連作短編小説《転生勇者三部作》1-3完「転生勇者は無双する」
連作短編小説《転生勇者三部作》1-2「転生勇者は無双する」の続き
【4】転生勇者
剣術大会から三日後になる。意外と、すぐに転生するというわけにはいかなく時間がかかっている。
「準備はできたかいシャイル」
「神様に言われた通り、ちゃんと遺書は書いたよ」
あ、おい、人の遺書を勝手に読むなよ。神様といえどやっていいことと悪いことがあるかと思うぞ。
「……これでいいのか? シャイル」
「遺書ってこんな感じじゃないの?」
「しかし、こんなことを書いては、宵東旭日としての評価が下がってしまうのでは」
何が悪いのかわからない。俺は事実を遺書に書いただけなのに。
「いいんだよ、正直に全部書いただけだから。嘘を書くわけにはいかないだろ? 神様はうそをつけと言ってるのかい?」
「そういうわけではないが……君がこれで良いというのなら、もう何も言うまいよ」
苦笑いして言われると、こっちとしても気になるんだが……。
「では転生を始めよう」
神がそう言うと、俺の身体は自由を奪われた。
机の上に遺書を置き、部屋を出る。一階に降りると、いつものように母さんに行ってきます。と伝え、出ていく。
いつも通りに、違和感もなく。
公園に来た。懐かしいなぁ、小さいころよく遊んだよ。今も子供がサッカーをしている。道路に飛ばしたら危ないから気を付けるんだぞ。
俺は、そのまま公園のベンチに腰掛けて、遊ぶ子供がいなくなるのを待つ。五時の鐘が鳴りだすと、その子供たちは素直に帰り始めていた。
「また明日なー」
「おう、事故るなよ!」
「おまえもなー!」
友達か。……そういえば、俺。友達いたかな。
……いないな。だって俺が考えていたことはずっと異世界のこと。この世界に興味なんて持っていなかったんだ。
『ガフッ、ゲホッ』
体の芯から熱が上がってくる。ボタボタと滴る血は俺の口から出ているのか。なるべく、他人に迷惑を掛けずに転生をしたかったんだが……、この絵面は酷いな。
子供が帰っていて良かった。
神様も適当だな……。こうなると俺の死因は何になるのだろう。できれば事故がよかった。毒とかだったら自殺になるのかな。
「シャイル。君の死因は自殺と決まっている。遺書を書いたんだ、最後の言葉を残すために。遺書を書いて死ぬ、それは自殺以外ない」
「ああ、そうか、神様。結局あんたは自分の手は直接汚さないってわけか。ここに来させられたのも、毒を飲まされたのも、俺の意思」
でも、神様を責めやしないさ。転生のためだから。
でも、自殺か。母さんと父さんには申し訳ないな。
転生って……本当に死ななきゃならないのか……。
『ゲホ、ゲホッ』
苦しい……。
死ぬのって、こんなに辛い?
……ああ、魔王に負けたときは一瞬だったのか、だから。
『ゲホォッ』
はぁ、はぁ。
ドサ、と前のめりに倒れ込んだ。もう身動きが取れないや。
☆
四日後、情報もまとまってきてニュースになっていた。
「なお、宵東旭日(よいとあさひ)(17)は遺書を残しており、警察は虐めの線も残して捜査しているとのことです」
「でも、この高校生って剣術大会日本一の選手でしょ? そんな強い選手が虐められるなんてことあるんですかねぇ」
「遺書が残ってるらしいですが、虐められているって内容が書いてあったんですか?」
「遺書に虐めに関する記述はなかったようです」
ニュースキャスターは、抜粋した遺書を次のように読んだ。
「遺書ですが、抜粋した部分にはこう書かれています。お母さん、お父さん、ごめんなさい。十七年間育ててくれてありがとう。勝手なことをして申し訳ないと思います。実は俺は、前世の記憶を持っていました。それは生まれた時から、ずっとです。剣術を始めたいと言ったのも、神様との約束で日本最強の剣士になるという目標があったからです。そして、先週の大会で俺は日本一の剣士になりました。だから俺は、魔王を倒しに異世界へ転生します」
読んでいる司会者も、驚きながら読み進めていく。それを聞くコメンテーターも同じ。
放送事故かと思われる間を置いて、コメンテーターが話し出す。
「空想と現実の区別がつかない青少年が増えていると感じておりましたが……それが、こんな事件に発展するなんて」
「これはアニメなどに制限を設けた方が良いという事案の一例になるのではないでしょうか」
「社会問題として取り上げるべきでしょうね」
各々が論点をずらしていきそうになったため、司会者は次の話題へ移行する準備にかかった。
討論番組などでは、特殊な題材であるためか、敢えてサブカルチャー否定派人間をオファーし、激論を交わさせる番組もあるようだが、このニュースではすぐに次の話題へと切り替えられた。
この問題は、討論番組で結論を出してはいけないと、局の上層部が判断してのことだったようだ。
宵東旭日の事件は、サイコパスとして扱われ、自殺として処理されることになるのだが、鳥足近侍は疑いを持って生きている。
あの日の会話を真実として捉えると、本当に自殺だったのだろうか、と。
【5】無双
「軍勢が攻めてきた! 魔王の直属部隊だ!」
衛兵に伝令が届いた。その伝令は即座に拡散され、冒険者たちの集うギルドに伝わるのもすぐだ。
「行くぞティンク。俺たちで止めよう」
「ちょっとムチャだよラスティ!」
「うるさい、俺はこの世界で最強にならなきゃダメなんだ! お前との約束だろティンク」
冒険者ラスティは、妖精のティンクを鷲掴む。
「わかったわかったわかったわよ! じゃあ私を装備して」
「《吸収:モデル妖精女王(ティターニア)》」
ラスティの背中には四本の光の羽が浮いており、ギルドを出ると光速で荒野まで飛ぶ。
情報通りそこには大量の魔族の軍勢が待ち構えていた。
「《夏の夜の夢(フェアリーナイトメア)》」
呪文を唱えると、ラスティの背後に光で出来た、およそ百人のラスティが剣を構える。光のラスティは全軍をあげて魔族へ突撃し、無双する。
『待っていろアニス! 必ず君を救ってみせる!』
心の叫びが、意志の焦点を合わせ、ラスティの勢いを加速させる。
神の策略により元の世界ではなく、また違う世界へと転生させられた《シャイル・サング》。彼はラスティという名で冒険者として活躍していた。
この世界で最強になり、元の世界に戻る。ラスティはその未来を夢想する。
だから彼は無双する。
『勇者シャイル。君が救う世界は、まだあるぞ』
そんな無双する勇者ラスティを見ながら、神様はまた次の新しい異世界を探すのだった。
そんなことはつゆ知らず。
宵東旭日(よいとあさひ)は夢想する。
神様の掌で。
完
◆まとめ
連作短編小説《転生勇者三部作》1-1「転生勇者は無双する」
連作短編小説《転生勇者三部作》1-2「転生勇者は無双する」
連作短編小説《転生勇者三部作》1-3完「転生勇者は無双する」
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