1話前編 「おっしゃあ!プリマジ、やってやるぜっ!!!
張り巡らされた送電線、排気ガスで黒く澱んだ空気と雨の匂いが入り混じる空の下、まあやは他校のヤンキー達と喧嘩の真っ最中であった。
ガッシャーーーン!
まあやのパンチで、集団の頭領らしきヤンキーが派手に吹き飛ばされた。流石に重い一撃だったのか、フェンスにバチン!と張り付けになって地面に倒れ込んだ後、よろよろと立ち上がってまあやを睨んだ。
「クソッ!覚えてろよ、不知火魔亞夜!」
「次は無えからな…」
まあやの殺気を感じたヤンキーの集団は、そのまま尻尾を巻いて逃げていった。
「紅華女最強の女を舐めんじゃねぇぜ!ったくよぉ」
「やりぃ〜!さっきのパンチマジパネェかったぜ!!」
「うっし、じゃあ今夜は焼肉だぁ〜!!!ハナの奢りな!」
「ちょ、それは勘弁してよまあや〜!」
ハナはヤンキー名門学校「紅華女子中学校」の三年生で、喧嘩は二番目に強い。もちろん一番はまあやだ。ナワバリを荒らすヤンキーどもを蹴散らすのが二人の日常で、荒れまくりながらも楽しい生活を送っている。
「はぁ〜食った食った!ありがとな、ハナ!!」
「も〜〜食い過ぎ!お会計ヒヤヒヤしたぁ…」
二人が満足げな表情で焼肉屋から出ると、ビルの巨大ディスプレイ前に何やら人だかりが出来ていた。
「おいハナ、今日なんかあるのか?」
「丁度施工が終わった巨大ディスプレイが作動してるからみんな見に来たんじゃね?」
「巨大でぃすぷれい…?ただの黒い板かと思ってたぜ!」
「んな訳あるかぁ!アレはね、本当にすっごいんだ…!」
まあやがポカンとしていると、ディスプレイからアナウンスが流れてきた。
「アンダー区の皆様、こんばんは。プリマジ実行委員会です。この度はこのアンダー区にも、プリマジの素晴らしさを伝えるべく、巨大ディスプレイを設置する運びとなりました。我々はプリマジが与える人々への幸福、感動の影響を研究し……」
「話がなげーよ!もっと簡単にまとめられねえのかよ!」
「まあまあ落ち着けよ、上層区の奴らのことだからさ」
アンダー区はならず者が集うスラム街、言うなればゴミ溜めのような地区で他の区民から差別されている。そのため、アンダー区民は他の区を「上層区」と呼び、忌み嫌っている。アナウンスは暫く続いたので、野次や罵声がブーブー飛び交った。
「……とまぁ、難しい話はさておき、まずは体感してもらいましょう!最高の"プリマジ"を、どうぞご覧あれ!!!」
声とともに、真っ黒だった画面が切り替わった。荘厳な雰囲気が漂うステージに一人、少女が佇んでいる。
「あああ、あの方はっ!?トッププリマジスタのリリィ様ぁ!?!?」
興奮気味でディスプレイを見つめるハナとは真逆に、まあやは「ぷりまじすた…?りりぃさま⁇」と困惑気味だ。そうこうしているうちに、ディスプレイには白髪碧眼の美少女の顔が映し出された。
「皆様、ご機嫌よう!本日もお集まり頂き、誠にありがとうございますわ!」
汚れまくったアンダー区には不釣り合いなほどに、透き通った声が響き渡った。
「本物のリリィ様だ〜!!!マジでヤバすぎ!!!!パネェとかそんな言葉じゃもう言い表せねー!」
「真っ白でふわふわで餅みてぇな奴だな!」
「まあやは本当に食いしん坊さんでしょうがないなぁ…」
ステージが暗くなり、スポットライトがリリィを照らした。水面の上でワルツを踊るリリィは正に白鳥そのもので、重力を忘れさせるほどに華麗だった。ひらりはらりと舞う度にいろとりどりな装飾の入ったスカートが、光を反射している。
「あれはッ!ステンドグラスコーデ!!雑誌で見たのと同じだぁ〜!!!」
「すてんどぐらす…?こーで⁇」
リリィは歌い出した。彼女高音のクリスタルボイスは、「浄化の歌声」と評されるに十分相応しいものだった。ライブが始まるまで騒めいていた群衆が、今はすっかり画面に夢中になっている。
まあやは「……すげぇ」と一言だけ溢し、口をぽかんと開けてリリィのライブをじっと見た。ハナは感動のあまりその場で涙を流した。余韻に浸る間もなくライブはクライマックスを迎える。
「アン!・ドゥ・トロワ!」
「プリマジ・イリュージョン!ルミエール・グランジュッテ!」
リリィの背中に白銀の翼が生え、ふわりと高く飛び上がった。180度開いた脚と爪先までピンとした手のシルエットが美しい、超一流の技術だ。
「―フリーズ」
リリィは着地した後、アティチュードの姿勢のまま凍りついた。
「……。」
「おいハナ、お前がフリーズしてどうすんだよ」
その後もライブは暫く続き、リリィのプリマジは終演した。画面の中の人々はもちろん、アンダー区の人々も拍手喝采してリリィを称賛した。いつものアンダー区なら考えられない光景だ。
「…なんだこれ?」
まあやは自分の胸から虹色のキラキラしたものが出ていることに気が付いた。ハナからはもっと多くの量が溢れ出ている。謎のキラキラは天高く舞い上がり、アンダー区を覆う黒い霧を打ち消している。やがて、雲くっきり見えるぐらいに霧は晴れて、夕焼け前の薄紫の空色がアンダー区を優しく照らした。
「こんなに綺麗な空、久しぶりだよな!ハナ!!!…あれ?」
「うっ…うっ……生きてでよがっだ………」
ハナはリリィのライブを見れた感動で咽び泣いている。まあやはうんうんと大きく頷きながら、決心のこもった大きな声でハナに宣言した。
「おっしゃあ!プリマジ、やってやるぜっ!!!」
「ええ!?まあや姉貴がプリマジデビュー!?!流石に気が早過ぎなんじゃ…」
「やりたいと思ったらすぐやらねーとダメだろ!ところで、プリマジってどこで出来るんだ?」
「プリズムストーンだよ、黒とピンクの看板が目印ね」
「わかった!ありがとなハナ!いってくる!!!」
まあやは即座に駆け出していった。
「全く、まあやはいつもこうなんだから…」
ハナは呆れながらも、温かい笑顔でまあやの背中を見送った。
「ハァ…ハァ……プリズムストーン、どこにあるんだよ〜!!!」
走り続けて早20分、まあやはまだプリズムストーンに着いていなかった。
「ちゃんと地図貰ったらよかった…ってか、この方向で合ってるのかぁ?」
考えるより先に身体が動くタイプのまあやは、とりあえず自分の直感を優先して走り続けることにした。
ドスッ!
まあやの前方から鈍い音がした。どうやら人にぶつかったようである。
「ちゃんと前見て歩けよ、、クソが……」
「すいません!!!大丈夫でしたか!?」
声の主はまあやの助けを借りて、よろめきながら立ち上がり、不機嫌そうな顔を浮かべたまま歩いて行った。
かと思うと、踵を返してこう言った。
「ねぇ、キミってもしかして"まあや"ちゃんなのかい?」
「そうですけど……何か用ですか?」
まあやはアンダー区じゃ名の知れたヤンキーだったため、名前を知られていても不思議ではなかった。声を掛ける奴等は大抵喧嘩狂いのアホだらばかりだが、目の前に居る人は見た目からして異様な雰囲気を醸し出していた。
―ショートの黒髪赤メッシュ、目深に被った制帽、やけに上等な屯服はまるで軍服の様にも見える。まず、ここら辺じゃ見ない顔だ。
「オメーどこ中だよ!!!」
ヤンキーの常套句を切り出す。これは威嚇ではなく、共通の知り合いが居ないか探りを入れ、無用な戦闘行動を避ける為の確認行為である。
「お〜っとっと!違うよまあやちゃん!ボクはキミと喧嘩したい訳じゃあないんだよ〜!?キミを助けたくてさぁ〜〜〜!!!」
慌て気味に弁解する見知らぬ人。意外と臆病者なのか……?"助けたい"って、何を助けてくれるんだろうか。まあやは兎にも角にも、早く立ち去りたくて仕方なかった。
「このままプリマジに行ってもマジが足りなくてフロートから落ちて死ぬだけ!良ければ全身骨折で済むかな!あとは内臓破裂かも!?」
サラッとえげつない事を言われたまあやは若干顔をしかめた。
「だからボクがキミに力を貸してあげるよ!そうさ、マジの力をねっ!」
怪しい。怪しすぎる。どう見ても怪しすぎる。見知らぬ人は不気味な笑顔を浮かべながらまあやに手を差し伸べてきた。
「さぁさぁどうするよ!やっちゃう!?プリマジやっちゃう!?!?」
半ば強制的な勧誘だった。絶対怪しい、ヤバい予感がする。まあや自身の直感がそう警告してきた。なのに―。
「よろしくな!」
まあやは手を取ってしまった。
「やっぱりキミはえらい子だねぇ〜!ま・あ・やちゃ〜〜〜ん!!!」
――その瞬間、まあやの目の前から姿を消した。
「……!?どこ行った!?!?」
「ボクはここだよ!こ〜こっ!!!」
姿は見えないのに声だけは聞こえてくる。
「髪が……!?」
まあやの髪が同じ色に染まっていた。
――黒に赤のメッシュ。
「おいマジでどこ行きやがった!?」
まあやの動揺具合がよっぽど面白いのか、ケタケタという笑い声が頭の中で響いた。
「まあ簡潔に言うと憑依というかぁ…魔法の力を共有する的な〜?まあまあ、細かいことは後でね!」
雨上がり、夕陽で紅く染まる空の下。まあやの陰は光芒に照らし出されて黒く長く伸びていく。
影は嗤いながらこう言った。
「ボクはキミのマナマナ、愛だよ!よろしくね!」
「マナマナのマナって…ダジャレか?」
「これがボクの真名だから仕方ないじゃ〜ん」
「そんなことよりよ、おいマナ!早くプリマジをやらせろ!!!」
「そうこなくっちゃ!早く走んないと最終受付に間に合わないよ〜」
マナとたわいもない会話を交わしながら、まあやは再びプリズムストーンに向かって走り出した。
「ハァ…ハァ……着いたぁーーーっ!」
扉を勢いよく開いて、中にズカズカと入っていく。
雨と泥で汚れた制服を身に纏ったまあやは、可愛らしいプリズムストーンの店内でひどく浮いて見えた。
「あの…プリマジの受け付けでしょうか…?」
おずおずと店員さんらしき人が尋ねてきたので、まあやは「はいっ!」と勢いよく返事した。
「それでは、このプロフィールをご記入ください!」
まあやは紙を受け取り、プロフ欄を埋め始めた。
「どんなプリマジスタになりたいですか…か…、、。っぱあのリリィって子のステージがマジ輝いてたから、私もああなりてえな!!」
「目標高いねぇ〜あの子はトッププリマジスタだよ?わかるかい?プリマジスタ達の頂点」
「それならテッペン目指して頑張るしか無いっしょ!」
「えらい!それでこそまあやちゃんだね〜」
自分の夢を答える欄に、「テッペンとる!!!」と大きく大きく書いて提出した。
「大変やる気があって良いですね!では、コーデを決めて頂けますか?」
「こーで…?あんまりよく分かんねえから初めてのプリマジにピッタリなやつをオススメしてくれ!」
「かしこまりました!」
まあやに手渡されたのは「プリマジチェック」だった。
「うおー!めっちゃ"こーで"可愛いし、なんかカードが透けててきれーだな!」
「それがプリマジカードの醍醐味ってワケさ!」
「これを着てライブすれば良いってことだな、よっしゃぁ!何となく分かってきた!」
「ボク達の爪痕、プリマジの歴史に刻み込んでやろうよ」
「おう!任せとけ!!!」
まあやは勢いよく光の扉の中に飛び込んでいった。
登場人物紹介
・まあや

フルネーム:不知火 魔亞夜(しらぬい まあや)
身長:170㎝ 誕生日:8/15
この物語の主人公。無鉄砲かつ破天荒というとんでもない性格ながらも、底抜けの明るさと謎のカリスマ性で誰とでも仲良くなれる子。
紅華(こうか)女子中学校2年生で、ケンカ最強として名を馳せている。よく知られている黒髪に赤メッシュの姿は、実はマナが憑依している姿である。
・ハナ

フルネーム:虎成 花(とらなり はな)
身長:163㎝ 誕生日:3/5
紅華女子中学校3年生。まあやとは小4からのつきあいである。実は可愛いものが好きだが、周りにバレると恥ずかしいのでひた隠している。
・リリィ

フルネーム:フォンテーヌ・水華(みか)・リリィ
身長:150㎝ 誕生日:9/2
この物語のもう一人の主人公。まあやの憧れるトッププリマジスタ。自身のプリマジイリュージョンである「ルミエール・グランジュッテ・フリーズ」を披露した。
・マナ

フルネーム:紅空 愛(くれそら まな)
身長:170㎝ 誕生日:9/26
この物語の裏主人公。誰も素性を知らないミステリアスな存在だが、まあやのマナマナとしてプリマジデビューに協力してくれるらしい。立ち居振る舞い、口調、纏う雰囲気が全て怪しい。
