波打ち際 #せりふ三題噺
鼻から通された胃カメラ。モニターに映る体内を、担当医と見ていた。
「凹凸が綺麗に映っていますね。滑らかなレースみたいです」
「独特のほめ方しますね。理解できないですけど」
「よく波打っていて、ここなら楽しめそうだな」
「人体実験しようとしてます?」
「まさか。レッドオーシャンみたいでデートにぴったりだと思っただけですよ」
「荒波なら、近づかない方がいいのでは?」
「どこも、かにみたいに真っ赤で、堅いですね」
「それ、やばいやつでは。甲殻類のように硬いなんて」
「健康が。ってことですよ。安心してください」
「横ばいでいたいですね」
「胃もパクパクしていて、食欲旺盛だ」
「ありがとうございます」
「コイに見えてきました」
「誉め言葉として受け取っておきます」
「胃カメラの管からエサを投入出来たらいいのに」
「近くの公園でやってくださいね」
「以上です。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
「綺麗な海でした。異常なしです」
「胃カメラですよね?」
「そうです」
「例えるのが海なら、別の魚介類がいたのでは?」
「ん?ああ!確かに、イカとカメがいましたね」
「胃カメラね」
初めての人間ドック。
特に、胃カメラがやばいという話は聞いていたけど、ベクトルが違いました。今後もお世話になるから、慣れないとな。
後日。
健康診断書の結果はオールA。問題なし。
医院長からは、特に話すことはないようだった。
「この調子で、健康的に過ごしてくださいね」
「ありがとうございました」
席を立とうとしたとき、背中に風を感じた。
「すきま風かな?」
後ろを振り返ると、あの担当医が立っていた。
「良かったですね。では、また来年。よろしくお願いします」
引き戸がパタリと閉まる。
「彼とは、お知り合いで?」
「胃カメラの時に、体内を海に例えられまして」
「あははは。海ですか」
「え?」
「彼、旅行で初めて海を見てから、とても綺麗だって言うから、それに例えたのかもしれませんね」
「納得はしていないんですけど」
「彼なりの応援ですよ」
家に帰ってから、適当なところに診断書を置こうとしたが、見やすい壁に貼り付けることにした。
来年も、談笑できるように。
参加させていただきました。…遅刻。
景観も健康も、守っていきたいですね。
