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「太ってないのに糖尿病って言われたんですけど、何かの間違いですか?」

⚠️ぜんぶ代謝のせい #7|前回:#6 歯周病と糖尿病


はじめに

この記事に登場する方は、複数の患者さんのエピソードをもとに再構成しています。

「先生、太ってないのに糖尿病って言われたんですけど、何かの間違いですか?」

#1〜6まで、糖尿病が他の病気や生活にどう「波及」するかを見てきました。
今回は逆方向——「そもそもなぜ、太ってもいないのに糖尿病になるのか」
日本人の糖尿病の根っこにある問題に切り込みます。

これは意志の問題でも、生活態度の問題でもありません。
体の仕組みの問題です。

📌 このシリーズ「ぜんぶ代謝のせい」は、一見すると糖尿病と関係なさそうなテーマを、代謝のつながりから読み解く場所です。


ある患者さんの話

中年の女性の方でした。主婦で、食事は基本的に自炊。間食もしない。体型もふつう。「健康には気をつけています」と話してくれました。

来院のきっかけは「最近疲れやすい」「たまに喉が乾く」「なんとなく睡眠が足りない感じがする」。

健康診断は、しばらく受けていなかった。

検査をして、結果をお伝えしました。HbA1c 9%。

「えっ……糖尿病ですか?」

しばらく黙ったあと、こう言いました。

「糖尿病って、太っている人がなるものだと思ってました。確かに運動はしてないけど、太ってないし……何かの間違いじゃないですか?」

騙されているのではないか。認めたくない。 そう感じたそうです。

ショックが大きくて、通院するのもやめてしまおうかとも思った——後日、そう打ち明けてくれました。

この方だけの話ではありません。「太っていないのに糖尿病」と言われて、受け入れられない方は少なくありません。


日本人の糖尿病は「太っていない人」に多い

結論:日本人の2型糖尿病患者の半数以上はBMI 25未満。アジア人は欧米人より大幅に低いBMIで糖尿病を発症します。

「糖尿病=肥満」。これは半分正しくて、半分間違っています。

欧米では確かに、肥満が糖尿病の最大のリスクです。BMI 30以上の高度肥満の方が大半を占めます。

でも日本を含むアジアでは、事情が違います。BMI 25未満、つまり「肥満」に該当しない方でも、2型糖尿病を発症する人が少なくない。 むしろ、日本人の2型糖尿病患者の半数以上はBMI 25未満です。

さらに、2型糖尿病の発症リスクが上がり始めるBMIの値も、アジア人では欧米人より大幅に低いことがわかっています。アメリカではBMI 23以上のアジア系住民に対して、糖尿病のスクリーニングを推奨しているほどです。

つまり、日本人にとっては「太っていない=安全」ではない。


なぜ太ってなくてもなるのか─日本人の「インスリン事情」

結論:日本人はインスリン分泌能が低い。さらに脂肪の貯蔵能力が低く、異所性脂肪が膵臓や筋肉に溜まりやすい。見た目は細くても体の中では「肥満」と同じことが起きています。

ここで、日本人の体の特徴を理解する必要があります。

インスリンの「出る量」が違う

糖尿病の背景には、大きく2つの問題があります。

① インスリンが効きにくい(インスリン抵抗性)
② インスリンの出る量が足りない(分泌不全)

欧米人が糖尿病になるとき、主な原因は①です。太って内臓脂肪が増え、インスリンの効きが悪くなる。でも膵臓は頑張って、健常時の2〜3倍のインスリンを出せる。だからかなり太ってからようやく糖尿病になる。

一方、日本人を含むアジア人は、もともとインスリンの分泌能力が低い。 膵臓の「出力」が小さいのです。

だから、少し太っただけ——あるいは太らなくても——膵臓が追いつかなくなって、血糖が上がる。大きく太る前に、インスリン分泌に限界が来てしまう。

これが「太ってないのに糖尿病」の正体です。

「隠れ肥満」と異所性脂肪

もうひとつ、見逃されがちな問題があります。

体重が軽くても、筋肉が少なく体脂肪率が高い状態——いわゆる「隠れ肥満」の方がいます。BMIは正常でも、体の中身は「肥満型」。

さらに厄介なのが異所性脂肪です。

本来、脂肪は脂肪組織に蓄えられます。でもアジア人は脂肪組織の貯蔵能力が低い人が多く、蓄えきれなかった脂肪が膵臓や筋肉の中に入り込んでしまう。

膵臓に異所性脂肪がたまると、インスリン分泌がさらに悪くなる。筋肉に異所性脂肪がたまると、血糖の取り込みが悪くなり、インスリン抵抗性が起こる。

見た目はスリムでも、体の中では肥満の方と同じようなことが起きている。これが「痩せ型糖尿病」のメカニズムです。


痩せ型の糖尿病は、むしろ厄介

結論:痩せ型は膵臓が疲弊しやすく、健診で見逃されやすく、診断されても受け入れにくい。太った人の糖尿病より「治しにくい」面があります。

「太ってないなら軽症でしょ?」と思われがちですが、実はその逆です。

太った方がまだ「治しやすい」面がある

太って糖尿病になった方は、ダイエットで内臓脂肪を減らせば、インスリン抵抗性が改善して血糖が良くなる可能性があります。膵臓自体はまだ元気なことが多い。

でも痩せ型の方は、膵臓のβ細胞がもともと弱い。 ここに高血糖が続くと、β細胞がさらに疲弊する。放置するとインスリン分泌能が一方的に落ちていき、回復が難しくなります。

発見が遅れやすい

先ほどの患者さんのように、「太ってないから大丈夫」と健診を受けない方がいます。

さらに、痩せ型糖尿病の特徴として、空腹時血糖は正常なのに食後血糖だけが急上昇するパターンがあります。通常の健康診断では空腹時血糖を測るので、このパターンは見逃されてしまう。

食後の眠気、倦怠感、喉の渇き——こうした「なんとなくの不調」が、実は食後高血糖のサインかもしれません。

発見されても受け入れにくい

これも痩せ型に特有の問題です。

先ほどの患者さんの「騙されているのではないか」「認めたくない」という反応は、珍しくありません。「太ってないし、食事も気をつけてるのに、なぜ?」——自分が気をつけてきたことと診断が矛盾するから、受け入れられない。

でも、痩せ型の糖尿病は意志や生活態度の問題ではなく、体の仕組みの問題です。日本人のインスリン分泌能が低いこと、脂肪の貯蔵能力が低いこと——これは体質であって、怠けた結果ではありません。

先ほどの患者さんには、このメカニズムを丁寧に説明しました。「あなたが怠けていたわけではない。日本人の体の仕組みとして、太っていなくても糖尿病になることがある」と。

時間はかかりましたが、理解してくれました。そして通院を続けてくれました。


痩せ型の若い女性は特にリスクが高い

ここで、もうひとつ伝えたいことがあります。

痩せ型の若い女性は、標準体重の女性と比べて耐糖能異常のリスクが約7倍という報告があります。

20代女性の5人に1人がBMI 18.5未満の「やせ」に該当する日本で、これは深刻な問題です。

過度なダイエットで筋肉が落ちると、血糖の受け皿が小さくなる。もともとインスリン分泌能が低い日本人女性が筋肉を失えば、糖代謝が崩れるリスクは跳ね上がります。

「痩せること=健康」という認識が、実は逆方向のリスクを生んでいる。


Dシリーズのつながり──「代謝の問題」であって「体重の問題」ではない

ここまで7回にわたって、糖尿病の「意外な接続」を見てきました。

膝も血圧も脂質も睡眠もストレスも歯周病も——そして今回の「体重」も——すべてに共通するメッセージがあります。

糖尿病は「血糖が高い病気」ではなく、「代謝の乱れが全身に波及する病気」。

そして、代謝の問題は体重だけでは測れない。

太っていても代謝が安定している方がいる。痩せていても代謝が壊れている方がいる。体重計の数字だけを見ていては、見えないものがあります。


痩せ型の方に伝えたいこと

「太っていないから大丈夫」を卒業する

痩せ型の方は、糖尿病の検査を受ける動機がない。でも、家族に糖尿病の方がいる場合、食後に強い眠気を感じる場合、疲れやすさが続く場合は、一度検査を受けてください。

特に有効なのが**75gブドウ糖負荷試験(OGTT)**です。空腹時血糖だけでは見逃されるパターンを捉えることができます。

筋肉をつけることが最優先

筋肉は血糖の最大の受け皿です。筋肉が増えれば、食後の血糖を取り込む力が上がる。

痩せ型の方にとっての運動は、「痩せるため」ではなく**「血糖の受け皿を作るため」**です。ウォーキングに加えて、スクワットなどの筋力トレーニングを取り入れてください。

無理なダイエットは逆効果

痩せ型の方がさらに痩せると、筋肉がさらに落ちて血糖コントロールが悪化します。体重を減らすことが治療ではない。 むしろ、筋肉を増やして体重を維持する(場合によっては増やす)ことが目標になるケースもあります。

炭水化物の「質」に注目

痩せ型の方は食事量を減らすのではなく、炭水化物のを変えることが有効です。精製された白いパンや白米を、食物繊維を含む全粒穀物や雑穀に置き換える。これだけで食後血糖の上昇を穏やかにできます。

家族歴があれば特に注意

インスリン分泌能の低さには遺伝的な要素があります。親や兄弟に糖尿病の方がいる場合、自分が痩せていても、早めの検査をおすすめします。


まとめ

  • 日本人の2型糖尿病患者の半数以上はBMI 25未満。「太ってない=安全」ではない

  • 日本人はインスリン分泌能が低く、少しの体脂肪増加や運動不足で膵臓が追いつかなくなる

  • 「隠れ肥満」と異所性脂肪が、痩せ型でもインスリン抵抗性を起こす

  • 痩せ型は発見が遅れやすく、受容しにくく、膵臓が疲弊しやすい── むしろ厄介

  • 痩せ型の若い女性は耐糖能異常のリスクが約7倍

  • 痩せるための運動ではなく、「血糖の受け皿を作る」筋力トレーニングが大切

  • 「糖尿病は意志の問題ではなく、体の仕組みの問題」── これはすべてのタイプに共通

「太ってないから大丈夫」と思っている方こそ、一度食後の血糖値を測ってみてください。空腹時の検査だけでは見えないものが、そこに見えるかもしれません。


参考情報

・日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第21章
・国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC Study)
・国民健康・栄養調査(厚生労働省)


📚 この記事は ⚠️「ぜんぶ代謝のせい」マガジンの一部です。
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