま、てぇぇ!」
中継「はっはっはっはぁ、はっはっぁ」
全速で自転車を漕ぐ中継は全てを振り切った。
自宅にたどり着いた中継は、玄関にリュックを放りソファへ。
中継「リュックの中に何があるってんだ」
窓に知らない人が張り付いているのにも気付かず、ソファで眠りこけた。
完
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