労災は「減った」のに、休む日数は「増えている」?─令和7年・最新の労働災害データを読む
工場や倉庫、トラックの運転席、病院や介護の現場。
私たちが当たり前のように「働いている」その時間の裏側で、労働災害は今も起き続けています。
厚生労働省が公表した最新の「令和7年 労働災害動向調査」を読み解くと、ひとつ気になる動きが見えてきました。
労災の「件数(頻度)」は減っているのに、ひとたび起きたときの「重さ」はむしろ増している、そんなデータです。
今回は、この調査結果について専門用語をかみくだきながらお伝えします。
そもそも「労働災害動向調査」とは
労働災害の統計には、いくつか種類があります。
ニュースでよく見る「労働災害発生状況」(死亡者数や死傷者数)は、事業者から提出される労働者死傷病報告をもとにした、いわば「実数」の統計です。
一方、今回ご紹介する「労働災害動向調査」は、従業員100人以上の事業所などを対象に抽出して行うアンケート型の調査で、労働時間あたりの発生率を見るためのものです。
「どれくらいの頻度で」「どれくらい深刻な」災害が起きているかを、率(レート)でとらえます。
つまり、件数そのものではなく、「働いた時間に対して、どのくらい災害が起きているか」という「質」を測る統計だと言えるかと思います。
3つの数字を、やさしく言いかえると
この調査には、少しとっつきにくい指標が3つ出てきます。
先に意味だけ整理しましょう。
度数率(どすうりつ) は、100万延べ労働時間あたりに何人が死傷したかを表します。ざっくり言えば「災害の起きやすさ(頻度)」です。
強度率(きょうどりつ) は、1,000延べ労働時間あたり、何日分の労働が失われたかを表します。「全体として、どれだけ深刻か」を示します。
死傷者1人平均労働損失日数 は、被災した1人あたり、平均で何日働けなくなったかです。「1件1件の重さ」を表す数字です。
頻度・全体の深刻度・1件あたりの重さ。
この3つをセットで見ると、現場で起きている変化が立体的に見えてきます。
全体では「頻度は下がり、1件は重くなった」
まず、調査産業全体(事業所規模100人以上)の数字です。
度数率:2.10 → 2.01 に低下(災害の頻度は減った)
強度率:0.09 → 0.09 で横ばい
死傷者1人平均労働損失日数:43.5日 → 45.7日 に増加(2.2日増)
無災害事業所の割合:53.1% → 55.9% に上昇
そして、休業に至らない軽い災害の度数率(不休災害度数率)は3.98 → 4.31へと上がっています。
この並びから読みとれるのは、「災害そのものは減ったけれど、ひとたび起きると休まなければならない日数は長くなっている」 という構図です。
1件あたりの重さが増したぶん、全体の深刻度を示す強度率は横ばいにとどまった、と読むこともできます。
この調査は「数字がどう動いたか」は示してくれますが、「なぜそうなったのか」の理由までは説明していません。
その1件あたりの重さが増した原因が、高齢化なのか、災害の中身が変わったのか。
原因の解釈は、別の資料や現場の実感とあわせ慎重に考える必要があります。
業種ごとに見ると、景色が変わる
全体の数字をならすと見えなくなるものが、業種別には表れます。
運輸業・郵便業は、度数率が3.55 → 3.65とわずかに上がった一方で、1人平均の労働損失日数は65.9日 → 31.5日へと大きく下がりました。
強度率も0.23 → 0.12へ改善しています。
頻度は微増でも、重大災害の比重は軽くなった、という動きです。
医療・福祉(※病院・診療所・老人福祉・介護事業・障害者福祉事業などの一部業種)は、これと逆の動きでした。
度数率は2.18 → 1.90と下がったのに、1人平均の労働損失日数は24.2日 → 31.9日へと増えています。
「件数は減ったが、起きたときの重さは増した」という、全体傾向とよく似た形です。
介護・福祉の現場は、人手不足のなかで身体的な負担の大きい仕事が続きます。
数字の背景まで断定はできませんが、「軽い災害は防げても、いったん大きなものが起きると長期離脱につながりやすい」という現場の難しさが、データの形にも表れているのかもしれません。
会社の「規模」で、労災リスクは変わる
もうひとつ、見過ごせないのが事業所規模による差です。
度数率は、従業員1,000人以上の事業所で0.63、100〜299人の事業所では2.69。
規模が小さくなるほど、災害の頻度も深刻度も高くなる傾向がはっきり出ています。
大企業には専任の安全担当者や整った仕組みがある一方、中小規模の職場ではどうしても対策が手薄になりがちです。
この差は、まさに多くの会社が抱える現実だと思います。
なお、総合工事業(建設)では、強度率が0.57 → 0.29、1人平均労働損失日数が296.6日 → 151.8日と大きく改善しました。
重大災害を減らす取り組みが、数字の上では前進していることがうかがえます。
現場の「これから」に活かす方法
今回のデータが投げかけているのは、「件数を減らす」だけでなく 「起きたときに重くしない」 という視点の大切さではないでしょうか。
ヒヤリハットや軽微な災害の段階で芽を摘むこと、一人ひとりの作業負担を見直すこと、復職までの体制を整えておくこと。
とくに人手の限られる中小の職場ほど、こうした地道な備えが効いてきます。
労災が起きると、被災した方の生活はもちろん、会社にとっても労災保険の手続き、休業中の対応、再発防止と、向き合うことは少なくありません。
「うちは大丈夫」と思っているときほど、一度立ち止まって自社の仕組みを見直していただけたらと思います。
労働保険・労災の手続きや、就業環境の整え方でお困りごとがあれば、社会保険労務士がお手伝いできます。
数字を「自社のこと」として読みかえる作業を、ご一緒できればうれしいです。
