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こどくのち#21【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】


#創作大賞2026 #ホラー小説部門


「沙紀?な、何で?生きて、、」
その言葉に沙紀は眉をひそめる。

「あぁ、あれが死体に見えたんだ。
 てことは、本当に少し霊感があるみたいだね」

どういう意味だ?
理解出来ずにいる悠真の前で
沙紀は人差し指と中指を立て
何かをぶつぶつと呟くと、その指で空を切る。

「どう?」
言われた途端、先程みた沙紀の死体が
ただの木片だったと思い出し混乱する。

「誰かに見られた時の為に、
 木片に呪いを掛けてたの。
 木片が、私の死体に見える呪い。
 てかその刀を持ってこっちに来ないで、
 結界が傷付くじゃない、
 あんた日本を滅ぼしたいの?
 走ってくるからびっくりして
 射っちゃったじゃん」

射っちゃったじゃん。
彼氏が急に尻を触ったから、
ビンタしちゃったじゃんという彼女くらいの
ノリで矢を射ったというのか?

あまりにも現実離れした価値観を見せられて、
異世界に転移したのかと思う悠真だった。

すると、沙紀は何かに気付いたように目を見開き、
バッと再び弓を構え弦を引く。
シュパッという音が空を切り矢が放たれる。

悠真の頭上を矢が飛んでいく。
沙紀の視線は悠真の背後を射ていた。

「うおっ」
矢の飛んだ先からまの抜けた返事が返って来て
悠真は振り返った。

暗闇の中から、何者かがゆっくりと
散歩でもするかの様に歩いて来る。
もう何が出て来ても驚く事はないと
思いかけていた悠真だったが、
目に映った人を見て
やはり驚いてしまった。

「沙右衛門さん!?
 良かった、大丈夫だったんですね」

しかし安心したのも束の間。
沙右衛門は人頭大の荷物をくるくる回しながら
歩いてくると、その手にした物を、
悠真の足元に放り投げた。

「うッ!」
それは直人の頭だった。
そしてその目には矢が突き刺さっていた。

「おっと失礼、手が滑ってしもうた。
 おや?そちらは、、
 おぉ〜、久しぶりじゃのぉ、可愛い娘よ。
 やっと会いに来てくれたか」

娘!?
突然の出来事に二人を交互に見やる悠真。
「沙晴(サハ)、いな、今は沙紀、となるのかな?」

悠真の背後まで来た沙右衛門は、
直人の頭を沙紀に向かって蹴り飛ばす。
沙紀はひょいと避ける。

「まったく、役にたたんのぉ、悠真。
 せっかくここまで御膳立てしてやったのに、
 こんな所でつまづきおって」

悠真を見下ろすその眼はまるで
深淵を覗き込んだ様だった。
どこまでも深い闇が続いているようで、
悠真の肌は泡立った。

「お前がその刀を持って外に出れば、
 結界が破られみな自由になったというのに」
結界?自由?何が起こっているんだ?

「やはり出て来たな。
 お前を殺して父さんの身体を取り返しに来た。
 覚悟しろ、ぬらりひょん」

「!?」
悠真は混乱していた。
この男は安倍晴明の子孫の陰陽師、
土御門沙右衛門だと思い込んでいた、
いや、思い込まされていたのか。

無理もない、全てはこの男の
口からの情報だったのだ。

しかしその実態は直人が言っていた妖怪の親玉、
ぬらりひょんだったというのか?

それに父さん?取り返す?一体何の話だ?
一人取り残された悠真は、
恐怖と混乱の渦に巻き込まれていた。

「ふふ、家族ごっこは不要か?
 冷たいんじゃのぉ。
 まぁ、よい、この小僧共がよく働いてくれての。
 沙右衛門が貼った封印の札を剥いでくれて、
 刀まで抜いてくれたからのぉ」

悠真は自分達が剥がしたお札と、
刀が刺さっていた台座を思い出した。
悠真の頭の中で点と点が繋がっていく。

全て沙右衛門の、いやぬらりひょんの思いのまま、
手のひらの上で踊らされていたんだ。

自らに課せられた封印を解く為に
家のお札を剥がさせた。
さらには自分では触られないから、
俺たちに結界を破る為の刀を取りに行かせたのか。

冷静に考えればそもそもこんな所に
人間が一人で住めるわけが無い、
向こう側に決まってる。

しかしその為に翔や、優奈や、美咲や、
健太が、直人が死んだというのか?
悠真の宗則の中の絶望は怒りへと変貌していく。

「一人しか出れないと言ったのは!?」
気付いたら叫んでいた。

ぬらりひょんは悠真を見下ろすと、
ニタリと笑った。
「さぁ、そんな事言ったかのぉ?」
ヒャッヒャッヒャッと気味の悪い笑い声が
洞窟内にこだました。

「無駄なお喋りはもう良い。
 7年前に私の父沙右衛門から奪い取った
 その身体を今日は取り返しに来た。
 祓ってやるからとっとと出てこい。」
沙晴は弓を構える。

「はて、わしをこの身体に封じたのは、
 お前の父なんじゃがな。
 自らの身体に刀を突き刺し、刀の力を使い、
 わしを体内に封印し、そのままここに
 突っ込みおった。
 全く人間ごときの分際で舐めた真似をしおって」

ぶつぶつと言いながらぬらりひょんは
扉を抜けて外に出る。
「ん?なるほど結界を増やしたか。
 ここまで来たのにえらく余裕じゃと思ったわ」

間髪入れずに矢を放つ沙晴。
避ける。
ぬらりひょんの爪が伸びた。
次の瞬間沙晴に飛び掛かった。
沙晴は弓を放り、抜刀する。
刀と、それに匹敵する程硬い爪による
攻防は熾烈を極めた。

祝詞を唱え動きを封じるが、
それを打ち破り斬撃を繰り出すぬらりひょん。
沙晴もまたぬらりひょんの攻撃を躱し、
刀と陰陽術で応戦する。
互いに一瞬の油断が命取りの戦いだった。


悠真はボヤける頭で考えた。
これまでの事、沙紀の言動、ぬらりひょんの言動。

「ちょっと待って、じゃあ俺達がここに来たのは、、
 全部沙紀の計画だったって事か?」

鍔迫り合いの最中、沙晴はチラリと
悠真の方を見た。
強い一閃でぬらりひょんを弾き飛ばすと、
距離を取った。

「そうね、そこはすまないけど、
 ぬらりひょんを油断させる必要があったから、
 入らせる人は何も知らない人じゃないと
 ダメだった。
 私は陰陽師、最大多数の最大幸福の道を取る。
 父を奪い返す事は今後の日本の安寧に繋がるの」

その言葉に、悠真の中に怒りが湧いたのを、
ぬらりひょんが感じ取った。

「そうじゃ悠真、こやつが全て悪い、
 一緒にこの女を殺そうぞ」
悠真の頭の中がグワんと揺れた。
ぬらりひょんの言葉は絶対のような気がしてきた。

「可哀想な悠真、思い出せ。
 この女のせいで何人が死んだ?
 翔、優奈、健太、美咲、直人。
 こやつが諸悪の根源じゃ、さぁ、、殺れ」
その言葉で悠真の中で何かが壊れた音がした。

「ぐあぁーっ!!!」
悠真が日本刀を拾い上げて、沙晴に斬りかかる。
沙晴はぴょんと後ろに飛ぶ。

涎を垂らし白目を剥いて走ってくる悠真。
沙晴は冷静だった。
刀を下段で構える。
「しょうがない、やはり殺しておくべきだったか。
 ごめんね、悠真」

刹那、すれ違い様に一閃を放つ。
悠真はヨロヨロと歩いた後、
糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちた。

「弱、、何じゃ時間稼ぎにすらならんじゃないか」
吐き捨てるように言い放つぬらりひょん。
再び沙晴とぬらりひょんの攻防が始まった。


「ゴホッ、ゴホッ、ガッ、ハッ、ゼヒュー」
悠真は自分の血で溺れて目を覚ました。
しかし、途端に待ち構えていた強烈な痛みに
再度意識が薄れる感覚を覚えた。

目の前では沙紀とぬらりひょんが斬り合っていた。
沙紀が劣勢なようで、表情には
疲れが浮かんでいた。

次の瞬間、沙晴の刀が宙を舞って
地面に突き刺さった。
同時にぬらりひょんの爪が沙晴の肩に
突き刺さった。

「ぐっ!」
沙晴は苦痛に顔を歪ませた。
ぬらりひょんはもう片手を振りかぶり、
ニタニタと笑っている。


悠真は手元に落ちた刀を握り締めた。

――悠真は思った。
      騙された。
      凡人が生き残る事など出来ない
      絶望の地へ連れて来られ、
      友人達を全て殺され、矢を射られ、
      刀で斬られた。

熱い、重い身体に鞭打ち膝を立てる

――彼女からこんな仕打ちをされた人間なんて、
      戦国時代にすら居なかったんじゃないか?

折れそうになる膝を手で支え伸ばした

――いっぺんの希望も無い、絶望の世界。
      しかしそんな中でも気付いた。

沙紀、君が無事で良かった。
君が生きていてくれて良かった。

馬鹿だよな、全て奪われ
身体を矢で射抜かれたっていうのに、
心を射抜いた矢が全てを飲み込んだ。

君と過ごした時間は本当に幸せだった。
たとえそれが偽りだったとしても、
この気持ちは本物だった。

ドンッ。
突然ぬらりひょんが動きを止めた。
その肩からは刀身が突き出していた。
「なにっ!?」

ぬらりひょんの肩越しに悠真はニコリと微笑んだ。
悠真の胸の奥の気持ちが口を突いて、
空気に触れた瞬間、形を変えた。
「愛してる」

沙紀は目を見開いた。

「ウオーッ!」
悠真は刀を刺したままぬらりひょんを
押して突き進んだ。

刀の力で、身体に力が入らないぬらりひょんは
易々と押されていく。
「ガハッ」吐血する悠真。

しかしその脚は止まらずに結界まで進む。
そして結界の手前で刀を抜いて
ぬらりひょんを蹴り飛ばした。

驚愕の表情を浮かべ結界へとぶつかる。
刹那、雷の様な光を放ち、
沙右衛門の身体は地面に倒れ込んだ。
「父さんっ!!」
沙晴がすぐに後を追って結界の外に出る。

沙右衛門を抱き起こす沙晴。
「お父さんっ!お父さんっ!起きて!」
すると薄く目を開く沙右衛門。
「おぉ、美人になったな、沙晴。
 スイーツアイランドはまだ好きか?」
その言葉に、大粒の涙を流しながら頷く沙晴。

顔を上げると、結界の中の悠真は
安心した様にニコリと笑うと、
事切れた様に倒れ込んだ。

その背後には鬼の形相のぬらりひょんが
仁王立ちしていた。


※最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございます。
次回最終回となります。

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