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「夜に駆ける」の原作小説を読んで、MVの“隠された目”を考察してみた

騒がしい日々に笑えない君に
思い付く限り眩しい明日を

なんてすてきな歌詞なんだろう。でも、自殺のことを歌った曲だった。

2019年にリリースされ、YOASOBIの鮮烈すぎるデビューを飾った代表曲「夜に駆ける」

自分にとってこの曲は、Perfumeの「ポリリズム」や、米津玄師さんの「Lemon」みたいなものである。世間的にはめちゃくちゃ有名だけど、自分にはあまり刺さらず、これまでほとんど聴いてこなかった。

ところがある日、あらためてMVを見たときにその考察しがいのある物語が気になって、本屋で「夜に駆ける」の原作小説集を買って読んだ。

「夜に駆ける」は、自殺のことを歌った曲だと聞いたことがある。一方で、それだけじゃ理解しきれない謎がこのMVにはあった。

いちばん興味をそそられたのが、女性の目がピンク色でアメーバのようにバシャバシャと描かれている点だ。せっかくだからこの描写を「アメーバ」と名づける。

最初、屋上から飛び降りようとする女性が人生に絶望したり、涙があふれたりする様子をアメーバで表現しているのかなと思った。

しかし原作を読んでみると、じつは女性の正体は死神で、男性を自殺に導く存在だと読み解ける。星野舞夜さんによる原作のタイトルは『タナトスの誘惑』。「タナトス」とは、死に対する欲動という意味だそうだ。

恋に落ちた相手は、人生に疲れ果ててしまった男性の願望から生まれた死神だった――。その点を踏まえると、女性の目のアメーバが意味するのは絶望でも涙でもなさそうだ。

「夜に駆ける」のMVには、アメーバ以外にも女性の目が隠されている描写が多い。屋上にいる女性のカットでは目だけ画面から切れているし、飛び降りて落ちていくカットでは髪の毛で顔が隠れている。

「目は口ほどに物を言う」とはよく言ったもので、目は喜怒哀楽といった感情を雄弁に語る。目が隠されていると何を考えているかわからないし、ミステリアスな印象を受ける。

そんな女性の目がはっきりと描かれるのは、MVの終盤だ。原作でいうと、彼女が死神であると明かされた部分にあたる。

女性の目が隠されていたのは、彼女の正体を隠すためであり、アメーバは死神の魅惑的な力を表現しているのではないだろうか。

2人で一緒に屋上から飛び降りる前、男性の目は彼女と同じくアメーバにとりつかれてしまう。それはつまり、彼がタナトスに誘惑されてしまったことを表しているのではないか。

また、下記の歌詞のタイミングで女性が男性のほうを振り向いた瞬間、彼女の目がアメーバになっているとわかる。

初めて会った日から
僕の心の全てを奪った

「目を奪う」という言葉がある。あまりに美しかったり、見とれたりするほどの魅力によって、夢中にさせられてしまうことを指す慣用句だ。

女性のアメーバは、まるでほんとうに目を奪われて血が噴き出しているようにも見える。アメーバと「目を奪う」という言葉をかけていると受け取れないだろうか。

と、女性の“目”を軸に考察してみた。「夜に駆ける」の歌詞とMVは、ファンによってすでに散々考察されているし、自分の考えは見当はずれなのかもしれない。

しかしYOASOBIの曲は、原作とあわせて読むだけでここまで想像がふくらみ、さらに楽しめるのだ。アニメもそうだけど、やっぱり作品の原点である原作について知るのは大事だと思う。


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