2026年7月16日詳解③: 脂肪肝を「経過観察」から「線維化で紹介」へ——FIB-4二段階と新規MASH治療が変える連携の起点
皆様
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2026年7月16日ーAジェネラリストのための専門領域アップデート:消化器内科の詳解③: 脂肪肝を「経過観察」から「線維化で紹介」へ——FIB-4二段階と新規MASH治療が変える連携の起点についてです。
Executive Summary
Already Known(従来の理解)
脂肪肝は「太りすぎの人によくある、経過観察でよい良性の所見」と受け止められがちで、ジェネラリストの多くは肝酵素(ALT)が高い患者を漠然と専門医に紹介するか、あるいは生活指導のみで様子を見てきました。呼称も長らくNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)が使われていました。
What's New(この知見が加えたこと)
疾患概念と紹介の作法が同時に変わりました。2023年の国際的合意で脂肪性肝疾患は「SLD」という大きな枠組みに再編され、代謝異常を伴うものはMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)、飲酒も関与するものはMetALDと呼ばれるようになり、日本の両学会も2026年に新ガイドラインでこれを採り入れました。紹介の起点も、肝酵素ではなく線維化リスクへと移りました。誰でも計算できるFIB-4指数で層別化し、判定保留・高リスク例のみをエラストグラフィや専門医につなぐ二段階戦略が、AASLD・EASLの各ガイドラインで標準化されています。さらに、線維化を伴うMASHに対してレスメチロムとセマグルチドが第3相試験で有効性を示し、線維化を「見つける意味」が格段に高まりました。
So What(だから何が変わるか)
「脂肪肝=経過観察」という反射は、もはや不十分です。ジェネラリストは、FIB-4で紹介対象を絞り込み、紹介前に代謝・飲酒・心血管リスクの評価を整え、逆紹介後は心血管疾患を含む全身リスクを見据えて管理する——この一連の作法へ更新する必要があります。線維化の見逃しが、治療機会の逸失に直結する時代になりました。ただし日本ではレスメチロムがまだ未承認であり、当面は生活習慣介入と既承認薬を軸に、線維化リスクを層別化して専門医と連携する構えが現実的です。「脂肪肝を見たらFIB-4を計算する」という一手を外来の習慣にすることが、この転換の出発点になります。
1. テーマの位置づけとジェネラリストへの意義
脂肪性肝疾患は、成人の3割前後が該当するありふれた病態でありながら、その本質は「肝臓だけの問題」ではありません。肥満・2型糖尿病・脂質異常症・高血圧といった心血管代謝リスクと密接に絡み合う全身性の病態であり、プライマリ・ケアが日常的に管理している患者層とほぼ重なります(1)。糖尿病や肥満の患者を診れば、その多くが脂肪性肝疾患を併せ持つと言っても過言ではありません。だからこそ、この領域の紹介・管理の作法は、消化器専門医よりも先に、ジェネラリストの外来で問われます。
このテーマがジェネラリストにとって重要なのは、単なる呼称変更の話ではないからです。米国肝臓病学会(AASLD)の診療ガイダンスは、脂肪性肝疾患の予後を左右する最大の因子が肝線維化の程度であり、その層別化と早期の紹介がプライマリ・ケアの役割だと明示しています(2)。つまり「いつ肝臓内科に送るか」「送る前に何を評価するか」「送り返された後に何を診るか」という連携判断の起点が、ジェネラリストの手中にあります。しかも、患者数の多さゆえに、この起点の作法が少し変わるだけで、専門医への紹介数や検査需要が大きく動きます。全脂肪肝患者を専門医が診ることは不可能であり、ジェネラリストが適切に振り分ける以外に、この病態に対応する術はありません。本稿は、この紹介基準の更新が、紹介トリアージ・紹介前評価・逆紹介後の管理という三つの局面をどう変えるかを整理します。
2. 専門知見の構造的理解
2-1. テーマの現在地:標準的な専門診療の流れ
まず押さえるべきは、疾患概念そのものの再編です。2023年、複数の学会による国際的合意で、脂肪肝は「脂肪性肝疾患(steatotic liver disease:SLD)」という大きな傘の下に整理し直されました。SLDは、心血管代謝リスク因子の有無・飲酒量・その他の原因に応じて分類され、その中心にMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)が置かれます。ここで重要なのは、MASLDの診断が「代謝の異常を積極的に確認する」方向へ変わった点です。かつてのNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)が「アルコールが原因でない」という除外で定義されていたのに対し、MASLDはBMI・血糖・血圧・脂質といった心血管代謝リスク因子を1つ以上持つことを積極的な要件とします。この転換は、脂肪肝を「肝臓の中に閉じた問題」から「全身の代謝異常の肝臓での現れ」へと捉え直すことを意味します。日本消化器病学会と日本肝臓学会は、この呼称に対応する日本語病名として、MASLDを「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」、MASHを「代謝機能障害関連脂肪肝炎」と定めました(3)。両学会は2026年4月に「MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版)」を発刊し、脂肪肝を全身疾患として再定義するとともに、肝生検を診断の必須項目から外し、MetALD(代謝機能障害とアルコールの双方が関与する脂肪性肝疾患)の概念を国内にも取り込みました(4)。飲酒量に応じてMASLD・MetALD・アルコール関連肝疾患を区別する枠組みは、飲酒歴の聴取を診断の一部として明確に位置づけた点で、日常診療への影響が大きい変更です。この呼称と分類の変更は、放射線科領域を含む各専門分野でも共有が進んでいます(5)。
次に、診断・層別化の流れです。AASLDの診療ガイダンス、および欧州のEASL・EASD・EASO合同ガイドラインは、いずれも非侵襲的検査による二段階の線維化リスク評価を推奨しています(2,6)。第一段階は、年齢・AST・ALT・血小板数から自動計算できるFIB-4指数です。FIB-4は特別な検査を追加せず、日常的に測定する血液検査の値だけで算出できるため、プライマリ・ケアの外来に最も適した入口の指標です。FIB-4が低値(一般に1.3未満)であれば進行した線維化の可能性は低く、プライマリ・ケアで経過を見てよいとされます。判定保留(おおむね1.3〜2.67)や高値(2.67超)の場合は、第二段階として振動制御式一過性エラストグラフィ(VCTE、いわゆるフィブロスキャン)や血清線維化マーカー(ELF)で肝硬度を評価し、その結果に応じて専門医へ紹介します(2,6)。この二段階戦略の要点は、肝酵素の値そのものではなく、線維化のリスクで紹介対象を絞り込むことにあります。肝酵素が正常でも線維化が進む例があり、逆に軽度の肝酵素上昇があっても線維化がなければ緊急性は低いため、「ALTが高いから紹介」という従来の発想からの脱却が求められます。日本の新ガイドラインも、この非侵襲的な二段階評価を診断の中核に据え、肝生検を必須から外しました(4)。
この枠組みは、地域・プライマリ・ケアでの運用を前提に設計されています。地域集団で線維化リスクの高い脂肪性肝疾患を拾い上げる取り組みは各国で進み、FIB-4を入口とした段階的評価の有用性が示されています(9)。こうした取り組みでは、糖尿病外来や健診の場でFIB-4を系統的に計算し、高リスク者だけを肝臓専門施設につなぐ仕組みが試みられており、専門医の負荷を増やさずに見逃しを減らせることが示されています(9)。実際、肝酵素が正常でも進行した線維化が隠れうるため、糖尿病や肥満などの代謝リスクを持つ患者にFIB-4を計算するだけで、見逃されていた高リスク例を拾い上げられることが、実地の研究でも確認されています(10)。逆に言えば、FIB-4を計算しないかぎり、肝酵素が正常な高リスク者は診療の網から漏れ続けます。一方で、こうした二段階パスウェイをどう組み、どこで専門医につなぐかは、施設や地域の資源に左右されるため、標準化された連携経路の整備が課題として残っています(7,8)。プライマリ・ケアと肝臓内科が別々の視点で同じ疾患を診てきた「分断されたケア」を、共通のパスウェイでつなぎ直すことが、この領域の実装上の中心課題です(7)。
2-2. 新たな知見:専門医の判断はどう変わるか
近年の最大の転換点は、線維化を伴うMASHに対する薬物療法が登場したことです。これまでMASLD/MASHには承認薬がなく、治療は減量と生活習慣の改善に限られていました。この「治療できない」という前提は、線維化を積極的に探す動機を弱め、脂肪肝の軽視につながっていた面があります。しかし、甲状腺ホルモン受容体βに作用するレスメチロムの第3相試験(MAESTRO-NASH)では、線維化を伴うMASH患者で、偽薬に比べMASHの消失と肝線維化の改善が有意に多く得られました(11)。具体的には、レスメチロム群でMASHの消失は約26〜30%、線維化の改善は約24〜26%に達し、いずれも偽薬(およそ10%前後)を有意に上回りました(11)。この結果を受け、レスメチロムは非硬変性MASHで中等度〜進行した線維化(F2〜F3)を持つ患者に対する初の承認薬となりました。組織学的な改善を、生検を要件とする厳格な試験デザインで示した点に、この試験の意義があります。
さらに、GLP-1受容体作動薬のセマグルチドも、MASHを対象にした第3相試験(ESSENCE)で有効性を示しました。セマグルチド2.4mgは、偽薬に比べMASHの消失と線維化の改善の双方を有意に増やしました(12)。この試験は、肥満・糖尿病領域で広く使われる薬剤が、肝の組織学的改善にも寄与しうることを示した点で重要です(13)。ジェネラリストにとってこの知見は身近です。減量や血糖管理の目的でセマグルチドを処方している患者が、実は肝の線維化改善という付加的な利益も得ている可能性があるからです。ただし、MASHに対する保険適用は、肥満・糖尿病に対する適用とは別に整理される必要があり、適応の範囲は国ごとに異なります。加えて、GLP-1受容体作動薬など他の糖尿病・減量治療を併用している患者でも、レスメチロムの上乗せ効果が保たれることが二次解析で示されており、実臨床での併用を後押ししています(14)。これらの薬剤は、いずれも「線維化を持つMASH」を対象とするため、線維化を早期に見つけて層別化することの臨床的意味が、治療の登場によって一段と重くなりました(15)。かつては線維化を見つけても打つ手が乏しかったのに対し、今は「見つければ介入できる」対象になったことが、紹介の作法を根底から変えています。
この変化は、専門医の判断を「経過観察か生検か」から「どの患者に、いつ、どの治療を導入するか」へと押し上げました。裏を返せば、その前段でジェネラリストが線維化リスクの高い患者を適切に拾い上げ、遅滞なく紹介できるかどうかが、治療機会の分かれ目になります。紹介の遅れは、以前は「経過観察で済んだ」で許容されえても、今は「使えたはずの治療を逃した」という帰結に変わりうるのです。もっとも、これらの薬剤はいずれも線維化を伴う中等度以上のMASHを対象とし、軽症の脂肪肝すべてに薬物療法が必要になったわけではありません。むしろ、多くの患者では生活習慣介入が引き続き治療の基本であり、薬物療法は線維化リスクの高い一部の患者に限られます。この「対象を線維化で絞る」という発想こそが、FIB-4による層別化の臨床的な意義を裏づけています。
2-3. 情報の限界と専門医視点の吟味
もっとも、この枠組みを日本の外来にそのまま持ち込むには、いくつかの吟味が要ります。第一に、FIB-4の精度の限界です。FIB-4は簡便で費用がかからない反面、糖尿病や肥満を持つ患者では診断精度が下がり、偽陽性が増えて過剰な紹介を生みうることが報告されています(16)。これは重要な逆説です。FIB-4で拾い上げたい対象(糖尿病・肥満を持つ高リスク者)で、まさにその指標の精度が落ちるためです。したがって、糖尿病患者などでは判定保留域に入る割合が高くなり、第二段階のエラストグラフィの需要が増えることを見込んでおく必要があります。特に高齢者ではFIB-4が上昇しやすく、65歳以上では判定保留の下限を引き上げる調整が推奨されます。年齢を考慮しないと、高齢者を過剰に高リスクと判定してしまうため、カットオフの年齢調整は実務上欠かせません。FIB-4は「入口の振り分け」には有用でも、それ単独で線維化を確定・除外できるわけではなく、第二段階のエラストグラフィと組み合わせて初めて機能します(2)。この二段階の設計を守ることが、過剰紹介と見逃しの双方を避ける鍵になります。
第二に、検査・治療へのアクセスです。第二段階のVCTE(フィブロスキャン)やELFは、どの診療所でも使えるわけではなく、地域差があります。都市部の大規模施設では容易でも、エラストグラフィ機器を持たない診療所では、実施施設への追加の紹介が必要になり、その分だけ評価に時間がかかります。非侵襲的検査を組み合わせた紹介パスウェイの費用対効果は諸外国で検討されていますが(17)、日本の診療報酬・検査体制に即した最適な経路はまだ確立の途上にあります。とりわけ問題になるのが治療薬のアクセスです。レスメチロムは米国で2024年3月に迅速承認され、欧州でも2025年に承認されましたが、本稿執筆時点で日本では未承認であり、個人輸入に頼らざるをえない状況です。したがって、日本のジェネラリストが「新薬が使えるから早く紹介を」と説明する段階には、まだ達していません(18)。海外の華々しい治療の進歩と、国内で実際に使える選択肢との間には、時間差があることを冷静に踏まえる必要があります。当面は、減量・食事・運動という生活習慣介入と、既承認の糖尿病・肥満治療(セマグルチド等)を軸に据えつつ、専門医との連携で線維化の進行を監視する、という現実的な構えが求められます。もっとも、線維化リスクを層別化して高リスク者を把握しておくこと自体は、将来治療が使えるようになった際に速やかに介入するための準備になるため、今のうちからFIB-4による層別化を習慣づける意義は失われません。
第三に、MASLDを「肝臓の病気」として狭く捉えないことです。次章で述べるとおり、MASLD患者の予後を最も左右するのは肝疾患そのものより心血管疾患であり、この全身性の視点を欠いた紹介・管理は、かえって重要なリスクを見落とします。以上を踏まえ、次章では紹介トリアージ・紹介前評価・逆紹介後の管理という三局面で、ジェネラリストの実務が具体的にどう変わるかを整理します。
3. ジェネラリストの視座による知識の統合
3-1. 紹介トリアージの再設定
紹介の起点が「肝酵素」から「線維化リスク」に移ったことで、誰を紹介すべきかの基準が具体的に変わります。従来は、健診でALTが高い、あるいは超音波で脂肪肝を指摘された、という理由で漠然と紹介するか、逆に「脂肪肝は経過観察でよい」と紹介しないか、の二択になりがちでした。新しい枠組みでは、まず代謝リスク(糖尿病・肥満・脂質異常症・高血圧)を持つ患者にFIB-4を計算し、その値で振り分けます(2,6)。FIB-4が低値(1.3未満、高齢者では調整値未満)であれば、専門医紹介は不要で、プライマリ・ケアで代謝管理を続けながら定期的にFIB-4を再評価すればよい、という判断になります(9)。
一方、FIB-4が判定保留〜高値の患者は、第二段階のエラストグラフィへ進み、肝硬度が高ければ専門医に紹介します(8)。ここで重要なのは、「従来は紹介していなかった、肝酵素正常の患者」の一部が、新基準では紹介対象になりうる点です。肝酵素が正常でも線維化が進んでいる例は珍しくなく、FIB-4という一段のふるいを通すことで、これまで見逃されていた高リスク例を拾えます(10)。逆に、「従来なんとなく紹介していた、軽度脂肪肝で低リスクの患者」は、紹介せずプライマリ・ケアで管理する方向になります。紹介の総量を増やすのではなく、線維化リスクという基準で紹介の中身を組み替えるのが、この再設定の核心です。
具体的な運用としては、まず糖尿病・肥満・脂質異常症・高血圧のいずれかを持つ患者を「MASLDを疑ってFIB-4を計算すべき対象」と位置づけ、健診や日常診療の血液検査からFIB-4を算出する習慣を作ることが起点になります(9)。FIB-4は電子カルテや計算ツールで自動算出できるため、追加の採血なしに日常診療へ組み込めるのが利点です。判定保留の帯(1.3〜2.67)に入る患者が一定数出るため、その受け皿としてエラストグラフィをどこで実施するか(自院か、近隣の実施施設か)をあらかじめ決めておくと、紹介の流れが滞りません(8)。この二段階の振り分けを外来の標準手順に組み込むことで、「どの脂肪肝を専門医に送り、どれを自分で診るか」という長年曖昧だった線引きが、初めて明確な基準を持つことになります。従来は医師個人の裁量に委ねられていた紹介判断が、FIB-4という共通の物差しで説明可能になる点は、患者への説明のうえでも、専門医との連携のうえでも大きな利点です。
3-2. 紹介前の初期評価の更新
紹介基準が変われば、紹介前にジェネラリストが整えるべき情報も変わります。専門医が紹介状に期待するのは、もはや「脂肪肝の疑い、ご高診ください」という一文ではありません。これからは、FIB-4の値、代謝リスク因子(BMI・血糖/HbA1c・脂質・血圧)の一覧、そして飲酒量の定量が求められます。飲酒量の把握は、MASLDとMetALD(代謝異常に飲酒が加わった病態)を区別するうえで不可欠で、日本の飲酒文化を踏まえると、過少申告に注意しながら丁寧に聴取する必要があります(4)。飲酒量は疾患分類だけでなく治療方針にも影響し、飲酒の寄与が大きければ節酒・断酒の支援が優先課題になります。可能であれば第二段階のエラストグラフィの結果まで添えられれば理想的ですが、実施体制が整わない場合でも、FIB-4と代謝・飲酒の情報を整理して紹介するだけで、専門医は次に何をすべきかを判断しやすくなります。逆に、これらの情報を欠いたまま「脂肪肝」とだけ書かれた紹介は、専門医の側で一から評価をやり直すことになり、連携の効率を下げます。紹介状は、単なる受診の依頼状ではなく、線維化リスクと全身の代謝状態を要約した「引き継ぎ書」であるべきで、その質が連携の成否を左右します。
加えて、心血管リスクの評価を紹介前の初期評価に組み込むことが、新たに重要になります。MASLD患者では、肝疾患そのものよりも心血管疾患が主要な死因であり、糖尿病を合併するMASLD患者では心血管疾患による入院時の死亡率・合併症率が有意に高いことが、日本の大規模データでも示されています(19)。この事実は、脂肪肝の患者を診るときに「肝臓の数値」だけを追うことの危うさを端的に示しています。むしろ、脂肪肝の指摘は、心血管代謝リスクを見直す好機と捉えるべきです。したがって、脂肪肝を指摘した時点で、肝臓のことだけを考えるのではなく、心血管・腎・代謝を一体として捉える視点(いわゆる心腎代謝の枠組み)で、危険因子の是正に着手すべきです(15)。具体的には、血糖・脂質・血圧の管理を最適化し、禁煙を支援し、必要に応じて心血管リスクの層別化を行うことが、紹介前から始められる介入です。「以前はALTの値と超音波所見を添えれば十分だった」という感覚は改め、代謝・飲酒・心血管の三つを整理してから紹介することが、専門医との効率的な連携につながります。こうした準備を整えた紹介は、専門医が線維化の評価と治療方針の決定に集中できるようにし、連携全体の質を高めます。
3-3. 逆紹介後の管理への影響
専門医で線維化の評価と治療方針の決定がなされた後、逆紹介を受けたジェネラリストが担う管理も変わります。第一に、生活習慣介入の継続的な支援です。5〜10%の減量が肝の脂肪化と線維化の双方を改善しうるため、体重・食事・運動の管理はジェネラリストの中心的な役割であり続けます(1,15)。この減量目標は、専門医の外来だけで達成できるものではなく、患者の生活に伴走できるかかりつけ医の継続的な関与があって初めて現実的になります。既承認のセマグルチド等を代謝管理の一環として用いている場合は、その継続と副作用モニタリングも担います(12)。薬物療法を用いる場合でも、生活習慣の改善が土台であることは変わらず、薬に頼りきりにならない包括的な支援が求められます。
第二に、モニタリング項目の更新です。逆紹介後も、FIB-4や肝硬度の定期的な再評価を通じて線維化の進行を監視し、悪化があれば速やかに再紹介する体制が要ります(2)。低リスクと判定された患者でも、代謝リスクが是正されないまま経過すれば線維化が進みうるため、一度低リスクだからと油断せず、定期的にFIB-4を再計算する姿勢が求められます(9)。将来的にレスメチロムのような肝線維化を対象とする薬剤が国内で使えるようになれば、その導入判断や副作用フォローも連携の一部になりますが、現時点では既承認の治療と生活習慣介入が中心です(18)。再評価の間隔は、リスクの程度に応じて個別化すべきで、糖尿病など高リスクの背景を持つ患者ではより短い間隔での再評価が妥当です。
第三に、全身合併症への目配りです。MASLD患者では心血管疾患のリスクが高く、逆紹介後の管理では、血圧・脂質・血糖のコントロールと禁煙支援が、肝のフォローと同等かそれ以上に重要になります(19)。逆紹介を受けた時点で、「肝臓は専門医に任せたから、あとは経過を見るだけ」と考えるのは誤りで、むしろ心血管代謝リスクの是正という、ジェネラリストが最も得意とする領域が主戦場になります。さらに、脂肪性肝疾患は肝外悪性腫瘍のリスクとも関連し、日本の大規模コホートでは、MASLD・MetALD・アルコール関連肝疾患のいずれでも大腸がんの発症リスクが対照群より高いことが示されています(20)。特に飲酒が関与するMetALD・アルコール関連肝疾患でリスクがより高い傾向があり、飲酒歴の把握はがんリスクの層別化という観点からも意味を持ちます。したがって、逆紹介後の患者では、大腸がん検診をはじめとする適切ながん検診の受診勧奨も、包括的な管理の一部として位置づけるべきです。肝臓の数値だけを追うのではなく、全身のリスクを俯瞰して管理することが、逆紹介後のジェネラリストに期待される役割です。専門医が肝の線維化を、ジェネラリストが全身の代謝・心血管・がんリスクを分担して診る——この役割分担の明確化が、MASLD時代の連携の要になります。
4. 今後の展望:専門領域の次の動きと連携への示唆
MASLD診療は、非侵襲的検査による層別化と、線維化を対象とする薬物療法の普及という二つの軸で、今後さらに動きます。研究面では、FIB-4に続く精度の高い血清マーカーや画像バイオマーカーの開発、そして心腎代謝を一体として捉える管理モデルの精緻化が進むと見込まれます(15)。治療面では、レスメチロムやセマグルチドに続く新規薬剤の開発が活発で、線維化を「見つけて治す」時代への移行が加速するでしょう(11,12)。
ジェネラリストが当面注目すべきは三点です。第一に、日本の「MASLD診療ガイドライン2026」が示す紹介基準と、FIB-4・エラストグラフィの国内での運用がどう標準化されるか(4)。第二に、レスメチロムをはじめとするMASH治療薬の国内承認の動向で、承認されれば紹介の意味づけと逆紹介後の管理が再び変わります(18)。第三に、MASLDを心血管・腎・代謝と一体で管理する体制が、プライマリ・ケアにどこまで根づくかです。これらはいずれも、ジェネラリストが日々担っている代謝疾患の管理という土台の上に積み重なる変化であり、遠い専門領域の話ではありません。次に連携行動の更新が必要になるのは、これらの制度と薬剤が動くタイミングであり、そこを見据えて「脂肪肝を見たらFIB-4を計算する」という一手を、今のうちに外来の習慣として定着させておくことが、最も確実な準備になります。この小さな習慣が、線維化の見逃しを減らし、治療が使える時代に備える最初の一歩になります。
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終わりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
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