短編小説16「冒険家」
《今の地球に未踏の地ってどれくらいあるんだろう》
地球にはブラックホールがいくつか存在する。
と言ってみたが、宇宙にあるそれではない。もしも地球に本物のブラックホールがあるのなら、地球は存在していないだろう。
私の言うブラックホール、それは巨大な《穴》のことである。
有名な穴は《サリサリニャーマ》があるが、私は冒険の末それとは別に未知の穴を見つけたのだ。
私は探険隊に問いかけた。
「これはなんて名前の場所だっけ?」
「それが、わからないんです」
「そうか、ならこれは」
「ええ、新発見です」
冒険家にとって一番嬉しい瞬間は、これだ。《新発見》《未知》これほど好奇心とスリルを感じることは普通の生活では、まずあり得ないだろう。
その穴は、どこまでも暗く、地球のマントルにまで到達するのではと感じるほど深かった。
何せ、放り込んだ岩が下で衝突する音が聞こえなかったのだから。
私は暗闇に飲まれてみたくなった。この暗闇に対する恐怖を直に感じたい。そう思ったら止まらなかった。
「下へ行く。機材の準備をしよう」
探険隊に告げ、真っ先に下降用の機材のセッティングをした。あとで仲間に言われたが、その時の私はガタガタと震えながら笑っていたらしい。
穴よりもそれが怖かったと言う。
しばらく下降して状況確認のため声を張り上げた。
「おーい! 様子はどうだっ!?」
「異常ありませーん! 下がってくださーい!」
声は穴の中で反響を繰り返したが、蝙蝠などが暴れる様子もない。こういった穴や洞窟にいる動物が厄介だったりするから確認も必要なのだ。
それから暫く経ったころ、ようやく足元に何かが当たった。ロープの長さも足りなくなるころだったから丁度いい。
穴の底なのか、確認するため懐中電灯を足元に当てる。そこには土、いや岩のような地面が広がっていたのだ。
「底についたぞ!! かなり広い!」
しかし、声は届かないようだった。これは予測していた事だし、事前に決めていた合図として照明弾を上空、この場合は地上へ向けて撃った。
探険隊はチームを分けて一部が穴の底へ降りてきて言う。
「寒いっすね、さすがに」
「ああそうだな、早めに探索を進めようか」
陽の光が届かないここは、暗い氷で出来た部屋のように思えた。私は恐怖と共に高揚した。お気づきかと思うが、私の感覚は壊れている。ある意味では恐怖ジャンキーなのかもしれない。
降りた辺りを探索していると、地上から落とした岩が転がっていた。
見つけられた理由は簡単。印を付けていたからだ。
だが、どうだ。私は不思議に思う。投げた岩は砕けてなかったことに。
丈夫な岩だからってこともあるかもしれないが、穴の底もやたら丈夫な材質である。
なにかある。
この穴の底に何かある。
私の直感が確信を得たように自らの身体を先へ向かわせたのだ。
そして、私の直感に間違いはなかった。
そこには、穴の底の壁に埋め込むように神殿のような建造物の入り口があった。
この遺跡の研究は、まだ終わってない。どの時代、どの民族の遺跡なのか。
私は地底人の存在が明るみになる日も近いと直感している。
《地底人の住処 【著】ファジー・デュ・ノーチス》
☆
パタン、と過去の冒険家の本を閉じて書棚に戻す青年。室内だというのに、北極で過ごしているかのような毛皮のコートとフードに身を包んでいる。
その訳は、室内を見れば一目瞭然だ。ここは室内だというのに、所々が凍り付いている。外は一面雪や氷で白銀だ。
ここは図書館。遥か未来の氷の世界の図書館である。
地球に氷河期が訪れたこの時代で、まだ土の見えた時代の冒険家が書いた本を読む。彼の職業は《冒険家》。
既に埋め尽くされた、今では見ることのできない過去の世界を冒険する過酷な職業だ。
ここは図書館。《冒険家》が唯一冒険できる未踏の地である。
おわり
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