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早朝とデジタルウサギ #せりふ三題噺『カイロ確定申告始発』

平日の早朝5時、最寄り駅の始発に乗る。車内はガランとしていて、乗車席の端に座ることができる。しかし、寒い。この時間は、太陽の熱が伝わらず氷点下の冷え込み。冬でなければものすごく快適なのに。

それでも、始発に乗る理由は満員電車が大っ嫌いだから。
通勤ラッシュの時間帯に乗り合わせると、狭いし熱い。思い出すだけで、ポケットの中のカイロを握りつぶしそうになる。

いけない、いけない。一息ついて落ち着こう。
すぅー。鼻から吸い込む空気がとても痛い。
はぁー。微かに白い息が目立った。カイロを握る手が強くなった。

どうあがいても落ち着かないので、少し残っている眠気に身を任せながら、車内の広告モニターを見ることにした。
広告には、『1』の両目がチャームポイントのウサギが、マイナンバーカードを使うと確定申告の効率化ができることを伝えていた。
そんなんのもできんのにゃ~。意識がフワフワしだした。

まだ学生だった頃にマイナンバー制度が出来て、親曰く、ポイントがもらえるから。と、いつの間にか作らされたこのカード。興味、関心もへったくれもなかったが、ここに住所を移してからコンビニで住民票を手軽に印刷できるので、そこだけ評価している。

お役所の仕事でぎゅうぎゅう詰めになっていた住民が、これでうまく捌けられたら、軽くなっていいにゃぁ~。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていた。出発前、『ドアが閉まります。ご注意ください。』のアナウンスが耳に残った。


「ちょっとまってぇ~」
近くのドアを振り返ると、あのウサギの顔がドアに挟まれている。『1』の両目が漫画みたいに飛び出ていた。

ドアが再び開いて、ウサギが乗車する。四つん這いでうなだれていた。
「駆け込み乗車はいけないことだって分かっているけど…」
思わず、ウサギに声をかけた。
「だ、大丈夫ですか?」
ウサギがこちらに顔を向ける。口を丸くしながら、両頬にドアに挟まれた跡が付いていた。口の形が『0』、両頬の跡が赤く表示された『1』のように見えて、『11011』と並んでいるようだ。

「キミィ!僕の広告を見て、マイナンバーに興味を持ってくれたんだね!」
口の形が『U』に変わり、饒舌に話し始めた。
「キミがマイナンバーのおかげで住民票が簡単に取れたり、お役所の効率化が出来ていることに目をつけるなんて、素晴らしいことだよ」
「あぁ、えっと、どうも」
勢いに負けて、何も返せなかった。

「見てもらった広告では時間の関係上、確定申告のことしか語れなかったけど、マイナンバーには色々な魅力があるんだ!降車駅に到着するまで一緒に紐解いていこう!」
ウサギは私の了解を得ず、1時限目にしては早すぎる座学が始まった。

27分後。
「というわけで、そろそろ到着するね。話を聞いてくれてありがとう!」
「ありがとうございました」
熱気の入った解説では、私の知らない使い方をいろいろ学べた。通勤時間の使い方としては有意義だった…ような気がする。また後で調べてみよう。


…き、…駅です。お出口は、右側です。

はっ、と目が覚めると降車駅に止まる直前のアナウンスが流れていた。周りを見渡すとウサギの姿がなく、吊り革で立っている人がちらほら現れていた。

夢か。眠っている自覚はなかったが、ぴったりと目が覚めるのは久しぶりだった。タイムキープが絶妙で、本当に存在していたのでは。
少しの疑問が残りつつも、電車を降りた。

 降りた後は、改札に向かわずホームに設置されている自販機であたたかいボトル缶のコーヒーを購入し、近くの待合室で寒さをしのぐ。
キャップを回して、飲み口を露わにする。そのまま口をつけて少量飲む。ブラック特有の苦みが広がり、眠気が一気に飛んだ。

眠気が飛んだ代わりに、ウサギに教えてもらったマイナンバーの話を思い出した。カイロとは逆のポケットからスマートフォンを取り出す。
検索エンジンを起動して、夢の内容を打つ。

『マイナンバー ポイント 2万円』
出てきた結果は、
『2023年9月末で終了しました。』

「なんで今日なんだろうね」
そこまで気にしてなかったのに、なんだか損した気分になった。


参加しました。
一応ですが、マイナンバーの普及活動のために書いたわけではありませぬ~

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