短編小説11「死なない社長、カズ&坂本」
《あと少し、勇気を出すだけ。
その状況は好転するよ。》
深呼吸。
深く息を吸い、落ち着かせる。
そのまま吐く息は、吸い時を逃し息が止まる。
しかし男は気が付かない。
「っっはぁっ、はぁっ」
最初に発した言葉は、ただの空気だった。止まっていた呼吸を復活させる。
落ち着いて、再度下をのぞき込めば、荒々しく波立つ川。そこで揺れる橋は、波が風を興しているのではないかと錯覚する程だ。
「なぁ、カズ、ホントにやるのか?」
「なけなしの金を使って来たのは、そのためだろ」
「痛い……かな」
「あの波と岩盤を見ろよ、一瞬だろ」
恐怖で青ざめる二人。尻込みする坂本にカズは現実を見せる。
橋から下を覗かせられている坂本に
「社員には保証したから、気にすることはない。おまえはやることを全てやったさ」
「……そうか、なら思い残すこともないよな」
「ああ。金もねぇ俺たちに残されたものは、あのクソ詐欺師への恨みだけさ」
カズは坂本と会社経営をしていたが、詐欺にあい倒産してしまったのだ。その計り知れない恨みを持って、意思を決する。
「いくぞ、いいか」
カズが坂本に最終確認をする。
「ああ、いこう」
坂本は、カズに背中を押され、橋から足を外す。
一瞬の浮遊感の次、重力に押され眼下へ一直線。
「詐欺師! ぶっ殺す!」
垂直降下の最中、坂本が決意の呪言を大絶叫した。その波紋は、眼前に迫る荒波に飲まれ収束する。
「ガッハッ」
衝突。
の直前、重力に逆らう力が作用した。
その引力が、肺から強制的に空気を吐かせる。
繰り返される浮遊感と垂直降下に、高鳴る心臓は落ち着きを見せていた。
「カズ! やったぞ! 次はお前の番だ!」
橋の下から引き上げられる坂本が、橋への登頂を待てずに、カズへと叫ぶ。
「ああ、これが終わったら再起するぞ!」
「おう! あの詐欺師ぶっ潰してやろうぜ!」
☆
バンジージャンプを終えた二人の顔は、精悍である。
彼らならば、再起することも夢ではない。
完
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