「土」の息吹を染める人 丹後の草木染・堤木象さんの世界
日本の色は、自然にあるモノにちなんで名づけられていることが多いように思います。
桜色、曙色、照柿、黄土色、苅安、鶯色、藍色、空色、藤色、柳鼠、墨色etc.etc・・・ほんとにきりがありません。日本の伝統色の見本を眺めていると、微細な色相の違いごとに美しい名がついていて、いにしえ人の色に対する感覚の豊かさに驚かされます。
それはきっと、自然の草木で布を染め、身に纏ってきた日本の文化が色濃く影響しているのでしょう。今ではどんな鮮やか色でも科学染料で創れますが、着物の世界でいまだに「草木染」の何とも言えない微妙な色調が愛されるのは、そんな感覚が私たちの中にも残っているからなのだと感じます。
堤木象さん。丹後の山奥に自生する草花から色をいただき、着物という形に昇華させる染織家です。
数ある草木染の染織家の中で、木象さんがユニークなのは、自分が住む丹後市網野町に自生する草木だけを使い、その色を抽出した植物そのものを柄として描く点にあります。
私自身、彼の作品と人柄が好きで、着物や帯を愛用しています。そんな木像さんの古希展を催しているとのことで、お会いしてきました。

夜叉五倍子(やしゃぶし)、梔子(くちなし)、茜(あかね)、車輪梅(しゃりんばい)・・・染料となる植物の花や実は、どちらかというと地味なものが多いかもしれません。でも、元々、画家を志して美術を勉強していた木象さんは、それら小さな命の姿を丁寧に、慈しむように描きこみます。

たとえば、痩せた赤土のはげ山にいち早く群生して根を張り、土留めの役割も果たすヤシャブシ。煮だした液で何回も何回も重ね初めすることで、渋くてこっくりとした茶色に染めあがります。
木象さんが丹後で最初に染めた植物であり、その「縁の下の力持ち」のような性格も愛しているとか。今や、ヤシャブシといえば木象さんのトレードカラーにもなっています。



黄色い染料として知られるクチナシは、核を取り除いて染めると、なんとグレーブルーになるそうです。
実で染めた黄色い反物には梔子の実を、ブルー染めた反物にはには花を。色のルーツがそこに描きこまれています。


車輪梅は、大島紬などの「泥染め」に使われる染料です。「ほんとは車輪梅が染料で、泥は触媒。だから『車輪倍染め』なんだよね。だけど、誰も車輪梅がどんな花か知らないでしょう?」と木象さんは笑います。
夏帯には可憐な花を、冬帯には車輪梅の漆黒の実を。私も、植物としての車輪梅の姿をここで初めて知りました。


草木染でも、水がきれいな場所を選び、鮮やかな色を抽出する手法もあります。それはそれで、植物が秘める色の世界の豊かさに感動する美しさがあります。
一方、木象さんの色の魅力は、くすみも濁りも「味」にしてしまう包容力でしょう。
「僕の染物は、やせた赤土から滋養を吸い上げる植物が生む色だから、色そのものは綺麗じゃないんだよね」といいながら、草木とのつきあいや染色へのこだわりを夢中に語ってくださる木象さん。地味で目立たないからこそ愛おしいという、草木の存在そのものへの深い愛が伝わってきます。
採ってくる草木の状態、その日の天気や温度、ご本人の気持ち、すべてが一期一会なので「一反一反が実験」だという木象さんの草木染。ちいさな呉服屋さんの店先に並んだ反物には、単に着物地というだけではなく、丹後の土や自然や、そこで生きる一人の染織家の物語が染め上げられているのです。
THE TANGO | 自然と人のあいだに 染織工房「山象舎」 堤木象と東かおり part1 | THE TANGO
