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西山麻由子の超短編⑥Believe

⑥Believe

                                                                   作:西山 麻由子
 
TEA FOR TWO
優雅にお茶を楽しむ習慣は国は違えどみんな同じ。
 
スリランカのお友達が最高級ティンブラを贈ってくださったの。
明後日に拙宅にいらしてくださいな。タルトも用意してお待ち致しております。お話したいこともありますので。
 
梨江から INVITATION CARD が届いた。
 
砧町の世田谷美術館の近くのテラスハウスに住む梨江の家は、二子玉川の私のマンションからは車ですぐ。なのに半年も電話どころか会ってもいない。
 
梨江はスリランカ大使館に一等書記官として勤めている夫をアシストするため大使館関係者や家族とのつきあいに忙しく、大学時代に親しかった私とも連絡がつきにくいのだ。
かくいう私も実践女子大学を卒業し、5年ほどは大学時代に培ったネットワークを活かしフリーの通訳をこなし、その後、公益法人国際交流サービス協会(International Hospitality and Conference Service Association)のエスコートガイドとなり多忙な毎日を送っている。
IHCSAとは日本政府が行う海外からの招聘プログラムや国際会議などの国際交流活動に積極的に貢献することによって、政府の施策に応じた広い国際相互理解と相互親善に寄与することを目的とした公益法人である。
フリーランスだったころより収入も安定し、38歳の時に貯金していた1500万円を頭金にして、期間固定型ローンを組んで、思い切って二子玉川の好立地のマンションを購入した。
入居祝いの時には、大学時代の仲間たち7人が集まってルーフベランダで焼き肉パーティーをした。
The Way We Are. それぞれの人生を歩んでいる。
 
ところで一体何の話だろうか、といぶかしく思ったが、電話よりも会うほうが話し易いのなら遊びに行った方がいいだろうと思い、仕事も入ってなかったので、そそくさと梨江に電話した。
「OK! 明後日PM2:30にお伺いするわ。お茶とケーキ楽しみにしているからね~」
当日になった。昼はカンタンに家で冷し中華ですまし、PM1:30に玉川高島屋に行き、何かお土産にいいものはないかと探し、ちょうど期間限定販売していたガトーフェスタハラダのガトーラスク「グーテ・ド・ロワ」の中缶を購入。そして梨江の好きな薔薇の花束を買い、梨江の住むテラスハウスに向かった。
「ピンポーン」
「あ、環、いらっしゃい」
「今日はお招きに預かりましてどうも。これよかったらお菓子とお花。どうぞ」
「まあーありがとう。グーテ・ド・ロワ、主人大好きなの。喜ぶわー。綺麗な紅茶色の薔薇。これ知ってるわ。高いんでしょ。悪かったわね。気を遣わせちゃって」
「こちらこそ、ディンブラとタルト楽しみにして来たのよ」
「さあ、座って。まず、レモン水でも召し上がっていて」
「ありがとう」
「今、お湯沸かして用意するから」
 
梨江はDANSKの白いケトルでお湯を沸かし始めた。
カップボードからティー・ポットとティーカップ&ソーサ―を2客とクリーマーを取り出した。
「お砂糖はいらないわよね」
「ええ。あ、これヘレンドのウィーンの薔薇ね。素敵ねー」
「ウィーンに主人と新婚旅行に行った時に奮発して買っちゃったのよ。大事なものだし、あまり人様にお見せしたくなくて、まだ数回しか使ってないの」
「いいの、大事な食器で」
「いいの、いいの。環とは長いおつきあいじゃない。今まで出せなくてごめんね。あ、お湯が沸いた」
 
慣れた手つきで紅茶を入れる梨江。アフタヌーン・ティーのセレモニーが始まった。
「そうそう環アプリコットのタルト好きだったじゃない。だから作ったのよ」
梨江がアプリコットタルトにナイフを入れ、切り分けて、ケーキサーバーで1つウィーンの薔薇のスモール・プレートにとってくれた。準備は整った。
「さあ、召し上がれ」
「じゃあ、どんなお味かしら。楽しみ」
「どう」
「美味しい。この紅茶、深みがあってミルクと混ぜるとしつこくないコクが出て、香りもたってるし」
「タルトも食べてみて」
「いただきます」
「いかがかしら」
「いやーん、美味しい、梨江ありがとう」
「喜んでいただけて何よりよ」
「ところで梨江、話って何?」
「えっ」
「カードに書いてたじゃない」
「あ、あれ」
「大事なことなの?」
「そう、それがねー、恥ずかしいんだけど、できちゃったみたいなの」
「え、何が?」
「赤ちゃん」
「えー、うそ!だって私達もう40歳よー!
「そうよ。私も主人と2人で生きていくものだとばかり思ってたけど、それがどうして今頃になってできるとは。びっくりよー」
「どうする。頑張んなきゃー!」
「そうよー、高齢出産!自信ない~」
「大丈夫よ、気を大きくもってどーんとこいよ!で、やっぱ嬉しい?」
「そりゃ、まあね」
この先への不安と期待が入り混じって梨江の頬は紅潮している。
「ジョージ王子やシャーロット王女やルイ王子みたいに美しい子だといいんだけど…。あ、もちろん元が違うから、そんな立派じゃないと思うけど」
「で、予定日はいつ?」
「まだできたばっかだから来年の3月かな」
「魚座かー。女の子だと可愛くていいかもしれないけど、男の子だと優しい子になっちゃうかもね~」
「でもズレこんで牡羊座になるかもわかんないし」
「いやー、とにかく目出度い。本当におめでとう。でもこれから身体大事にしないとね」
「初めてのことだから、本でも買って勉強しようかなーなんて」
「みんなに相談すればいいのよ。伊織とか万智子に。あ、あたしは子供いないから無理だけど」
それから2時間。話しに話した。積もる話はいっぱいあった。気がつけばPM4:30になっていた。
「あ、梨江、もうこんな時間。私そろそろお暇するんで」
「え、もうちょっといいじゃない」
「大事な身体なんだから、もうゆっくりしてね」
「え、そう、残念」
「また電話するね。といっても忙しいもんね、お互い」
「環、あたし立派に赤ちゃん産んで育てて見せるわ」
「その意気よー、頑張って!」
「じゃ、またね。今日は御馳走さまでした。ご主人によろしく」
 
 あー、びっくりした。
 私はマンションを買い、梨江は赤ちゃんができた。
 
 女、アラフィ。
 なっていくものなのねー
 人生って。
                                                                                       (完)
 
 

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