信用創造:銀行に100万円の現金がなかった日



©︎Mayumi Maeda

100万円を置いていなかった銀行

ここで、少しの笑い話もかねて、銀行時代の思い出を書いてみます。

そのとき、私の部署は輸出部で、裏方のオフィスでした。
輸出手形の決済という業務をやっていて、1件が10億円とか、100万ドルとか、そういうものを1日に何十件も処理したり、期日より遅れた支払いを待つ間に積もって行った金利を計算して請求したり、電報や手紙を書いて督促したりするのが日々のルーティーン業務。私1人でもそんな感じで、ほかには輸入部、融資部のほか為替の交換やら先物予約やさまざまな業務で、行員が80人くらいはいたので、
1日に取引されていた のべ金額は、天文学的な数字だったはずです。

いちおうその銀行には窓口というのもありました。

ただ、外国銀行なので、公共料金の引き落としなどもやっていないし、そもそもキャッシュカードつきの普通預金というのがなく、小切手帳だけの「当座預金」しかないので、顧客は法人ばかり。
個人のお客さんというのは、ほぼいませんでした。

さて、その日、窓口に、自社の口座から100万円を現金で出金したいというお客さんが来ました。

そのとき、なんと100万円の現金、1万円札100枚が銀行になかったのです。そして、急いで、メッセンジャーのおじさんが自転車で近所の三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に走っていって、そこに作っている私たちの銀行の口座から100万円を出して戻ってきて、お客さんに渡したそうです。

それは、さすがにみんなの間で笑えるような笑えないような話題となりました。
私は、窓口が担当部署だった同期から「今日、こんなことがあったよ…」と、午後の休憩時間に聞きました。

ふつうは、銀行といえば金庫室があって、そこにたくさんの現金がおかれているように思っていないでしょうか?
私も、漠然とそう思っていました。
でも、じつは、その日、私の勤めるその銀行には100万円さえもなかったのです。
それでも、銀行業務は成り立つのです。
ものすごい金額のお金がやりとりされているのです。
すべて、データ上の数字だから。

昔は、「取り付け騒ぎ」と言って、銀行が信用を失い、預金している人たちがお金をおろしに殺到すると銀行がつぶれる、というのがありました。
今は、現金を使うことも減っているので、そういうことが銀行の崩壊につながるというのも、あまりありそうにはないですが、理屈としては今もそうで、一つの銀行のみならず、今世界中で流通している(ように見える)お金が、持ち主全員が一度にやってきて「現金で返してくれ」と言うと、絶対にできない状態になっています。

それは、ただの、データ上の数字だから。
コンピューターネットワークという、よくわからない空間を漂う、架空の数字、幻想だから。

それが「信用創造」なのです。



信用創造のしくみ

私たちが日々使っているお金。
最近は「キャッシュレス」が流行っていますが。

お金ってなんだろう?ってそもそも論で考えてみると、
たとえば野菜とか卵とか、もしくは大工さんに家を建ててもらうとか、
そういった物品やサービスに対価を払うために発達したものです。
原始的な社会では、物々交換をしていました。でも、物々交換だけだと
交換できるものや範囲が限られるので、貝殻や、金属で作ったコインなどを媒介にするという発明があったわけです。
これは、とっても便利なものだったと思います。

たとえば、日本では、わりと新しい時代まで貨幣が浸透せず、お米がお金のかわりをしていた時代が長かったようです。
けれども、お米は運ぶのも大変なので、「お米預かり証書」を発行して、それがお金のかわりになったりしました。
これについては、いろいろ本などで読みかじったことを、追々まとめていきたいと思っています。

お米は、いざというとき食べられます。金属であれば、何かに使えるかもしれません。

でも、信用創造というのは、まったく別のことで、そういった素朴なお金ではない、紙の上に書かれた数字、データ上の数字が「お金」になるという仕組みです。
そして、今の社会では、実際に流通しているお札やコインという「貨幣」、いわゆるキャッシュの20倍以上が、そのデータ上の数字だということです。

データとはいえ、たとえば金とか、なにか裏付けがあるのだろう?と思いたくなりますよね。でも、実際には、まったくないところに、銀行など一部の権限によって
「無からお金が生み出されている」状態なのです。

クレジットカードの例


身近で単純にわかりやすいのは「クレジットカード」かもしれません。
ちなみに、「信用」は英語でcreditです。(英語のcreditには、入金という意味もあります。逆はdebit 出金です)

クレジットカードで、たとえば50万円の枠をもらえたとします。
あなたや私は、それでこれから50万円分をなんにでも使うことができます。
銀行がその枠を作ってくれた根拠は、たとえば会社勤めの実績や、過去に借金を踏み倒した経歴がないなどの「信用」です。
つまり、そこには、無から「50万円」が生み出されていることになります。

また、たとえば、銀行が誰かに1000万円を貸すとします。1000万円という額なら、なんらかの担保設定をするかもしれません、不動産とか、株とか、もしくは大口定期預金とか。
仮に、あなたが小さな個人経営の会社をしているとします。
すぐには引き出せない大口定期預金1000万円を銀行に預けていて、それを担保に、銀行があなたに、1000万円を貸してくれるとします。
そうすると、あなたは1000万円の定期はそのままに、別の1000万円で支払いをしたり、必要なものを買うことができます。
つまり、数字の上では、あなたの持っているお金は、2000万円にふえています。

また、銀行の帳簿では1000万円が預かり金、準備高として、原資として残った上で、さらに1000万円が、あなたの口座に振り込まれると、帳簿上では「債権」(資産、asset) になります。つまり、もともとあった1000万円は、銀行の会計上、2000万円になっています。

つまり、この操作、事務処理をするだけで、もともとこの世界にあったお金1000万円が倍になっているのです。
お金の裏付けとして、そこにお米や金を担保としてもらったわけではありません。単にデータ上、ふえた数字です。

こんなふうにして、際限なく「無からお金がうみだされている」仕組みが信用創造です。

それは、貨幣さえも裏付けがない、架空のものです。
そういったものが積もり積もって、世界には架空のデータ上のお金があふれています。
そして、架空のお金を元手に株式やらいろんなものに投資したり、いろいろな「操作」で、さらに数字の上で雪だるま式にふやすことができるのです。
一部の少数の人に富が集まるのは、そういう架空のお金があふれているからなのです。

ごく一般の庶民は、たとえばお豆腐屋さんでは1つ1つ豆腐を手作りして1個250円で売ったり、農家ではキャベツを1個150円で売ったりして「対価」としてのお金を受け取っています。それは、無から生まれるものではありません。
実際には、生きるために必要なほかのものと物々交換されるべきものを、かわりにお金で支払っていると言い換えても良いかもしれません。

対価として受け取る素朴なお金と、信用創造で無から生まれるお金をごちゃまぜにしてしまっていることで、社会ではたくさんの不幸が起きているのではないかと、私は銀行勤めのころからずっと考えていました。
でも、自分が拙くて、すぐに言語化することができませんでした。

おそらくは、戦争が起きる理由も、かなりの程度「お金のため」という要素が多いのではないかと思います。戦争が起きると利益を得られるというセクターがあるのです。それは単純に武器メーカーというような話ではなく、そういったものに「投資」する集団があるということです。


その数字は、いったいどこからきて、どこへ行くのでしょうか?
毎日扱っている「お金」だと思っているものは、
架空の幻想でなく、物理的にいえば
単にコンピューターの画面に表示されたピクセルの黒いドットの集り。
それを、私たちは、何にでも交換できる万能なものとして信じ、また支配されているのです。

昔のお金、前の方にも書きましたが、たとえばお米であれば、いざというとき食べられるかもしれません。
また、金、ゴールドと交換するという裏付けのあった時代もありますが、よく考えてみてください。
金ですら、もし無人島に流れ着いたとして金の延棒だけ持っていても、なにかの役に立つでしょうか。

紙の紙幣は、燃やして暖をとったり、
10円玉の銅や、1円玉のアルミの方がまだ実際の価値を持っているとも言えます。

実際の「貨幣」でさえ、そのような状態なのに、貨幣さえもない、ただのデータ上の数字がお金、価値という世界、なんだかおかしくない?

私はその時そう感じて、それ以来、ずっとそのことを考え続けてきました。

データ上の数字がお金。
それは、お金とは、みんなで「そういうことにしようね」
「うん!」という合意があるから成立している世界です。

もし、誰からともなく「やーめた!」と言ってみんなが抜けて行ったら、あとには何も残りません。

そんな、実体のないものに振り回され、支配され、そのために死者が出るような世界。

それって、どういうもの?それで、ほんとうに、いいの?

そう問いかけても、簡単に「やーめた!」なんて言えない状態に、私たちは置かれています。

けれども、この根源的なことを問い続ける意味はあるのではないかと思っています。



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