見出し画像

不穏な空気

 冬のある日、スーパーの駐車場から出入口方向に歩いていると、整理員さんが、赤い指示棒を片手に立っている。
 こちらに気付くと、なにやら神経質そうなしかめっ面を浮かべ、まっすぐこちらを見ながら近づいて来た。
 まだ正月気分が抜けきれていない。ゆるみ切った気分で、何の気なしに歩いていただけである。
 身構える気にもなれず、その場から逃げ出したい気分になった。
 しかし、自分の行動を振り返ってみても、何らおかしなことはしていない。白い仕切り線の中に行儀よく車を停め、ドアロックしてここまで普通に歩いてきた。責められなければならない理由など何もない。
 えらく奇妙な睨み合いだと思いながら、そのまま真っ直ぐ歩き続けた。
 近付くと、その整理員さんは口を開いた。 

 「今日、お客さん少ないんですよねぇ」

 思いっきり拍子抜け。

 ― なんじゃい、めんどいなぁ。
   ごつい顏をして、言うことはそれだけかい? 
   僕は買物しにきたんじゃい。
   そんなこと、どおおぉぉでも ええぇ~がなぁ! ― 

 内心そう思ったのだが、同時に、ちょっと気持ちが変わった。

 ― 退屈なんだったら、ちょっと御相手してさしあげましょうか ―

 「そうですよねぇ。今日は珍しいぐらい車少ないですね」
 「店の前の駐車場も、今日は一度も、満杯になってないんです」
 「そうですかぁ、整理する方も、なんだか張り合いないですねぇ」
 「そおなんですよぉお」
 そんな遣り取りの後、しかめっ面だった整理員さんも笑顔へと変わった。

 ― あのな、そんなことぐらいだったら、何もあんな仏頂面なんか下げて 
  ないで、ひと言挨拶でもして、気さくに話しかけてきなよ ― 

 と思ったが…、

 雨が降り出しそうな、どんよりとした寒空の下、お客もまばらだと張り合いも無くなって、おのずと渋い表情になるんだろうなぁ…。

 と、少しだけ同情しましたとさ!  

  おわり。
       

いいなと思ったら応援しよう!