見出し画像

短編小説15「オーソドックス・メアリー」

《じっとりとした、暑い夏の日が終わる》


 公園の砂場で、五人の子供が手を繋ぎ円形を作る。
 真知、哲也、明菜、奏汰(そうた)、真太郎はそれぞれ外側を向き

「メアリーメアリーどこ行った。大外回ってへそ出した」

 全員、声を揃えて円の内側へと向き直る。そして、向かいの相手を指さした。

 一人を除いて。
 哲也の正面は空間だからだ。
 哲也だけが空間を指さす。

「メアリーメアリーそこ行った。アンタの後ろでこっち見る」

 また声を揃えて、そのまま右回りで円を回転させていく。

「メアリーメアリーどこ行った。くるりと回って、そこ行った」

 皆が動き回ったおかげで、砂が舞い上がった。

「おはよぉー」

 教室のドアをスライドさせて入る真知に、三人の幼馴染が挨拶を返す。朝から元気なのは中学生ならではだろうか。

 あの公園で遊んでいた子供たちの一年後。中学生になった彼ら四人は、仲良く過ごしていた。

「真知、真知、哲也と会わなかった?」

 最初に話題を振ったのは、奏汰。椅子を後ろに傾け苦笑する彼に、真知は、ぽかんとして

「え、知らないよ?」
「哲也が学校に来てるらしいんだよね」

 話題を振った奏汰ではなく、真太郎が回答した。眼鏡を拭きながら目を細める彼の横で、今度は明菜が続ける。

「さっき先生が話してるのが聞こえたの」

 哲也に関する噂を持ってきたのは明菜だったことがわかる。

 一年前の公園で一緒に遊んでいた男の子、哲也は、中学入学とほぼ同時に登校拒否になっていた。だから、その噂は幼馴染の間では最重要事項なのだ。

 しかし、奏汰だけは余り関心がないようで、真太郎と言い争う。

「明菜が聞いたってのも、ドア越しだろ? 聞き間違えたんじゃねーの?」
「じゃあ先生に聞いてみるか。それで解決だろ、合理的にいこう」
「真太郎はなんでも簡単に言うな。だったら今のこの時間はどうなるんだよ」
「無駄、なんじゃないか?」
「ホント俺らを馬鹿にしたような言い方をするよな」
「奏汰、おまえはどっちなんだ? 哲也の登校に否定的かと思えば、そうでもないようだ。おまえ哲也が不登校になる前に」
「やめろ」

 真太郎が何かを言おうとしたが、奏汰は顔を歪めて続きを遮った。声色には怒りが含まれているように感じたが、表情は何かを怖がっているようでもある。

「まぁ、さ。哲也が登校するんだったら良いことじゃん。来なくても今まで通りだしさ」
「そうだね。とりあえず先生に聞くだけ聞こっか」

 険悪な雰囲気になるまえに、真知が話題を終わらせにかかる。それに同意した明菜によって、哲也の話題は終了した。

 その後、時間を見つけ、哲也について先生に聞いたところ

「哲也君? ……ごめんね一年生以外の子の名前はまだ覚えられてないの」

 哲也は皆と同じ一年生のはずだが……。

 それに最初のころは数日だが登校していたのに、担任が哲也を知らないなんてあり得るのだろうか。

 同じクラスにいた哲也だと伝えても、担任からの返答に、哲也を知っているような言葉はなかった。

 おかしい。どういうことだ。四人全員に共通した思いだ。

「おかしくねーか? ぜってぇおかしいって!」

 放課後、集まろうという事になって、誰もいなくなった教室で四人が集まった。そこで奏汰が最初に大声で皆の思っていることを披露したのだ。

「ああ、合理的ではないな」
「クラスの皆も哲也のこと覚えてないし」

 真知は担任の言葉だけを信用できなくて、他のクラスメートにも確認していたようだ。

「あいつは三日くらいだっけか、忘れたけどそれくらいは学校に来てたんだ。クラスメートだって、完全に知らないなんてことはあり得ないだろ!」
「落ち着けって奏汰。俺たちはずっと昔から一緒だから覚えてるとか、そんな単純な事じゃないのは確かだな。なぁ明菜、朝に哲也の名前を聞いたんだよな? てことは知ってるはずなんだよ」

 真太郎が明菜に聞くが、返事がない。無視をされるのが余程嫌いなのか、真太郎は追撃する。

「おい、明菜無視するなよ」

 明菜が、いるはずの場所にいない。その明菜の声は廊下から聞こえてきた。

「見つけた!! 哲也! なんでそこにいるの!?」
「哲也だって!?」
「どこだ明菜!」
「哲也がいるの!?」

 三人が廊下に飛び出す。その勢いは緩んでいき、辺りをキョロキョロと見回した。明菜もいないからだ。

「明菜どこ行ったんだよ、なぁ真太郎、声したのこっちだよな」
「ああ、確かにこっちから聞こえたはずだが」
「探そう!」

 言ってすぐに、真知が捜索を開始する。

 しばらくして学校の入り口に集合したが、明菜を見つけられた人はいなかった。もう日も落ちてきて探せる範囲も狭い。

 心配もあったが、その日は、明菜も帰ったろうという事になって帰ることになる。

 しかし、翌日明菜は登校しなかった。その次の日も、次の週も。

「明菜、どうしちゃったのかな。また哲也の時と同じだよ、誰も覚えてない……」

 真知は親友の心配で憔悴しているようで、少しやつれたように見える。

「明菜と哲也、どうしたってんだよ」
「明菜はあの時哲也を見つけたって言ってたよな」

 三人が話しているのは、周りの誰もが知らない人の話だ。そんな三人は少しづつだが、周りから浮いていった。

 見かねた担任が職員室に三人を呼ぶ。

「哲也君と明菜さん、だっけ? 二人について話があるの」
「やっぱり覚えてるの!?」

 職員室で大声を上げる真知。

「いや、違うの。先生はその二人のことは知らないわ。けれどね、もしかしたら……」
「もしかしたら…? 先生、何を知ってるかわかりませんが、はっきり教えてください。俺たちもですが、真知は特に心配していて……」

 真太郎に急かされ、担任は言いにくそうに口を開いた。

「先生にも奈々未っていう友達がいたの。けど、もういなくてね。哲也君と明菜ちゃんみたいに、誰も覚えてないの」

 そのまま少し声を潜める。

「この学校の先生は、皆知ってることだから教えてあげるけど、誰にも言っちゃダメよ。……君たち、メアリーって知ってるかな。自分のへそが大嫌いなメアリー。知ってるよね?」

 《メアリー》という名前を聞いて三人は共通で思い出したことがある。一年前くらいに遊んだ《オーソドックス・メアリー》のことだ。当時、怪談好きの明菜が見つけてきたゲームで、誰かの後ろに隠れるメアリーのへそを指さした人は、メアリーに会える。といった儀式のようなものだった。所謂《コックリさん》とか、そういったものの類だ。

「思い出した、オーソドックス・メアリー……」

 真太郎が口に出したゲームの名前を聞いて、確信を得た担任は可哀想な眼を向けて伝えてくる。

「メアリーに会った人はね、どこか違う空間に連れていかれるの。そしてみんなに忘れられる。一緒にゲームをやった人以外から。連れていかれる人は、メアリーのへそを馬鹿にした人だけなんだけど、それが誰かはわからないでしょ」
「先生もやったんだよね、そのゲーム。メアリーに会ったの?」

 真知が躊躇してから聞いた。

「やったよ。けど先生はまだ会ってないの。奈々未は会ったのかもしれないけど」
「会っても連れていかれない方法はある!」

 突然、ずっとガタガタふるえていた奏汰が言う。

「俺、だったんだ。ホントは哲也じゃなくて俺が連れていかれるはずだったんだ。メアリーが俺を引きずろうとした時、哲也が代わりになってさ……」
「おいそれって誰かを身代わりにするってことかよ!?」
「違う! 多分だけど、メアリーは人じゃなくても代わりにできる……哲也が言ってたから」
「おい奏汰、お前何を知ってるんだ?」
「それだけだ。哲也は一回自分の身代わりに何かを使って、二回目は俺を守るために代わりになった」
「ねぇ待って、なんで早く言ってくれなかったの!? 知ってたら明菜だって連れていかれなかったかもしれないのに」

 真知が奏汰に掴みかかる。

「言ったって、信じないだろ。特に真太郎は合理的じゃないって否定してくるに決まってる。なんなら一回だけ俺は言ったぞ。哲也がいなくなってからすぐの時にな。案の定否してきたよお前ら」

 掴まれた体を振りほどかず、身を任せたまま床にへたり込む。

「メアリーが現れた時の為に、身代わりを用意しておきなさい」

 担任は自分そっくりの人形を鞄から取り出して見せた。それは担任だけではなく、周りを見ると、他の先生も皆、自分そっくりの人形を見せつけてきていた。

 無言で、ただ人形を見せるという行為に戦慄する。

「先生たちは、知ってたの?」
「ええ」

「お友達になりましょう」

 少女が声をかけてきた。それは綺麗な、人形のような子だ。

「僕は哲也。君は?」
「メアリーだよ。この子は奈々未」
「よろしくね、メアリー、奈々未」

 メアリーの横に居る女の子は、奈々未というらしい。大人しい子で、積極的に話してはこない子だ。

「もう一人いるよ」

 そう言って服を捲りあげるメアリーのへそが見えた。

 徐々にお腹が大きくなり、へそから何かが出てくる。女の子だ。メアリーは紹介するように

「この子は明菜だよ」
「あ、哲也だ! 久しぶり哲也!」
「友達が増えたね」

 メアリーは笑う。

「待っててね、友達もっと増やそうね」

 メアリーは消えていた。

 奏汰、真太郎、真知は人形を買いに来ていた。

 人型で自分に似せた物でなければいけない。そういうオリジナルの人形を作れる店があることを先生に聞いてきた。

 完成までに数日。そこを生き延びれば、助かるのだ。
 保身のため、三人で固まって歩く。

「あの子可愛い」
「ホントだ、超可愛いじゃん」

 真知と奏汰が、道路挟んだ反対側に立つ女の子を見つけた。

「メアリーだったりしてな」
「お、おいやめろよ」
「そ、そうだよ、怖いこと言わないでよ真太郎」


「私メアリー」


 反対側にいたはずの女の子が、目の前にいる。

 服を捲りあげ、へそが見えた。

【マガジン】松之介の短編小説集

最後まで読んで頂きありがとうございます。
「いいね」「フォロー」「コメント」
で応援してもらえると、これからの創作の糧になります!
めちゃくちゃ嬉しいです。

毎月ジャンル混合クリエイター交流企画を開催してるので、
是非参加してみてください!
企画に参加頂いた作品をまとめたマガジンもお立ち寄りください。

🌏サイトマップ(全作品リンク)
🌕【マガジン】クリエイター交流企画(毎月開催)
🌏プロフィール(随時更新)



いいなと思ったら応援しよう!

まつのすけ🌏noteの遊園地 僕の記事が『楽しめた』『参考になった』と思いましたら是非サポートをお願いします❗ 謎解きや物語など、投稿作品はご自由に使用して頂いて大丈夫ですが、評判が良かったらサポートもして頂けますと嬉しいです😁 今後も楽しめるものを頑張って作ります💪