こどくのち#19【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
バケツをひっくり返したような土砂降りの中、
古びた和服に身を包む小柄な老人の前で、
日本刀を片手に跪く(ひざまずく)沙右衛門。
足元に倒れた宗則の胸には刀傷が付いていた。
周りにはほぼ壊滅した部隊。
沙右衛門の他に、若者が一人だけ
かろうじて立っていたが、
戦意は完全に失われているようだった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
肩で息をする沙右衛門は老人を睨んだ。
老人はニヤリと笑った。
「大切な兄弟まで斬り捨てるとは、なんたる修羅。
面白き男よ、土御門沙右衛門」
「てめぇが操って殺し合わせるからだろぉが。
俺たちは正義のヒーローでも
聖人君子でもない、陰陽師なんだよ。
テメェを殺す為なら何だってするさ、
ぬらりひょん」
ぬらりひょんは強かった。
取り囲む作戦は上手くいったが、
その他人を操る能力で、
力の弱い者はあっさりと操られ互いに斬り合い、
あっという間にこの惨状が出来上がった。
沙右衛門は仲間を傷つけない様にして、
ぬらりひょんと戦ったが、
ついには宗則が操られてしまい、
交戦した後、自らの手で殺してしまったのだった。
仲の良かった弟を自ら手に掛けた事で、
強がってはいたが、心は折れ掛けていた。
「うむ。
惜しい男じゃな。
ん、なになに、娘がいるのか?
可哀想に、一人になってしまうのぉ、ひっひっ」
その言葉に沙右衛門はぴくりと反応した。
「そうだな、諦めるわけにはいかないよな。
サハが安心してスイーツアイランド
に行くにはよぉ!」
その左手には手作りの御守りが
握り締められていた、
右手に持った日本刀を強く握り直して
立ち上がる沙右衛門。
刹那、素早く斬り掛かる。
ぬらりひょんはするりと避けたが、
沙右衛門はその服を掴んだ。
「!?」
しかし刀身はぬらりひょんを向いていない。
ぬらりひょんは思考した。
何をする気だ?
「すまない、サハ、、、」
すると次の瞬間沙右衛門は刀を自らに刺した。
そして柄の先をぬらりひょんに当てると
祝詞を叫んだ。
ぬらりひょんは抜け出そうとしたが、
祝詞と沙右衛門の馬鹿力で身動きが取れない。
「ぐぉーっ!!」
ぬらりひょんが、地の底から響くような
雄叫びを上げると、その身体はスライムの様に
ぐにゃぐにゃと蠢き出した。
最後の一文を言い上げた時、
雷鳴が轟いてぬらりひょんは液状になり
沙右衛門の身体に吸い込まれていった。
「沙右衛門さん!!」
残った陰陽師の1人が
駆け寄って来て抱き起こした。
沙右衛門はその胸ぐらを掴んだ。
「こ、こどくのちへ連れて、行け、、急げ」
男はブンブン首を振って頷くと、
沙右衛門を車に載せてこどくのちへと向かった。
「沙右衛門さん、着きましたよ!」
薄れ行く景色の中でかろうじて保った意識で、
ドアを開けると転がり落ちる。
刀はまだ身体に刺したままだった。
外は激しい雨が降り続いていた。
沙右衛門は最後の力を振り絞り、立ち上がると
鳥居に向かって走り出す。
サハの顔が浮かんだ。
ごめんな、サハ。
約束を守ってやれなくて、
今まで父親らしいこともろくにして
やれなかった気がする。
そして、今度は一人にさせてしまう。
だけどお前は強い子だ、
きっと乗り越えれると信じてる。
愛してる、ありがとう。
あぁ、最後に一緒にスイーツアイランドに行って、
嬉しそうにケーキを食べる
お前の顔を見たかったな。。
走りながら刀を抜いた沙右衛門。
刀の魔力による抑えが解け、
身体の中で、自我とぬらりひょんが混ざり合う。
目の前がぼやけて来る。
身体が思い通りに動かない。
それにやけるように熱い。
ぬらりひょんの意思が介入して来て
反転した身体は、鳥居から離れようとする。
しかし沙右衛門は強い意志で跳ね返し、
鳥居へと突っ込んだ!
その瞬間バンッと橋の上を飛んでいき、
こどくのちの中で転がった沙右衛門。
薄く目が開いた。
目の前には自分に向かって
降ってくる無数の雨粒。
「ふっ、ざまあみやがれ」
降り続く豪雨は血も涙も洗い流したのだった。
沙晴は家の中が騒がしくなったのに気づいた。
何事か女中に聞いたが「知りません」
とだけ言って気まずそうに逃げるだけだ。
祖父の部屋に行くと少し空いたドアから、
話し声が聞こえた。
「沙右衛門がやられた!?」
その時近くで雷鳴が轟いた。
いっその事、今の会話も掻き消してくれれば
よかったのにと思った。
ー7年後
和室の大広間にて、
長机を挟んで両側にズラリと並ぶ男女。
誰もが落ち着き払って正座している。
「では次に、こどくのちについての協議に入る」
上座に座る年嵩の男性、土御門実朝が声を張る。
「皆も分かっていると思うが、
あの地には我が嫡男で、
次期党首を任せるつもりの沙右衛門が
囚われの身となっておる可能性がある。
先の寄り合いであった通り、
沙右衛門の娘のサハを例の作戦案で、
沙右衛門の捜索と救出に向かわせる。
サハ、準備は滞りないな?」
男性の反対側に座るサハは、
狩衣を纏いカラスの仮面を被っていた。
実朝の言葉に強く頷く。
「予定通り、大学の生徒6人を送り込みます。
ぬらりひょんは必ずその者達を使って
脱出を試みるでしょう。
そうやって炙り出した所で殺します。
学生の身の安全は保証出来ませんが、
致し方ない。
一人でも助けられるならそうします」
実朝はうむと頷く。
「しかし、サハよ、お前の実力は疑っておらぬが、
本当に一人で良いのじゃな?」
「はい、予定通り乗り込むのは一人で良いので、
結界師を5名ほど手配願います」
「あいわかった!
では、八咫烏よ、
土御門沙晴(サハ)の指揮の元、
沙右衛門奪還に向かえ。
沙晴、気をつけて行くんじゃぞ」
沙晴は力強く頷くと、立ち上がり踵を返した。
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