短編小説37「ヒーローメディア」
「何してんだテメェらぁ! 7区でフロッグマンとサンドアサシンが戦闘中だ! スクープだスクープ! とっとと写真撮って来い!」
ここはヒーローメディア編集部。ヒーローの活躍を毎日記事にしている会社だ。編集長のグレイズはスクープ狂でヒーローの写真を撮り漏らすことは許されなかった。
「編集長っ俺ぁ5区のMr.サムライとヘドロウィッパーんとこ行ってきやすぜ!」
「おうピーターっそっちは任せたぜぃえぃ」
ピーターはカメラを引っ提げて飛び出していく。今やヒーローの活躍は高値で売れる時代、カメラマンは良いショットを取る為に必死だ。
その中でもピーターはずば抜けて優れたカメラマンだった。一度出ると戻って来た時にはヒーロー3人の写真を撮ってくるほど。
☆
「おいミスター、苦労してんピョイ?」
Mr.サムライに話しかけてきたのは、バニーホッパー。バニーガールの恰好をしたベテランヒーローだ。
「バニー、相変わらず気色悪いでござるな。なに、ちょいと匂うもんで、あのヘドロ」
「ピョイッ、確かにくせぇぜ。そんなことより、ピーターがこっちに向かってるみたいだピョイ」
「なに? ピーターが? そうでござるか、ふむ」
ヘドロウィッパーを目の前にバニーとミスターが話し込む。ヘドロウィッパーは、隙をついてヘドロの鞭を振り抜いた。
同時にヘドロの雫が周囲にまき散らされる。
「ヘドロウィッパー! 待つでござる!」
「はぁん!? ヒーローの癖に命令すんじゃねぇドロロロン!」
ヘドロウィッパーは鞭を両手に持ち振り回し始めた。
「ピーターがこっちに向かってるようでござる!」
「てめぇメディアに利用されてるっピョイ!」
バニーとミスターが戦いをやめ、ヘドロに叫ぶ。
しかし、ヘドロは聞く耳を持たない。
「バニー、やはり動きを封じるしかないようでござる」
「ピョイなぁ。んしゃっ《ピョイッちステップ》!」
バニーは空を弾きヘドロに向かって飛び出す、ヘドロの鞭を足場に空を縦横無尽に飛び回り鞭の軌道をズラしていた。
隙を突くミスター。
「話を聞くでござる! 必殺《五鎖流霧(ござるぎり)》!」
Mr.サムライはヘドロウィッパーを両断。その中から人間が出てきた。
「やはりでござったか」
「相変わらずダセェ技名だピョイ」
「お主ほどではないでござる」
「なんだと! 俺の技名は可愛いだろ!」
技名で喧嘩するのはヒーロー同士でよくある喧嘩だが、この二人は長い事ダサランキングトップランカー。他にもダサ技はいくつもあるぞ。
「そんなことより、ヘドロウィッパーでござる。やはり人造ヴィラン…」
「だピョイ、そしてそこにいつも現れるピーター」
「そこにいるでござろう! ピーター!」
瓦礫の裏に向けて声を投げるミスター。その陰からガラリと音を鳴らしカメラのレンズが反射する。
「やぁやぁやぁ、Mr.サムライさすが! まさかバニーホッパーまで来てるとは、いい絵が撮れましたぁ! 必殺技もバッチリ、コリャ明日のトップだね!」
ヒラヒラとカメラを振り回し二人のヒーローに寄るピーターは、勝利のポーズを促した。
「…ござる」
「…ピョイよぉ」
二人は素直に勝利のポーズをし、シャッターが鳴る。息を合わせて、飛ぶ。
ピーターは瞬時に目の前に来たヒーローに腰を抜かした。
「ななんですかぁっミスターっ、バニーっ」
「ヘドロウィッパーは人造ヴィランでござる」
「ピョイなぁ、ピーター。お前の来るときはこういうことが多い」
「ござるな、ピーター」
「なんのことですか、いやだなぁははは」
「ミスター、追ってこれるピョイな」
一般人がヒーローに力で適うはずはない、ピーターはバニーの《ピョイッちステップ》で連れ去られた。
☆
ピーターはバニーの基地にいた。椅子に座らされたピーターにミスターが尋問する。
「そうでござるか、ならば貴様らヒーローメディアがヴィランを作っていると?」
「はは、そうさ、正確には俺らが機関に依頼して作ってるんだがな」
ピーターは拷問を受けているわけではない、捕えてるのはヒーローなのだから当然だが。しかし、素直に白状するには理由があった。
「だが、メディアを敵にするのはやめておいた方が良いミスター」
「…なぜだ」
「ふふ、ヒーローメディアはヴィランが作った会社だからさ、あそこはヴィランの巣も同然だ」
唖然とするミスターを無視してピーターは続ける。
「俺たちはヴィランを操りヒーローを利用してヒーローで稼ぐ。その利益は新たなヴィランへ還元される、そしてヒーローの人気を加速させる。今やヒーローが経済を回していると言っても過言ではないだろう? 本当の悪はヴィランなんかじゃない」
「国…でござるか」
「俺はヴィラン、そしてヒーローと契約してるだけなのさ」
ミスターはピーターに飛び掛かる。勢いで椅子ごと後ろに倒れ頭を打ったピーターに問いかける。
「ヒーローだと!?」
キャラ付けのござる口調を忘れるほど怒りを込めた言葉だった。
「メディアが仕組んでると知ってるヒーローだっているさ。あんたらが今知ったみたいにな。メディアに取り上げられれば、それだけ人気も出る。…急にランカーになった奴はいないか? 急に名をあげたヒーローはいないか? そういうことさ」
ミスターは力なく、その場にうな垂れた。バニーも部屋に入ってくる。
「ミスター、我々ヒーローは手を組む時が来たのかもピョイな」
「…ござるな」
これはヒーローが集団となるきっかけの日。
彼らの正義はまだ作られていない。
ピーターは手帳に綴り、それ以来ヒーローメディア編集部に戻ることはなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ヒーローってかっけぇよなぁ。
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