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精神障害の労災請求が4,958件に 支給決定で最も多い出来事はパワハラ

仕事による強いストレスが原因で心の病気(精神障害)を発病したとして労災を請求した件数が、令和7年度は4,958件になりました。
前年度より1,178件多く、率にすると3割を超える増加です。
厚生労働省が令和8年7月15日に公表した「令和7年度『過労死等の労災補償状況』」で明らかになりました。

数字の大きさもさることながら、中身を見ていくと、人事や労務の現場で今すぐ効いてくるヒントがいくつも見つかります。
順番に整理していきます。

請求は急増、認定は横ばい

まず全体像です。請求件数は4,958件で前年度比1,178件の増加。
このうち自殺(未遂を含む)は215件で、13件増えました。

一方、労災と認められた支給決定件数は1,082件で、前年度比26件の増加にとどまっています。
うち自殺は76件で、こちらは12件の減少でした。

決定件数(支給・不支給を合わせた判断が下された件数)は3,839件で、そのうち支給決定が1,082件ですから、認定率は28.2%です。
令和5年度は34.2%、令和6年度は30.2%でしたので、3年続けて下がっていることになります。

請求が急に増えているのに認定件数はほぼ横ばい、という構図です。
ここから「認定が厳しくなった」と読むこともできそうですが、公表資料はその理由を説明していません。
請求のすそ野が広がった結果として、認定基準に届かない事案の割合が増えている可能性もあります。

医療・福祉が突出、中でも介護分野

業種別(大分類)で請求件数が多いのは、「医療、福祉」1,288件、「製造業」720件、「卸売業、小売業」645件の順でした。
支給決定件数も「医療、福祉」292件、「製造業」158件、「卸売業、小売業」116件と同じ並びです。

さらに細かい中分類で見ると、最も多いのは「社会保険・社会福祉・介護事業」で請求706件、支給決定151件。
次いで「医療業」が請求578件、支給決定139件でした。
人と向き合う仕事が集中している分野です。

職種別(大分類)では、請求件数は「専門的・技術的職業従事者」1,367件、「事務従事者」1,137件、「サービス職業従事者」733件の順。
中分類の最多は「一般事務従事者」で請求833件、支給決定109件です。
「保健師、助産師、看護師」が請求369件・支給決定105件と続きます。

年齢では、請求・支給決定ともに40〜49歳が最多で、請求1,344件、支給決定294件でした。

残業が短くても認定されています

ここが今回いちばん注目したいところです。

支給決定された1,082件を1か月平均の時間外労働時間で分けると、最も多いのは「20時間未満」の57件、次いで「40時間以上〜60時間未満」の55件でした。
いわゆる過労死ラインとされる80時間や100時間の区分より、短い残業時間の区分のほうが多いのです。

さらに注目したいのが「その他」の699件です。
これは、出来事による心理的負荷が極度であると認められる事案など、労働時間を調べるまでもなく業務災害と認定された事案の件数だと注記されています。
支給決定全体の6割超が、残業時間の多寡とは別の理由で認定されているということになります。

「うちは残業を減らしているから大丈夫」という感覚は、精神障害の労災に関しては通用しない。数字はそう語っています。

認定された出来事の1位はパワハラ

では、何が原因で認定されているのか。出来事別の支給決定件数を見ると、次のような並びです。

最も多いのは「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」で222件。
次に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」がともに127件。
続いて「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が113件でした。

いわゆるカスタマーハラスメントにあたる「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」は、前年度の108件から127件へ増えています。
セクシュアルハラスメントも105件から127件へと増加しました。

もう一つ、対照的な数字があります。
「上司とのトラブルがあった」は決定件数が1,061件と全項目中で最多なのに、支給決定は36件にとどまっています。
一方、パワーハラスメントは決定403件に対して支給決定222件。
同じ「上司との関係」でも、認定基準上の評価が大きく分かれていることがうかがえます。
ここは統計の並びから読み取れる傾向であり、資料が理由を述べているわけではない点は添えておきます。

なお、就労形態別に支給決定1,082件を見ると、正規職員・従業員が908件、パート・アルバイトが86件、契約社員51件、派遣労働者22件でした。

人事・労務の現場でできること

今回のデータから、実務としてすぐ手をつけられることを3つ挙げます。

1つ目は、カスハラ対策の前倒しです。
令和8年(2026年)10月1日から、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が事業主の義務になります。
従業員が1人でもいれば対象で、企業規模による猶予はありません。
方針の明確化、相談体制の整備、事後の適切な対応などが求められます。
今回の統計でカスハラ由来の認定が増えていることを踏まえると、施行日ぎりぎりの準備では現場が追いつかない可能性があります。

2つ目は、残業時間だけを見ない仕組みづくりです。
勤怠データの管理は多くの会社で整ってきましたが、それだけでは今回の統計に表れた6割超の事案は拾えません。
ストレスチェックの集団分析、上司以外に相談できる窓口、配置転換や業務量の急変時のフォローなど、時間以外の負荷を捉える仕組みが要ります。

3つ目は、記録です。
ハラスメントの相談を受けた日時、内容、その後の対応。これらが残っていないと、いざ労災請求や紛争になったときに、会社は「何もしていなかった」と評価されかねません。
逆に、丁寧な記録は従業員を守る道具にもなります。

心の不調は、起きてしまってからの対応には時間もお金もかかります。
相談窓口の設置や就業規則の見直し、ハラスメント研修など、10月の法改正に向けた準備でお困りのことがあれば、社会保険労務士にお気軽にご相談ください。

なお、働く方ご本人の心の相談先としては、厚生労働省が運営するポータルサイト「こころの耳」で、電話・SNS・メールの窓口が案内されています。


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