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脚本15「真夜中のおやつ-マチコさん」

《出るんだって。
って言われたらほぼほぼ幽霊のことだよね》


●登場人物
◯霧島
◯近藤
◯小林

 休憩時間中のオフィス。おれたちはいつも同期三人で集まって仕事に関係のない話で盛り上がっていた。
 今日は霧島が話題を持ってきた。

霧島「中山峠、出るんだってな」
近藤「出るって、なんだよ」
霧島「出るったら、あれだろ、あれ。おばけ。マチコさん。中山峠のマチコさん」
小林「ちょっとやめてよ……」
近藤「おばけって、そんなんいるわけないっしょ」
霧島「見たことあんのか?」
近藤「無いから居るわけないんだって」
小林「もういいでしょ、私あっち行くね」
霧島「見たことないなら居るかもしれないだろ」
近藤「暴論だな」
霧島「そこまで言うならマチコさん見に行こうや。今夜」
近藤「明日も仕事だろ」
霧島「怖いんだろ」
近藤「は? じゃあ行くよ」
霧島「小林さんも誘ってこうか」
小林「行きません!」
近藤「あれ? 聞こえてたの?」
霧島「まぁ、誘えばくるっしょ」

 仕事終わり。俺たちは霧島の車で中山峠に行くことになった。メンバーは霧島、おれ、小林の三人だ。小林はおれが誘ったら仕方なく付いてきた。

霧島「結局来たじゃん」
小林「私のバカ……」
近藤「けっこうすぐ来るよな」
霧島「見えてきたぞ。あの峠だ」
近藤「おいおいカーブミラーも何もないじゃんか」
小林「これじゃあ事故も起きるって……」
近藤「事故の霊なのか?」
霧島「おばけ。信じてないじゃなかった?」
近藤「流れだよ流れ、信じてる体で会話しないといちいち議論になるからな」
霧島「それより小林さん、よくここが事故多発体だって知ってたね。下調べした?」
小林「ねぇ、やっぱり帰りたい」
霧島「ここまできてそりゃないってー。進むよ」
小林「お、おろして。私ここで待ってるから!」
近藤「え、そのほうが怖くない?」
小林「い、いいの。私行きたくない……」
近藤「霧島、小林は降ろしてあげよう」
小林「ありがとう」
霧島「わかったよ。じゃ、小林さん、戻ってくるまでここにいてね」

 車から降りた小林は、真っ暗な峠に一人取り残される形になってしまった。おれはおばけなんて信じていないつもりでは居たが、冷や汗が止まらなかった。

近藤「峠、超えたな……」
霧島「マチコさんはいなかったな」
近藤「ああ……」
霧島「あのトンネルがクライマックスだ……」
近藤「……」
霧島「いくぞ……」

 バゴォン!!
 何かがボンネットに当たる音がした。

霧島「な、なんだ!」
近藤「何かひいたんじゃないか!?」
霧島「い、いや、そんな感覚はなかった」

 バゴバゴバゴ。
 音が増えた。

近藤「お、おい」
霧島「お、お音だけだ」

 バゴバゴバゴ。
 おれは音のする方をおそるおそる見てみた。

近藤「ッ……!」

 おれは後部座席の窓にへばりつく髪の長い女を見てしまった。

近藤「霧っ、し、まぁ……」
霧島「し、ししら知らねぇ!」
近藤「ま、ままマチコ、さんっ?」

 おれは気がついた。霧島はとっくにバックミラーで見てしまっているのだと。そして必死に見なかったことにしていることに。

近藤「ふりおとせ!」
霧島「う、うあおをおあおおっ!」

 アクセル全開で制限速度を大幅に超える。
 ガグンッゴッゴッゴッズザザザザザザザザ
 今度は明らかに振動として車に伝わった。

近藤「なななんなんだよぉ」
霧島「ひ、い、いただろ、お、おばけ、いただろ! マチコさんだよ!」
近藤「い、いたいたいた! 居たから! 信じるよ! もうやめてくれ! マチコさんおれが、おれが悪かったから!」

 ズザザザザザザザザザラララザララザザザザザザ
 猛スピードでトンネルを抜けた霧島はすぐに急ブレーキをかけた。そうしないと急カーブで曲がりきれずに真っ逆さまだからだ。

霧島「うううわわわわわっ」
近藤「と、とまれとまれ!!」

 ザザザザザザズザザザザザザザザザザザザ
 ガックン……と車はギリギリのラインで停車した。

近藤「は……はぁ……」
霧島「……」
近藤「……」
霧島「見てきてくれないか……」
近藤「……い、いやだ……」

 ずっと何かを引きずっている音は聞こえていた。おれも霧島も気がついていたのだが勇気が持てない。

近藤「一緒に」
霧島「……ああ」

 まずは全方向の窓を素早く確認する。何も居ないことを祈りながら、恐怖に飲まれながらできるだけ素早く。
 そして、降りる。
 トランクの方に歩み寄る。

近藤「ふ……」
霧島「き……」

 車体の下から……脚が伸びていた。

近藤「き、きりし」
霧島「い、いや、なんだよなん」
近藤「だ、だす、ぞ」
霧島「お、おおおまえがやれよ」
近藤「おい!」
霧島「ひっ」
近藤「っせ、せーの」

 引きずり出そうとするが、奥の方で髪の毛が絡まっているのか出て来ない。

霧島「……マチコさん?」
近藤「つ、つかめる、のに?」
霧島「し、した、下から髪の毛とらないと」
近藤「うそだろ……」
霧島「せーので……下……みるぞ」
近藤「……」
霧島「……」
近藤「せ、の、」
霧島「ッ!」
近藤「うっわわわぁぁぁ」
霧島「こ」
近藤「こ」
霧島「小林、さん……?」
近藤「なん、で……? だってあそこにおいて、置いてきた……」
小林「……マチコさん!」


おしまい

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