ポケットメモ#75 留守番はおむすび
■今日のポケットメモ
御朱印 おでかけ お弁当
***
御朱印帳を持って出かけることにはまっている友人からのメッセージが来た。
「今週末お天気がいいみたいだから、一緒に出かけない?」
都会で、映画にショッピング。
ではなく。
森林浴を兼ねた、お寺巡りだ。
たまには、そんな時もあっていいっか。
仕事でトラブって、かなり疲れている。
正直、出かけるのは面倒な気もするが。
気分転換にはなるかもしれない。
***
電車は。
畑や草で覆われている場所を通り抜け。
大きな川が下に見える鉄橋を進む。
ガタン、ゴトン。
音が大きくて、話し声が聞こえにくい。
電車のシートが。
いつも使っている通勤電車より、飛び跳ねる。
小さなバスに乗り換え、山道を進む。
前を見据えていないと、車酔いしそうだ。
***
「札所前。お降りの方は・・・」
バスのアナウンスを合図に、ドアから外にぽんと飛び降りる。
目の前は、目的のお寺。
「ここを上がればいいんだよね?」
濡れた坂道。
こけで滑らないように、慎重に進む。
空気が、澄んでいる。
そんな気がする。
山の木々が無造作に生えた、そんな場所。
手入れはされている。
ただ、自然の力をそのまま引き出しているような、場所。
空は晴れ渡っているのに、ちっとも暑くない。
この心地よさは何だろう。
***
目的の御朱印をいただけて、ニコニコ顔の友人。
朝早くからの移動の疲れも感じていないようだ。
「少し早めだけど、お昼にしようよ」
お寺の周辺には、食事ができそうな場所が無い。
昼食のおにぎり持参にしよう。
そう言われて。
朝、いつもより少し早く起きて。
おむすびを作った。
自分のために。
境内の隅っこに腰掛けて、リュックからおむすびを出す。
いや、出そうとした。
が。
ない。
おむすび、が。
***
「リュックの中身、全部出しちゃいなよ」
そう言われて、片っ端から詰めているものを出す。
日傘。
帽子。
おやつ用のカステラとおせんべいに、お茶の入ったペットボトル。
お弁当のおかずを作るのが面倒だったので。
すぐ食べられる、チーズ、ウインナー、パックに入れたミニトマト。
それが全て、だった。
「あははー。おにぎり、忘れちゃったの?」
確か・・・。
ご飯が熱かったから。
握って・・・テーブルの上で冷まして。
アルミホイルに、包んだ。
ここまでは覚えている。
どんなに脳内画像を再生し直しても。
おむすびをリュックに入れた、記憶が無い。
***
「まあ、そういうこともあるよね」
豪快に笑ったあと。
友人は持っていたおにぎりを一個、私に差し出す。
「おにぎり一個じゃ、足りないかもしれないけど。
おやつも持ってるし。
おなかが空いてたら、帰りの駅で何か買えばいいじゃない?」
そっか。
笑っちゃえば、いいことなんだ。
***
玄関のドアを開けて。
靴を脱ぐのもそこそこに。
キッチンのドアを開ける。
「おかえり。ちゃんと留守番していたよ」
おむすびが、そう言った気がした。
<Fin.>
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