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2026年3月15日詳解①:Disease Xへの準備態勢の持続的ギャップ

皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年3月15日ー新興病原体と生物脅威への備えの詳解①:Disease Xへの準備態勢の持続的ギャップについてです。


1. なぜこの知見が重要か

2025年5月20日、WHOの第78回世界保健総会は歴史的なパンデミック条約を採択しました。124カ国が賛成し、反対はゼロ。COVID-19パンデミックが暴き出した国際的な不公平と準備態勢の脆弱性に対する、3年間の交渉の成果です。しかし、その採択から1年弱が経過した現在、条約の実効性をめぐる構造的な課題が次々と顕在化しています。米国のWHO脱退プロセス、PABS(Pathogen Access and Benefit-Sharing)附属書の交渉難航、各国の研究開発資金削減、そしてH5N1やmpoxといった「現在進行形の脅威」が条約の想定を試しています。Espinozaは金沢大学から発信したCommentaryにおいて、パンデミック準備態勢を「科学的課題のみならず政治的・道義的課題」と位置づけ、その「神話」を解体しています。感染管理実践者にとって、「グローバルな合意」が「自施設の準備態勢」にどう翻訳されるのか、あるいは翻訳されないのかを冷静に見極める必要があります。


2. 論文の深掘り分析

2-1. テーマの現在地:従来の標準的理解

パンデミック準備態勢の国際的枠組みは、2005年版の国際保健規則(IHR 2005)を基盤として構築されてきました。IHR 2005は、加盟国に対しコア・キャパシティ(サーベイランス、通報、対応能力)の整備を求め、公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の宣言メカニズムを規定しています。しかし、COVID-19パンデミックは、この枠組みの複数の根本的欠陥を露呈しました。PHEIC宣言のタイミングの遅れ、各国の非遵守、ワクチン・診断・治療薬への不公平なアクセス、そしてサーベイランスデータの共有を拒む国家主権の壁です。

これらの教訓を踏まえ、WHOは2つの並行する改革プロセスを進めてきました。第一は、IHR 2005の改正であり、2024年6月の第77回世界保健総会で合意に達し、2025年9月に発効されました。第二は、新たなパンデミック条約(WHO Pandemic Agreement)の策定であり、2025年5月に採択されました。これらは補完的な法的枠組みとして機能することが意図されています。

感染管理の現場レベルでは、COVID-19パンデミック中に蓄積された経験(PPEサプライチェーンの脆弱性、医療従事者の燃え尽き、サージキャパシティの限界)が一定の教訓をもたらしましたが、Rubiniらのシステマティック・レビュー・オブ・レビューズが示すように、スタッフの過重負担、資源不足、ICU/救急外来のスペース制約、テレメディシンの実装困難といった課題は構造的に未解決のまま残されています。彼らの分析では、4Sサージキャパシティ・フレームワーク(Staff、Stuff、Space、System)の各領域に課題が集中しており、特にスタッフの増員負荷・メンタルヘルス・タスクシフティングの問題(18件のレビューで報告)と、システムレベルの課題(テレメディシン、施設間連携、指揮系統の混乱:18件のレビューで報告)が顕著でした。各施設が「次のパンデミック」にどこまで準備できているかは、COVID-19の記憶が薄れるにつれて後退するリスクを孕んでいます。

IHR 2024改正では、公平性条項の挿入が最も重要な変更の一つです。改正された第13条は、PHEIC時における医療製品へのアクセスの促進をWHO事務局に義務づけ、改正第44条は途上国のための持続的な資金調達の促進を定めています。また、第54条に基づく助言小委員会が設立され、実施状況のモニタリングを担います。これらの改正とパンデミック条約は相互補完的に機能することが意図されていますが、両者の実施が同時並行的に求められることは、各国の行政能力にとって相当の負担となります。

2-2. 新たな知見:この報告が付け加えたこと

WHOパンデミック条約の構造と限界

2025年5月に採択されたパンデミック条約は35条から構成され、One Healthアプローチの法的文書における初の明文化、研究開発への持続的投資(第9条)、医療従事者の保護と支援、公平なアクセスのための調整財政メカニズムの創設、そしてグローバル・サプライチェーン・ロジスティクス・ネットワークの設立を含んでいます。条約は法的拘束力を持つ国際文書として設計されていますが、ロックダウンやワクチン義務化を各国に課す権限をWHOに与えるものではないことが明示的に確認されています。

しかし、条約の実効性に対する批判的分析は複数の構造的懸念を浮き彫りにしています。Correiaらは条約採択直後のEditorialにおいて、曖昧な文言、未解決の論点、そして影響力のある国家の不参加または棄権が、合意の正当性と執行可能性を損なうリスクを指摘しています。最も顕著な不参加は米国です。トランプ大統領は2025年1月にWHO脱退通告の撤回を取り消し、脱退プロセスを再開しました。ケネディ保健福祉長官は世界保健総会へのビデオメッセージにおいて、パンデミック条約がWHOの機能不全を固定化するものだと批判しています。世界最大の医薬品研究開発能力と製造能力を持つ米国の不参加は、条約の実効性に根本的な疑問を投げかけます。

PABS附属書の未完成も深刻な課題です。パンデミック・ポテンシャルを有する病原体の迅速な情報共有と、そこから生まれるワクチン・治療薬・診断薬(VTD)への公平なアクセスを結びつけるこのメカニズムは、条約の核心的要素でありながら、2026年5月の世界保健総会までに別途交渉・採択される予定です。約100カ国の低・中所得国がVTDへの強制的利益配分を求める一方、高所得国は製薬イノベーション・エコシステムの保護を優先しており、交渉は難航しています。Ljungqvistらの分析によれば、193カ国中、微生物に関連するABS政策を持つのは92カ国にとどまり、デジタル配列情報(DSI)に関する法的枠組みを持つのはわずか22カ国です。この政策的異質性は、PABS制度の統一的な実装を困難にしています。

「パンデミック準備態勢の神話」:Espinozaの批判的分析

Espinozaが「Pathogens and Global Health」誌に寄稿したCommentaryは、パンデミック準備態勢をめぐる楽観的な語りを鋭く解体しています。著者は、H5N1鳥インフルエンザのアウトブレイクを出発点に、以下の「持続的ギャップ」を特定しています。

第一に、サーベイランスの断片化です。科学技術の進歩にもかかわらず、グローバルなサーベイランスは依然として断片的であり、低所得国では診断アクセスと通信インフラの不足がアウトブレイクの検出遅延をもたらしています。スーダンにおけるコレラやアフリカ中央部におけるmpoxの検出遅延は、この構造的ギャップの具体的な証左です。

第二に、病院のサージキャパシティの低下です。COVID-19パンデミック後、多くの国で医療従事者の離職が進み、病床数やICU能力は回復していません。「次のパンデミック」に対応する余力は、COVID-19以前よりもむしろ低下している可能性があります。

第三に、最前線のワーカーの保護不足です。ルワンダのマールブルグアウトブレイクにおける医療従事者感染率77%が象徴するように、PPEの供給・訓練・利用可能性のギャップは解消されていません。

第四に、地政学的不安定とサプライチェーンの脆弱性です。貿易紛争、国際関係の緊張、パンデミック準備態勢への投資の不透明さが、準備態勢の持続可能性を脅かしています。

著者は、AIなどの新興技術が早期警報と対応に有望であるとしつつも、その効果は医療システム間の公平な統合に依存すると強調しています。そして、断片的な国家戦略ではなく、協調的・包摂的なグローバルアクションへの転換が緊急に必要であると結論づけています。

MCM開発の教訓:ワクチン中心戦略の合理性

Muraらの「Emerging Microbes & Infections」誌のレビューは、COVID-19とmpoxの経験を比較的に分析し、医療対抗措置(MCM)の優先順位付けに関する重要な知見を提供しています。著者らは、抗ウイルス薬・モノクローナル抗体・ワクチンの3カテゴリーのMCMが流行制御において対称的な効果を持たないことを明示しています。

抗ウイルス薬は治療ツールとして不可欠ですが、流行の抑止には寄与しません。モノクローナル抗体は予防と治療の両方に使用可能ですが、製造コストが高く、大規模展開には不向きです。これに対し、ワクチンは長期持続性免疫と集団効果(herd effect)を誘導することで、流行制御において圧倒的な優位性を持ちます。

この分析から導かれる政策的含意は、「すぐ使えるワクチンプラットフォームの事前承認と製造能力の確保」がパンデミック準備態勢の中核に位置づけられるべきだということです。mRNAプラットフォームのCOVID-19での成功は一つのモデルを提供しましたが、この能力の維持・拡張は継続的な投資を要し、現在各国で進行中の研究開発資金削減はこの基盤を脅かしています。

アフリカの視点:条約の約束と実装の落差

Evaborheneらの分析は、パンデミック条約をアフリカの視点から批判的に検討しています。COVID-19パンデミクにおけるワクチン配分の著しい不公平(「ワクチン・アパルトヘイト」と呼ばれた状況)を経験したアフリカ諸国にとって、条約のPABS制度は死活的に重要です。しかし、著者らは、公平性のコミットメントの曖昧さ、地政学的断片化、ナショナリズムの台頭が効果的な実装を脅かすと指摘しています。具体的な提案として、政治的アカウンタビリティを国家・地域レベルに埋め込む「Pandemic Peer Review Mechanism」の創設を提言しています。

2-3. 批判的吟味:研究デザイン妥当性、バイアス、残るギャップ

条約分析の規範的バイアス

パンデミック条約に関する文献の多くは、グローバルヘルスガバナンスの研究者による規範的分析であり、「条約は必要である」という前提に立っています。条約への懐疑論(国家主権の過度な制約、WHO の官僚機構への権限集中、製薬産業の活力低下のリスク)は、比較的少数の文献で扱われています。米国の不参加や一部の国の棄権の背景にある論理を公平に分析した文献は限られており、この偏りは批判的読解において意識する必要があります。

Sircarらの分析が示すように、条約の最終テキストは人権を中心的柱として明示的に埋め込むことに失敗しており、より広範な「公平」「連帯」という原則に置き換えています。これらの原則は人権法の法的精度とアカウンタビリティを欠いており、「実装の罠(implementation trap)」のリスクがあります。この指摘は重要ですが、同時に「人権の言語」が国際交渉の場でどの程度の推進力を持つかという現実政治的な評価も必要です。

Espinozaの分析の限界

Espinozaの Commentary は説得力のある批判的分析を提供していますが、Commentary という形式の性質上、体系的なエビデンスレビューに基づくものではなく、著者の選択的な事例提示による議論構成であることに留意が必要です。サーベイランスの断片化やサージキャパシティの低下は重要な指摘ですが、これらの課題の定量的な評価(COVID-19前後でどの程度悪化したか、地域差はどの程度か)は本文中では十分に提示されていません。

「準備態勢」の測定困難性

パンデミック準備態勢の評価は、Global Health Security Index (GHSI) やJoint External Evaluation (JEE) といったツールが開発されていますが、COVID-19パンデミックはこれらの指標と実際のパンデミック対応パフォーマンスの間の乖離を露呈しました。GHSIで最高スコアを獲得した米国や英国が必ずしも最良のアウトカムを達成しなかったことは、「準備態勢」と「対応能力」の間の非線形的な関係を示唆しています。条約の実装効果を評価するための新たな指標開発が必要ですが、これは方法論的に極めて困難な課題です。

2-4. 探求すべき問いと視点

第一に、米国のWHO脱退がパンデミック準備態勢の国際的枠組みに与える実質的影響の評価です。米国はWHOの最大の資金拠出国であるとともに、CDCを通じた技術的支援の最大の提供者でもあります。脱退が完了した場合、グローバルサーベイランスネットワーク、ワクチン開発パイプライン、緊急対応能力にどのような欠損が生じるかを具体的に分析する必要があります。同時に、米国の不参加が条約の正当性を損なうという見方と、米国抜きでも120カ国以上の合意は十分な正当性を持つという見方の両方を検討すべきです。

第二に、PABS附属書の交渉結果が感染管理の実践にどう影響するかという問いです。病原体の迅速な共有と、そこから生じる製品への公平なアクセスの間のバランスは、次のアウトブレイク発生時の検査・治療・ワクチンの利用可能性を直接的に左右します。日本の医療施設がこの国際的な枠組みの変化を「自施設の準備態勢」にどう翻訳すべきかは、現時点では未解明の課題です。

第三に、パンデミック条約が掲げる「One Health」の制度化が、感染管理の日常実践をどう変えるかという問いです。条約は人間・動物・環境の健康の連関を初めて法的文書に明文化しましたが、この理念が病院レベルのIPC活動にどう反映されるべきかについては具体的な指針が不足しています。H5N1の宿主域拡大が示すように、動物衛生情報の統合はIPC実践者にとってもはや「専門外」とは言えない課題になりつつあります。

第四に、2025年春に設立された日本の国立健康危機管理研究機構(JIHS)が、国際的な準備態勢枠組みの変化にどう対応するかという問いです。CDC、ECDC、WHOとの連携体制の構築、国内サーベイランスの強化、そして臨床研究体制の整備が同時に求められる中、JIHSの機能がパンデミック条約の国内実装にどう貢献するかは注視に値します。


3. 臨床的思考の深化と再構築

3-1. 既存知識との衝突と融合

本レポートの分析は、感染管理の実践者が持つ「準備態勢」の概念に根本的な衝突をもたらします。

最も深い衝突は、「グローバルな合意=現場の準備向上」という暗黙の前提への挑戦です。パンデミック条約の採択は歴史的な成果ですが、条約の存在と現場の対応能力の間には複数の翻訳プロセスが介在します。条約→国内法整備→行政指針→施設レベルのプロトコル→個々の医療従事者の行動変容、という多層的な翻訳チェーンの各段階で情報と意図は希釈され、変形されます。COVID-19パンデミック時にIHR 2005の規定が各国で広範に無視された経験は、この翻訳プロセスの脆弱性を実証しています。Yimらがニュージーランドの事例で示したように、画一的な遵守と各国の柔軟性のバランスは、法的枠組みの実効性を左右する根本的な論点です。

一方で、融合の方向も認識すべきです。パンデミック条約がOne Healthアプローチを法的に明文化し、MCM への公平なアクセスを原則として確立したことは、「次のパンデミック」への国際的対応の規範的基盤を強化しました。Muraらの分析が示すワクチン中心戦略の合理性は、条約第9条(R&Dへの持続的投資)の科学的根拠を提供しています。問題は、この規範的基盤を実践に翻訳するための制度的メカニズムが未完成であることです。

感染管理の現場では、この「国際規範と現場実践のギャップ」を自覚的に管理する必要があります。条約の理想に依存するのではなく、条約が存在しない場合でも機能する自律的な準備態勢を構築する姿勢が求められます。これは「グローバルな枠組みへの懐疑」ではなく、「多層的な防御の一層としてのグローバル枠組み」という位置づけです。

3-2. 臨床推論の解像度向上

パンデミック準備態勢に関する臨床推論の解像度は、以下の軸で向上させるべきです。

「政策と実践の時差」の解像度です。条約の採択から国内法への反映、さらに施設レベルのプロトコル改定までには、通常数年の時差が生じます。この時差の間に次のパンデミック脅威が出現する可能性は十分にあります。感染管理チームは、条約の成果を「待つ」のではなく、既存のフレームワーク(IHR改正、CDC/WHO指針、JIHSガイダンス)を最大限に活用した「先行的準備」を進める必要があります。

「リソース配分の政治経済学」の解像度も重要です。パンデミック準備態勢への投資は、目の前の患者ケアとの競合関係にあります。PPE備蓄、シミュレーション訓練、検査体制の維持は、平時においてはコストセンターと見なされがちです。Rubiniらのレビューが指摘する「資源不足」は、単なる予算の問題ではなく、医療組織における優先順位付けの政治経済学的な問題です。感染管理チームは、ROI(投資対効果)の言語を用いて準備態勢への投資を正当化する能力が必要です。

「不確実性下の意思決定」の解像度も深化が求められます。「Disease X」の性質は定義上不明であり、その準備態勢は本質的に不確実性のもとでの意思決定です。この不確実性に対処するアプローチとして、all-hazards approach(全ハザード型アプローチ)とhazard-specific approach(ハザード特異型アプローチ)の適切な組み合わせが有効です。すべての新興感染症に対する基盤的能力(サーベイランス、PPE、隔離プロトコル)は全ハザード型で整備し、特定の脅威(H5N1、VHF、mpox)に対する対応はハザード特異型で追加する、という二層構造が実践的です。Rubiniらが提案する「whole-of-society strategy(全社会的戦略)」はまさにこの二層構造を支持しており、危機モードからの脱却と日常的な準備態勢への移行を強調しています。

「シンドロミック・サーベイランス」の解像度も今後重要性を増します。Getsovaらのレビューが示すように、従来の指標ベースのサーベイランス(確定診断に基づく報告)は確立された病原体の追跡には信頼性がありますが、新興感染症の早期検知には感度が不足します。救急外来受診データ、薬局販売データ、市民参加型データなどを活用するシンドロミック・サーベイランスは、正式な検査報告に先行して2〜14日のリードタイムでアウトブレイクを検知する可能性が報告されています。日本の医療施設において、自施設のデータ(発熱外来受診数、呼吸器感染症入院数など)をリアルタイムでモニタリングし、異常シグナルを感知する仕組みの構築は、グローバルな条約の帰趨にかかわらず実行可能な「ボトムアップ型準備態勢」の一環です。

3-3. エビデンス評価軸の洗練(メタ認知)

パンデミック準備態勢のエビデンスを評価する際、特有のメタ認知的課題があります。

「予測の不可能性」と「準備の必要性」の間の緊張です。次のパンデミックがいつ、何によって引き起こされるかは予測できません。しかし、この予測不可能性を理由に準備を先送りすることは許されません。エビデンスに基づく医療の原則は「利用可能な最善のエビデンス」に基づく意思決定を求めますが、パンデミック準備態勢の「利用可能な最善のエビデンス」は、過去のアウトブレイクからの教訓、動物モデルのデータ、シミュレーション研究という、いずれも間接的なエビデンスです。この間接性を認識しつつも、行動に移す判断力が求められます。

「成功の逆説」も重要です。準備態勢が効果的に機能した場合、パンデミックは予防または軽減されますが、その結果「準備は不要だった」という誤った結論が導かれるリスクがあります。この逆説は、準備態勢への持続的投資を困難にする政治的力学を生み出します。Espinozaが指摘する「パンデミック準備態勢の神話」は、この逆説の反対側、すなわち「準備していたはずなのに失敗した」ケースですが、いずれの場合も準備態勢の真の効果測定は困難であることを示しています。

3-4. 新たな視座の獲得

「Institutional Resilience(制度的レジリエンス)」という視座を提案します。パンデミック準備態勢は、特定の脅威に対する具体的なプロトコルの集合としてではなく、「予期しない事態に対する組織の適応能力」として再定義すべきです。この視座は、マニュアル化された手順の遵守(compliance)と、予測不能な状況への創造的適応(adaptability)の両方を包含します。COVID-19パンデミックで最も効果的に対応した組織は、必ずしも事前のプロトコルが最も精緻だった組織ではなく、状況の変化に最も柔軟に適応できた組織であったという観察は、この視座を支持しています。

「Preparedness Fatigue(準備態勢疲労)」という概念の認識も重要です。COVID-19パンデミック後、医療従事者は「次のパンデミック」への準備を求められ続けていますが、燃え尽き(burnout)からの回復途上にある多くの臨床現場にとって、この要求は追加の負担として認識されています。Rubiniらのレビューが示したスタッフの過重負担とメンタルヘルスの問題は、準備態勢の持続可能性に直結する課題です。準備態勢の強化は、既存の業務への「追加」ではなく、日常の臨床プロセスへの「統合」として設計される必要があります。

「Bottom-Up Preparedness(ボトムアップ型準備態勢)」という視座も有用です。パンデミック条約は本質的にトップダウンのグローバルガバナンス手段ですが、最終的に準備態勢を実現するのは個々の医療施設と医療従事者です。施設レベルの感染管理チームが、グローバルな動向を自律的にモニタリングし、自施設の文脈に翻訳する「知的リーダーシップ」が不可欠です。この知的リーダーシップは、条約の存在・不在にかかわらず、機能するものでなければなりません。


4. 継続的な探求に向けて

WHOパンデミック条約の採択は、国際社会の集合的な意思表示として歴史的に重要です。しかし、感染管理の実践者として私たちが直視すべきは、条約はゴールではなくスタートラインであるという事実です。PABS附属書の交渉は2026年5月の期限に向けて難航を続け、米国の不参加は条約の実効性に構造的な不確実性をもたらし、各国の研究開発資金削減は科学基盤を脅かしています。しかし、これらの「マクロレベルの不確実性」は、ミクロレベルの準備を先送りする理由にはなりません。自施設のサーベイランス体制の見直し、PPE備蓄計画の更新、新興感染症受入シミュレーションの定期実施、そして医療従事者の心身の健康への投資は、条約の帰趨にかかわらず、今日着手すべき行動です。「準備態勢の神話」を解体した先にあるのは、虚無ではなく、地に足のついた実践的行動の蓄積です。


References

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終わりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
なお、以下が本記事の元ページへのリンクです。

本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。

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