短編小説6「若手」
《ギャグを考える才能、あったら芸人やってたわ。》
若手コンビ芸人の『エレクトリカル』は、バラエティ番組の撮影のため漁場へ来ていた。彼は全国区の番組で爪痕を残すべく張り切っている。空回りせねば良いが。
背後で防波堤に波が打ち付けられた。
「じゃあ合図したら二人は画面の中に入ってきてください」
「わかりカル!」
「わかり、ん? なんです?」
「瓶田、まだカメラ回ってねぇって!」
バシッと巾木は相方瓶田の肩をたたく。コンビ芸だろうが、カメラが回っていない場所でプロデューサーにギャグをやっても笑い一つ起こらない。
プロデューサーの七川は真面目な顔で、打ち合わせを続けた。
「漁師の方に船を出して頂きますが、海に落ちたりはしないでください。生放送なので事故になったら大変ですので」
「わかりカルパレード!」
「だから瓶田、やめろって!」
防波堤で打ち合わせを行っているが、絶賛空回り中の瓶田は海に向かってつまらないギャグを飛ばしていた。七川の表情が少し険しくなったのを察知した巾木は、真剣に瓶田を止める。
「なんだよ巾木、全国区だぞ、わかってんのかウォーミングアップだウォーミングアップ! おまえここでなんもできなかったら次はいつ仕事が来るかわからねぇんだ!」
「そういうこっちゃねぇよっ、まずは礼儀をちゃんとしろっつってんだ、スタッフさんに嫌われたらどうすんだ」
こそこそと言い争う二人。中継まであと十分。
「打ち合わせの続きですが、特別なことはしないでください。漁師飯の食レポを普通にしていただければ大丈夫ですので」
「普通に、ですか?」
「わかりカル!」
もう七川も巾木も瓶田の空回りをスルーしている。まだ撮影も始まっていない段階でこの空気の読めなさを巾木は気にしているが、もうどうにも止まらない。
少しでもプロデューサーの信用を得ようと巾木は真面目に打ち合わせに参加する。
「僕らのギャグは途中で挟んでもいいですか? 食レポに絡ませて、とかでも」
「……」
七川はチラと瓶田を見やり、返答を渋る。巾木もそれを理解したうえで続ける。
「僕は食レポをメインでやりますから。笑いを狙わないので、お願いします」
「……まぁ、いいでしょう」
二人共マジメで爪痕を残せないのは巾木もさすがに嫌だったのだろう。空回りはしているが瓶田に賭けるため、自分が犠牲になろうと決めたのだ。
七川もメインの食レポさえちゃんとしてくれれば、ということで了承した。
ザバァーーン!
「えっ!?」
「なにを!」
そんな巾木の頑張りをよそに、瓶田が海へ飛び込んだ。なぜ、何故だ、まだ中継も始まってないのに。七川も巾木も驚きで声を上げた。
「瓶田ぁ!! 何やってんだお前!」
「中継始まってビッシャビシャだったらおもろくね!? ちょっ、引き上げてくれぇい」
「何をしてるんですか! 今日は海が少し荒れてるんですから入っちゃいけないと!」
七川も巾木も当然ながら激怒している。その激怒すらも読めない程、空回りを続けに続けている瓶田は、この現場で、正直とてもウザイ存在へとなっている。
縁に捕まって引き上げられた瓶田。当然スタッフ陣に怒られている。だが乾かす暇もない、このまま中継に入ろうと決めた。
「おまえっ! いい加減にしろよ瓶田! 調子に乗るな、マジでもう呼ばれなくなっちまうぞ! いいか、スベリまくってんだお前、いま!」
ついに巾木が怒鳴った。瓶田の襟首をつかみ地面に転がしている。その気持ちは誰もが分かっているが、そろそろ中継が始まるというのだから、七川が止めに入った。
「……ふぁ」
巾木の手が緩んだ。
「ん、ふぁえ」
巾木の顔が歪む、そして七川も巾木の目線の先を覗く。
「ああ、え、うそ!!」
「七川さんっ!」
「止めて止めて止めて、中継映さないで!」
巾木と七川は顔面蒼白で叫ぶ。何事かわからない瓶田は転がったままだ。
「死体!! 死体が絡まってる! そこ! ストップストップストップ!」
『それでは漁場にいるエレクトリカルさーん!』
スタジオからの音声がイヤホンから聞こえた。しかし七川、巾木の耳には入らない。制止も間に合わず、中継が繋がった。
中継画面にはびしゃびしゃで転がる瓶田。必死の形相でカメラに突っ込んでくる七川、顔面蒼白でへたり込む巾木が映し出された。
「死体を映すなぁぁぁ!!」
中継は七川の声を残して打ち切られた。
【完】
◆【マガジン】松之介の短編小説集
最後まで読んで頂きありがとうございます。
「いいね」「フォロー」「コメント」
で応援してもらえると、これからの創作の糧になります!
めちゃくちゃ嬉しいです。
毎月ジャンル混合クリエイター交流企画を開催してるので、
是非参加してみてください!
企画に参加頂いた作品をまとめたマガジンもお立ち寄りください。
🌏サイトマップ(全作品リンク)
🌕【マガジン】クリエイター交流企画(毎月開催)
🌏プロフィール(随時更新)
いいなと思ったら応援しよう!
僕の記事が『楽しめた』『参考になった』と思いましたら是非サポートをお願いします❗
謎解きや物語など、投稿作品はご自由に使用して頂いて大丈夫ですが、評判が良かったらサポートもして頂けますと嬉しいです😁
今後も楽しめるものを頑張って作ります💪