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運動会前夜

6月20日は娘たちの運動会だった。
年長の長女にとっては幼児園最後の運動会でもあった。

当たり前だけど、年長になるとすべての行事が幼児園最後となる。この時この姿を見られるのも今日で最後かと、毎度感傷的になり涙腺が緩む。


ただ、今回の運動会で私は決して泣いてはいけなかった。

なぜならば、運動会前夜に長女から言われていたのだ。
「ママ、ぜったいなかないで」と。

理由を尋ねると、
「ママはおとなでしょ。なくならこころのなかでないて!」と言われていた。(キミは侍か)

一方的に取り付けられた約束ではあったが、泣くのはこどもの所業だと思っている娘に恥をかかせるわけにはいかなかった。



「園児入場!」の掛け声とともに、子どもたちが自分の立ち位置に走り出す。

長女、いたいた
次女、みつけた

たくさんの園児がいても、我が子をすぐに見つけられるのは母親の特殊能力かも知れない。

撮影席から近い次女と目が合い、手を振った。


4年前、長女が最年少の未満児クラスだった時、年長のお兄さんお姉さんがとても大きく立派に見えた。
だけど、今ではその時一番小さかった子どもたちがそのお兄さんお姉さんになっている。
ピシッと立って話を聞く姿勢、呼びかけにしっかり答える姿は身体だけでなく、心の成長まで感じさせた。
まだ開会式だと言うのに、涙出そう。
「なかないで!」と言った長女の真剣な顔が頭をよぎり、グッとこらえる。

長女の出番となる種目はかけっこ、親子騎馬戦、リレー、跳び箱·鉄棒、チアダンス、カラーガード。
次女はかけっこ、ダンス、親子団技と、我が家としてはなかなか盛りだくさんである。

出番がくる度に撮影席へと移動し、使い慣れない夫のカメラを回す。姉妹で出ていると割とずっと忙しい。


そうしているうちに、ひとつ、またひとつとプログラムが進行していく。

娘たちを含む、こどもたち全員がどの種目も一生懸命に取り組んでいた。ニコニコと走り、踊る姿は見ている大人たちみんなを笑顔にした。
子どもたちの楽しい、嬉しい、くやしい気持ちがあまりにもまっすぐで、ストレートにこちらへ伝わってくる。その姿に何度となく泣きそうになった。



運動会も中盤になり、応援タイムが挟まる。
年長クラスのチアダンスだ。

撮影席から長女を追いかける。


ボンボンをフリフリ、チアガールらしいとてもいい笑顔だ。チアボーイたちが側転で会場を沸かす。真剣な表情がカッコいい。
フォーメーションが変わり、クラス全体で大きなVの字を作る。

ココで私は自分の目を疑った。


なんと、V字の先頭に娘がいたのだ。
いわゆる、センターのポジションだ。

センターで踊るだなんてこと当日のその時まで、私も夫も知らなかった。娘はセンターをつとめることを私たちに告げずにいたのだ。

家にいるときは「ママみて、ママきいて」のオンパレードなのに、そんな我が家の5歳児がどんな気持ちでこの日まで秘密にしていたのだろうと思った。
この時ばかりは驚きのあまり、涙がでなかった。
誇り高く、我慢強い我が家の小さな侍の演出に、顔がほころんだ。

あとから、何でセンターのこと教えなかったのかと尋ねたら、「サプライズしたかったんだ」と何てことないように答えた。長女のサプライズは大成功だ。



あっという間に時間が過ぎていき、いよいよクライマックスを迎える。
フィナーレを飾るのは年長クラスによるカラーガードだ。

子どもたちが自分より大きな旗を天高く掲げ、地面につける。歩調に合わせて揺れる青と赤と白の旗はただただ美しかった。
演技を終えると、みんなで大きな円となり、自分の前に両手でまっすぐと旗を掲げ、一人ずつゆっくりと退場門に向かって歩いた。
退場門をくぐった園児全員を担任の先生がハグして迎えていた。

そうして、すべての種目が終わった。


私はとうとう堪えきれず、泣いていた。
もう泣かずにはいられなかった。

よくがんばった。可愛かった。立派だった。素晴らしかった。
大感動の運動会だった。

首から掛けたフェイスタオルで目頭を押さえると、持ってきていたポータブル扇風機で急いで目を乾かした。だけど、その下からまた新しい涙が溢れてくるのだった。

運動会前夜に長女と交わした約束を私は守れなかった。
だけど泣いたことがバレたなら、長女の気が済むまで何度だって喜んで謝ろう。そう思った。


閉会式を終えると、その場に待機する自分の子どもを保護者が迎えに行く。
早く褒めてあげたい、早く労ってあげたいと私も娘たちの元へ急いだ。
そこにはちょっとドヤ顔の次女とちょっとすました顔の長女が待っていた。

汗びしっしょりになったおでこと首にはペッタリと髪の毛が張り付いて、頬はほんのり赤かった。

ストライプ柄のレジャーシートに家族が揃う。
バッグから新しいタオルを取り出した私は、娘たちのがんばった証を拭った。


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