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HPVワクチン — 数字が語る、日本が失った8年間

2013年4月、HPVワクチンが定期接種になりました。

2013年6月、積極的勧奨が中止されました。

たった2ヶ月。接種率は80%から1%未満に崩壊しました。

そして8年間、日本はほぼ止まった。勧奨が再開されたのは2022年。9年後です。

前回の記事で、5つの認知バイアスを紹介しました。今回は、そのバイアスが実際に何を奪ったかを、数字で見ます。


何が起きたのか

2013年、テレビは連日、HPVワクチン接種後に痙攣や歩行障害が出た少女たちの映像を流しました。

映像は衝撃的でした。苦しんでいる子どもは実在する。その事実は否定しようがない。

厚生労働省は、世論に押される形で積極的勧奨を中止しました。「接種を止めたわけではない。勧奨を止めただけだ」。でも、自治体からの案内が届かなくなれば、接種率が崩壊するのは当然です。

その後、世界中で大規模な対照研究が行われました。接種群と非接種群で、神経症状の発生率に有意差はありませんでした。 ワクチンを打っても打たなくても、同じ割合で症状が出ていた。

つまり、テレビに映っていた症状は実在する。でもそれは、ワクチンが原因ではなかった。


数字が語ること

大阪大学の推計によれば、接種率70%が維持されていた場合と比較して:

  • 2万4,600〜2万7,300人が子宮頸がんに罹患

  • 5,000〜5,700人が死亡

1994〜2007年生まれの女性だけでの数字です。

接種率の推移を見ると、回復の遅さがわかります。

- 勧奨中止前(1994〜1999年度生まれ):平均 72%
- 勧奨中止後(2000〜2003年度生まれ):平均 4.6%
- 個別案内再開後(2004〜2009年度生まれ):平均 16%
- 勧奨再開後(2010年度生まれ〜):2.83%

2022年に勧奨が再開されても、2010年度生まれの接種率はわずか2.83%。一度壊れた信頼は、すぐには戻らない。


「科学を装った」ものが最も危険だった

ここで一つ、あまり報道されていない事実を書きます。この事実を知ることができたのは、産婦人科専門医のたぬきち先生のおかげです。

たぬきち先生は、HPVワクチン薬害訴訟を東京・大阪・名古屋・福岡の各地裁で傍聴し、12回以上の傍聴記録をnoteで無料公開しています。交通費も宿泊費もすべて自腹。名誉毀損のリスクも背負いながら、法廷で明らかになった事実を一つひとつ記録している。こういう医師がいることを、まず知ってほしい。

たぬきち先生の傍聴記録から明らかになった事実を、いくつか紹介します。

鹿児島大学病院の脳神経内科が、「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群」という疾患名を独自に作り、HPVワクチン後遺症の診断を量産していました。

この疾患名は、世界のどの医学文献にも存在しません。

脳の血流を調べるSPECT検査では、放射線科が「異常なし」と読影したものを、脳神経内科が独自に「異常あり」と判断していた。大阪大学の畑澤順元教授が法廷で全例を検証し、**全例「異常なし」**と証言しています。

12年間で、査読済み論文は1本も出ていません。科学のルールでは、他の研究者による検証(査読)を経ていない主張は、証明ではない。

近畿大学、東北大学、慶応大学、帝京大学など、10名の異なる大学の専門家が法廷で診断の誤りを指摘しました。

これは特定の個人の問題ではありません。組織の構造の問題です。 他科との合同カンファレンスに参加しない。放射線科の読影レポートを無視する。外部の検証を受けない。閉じた組織の中で、誰もブレーキを踏めなかった。

そして、この「大学病院のお墨付き」がついた診断が、薬害訴訟に使われた。テレビに使われた。政策を動かした。

被害を受けたのは、患者です。本来必要だった治療を受けられず、「HPVワクチン被害者」として訴訟に送り込まれた。

この問題をマスコミはほとんど報じていません。たぬきち先生のように、個人が自腹でリスクを取って記録を残しているからこそ、私たちはこの事実を知ることができる。


前回の5つのバイアスが、全部ここにある

振り返ると、HPVワクチン問題には前回紹介したバイアスがすべて働いています。

  • 前後即因果の誤謬: ワクチン接種後に症状が出た → ワクチンが原因。でも対照群と比較すれば、因果はなかった

  • 利用可能性バイアス: 痙攣する少女の映像は強烈に記憶に残る。問題なく接種を終えた数百万人は、誰の記憶にもない

  • 確証バイアス: メディアは「薬害を暴く」という第1幕の成功体験を持っていた。その姿勢で報道した。反証するデータが出ても、修正されなかった

  • 不作為バイアス: 「打たせない方が安心」。でも打たなかった結果の5,000人超の死亡は、誰のニュースにもならない

一つひとつは、人間なら誰もがかかるバイアスです。問題は、それが100万人規模の政策判断に直結したこと。


HPVワクチンは「女性だけの話」ではない

ここまで子宮頸がんの話を中心に書いてきましたが、HPVワクチンは女性だけのものではありません。

HPVは中咽頭がん(のどのがん)、肛門がん、陰茎がんの原因にもなります。特に中咽頭がんは男性の方が女性の約3倍多い。そしてHPV関連の中咽頭がんの88%は、ワクチンで予防可能なHPV16型が原因です。

男女ともに接種率80%を維持できれば、HPV16型の感染はほぼ撲滅可能という推計もあります。集団免疫の考え方は、麻疹(S1-1)と同じです。

日本では現在、男性のHPV接種は自己負担(3回で約5〜9万円)ですが、2026年4月の男性の定期接種化に向けて厚労省で審議が進んでいます。世界ではすでに多くの国が男女ともに定期接種としている。日本は、ここでも遅れています。

この記事を読んでいる受験生が男性でも女性でも、HPVワクチンは自分自身に関係のある話です。まだ接種していないなら、保護者と一緒に調べてみてください。数字を見た上で、自分で判断する。それが科学リテラシーの第一歩です。


面接・小論文で聞かれたら

HPVワクチンは、医学部面接で実際に聞かれるテーマです。特に女性の受験生は、自分自身の問題でもある。

① 構造を理解していること

「テレビが煽った」で終わらせない。なぜテレビがそう報じたのか(認知バイアス+過去の薬害報道の成功体験)。なぜ厚労省が勧奨を止めたのか(世論に対する政治的判断)。なぜ大学病院で捏造診断が起きたのか(閉じた組織のガバナンス不全)。構造を語れるかどうかで、面接官の評価は変わります。

② エビデンスとは何か、自分の言葉で説明できること

「査読を経ていない主張は証明ではない」。これは科学の根幹です。数学でいえば、証明のない予想は定理ではないのと同じ。他者の検証に耐えてはじめて、科学になる。


この8年間は取り戻せない

2000〜2003年度生まれの女性の接種率は、平均4.6%。この世代は、もう定期接種の対象年齢を過ぎている。キャッチアップ接種の新規受付も2025年3月で終了しました。

数字で判断する力があれば、8年間は防げた可能性がある。

「0.007%の副反応報告率」と「1%の子宮頸がん罹患リスク」。140倍の差。この数字を冷静に比較できれば、答えは出る。でもテレビに映る少女の涙は、140倍という数字より強かった。

それを「テレビが悪い」「行政が悪い」で終わらせても、同じことがまた起きます。1992年のステロイド、2013年のHPVワクチン。構造が同じだから、繰り返される。

構造を理解すること。数字で考えること。そして、苦しんでいる人の感情を否定しないこと。この3つを同時にできる人間が、信頼される医師になる。私はそう考えています。


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ソース:

鹿児島大学問題(たぬきち先生):

男性のHPV接種:

HPVワクチン接種率・推計:

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