短編小説27「信号機」
《今の僕たちも
既に管理され始めている?》
この国は、ある一人の政治家によって変わってしまった。あらゆる行動は社会に規制され、指示された内容に逆らってはいけない独裁国家へと。
かつての民主主義はかけらもなく、指示に従う人間のみを生かす超軍事的なシステムを採用したのだ。
それでも反乱因子は存在する。
男は外出可能時刻内でしっかりと行動していた。
彼は書類を届ける国民飛脚隊に所属している。
その途中、信号待ちをしている目の前で数十個が連なっているランプの内一つが赤く付いた。
なんだろうか、踊っているシルエットにも見える。
すると男は、その場で見事なボックスステップを踏み出した。その完成度の高さは、かつて存在したとされるダンスボーカルグループのメンバーであるかのようだ。
見惚れる程のダンスショーが終わると、ようやくランプが青に変わった。
⭐︎
地方から来た女は困惑していた。信号機の表示には地方差があるためだ。都会にはずいぶん種類がある。
彼女に指示された信号は何かを背負っているシルエット。
「お婆さんか、運の悪いもんにあっちまったな」
「運? あれはなんの指示ですか?」
隣に立つ男は悔しそうに呟いた。彼女の問いかけを無視して、向かい側の歩道を歩くお婆さんに、大声で呼びかける。
「おい!ばあさん!こっち来て背負わせてくれ!」
耳の遠い老婆は、気づかずに遠くへ離れていく。
「おい!」
直後男は横断歩道を駆け出した。駆け出してしまった。その瞬間、皮膚の一部が剥げ飛んだ。身体が小さな爆発を起こしたのだ。
「ぎゃあっ! ちがうっ逆らったわけじゃない!」
男はのたうち回って信号機に向かい叫んでいる。それを見た彼女は横断歩道の端で悲鳴を上げた。
『信号違反!信号違反!信号違反!……』
繰り返し信号機からアラームが鳴り、周辺から武装した兵士が現れた。兵士らは皮膚が剥げ飛んだ男を抱えて収容所へ向かう。
「卑怯だ! 卑怯だ! あんな指示どうやってクリアしろってんだ! ちくしょうちくしょう死にたくねぇ!」
「黙れ反逆者! 考えなかった貴様が悪い! 知能の低い民は地上に必要ない!」
反逆者とされる者は殺されるか、どこかで労働させられると言われている。国に従う優秀な人材のみで構成された選民国家を目指しているのだろうか。
泣き喚く男を全員ただ眺める事しかできない。戸惑う彼女に飛脚隊の男が提案する。
「僕に背負わせてくれませんか」
「え、どうして」
「あの信号の指示は、お婆さんである必要はない、ただのシルエットですからね」
飛脚隊の指示で、回りの信号待ちの人々も互いに組みあって横断歩道を渡った。飛脚隊の男はいつでも反乱の意志を探している。この場で可能性のある彼女に声をかけたのだ。
「私の地方では指示がこんなに細かくなくて……」
「人口が多い地域は常に減らせるように表示が多くなっているんです。それにランダムです、気を付けて」
「なんでそんな指示に従わなきゃならないの……」
飛脚隊の男は周囲を警戒しながら彼女に言う。
「最近が特に顕著なんです。この街から出る部分には難題が設置され、この街から出ることができないのです」
「え、じゃあ私も、来たばっかりなのに」
「運の悪い時期に来ましたね」
「早く出ていきたい、帰りたい」
「行ってみますか、街の出口の信号に」
彼女は飛脚隊の男に連れられて、出口に来た。
信号がシルエットを表示する。
人型が二つ。片方がもう片方を粉々に砕いているように見える。彼女は恐る恐る訪ねた。
「これは?」
「誰かを殺さねばこの街からはもう出れないのです。自分が助かりたくば誰かを殺せという事でしょう」
よく見ると、倒れた人の姿が何体か……。
飛脚隊の男は彼女を見る。彼女も飛脚隊の男を見る。
二人は澱んだ空気の中、生唾を飲んだ。
おわり
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