2026年4月28日詳解③:加熱式たばこの「害が少ない」言説を解体する
皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年4月28日ープライマリケア領域における物質使用障害ーアルコール、たばこ、ベンゾジアゼピンを中心にーの詳解③:加熱式たばこの「害が少ない」言説を解体する、についてです。
Executive Summary
Already Known(従来の理解)
加熱式たばこ(HTP:IQOS、Ploom 等)は「燃焼を伴わない」ことを根拠に、紙巻きより害が少ないと marketing されてきました。日本の HTP 普及率は世界最高水準で、令和 5 年国民健康・栄養調査では現在喫煙者の男性 38.5%、女性 42.3% が加熱式を使用しています。2020 年度から HTP 使用者も健康保険による禁煙治療の対象となり、加熱式単独使用者は呼気 CO 検査の省略が認められるなど、制度面でも「害が少ない代替」を前提とした運用が進んできました。WHO・FDA・PMDA は「害が少ないと断定できない」と慎重姿勢ですが、臨床現場では「禁煙の通過点」として加熱式を黙認する楽観論が温存されています。
What's New(この知見が加えたこと)
Braznell らの Tobacco Control 2025 systematic review and meta-analysis は、HTP の biomarker of potential harm(BoPH)と有害事象に関する 40 試験を統合解析しました。独立資金 10 試験、業界資金 29 試験、不明 1 試験という構成で、80% が高 risk of bias と判定されました。143 BoPH 項目で短期効果は「mixed」、紙巻き・電子たばこ・禁煙との有害事象発生率に有意差はなし。「害が少ない」根拠が業界主導試験への過度な依拠の上に立っていたことが明示されました。並行して Lyytinen らの Atherosclerosis 2023 ランダム化交叉試験は、HTP 1 回使用が脈波伝播速度・血小板血栓形成を即時上昇させると示しました。
So What(だから何が変わるか)
HTP の害評価は、「効果推定」ではなく「エビデンスの質と資金源の偏り」に対する確信度を再校正する局面にあります。日本の指導医に求められるのは、(a) 「害が少ない代替」言説で加熱式を黙認する姿勢の修正、(b) 業界主導試験の批判的吟味、(c) 加熱式利用者を「依然としてニコチン依存」として禁煙介入の対象に位置づけ直す、という三層の再設計です。Taniguchi らの Tob Control 2025 は HTP 普及により日本の禁煙治療件数が有意に減少したことを示し、「害が少ない代替」言説そのものが禁煙行動の阻害要因となっている構造的問題を直視する必要があります。
1. テーマの位置づけと意義
加熱式たばこ(HTP)は、Philip Morris International 社が 2014 年に名古屋で IQOS を世界初上陸させて以来、日本を中心に急速に普及しました。令和 5 年(2023)の国民健康・栄養調査では、現在喫煙者のうち男性 38.5%・女性 42.3% が加熱式たばこを使用しており、女性では約 35.3% が「加熱式のみ」の単独使用者です(1)。日本の HTP 普及率は世界でも最高水準にあり、Kuwabara らの 2019 年 18-24 歳全国調査では、若年層の HTP 使用率(5.1%)が他国比で著しく高いことが報告されています(2)。2020 年度から HTP 使用者も健康保険による禁煙治療の対象に加えられ、加熱式単独使用者で呼気 CO 上昇が認められない場合は、最新の呼気 CO 検査の省略が認められるなど、制度面でも「害が少ない代替」を前提とした運用が定着しています。
しかし、Braznell らの Tobacco Control 2025 systematic review and meta-analysis は、この前提のエビデンス基盤を厳しく問い直しました(3)。本テーマは、HTP の「害推定そのもの」ではなく「エビデンスの質と資金源の偏り」に焦点を当て、専門医が業界主導試験への過度な依拠を批判的吟味の対象として認識し、確信度を再校正する契機となります。日本のプライマリ・ケアでは、HTP 利用者に「紙巻きより安全だから」と説明して継続を黙認する診療姿勢が散見されますが、その根拠は脆弱です。
2. 論文の深掘り分析
2-1. 従来の標準的理解
HTP は燃焼を伴わずタバコ葉を加熱(IQOS は約 350℃、Ploom は 200℃台)することで、燃焼産生物(タール、CO、芳香族炭化水素類等)の発生量を低減すると marketing されてきました。Philip Morris International は 2017 年に米国 FDA に「modified risk tobacco product (MRTP)」申請を行い、2020 年には IQOS が「reduced exposure(曝露低減)」claim での販売認可を受けました(ただし「reduced risk(リスク低減)」claim は認可されず)。この区別は、「曝露低減 ≠ リスク低減」という重要な認識上の境界線を示すものです(4)。
業界主導の biomarker 研究では、HTP 使用群で多くの harmful and potentially harmful constituents(HPHCs)の血中・尿中レベルが紙巻き使用者より低下することが繰り返し報告されてきました(5)。Festinese と Richter による 2026 年の narrative review は、HTP が紙巻きたばこと比較して内皮機能・動脈硬化度・酸化ストレスの短期マーカーで好ましい変化を示すと結論しています(5)。Chapman らの Frontiers in Toxicology 2024 論文(Imperial Brands 社員著者を含む業界主導研究)では、Organ-on-a-chip モデルで HTP が cigarette より単球接着・ICAM-1 発現が低いことが示されました(6)。これらの個別エビデンスが「害が少ない」言説を支えてきました。
一方、独立研究は逆方向の証拠を蓄積してきました。Magna らの Antioxidants 2024 systematic review and narrative synthesis では、HTP と電子たばこが NADPH oxidase の活性化を介して酸化ストレスを増加させ、内皮細胞・血小板への pro-thrombotic・pro-atherosclerotic 影響を示すことが報告されました(7)。Lyytinen らの Atherosclerosis 2023 ランダム化交叉試験では、健常若年成人 24 名で IQOS 3 Multi の 1 回使用が脈波伝播速度(+0.365 m/s, 95%CI +0.188 to 0.543, p=0.004)と血小板血栓形成(AUC +59.5, p<0.001)を即時的に上昇させたと報告しています(8)。Loffredo らの Antioxidants 2025 cross-sectional study では、HTP 受動曝露児で循環 LPS、cotinine、zonulin が有意に上昇しており、「燃焼しない」ことが「内皮機能を守る」ことを意味しないことが示されました(9)。Gu らの Toxicology Letters 2022 論文では、C57BL/6J マウスを 24 週間 IQOS aerosol に曝露すると、肺機能低下、肺胞拡大、コラーゲン沈着、上皮間葉転換が認められ、紙巻きと同等の慢性肺障害が生じました(10)。
日本固有の文脈では、Kitajima らの JASTIS study(Neuropsychopharmacol Rep 2025)が重要です(11)。日本の喫煙者 7969 名のうち、HTP 単独使用者のニコチン依存有病率は 43.0% で、紙巻き使用者(42.9%)と差がありませんでした。さらに、紙巻きと HTP の dual use 群では依存有病率が紙巻き単独より有意に高い(OR 1.17, 95%CI 1.04-1.33)ことが示され、特に高温式(IQOS)を使う dual user では OR 1.31(95%CI 1.14-1.51)と顕著でした(11)。「加熱式に切り替えれば依存から逃れられる」という暗黙の前提は、日本のデータで否定されています。
公衆衛生上の最も重大な指摘は、Taniguchi らの Tob Control 2025 interrupted time-series analysis です(12)。日本医療データセンターのレセプトデータ 8890 名分(2014-2019)の解析で、IQOS が 12 都府県で先行発売された 2015 年 9 月直後、禁煙治療開始率が有意に減少(-0.21%, 95%CI -0.41 to -0.16, p=0.035)し、2016 年 4 月の全国展開後にさらに減少(-0.26%, p=0.008)しました(12)。HTP の普及そのものが「禁煙意欲の代替」として機能し、禁煙行動を阻害している構造が示されています。Kanai らの J Epidemiol 2025 は COVID-19 パンデミック下の追跡調査で、紙巻き単独使用者と dual user は禁煙確率が高まる一方、加熱式単独使用者は禁煙する確率が低い(aOR 0.66, p=0.041)ことを示しました(13)。「加熱式は禁煙への通過点」という言説と逆向きの現象です。
2-2. この知見が付け加えたこと
Braznell らの Tobacco Control 2025 systematic review and meta-analysis は、HTP に関するエビデンス基盤の構造的偏りを系統的に明らかにしました(3)。試験の概要は以下の通りです。
研究方法
対象:HTP の biomarker of potential harm(BoPH)と adverse events(有害事象)を測定した臨床介入試験
検索期間:2010 年 1 月〜2024 年 12 月
検索データベース:Web of Science、Scopus、MedRxiv、ClinicalTrials.gov、ICTRP、HTP 製造企業ライブラリー
比較群:紙巻きたばこ、電子たばこ、または禁煙
リスク評価:Cochrane RoB tool v1
結果の核心
適格試験:40 試験
資金源内訳:独立資金 10 試験(25%)、業界資金 29 試験(72.5%)、不明 1 試験(2.5%)
試験期間:5 日超は 9 試験のみ(22.5%)、19 試験(47.5%)は単回使用のみ
リスク・オブ・バイアス:高 32 試験(80%)、不明 8 試験(20%)
解析対象 BoPH:143 項目
BoPH 効果:紙巻き・電子たばこ・禁煙との比較で「mixed effects」(一貫した方向性なし)
有害事象:HTP と各比較群との間で発生率に統計的有意差なし
著者らの結論は明快でした。「エビデンス基盤は拡大しているにもかかわらず、データの解釈には重大な限界があり、紙巻きとの比較ですら害もしくは利益の明確な指標は得られない。HTP の健康影響を判断するためには、より長期で質の高い、たばこ業界資金から独立した研究が必要である」(3)。
この結果は、Ben Saad らの Tunis Med 2025 systematic review でも補強されています(14)。Ben Saad らは 5 試験(n=460)を評価し、HTP の急性曝露が紙巻きと同等の血行動態・血管変化を引き起こし、内皮機能不全と持続的酸化ストレスが報告されたと結論しました。「HTP は短期的に紙巻きより心血管的に有意な利益を示さない」(14)。
中期・長期データはほぼ存在しないため、業界が主張する「害低減」の根拠は、(a) 短期 biomarker、(b) 業界主導試験、(c) 高 risk of bias 試験、という三重の脆弱性の上に立っています(3,14)。Audrain-McGovern らの Tobacco Control 2025 Phase I 臨床試験は、紙巻き使用者 90 名に IQOS 3 への切替を試みた 14 日間試験で、約 20% のみが完全切替を達成したと報告しています(15)。「IQOS は紙巻きの完全代替になる」という前提も、限定的な集団でしか機能しません。
Farsalinos らの IQOS 専門店顧客 373 名の調査(Intern Emerg Med 2025)では、購入者の 98.1% が喫煙歴を持ち、67.8% が呼気 CO で確認された former smoker でした(16)。これは産業界の「禁煙ツール」として機能している側面を示すデータですが、第一著者 Farsalinos は産業界寄りの研究者として知られ、独立検証は限定的です。Berg らの Nicotine Tob Res 2025 質的研究は、米国・イスラエル成人 84 名へのインタビューで、IQOS 広告メッセージ(「reduced exposure」claim)が「reduced risk」と多くの消費者に解釈されていることを明示しました(17)。FDA の expedited claim や科学研究への言及が「信頼性向上」効果として機能し、結果的に消費者の認識を歪めています(17)。
Hwang らの韓国青少年追跡調査(PHWR 2026)では、6 年間の追跡で電子たばこ/加熱式から紙巻きへの gateway 効果が確認され、dual user の 36.3% が電子たばこ起点で他のたばこ製品に移行していました(18)。Butler らの Cochrane 2025 review は、ニコチン含有電子たばこの離脱介入のエビデンスがほぼ存在しないことを示しており、「禁煙ツール」として始めた製品が新たな依存源として固定化する場合の対処法が体系化されていない問題を提起しています(19)。
2-3. 批判的吟味:研究デザインと解釈の妥当性
Braznell らの Tobacco Control 2025 メタアナリシスには、いくつかの方法論的留意点があります。
研究デザインの強み
包括的な検索戦略(製造企業ライブラリーまで含む)により、grey literature を網羅
資金源情報を試験単位で明示し、「独立 vs 業界」の構造的偏りを定量化
143 BoPH の系統的整理により、「個別マーカーの cherry-picking」の限界を明示
著者所属の Tobacco Control Research Group(バース大学)は WHO FCTC とも連携する独立グループ
批判的論点
効果方向プロット(effect direction plot)による定性統合が中心で、ハードな効果サイズの統合には至っていない
BoPH の臨床的意義(hard endpoint との関連)は依然として不確実
個別 BoPH(例えば cotinine、4-ABP、CO)の解釈は biomarker 種類により大きく異なり、「mixed」という総括が情報量を圧縮しすぎている可能性
業界主導試験を「等しく取り扱う」ことが、エビデンス全体への過度な悲観論につながるリスク
日本における実装課題
日本では HTP が成人喫煙者の 30-40% にまで普及しており(1)、「加熱式は害が少ない」という社会通念が深く定着しています(23)
2020 年度の保険診療対象化は、加熱式単独使用者の禁煙治療アクセスを広げる一方、「害が少ない代替」言説を制度的に追認する結果となっています
加熱式単独使用者で呼気 CO 上昇がない場合の検査省略は、ニコチン依存度の評価不足につながる可能性があります(11)
Taniguchi らのデータ(12)が示す通り、HTP 普及そのものが禁煙行動の阻害要因として機能しており、保険診療上の優遇は逆向きのインセンティブを生んでいる可能性があります
日本循環器学会・日本肺癌学会・日本癌学会・日本呼吸器学会による「禁煙治療のための標準手順書 第 8.1 版」(2021)は、HTP も介入対象に含めていますが、HTP 特有の動機づけ・薬物療法の有効性に関する日本データはきわめて限定的です(20)
WHO FCTC 第 11 回 COP(2025 年 11 月、ジュネーブ)では HTP 規制が議題に上がっており、日本の規制環境も国際的な圧力下で再検討される局面にあります(21)
これらを踏まえると、Braznell らのメタアナリシス(3) は「HTP は紙巻きと変わらない害がある」と断定するためのものではなく、「現時点のエビデンスは害低減を支持するに足りない」という慎重姿勢の根拠となるものです。次節以降では、この含意を臨床思考の中で解きほぐします。
3. 臨床的思考の深化と再構築
HTP の害そのものに関する効果推定が修正されたわけではなく、「エビデンス基盤の質と資金源の偏り」に対する確信度の再校正が促されています。以下、エビデンスの読み替え、類似構造への外挿、確信度の再校正の三層で論じます。
3-1. エビデンスの読み替え
HTP に関する従来の「害が少ない」エビデンスは、(a) 短期 biomarker、(b) 業界主導試験、(c) 単一施設・小規模、という構造的特徴を共有してきました(3,5)。Braznell らのメタアナリシスは、これらの研究を否定するのではなく、「同じ効果推定でも、エビデンスの質と資金源を加味すると、結論の確信度は大きく異なる」という読み替えを促します(3)。
ここで重要なのは、「効果推定そのもの」と「効果推定の信頼性」を区別することです。業界主導試験の 80% で risk of bias が高いということは、報告された数値が真値と異なる方向に系統的に歪んでいる可能性が高いことを意味します。Chartres らの American Journal of Public Health 2026 editorial は、財政的利益相反が科学文献と政府の意思決定の双方を歪める構造的問題を指摘しており、「個別研究の方法論評価」だけでなく「研究エコシステム全体の利益相反評価」が必要であることを主張しました(22)。Chapman らの on-a-chip 研究(6)のような細胞レベル試験は、産業界が「reduced harm potential」を主張する根拠として頻繁に引用されますが、Imperial Brands 社員が著者に含まれる事実は、結果の独立解釈を困難にします(6)。
これに対し、独立研究は逆方向の知見を蓄積してきました。Lyytinen らの Karolinska 試験(8)、Magna らの Sapienza 大学レビュー(7)、Loffredo らの小児受動曝露研究(9)、Gu らのマウス長期曝露研究(10)は、いずれも HTP の急性・慢性の生物学的影響が紙巻きと質的に類似していることを示しています。これらの独立研究と業界主導試験の結果が異なる場合、Braznell らのメタアナリシスは「業界資金 = 害低減方向、独立資金 = 中立または害方向」という資金源依存の系統バイアスの存在を示唆しました(3)。
つまり、HTP のエビデンスは「効果推定そのもの」ではなく「適用範囲の理解」が修正されました。短期 biomarker での「変化方向」を hard endpoint への「リスク低減」と読み替えることはできません。Braznell らが示した「9 試験のみが 5 日超」「19 試験が単回使用」というデータは(3)、現行エビデンスが慢性疾患リスク評価には全く不十分な期間スケールであることを意味します。
日本のプライマリ・ケアでこの読み替えを実装すると、「加熱式は害が少ないから紙巻きより推奨できる」という説明は、エビデンスベースから外れます。一方、「現時点では害低減の確証がないが、紙巻きと同等以上の依存性が示されている」という説明は、Kitajima らの JASTIS データ(11) とも整合的です。患者への情報提供は、「確実な利益」と「確実な害」の二項対立から、「不確実性」と「累積リスク」の枠組みへ移行する必要があります。
3-2. 類似構造への外挿
「業界資金研究と独立研究の結果が乖離する」というエビデンス構造は、たばこ研究の歴史的中核問題であり、過去にも繰り返し観察されてきました。1950 年代の「紙巻きたばこは安全」キャンペーン、1990 年代の「ライト・マイルドたばこは害が少ない」言説、2010 年代の「電子たばこは安全な代替」主張のいずれも、業界主導研究によって支えられ、独立研究の蓄積により事後的に修正されてきました。HTP は、この歴史的パターンの最新章として位置づけられます。
電子たばこ(vape)への外挿は、特に重要な視点を提供します。Butler らの Cochrane 2025 review は、ニコチン含有電子たばこからの離脱介入のエビデンスがほぼ存在しないことを示しており(19)、「禁煙ツールとして始めた製品が新たな依存源になる」という構造的問題を提起しています。HTP も同じ構造的リスクを持ちます。Hwang らの韓国青少年追跡調査(18)は、電子たばこ起点で他のたばこ製品に移行する gateway 現象を示しており、HTP でも同様のリスクが存在し得ます。
医薬品領域への外挿も示唆に富みます。製薬企業主導の RCT と独立 RCT で効果サイズが乖離することは、過去のメタアナリシスで繰り返し示されています。たばこ業界主導試験の bias の方が、製薬企業主導試験の bias より顕著である理由は、(a) 規制環境の違い(FDA は製薬企業に対し phase 3 で hard endpoint を要求するが、たばこ業界には biomarker のみで足りる)、(b) 利害関係の規模、(c) 過去の「研究捏造」の歴史、にあります(22)。
ただし、安易な類推は禁止です。電子たばこと HTP は機構的に異なります(電子たばこは液体気化、HTP はタバコ葉加熱)。前者はニコチン以外のアルカロイドが少ない一方、後者はタバコ葉由来のアルカロイドと加熱産物を含みます。生物学的影響の機序は重複する部分と異なる部分があり、エビデンスの直接外挿は限定的にすべきです。Chapman らの on-chip 研究(6)が示すように、in vitro モデルでは HTP と電子たばこの効果が分かれるケースもあります。
日本の文脈では、「HTP の普及が禁煙行動を阻害する」という Taniguchi らの知見(12) と、「HTP 単独使用者は紙巻き単独使用者より禁煙しにくい」という Kanai らの知見(13) は、英国・米国の電子たばこ普及データとは異なる方向を示しています。英国 NHS は電子たばこを禁煙ツールとして推奨していますが、日本の HTP は「禁煙の通過点」として機能していない可能性が高く、英国モデルの直接外挿は慎重にすべきです。
3-3. 確信度の再校正
HTP に対する臨床医の確信度は、過去 10 年間「紙巻きより害が少ない代替」という方向で形成されてきました(5)。この確信度は、Braznell らのメタアナリシス(3) を踏まえてどう校正されるべきでしょうか。
第一に、「業界主導試験は中立的に扱える」という前提を放棄すべきです。FDA の MRTP 認可は「reduced exposure」claim を認めましたが、「reduced risk」claim は認めませんでした(4)。この区別は、規制機関自身が「曝露低減 ≠ リスク低減」と認識していることを示しています。Berg らの研究(17) が示すように、消費者の半数以上はこの区別を認識しておらず、「reduced exposure」を「safer」「healthier」と paraphrase します。臨床医自身も、無意識のうちに同じ paraphrase を行ってきた可能性があります。
第二に、「短期 biomarker = 長期リスク」という暗黙の前提を放棄すべきです。Braznell らは、9 試験のみが 5 日超、19 試験が単回使用という事実を提示しました(3)。慢性疾患リスク(心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、肺癌)は、20-30 年スケールの曝露で発現する累積効果です。短期 biomarker の「改善」が、長期 hard endpoint の「リスク低減」を意味する保証はありません。Lyytinen らの 1 回曝露試験(8) で観察された血管・血小板変化は、累積すれば atherosclerosis のリスクを高める方向です。
第三に、「規制機関の認可 = 臨床的安全」という前提を放棄すべきです。FDA、PMDA、EU 規制機関のいずれも HTP に対して「曝露低減」を認めるに留め、「リスク低減」は認めていません。日本の保険診療上の優遇は、この区別を曖昧にしたまま運用されており、「保険適用=医学的に推奨される代替」という誤解を生む構造があります。Chartres らの editorial(22) は、規制プロセスへの財政的利益相反の影響を懸念しており、規制機関の判断自体も独立性を確認する必要があります。
第四に、「個別研究の方法論的厳密性」と「研究エコシステム全体の利益相反」を区別すべきです。業界主導試験のデザイン自体は厳密であっても、研究エコシステム全体(資金配分、出版バイアス、研究者の career incentive)が偏っている場合、個別試験の妥当性評価では捉えられない構造的バイアスが存在します(22)。Festinese らの narrative review(5) のような「独立研究と業界研究を中立的に並べる」アプローチは、この構造的バイアスを見逃す危険があります。
日本の指導医にとっての確信度の再校正は、(a) HTP の害低減を断定するエビデンスは存在しない、(b) HTP 単独使用者も依然としてニコチン依存であり禁煙介入の対象、(c) 「害が少ない代替」と説明する診療姿勢は、患者の禁煙行動を阻害する可能性、(d) 業界主導試験への過度な依拠は批判的吟味の対象、という四層構造になります。Kuwabara らの 18-24 歳調査(2) と Kitajima らの JASTIS data(11) は、若年層と一般成人の両方で HTP がニコチン依存の主要経路となっていることを示しており、「軽い代替」としての位置づけは支持できません。WHO FCTC 第 11 回 COP(2025)の議論(21) を踏まえ、規制環境は今後さらに厳格化する方向です。臨床医は「業界の言葉」ではなく「独立研究の蓄積」を意思決定の基盤とすべき局面にあります。
4. 今後の展望:何がわかれば決着するか
決着すべき問いは三層構造で残されています。第一に、「HTP の長期 hard endpoint への影響」です。現行エビデンスは短期 biomarker に依存しており、心血管イベント・COPD 発症率・肺癌罹患率といった hard endpoint への影響を測定する 10-20 年スケールの cohort 研究が必要です。Lyytinen らの急性影響(8)、Loffredo らの慢性受動曝露(9)、Gu らのマウス慢性曝露(10) のデータを統合し、ヒト集団で検証する prospective cohort が決定的役割を果たすでしょう。第二に、「HTP の集団レベルの公衆衛生影響」です。Taniguchi らの interrupted time-series(12) と Kanai らの COVID 期 cohort(13) が示した「禁煙阻害効果」を、より長期かつ国際比較の枠組みで検証する研究が待たれます。第三に、「業界資金研究と独立資金研究の効果サイズ乖離」を定量化する更なる systematic review です。Braznell らの効果方向プロット(3) を発展させ、定量メタアナリシスで bias の方向と大きさを推定できれば、研究エコシステム全体への確信度評価のフレームワークが確立します。これらの問いに 5-10 年で部分的回答が得られると見込まれ、HTP 規制と臨床推奨は今後段階的に厳格化する方向に向かうと予測されます。
5. References
厚生労働省. 令和5年(2023)「国民健康・栄養調査」結果の概要.
Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45540.htmlKuwabara Y, Kinjo A, Kim H, et al. Prevalence and dual use of cigarettes, heated tobacco products and electronic cigarettes among young adults in Japan: findings from a 2019 Nationwide Survey. BMJ Open. 2025;15(10):e098453. doi:10.1136/bmjopen-2024-098453.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41151954/Braznell S, Dance S, Hartmann-Boyce J, Gilmore A. Impact of heated tobacco products on biomarkers of potential harm and adverse events: a systematic review and meta-analysis. Tob Control. 2025. doi:10.1136/tc-2024-059000.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40300839/PR Newswire. FDA authorizes marketing of IQOS Tobacco Heating System with 'reduced exposure' information. 07 July, 2020.
Available from: https://www.prnewswire.com/news-releases/fda-authorizes-marketing-of-iqos-tobacco-heating-system-with-reduced-exposure-information-301089261.htmlFestinese S, Richter D. Cardiovascular effects of electronic cigarettes and heated tobacco products: Clinical evidence from a narrative review. Adv Clin Exp Med. 2026. doi:10.17219/acem/217292.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41926775/Chapman F, de Haan L, Gijzen L, et al. Optimisation of an human cardiovascular model on-a-chip for toxicological assessment of nicotine delivery products. Front Toxicol. 2024;6:1395670. doi:10.3389/ftox.2024.1395670.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38938662/Magna A, Polisena N, Polisena L, et al. The Hidden Dangers: E-Cigarettes, Heated Tobacco, and Their Impact on Oxidative Stress and Atherosclerosis - A Systematic Review and Narrative Synthesis of the Evidence. Antioxidants (Basel). 2024;13(11):1395. doi:10.3390/antiox13111395.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39594537/Lyytinen G, Melnikov G, Brynedal A, et al. Use of heated tobacco products (IQOS) causes an acute increase in arterial stiffness and platelet thrombus formation. Atherosclerosis. 2023;390:117335. doi:10.1016/j.atherosclerosis.2023.117335.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37872010/Loffredo L, Maggio E, Bartimoccia S, et al. Tobacco Smoke Exposure and Oxidative Stress: The Role of Circulating Lipopolysaccharides in Heated and Conventional Products. Antioxidants (Basel). 2025;14(11):1316. doi:10.3390/antiox14111316.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41300474/Gu J, Gong D, Wang Y, et al. Chronic exposure to IQOS results in impaired pulmonary function and lung tissue damage in mice. Toxicol Lett. 2022;374:1-10. doi:10.1016/j.toxlet.2022.11.022.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36462770/Kitajima T, Hisamatsu T, Kanda H, Tabuchi T. Nicotine dependence based on the tobacco dependence screener among heated tobacco products users in Japan, 2022-2023: The JASTIS study. Neuropsychopharmacol Rep. 2025;45(1):e12512. doi:10.1002/npr2.12512.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39780643/Taniguchi C, Oze I, Narisada A, et al. Changes in seeking smoking cessation therapy among Japanese employees and their families: a possible role for the dissemination of heated tobacco products (HTPs). Tob Control. 2025. doi:10.1136/tc-2025-059331.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40533183/Kanai M, Kanai O, Tabuchi T. Impact of the COVID-19 Pandemic on Changes in Tobacco Use Behavior: A Longitudinal Cohort Study in Japan. J Epidemiol. 2025;35(6):255-261. doi:10.2188/jea.JE20240180.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39581593/Ben Saad S, Hrizi C, Balloumi N, Ben Mansour A. Effects of Heated Tobacco Products compared to Conventional Cigarettes on Cardiovascular System: A Systematic Review. Tunis Med. 2025;103(9):1183-1194. doi:10.62438/tunismed.v103i9.6233.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41848134/Audrain-McGovern J, Wileyto EP, Klapec O, Koita F, Strasser AA. Switching from cigarettes to IQOS: the relative importance of IQOS-associated reward, reinforcement and abstinence relief. Tob Control. 2025;34(5):651-658. doi:10.1136/tc-2024-058635.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38871445/Farsalinos K, Diamantopoulou E, Agapitou T, Trikilis G, Barbouni A. Patterns of heated tobacco product use and biochemically verified smoking status among customers of dedicated heated tobacco product stores. Intern Emerg Med. 2025;20(6):1803-1813. doi:10.1007/s11739-025-04029-8.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40576934/Berg CJ, Levine H, LoParco CR, et al. Qualitative Examination of US and Israeli Adults' Perceptions of IQOS Advertising Messages: Modified Exposure and Risk Statements, US FDA Endorsement, and Health Warnings. Nicotine Tob Res. 2025;27(6):1083-1091. doi:10.1093/ntr/ntae266.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39549286/Hwang JH, Park I, Ahn Y, et al. Tobacco Product Use Behaviors Trend among Korean Youth: Finding from the Korean Youth Health Behavior Panel Survey (Waves 1 to 6). Jugan Geongang Gwa Jilbyeong (PHWR). 2026;19(6):287-303. doi:10.56786/PHWR.2026.19.6.1.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41696500/Butler AR, Lindson N, Livingstone-Banks J, et al. Interventions for quitting vaping. Cochrane Database Syst Rev. 2025;11(11):CD016058. doi:10.1002/14651858.CD016058.pub3.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41288132/日本循環器学会・日本肺癌学会・日本癌学会・日本呼吸器学会. 禁煙治療のための標準手順書 第8.1版. 2021年9月.
Available from: https://www.j-circ-kinen.jp/attempt/runbook/index.htmlWHO Framework Convention on Tobacco Control Secretariat. Eleventh Meeting of the Conference of the Parties (COP11), Geneva, 17-22 November 2025: Progress report on technical matters related to Articles 9 and 10 (heated tobacco products).
Available from: https://fctc.who.int/Chartres N, Woodruff TJ, Bero LA. Restoring Trust in Public Health by Preventing Financial Conflicts of Interest in the Scientific Literature and Government Decision-Making. Am J Public Health. 2026;116(1):62-66. doi:10.2105/AJPH.2025.308338.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41370767/国立がん研究センター がん対策研究所.日本における加熱式たばこの有害性の認識と個人特性及び社会経済状況との関連:全国横断調査(INFORM Study 2020).
Availabie from: https://www.ncc.go.jp/jp/icc/behav-sci/project/030/20240109133628.html
終わりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
なお、以下が本記事の元ページへのリンクです。
本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。
