設計が好きで独立した──私から少しだけ言えることがあります
私は普段、自身のことを
「設計屋」と名乗っています。
その設計屋として独立し、
今年で25年になりました。
好きだからこそ、
こんな因果な商売を続けてこられたのでしょう。
ですが、いつ頃からか
自分にとって天職だったのだろうと
思えるようにもなりました。
普段は、装置メーカーやセットメーカー、
自社生産設備を製作している企業の
設計部門などを顧客としています。
主な守備範囲は、
構想から基本設計あたりまでですが、
ご要望があれば詳細設計、
組図、部品図作成までお受けしています。
基本的には、これらすべてをこなすのが
設計者だと考えています。
ですが、一言に設計者と言っても、
分野や立場によってその内容は大きく変わります。
普段から関わることの多いメーカーの
「設計」という仕事を見ていると、
私が考える設計者像とは
少し違った輪郭が見えてきます。
そこでは設計者というより、むしろ折衝役、
調整役としての側面が強いように感じます。
客先の仕様をかみ砕き、要求を整理し、
ある程度の構想やイメージを組み立てる。
しかし実際の基本設計や詳細設計は、
自ら手を動かすというよりも、
別の担当者へ委ねることも少なくありません。
そのうえで案件を円滑に進めるため、客先、
外注先、サプライヤー、
社内の各部署との調整を重ねていきます。
少なくとも私の周囲にいたメーカー設計者は、
そうした役割を担っていることが
多かったように思います。
それはそれで、
一つの設計者像なのだと思います。
ただ、最初に書いたように、
私の中の設計者像は、自ら手を動かし、
設計全体に関わる人でした。
前職を退職する際、お客様へ報告をしたところ、
「うちに来ませんか」と
数社から声をかけていただきました。
中には、具体的な年収やポジションまで
提示してくださった企業もありました。
今思い返しても、
身に余るほどの条件だったと思います。
それでも私は、その誘いを断り、
独立という道を選びました。
それは「一国一城の主になりたい」とか、
「独立にはロマンがある」といった
綺麗な理由ではなく、もっと単純なものでした。
ただ、プレーヤーであり続けたかったのです。
構想を練ること。
まだ世の中にないものを考えること。
形のないものを、
自分の頭の中から図面へ落とし込んでいくこと。
そういった設計の根本そのものが好きでした。
そして何より、
自分の手で線を引くことが好きだったのです。
その感覚は、
役割分担が進んだメーカーの環境では、
少しずつ薄れていくように感じていました。
冷静に考えれば、
当時提示された条件のまま会社員を続けた方が、
はるかに安定していたのだと思います。
厚生年金、社会保険、雇用保険、労災。
個人事業主にはない、多くの保障があります。
それでもあの時、私はその安定よりも、
自分の手で設計に関わり続けることを選びました。
独立してから25年が経った今でも、
この選択が正解だったのかどうかは分かりません。
ただ少なくとも、
どちらの道がより納得して仕事に
向き合えたかと問われれば、
こちらの生き方だったように思います。
まあ、その納得と引き換えに、
老後への不安は
しっかり背負うことになったのですが。
もし今、機械設計という仕事で
独立を考えている方がいるなら、
少しだけ言えることがあります。
個人事業主は、思っている以上に大変です。
本職以外にも、
頭の痛い問題がたくさんあります。
所得税、消費税、インボイス、電帳法対応。
CADやパソコンの維持費。
そして国民健康保険、国民年金。
さらに将来に備えるなら、
国民年金基金やiDeCo、NISA、
小規模企業共済なども考えなければなりません。
私が独立した25年前と比べても、
考えなければならないことも、
支払わなければならないものも
確実に増えています。
今になって改めて、
会社員には会社員の良さがあり、
安定という価値は
決して小さくないのだと感じています。
私は、
自分の手で設計を続けたいという思いから、
この道を選びました。
そういう、
強いやりがいのようなものがなければ、
独立や個人事業主というのは、
いばらの道なのかもしれません。
そのうえで、
独立を目指す方へ一つだけアドバイスするとしたら――
顧客の確保です。
私はこれが最も重要だと思っています。
開業前に、たとえ1〜2社でも構わないので、
仕事を依頼してくれる顧客を
確保しておくことをおすすめします。
機械設計という仕事は、秘匿性の高い分野です。
そのため、信用や実績がなければ、
企業案件や大口案件を
獲得するのは簡単ではありません。
開業してからSNSや広告、
あるいはクラウドソーシングで
何とかしようと考えているなら、
安定した収入を得るのは
少し厳しいかもしれません。
独立してから仕事を探すのではなく、
仕事を確保してから独立する。
起業を考えると、
先に出費ばかり気になりがちですが、
本当に大事なのは収入です。
少し夢のない話かもしれません。
ただ、25年やってきた今の私が言えるのは、
それが現実だということです。
余計なお世話かもしれませんが、
少しでも参考になればと思います。
