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2026年7月2日詳解①:心不全を疑ったとき、どの値で循環器内科へ送るか ― ナトリウム利尿ペプチドの紹介閾値の近年の動向

皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年7月2日ージェネラリストのための専門領域アップデート:循環器内科の詳解①:心不全を疑ったとき、どの値で循環器内科へ送るか ― ナトリウム利尿ペプチドの紹介閾値の近年の動向についてです。


Executive Summary

Already Known(従来の理解)

息切れやむくみで心不全を疑ったとき、ジェネラリストはまず血中のナトリウム利尿ペプチド(BNPまたはNT-proBNP)を測定し、基準値を超えれば心エコー検査と循環器専門医への紹介に進みます。海外の代表的なガイドラインでは、英国NICEがNT-proBNP 400 pg/mLと2,000 pg/mLの二段階で紹介の緊急度を分け、欧州心臓病学会(ESC)は125 pg/mLを除外の目安としています(2,3)。この「一つの数字で線を引く」運用が、紹介判断の出発点になってきました。

What's New(この知見が加えたこと)

2026年に報告された英国プライマリ・ケアの費用対効果分析では、高い紹介閾値(NICEの400 pg/mL)が低い閾値(ESCの125 pg/mL)に比べ、医療費を抑えつつほぼ同等の生存・生活の質を生むと示されました。低い閾値は心不全の見逃しを減らす一方、心不全でない人への心エコー検査を大きく増やしました(9)。さらに、4つの大規模試験の統合解析(約14,750例)では、肥満があるとナトリウム利尿ペプチドが見かけ上低くなり、体格指数(BMI)35以上では同じリスクに対応する値が35未満の約3分の1まで下がることが分かりました(10)。単一の固定閾値は、肥満のある人のリスクを系統的に過小評価します。

So What(だから何が変わるか)

「BNPがいくつを超えたら送るか」というジェネラリストの判断そのものが、地域全体の見逃しと過剰検査のバランスを決めます。これからは単一のカットオフを機械的に当てはめるのではなく、肥満・心房細動・腎機能・年齢という修飾因子を加味し、患者ごとに閾値の意味を読み替える姿勢が求められます。逆紹介後には、確定したHFpEF(心不全・左室駆出率保持)に対してSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった新しい治療が標準になりつつあり、紹介の精度がそのまま治療開始の遅速に直結します(13,14)。


1. テーマの位置づけとジェネラリストへの意義

心不全は、高齢化が進む社会で増え続ける症候群です。世界疾病負荷研究(GBD 2023)では、虚血性心疾患が非感染性疾患のなかで最大の健康損失をもたらし、高い収縮期血圧が単独で最も大きなリスク要因であると報告されています(1)。これらはいずれも心不全の上流に位置し、ジェネラリストの外来で日常的に管理されている病態です。

心不全の入り口は、多くの場合プライマリ・ケアにあります。「最近、坂道で息切れする」「足がむくむ」「疲れやすい」といった非特異的な訴えのなかから心不全を拾い上げ、循環器へ送るかどうかを最初に判断するのはジェネラリストです。その判断の中心にあるのが、血中ナトリウム利尿ペプチドの測定です。

本稿が扱うのは、専門的な治療法そのものではありません。「どの値で、どのくらいの緊急度で、誰を循環器に送るか」という紹介の入り口の設計です。この閾値の置き方が変われば、ジェネラリストが送る患者層が変わり、専門医が受け取る紹介の質が変わり、そして地域の医療資源の使われ方が変わります。連携の最上流にあるこの判断を、最新の知見で点検し直すことが本稿の目的です。


2. 専門知見の構造的理解

2-1. テーマの現在地:標準的な心不全の拾い上げと紹介の流れ

心不全の診断は、症状・身体所見・ナトリウム利尿ペプチド・心エコーを組み合わせて進みます。なかでもナトリウム利尿ペプチドは、心室の壁にかかる負荷が高まると分泌が増える物質で、心不全らしさを定量的に示す唯一の汎用血液検査として確立しています。ESC 2021年ガイドラインは、慢性心不全を疑う外来患者でNT-proBNPが125 pg/mL未満(BNPでは35 pg/mL未満)であれば心不全の可能性は低い、という「除外(rule out)」の目安を示しました(2)。値が基準を超えた場合に心エコーへ進み、左室駆出率に応じて心不全のタイプを分類します。

紹介の緊急度に踏み込んだのが英国NICEのガイドライン(NG106)です。NICEは、NT-proBNPが2,000 pg/mLを超える場合は予後が悪いため2週間以内に専門医評価と心エコーを行う緊急紹介、400〜2,000 pg/mLの場合は6週間以内の通常紹介、400 pg/mL未満は心不全の可能性が低い、という三段階のトリアージを採用しています(3)。同じナトリウム利尿ペプチドでも、ESCは「125で除外」、NICEは「400で線引きし、2,000で緊急」と、閾値の置き方が異なります。この差が、後で述べる「見逃しと過剰検査のトレードオフ」の核心になります。

日本では、運用がやや異なります。日本では歴史的にBNPが主に用いられ、NT-proBNPと併存しています。日本循環器学会の2025年改訂版・心不全診療ガイドラインは、心不全のステージ分類と定義を整理し、早期からの介入を重視する方向を示しました(4)。紹介の具体的なカットオフについては、日本心不全学会が2023年に改訂した「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント」が実務的な基準を示しています。このステートメントでは、外来で前心不全〜心不全の可能性を考える閾値として、従来のBNP 100 pg/mL/NT-proBNP 400 pg/mLから、BNP 35 pg/mL/NT-proBNP 125 pg/mLへと引き下げられました。心不全の危険因子を持つ患者でこの値を超えた場合、心エコーなどの精査や循環器専門医へのコンサルテーションを検討することが推奨されています(5)。つまり日本の紹介基準は、近年むしろ「拾い上げを増やす方向」へ動いています。

紹介の先にある心エコーは、左室駆出率を測り、心不全のタイプ(駆出率が低下したHFrEF、軽度低下のHFmrEF、保持されたHFpEF)を決める検査です。とりわけ近年問題になっているのが、駆出率が保たれているにもかかわらず心不全症状を呈するHFpEFの拾い上げです。HFpEFは高齢者、肥満、心房細動、糖尿病を背景に増えており、症状が非特異的なため見逃されやすいことが知られています(6)。

近年の心不全診療は、症状が出てからの対応だけでなく、症状が出る前の「前心不全」の段階での早期介入を重視する方向へ動いています。日本循環器学会の2025年改訂版ガイドラインも、危険因子のみを持つステージA、器質的変化のあるステージB(前心不全)、症状のあるステージC、治療抵抗性のステージDへと連続的に捉える枠組みを採り、早期からの介入を促しています(4)。この流れのなかで、ナトリウム利尿ペプチドは「症状が出る前の心臓の負荷」を捉える窓として、これまで以上に重視されるようになりました。実際、プライマリ・ケアでの心不全スクリーニングでは、新規に見つかる心不全の約7割が駆出率の保たれたHFpEFであり(18)、従来の「駆出率が下がった重い心不全」というイメージとは異なる患者層が、外来の息切れの背後に潜んでいます。紹介の入り口でこの層をどう拾うかが、本稿の中心的な問いです。

2-2. 新たな知見:紹介閾値をめぐる判断はどう変わるか

専門医側で起きている変化は、大きく3つあります。

第1に、「閾値をどこに置くかは費用対効果の問題でもある」という視点が定量化されました。2026年に報告された英国プライマリ・ケアの費用対効果分析は、疑い心不全に対する3つの戦略 ―「全例に心エコー」「ESC基準(NT-proBNP ≥125)」「NICE基準(≥400)」― を、HFpEFを含む現代的な治療を組み込んだモデルで比較しました。その結果、NICEの高い閾値はESCの低い閾値に比べ、医療費を抑えつつ同等の質調整生存年(QALY)を生むと示されました。低い閾値は心不全の検出を増やしますが、心不全でない患者への検査を大幅に増やしてしまいます。注目すべきは、この結論が「下流の治療をどう仮定するか」に左右される点です。治療を受ける患者に利尿薬が広く使われる前提を置くと、ESC基準や全例エコーのほうが追加の便益を生む、という逆転も起こりました(9)。閾値は、検査の精度だけでなく、その後の治療パターンとセットで評価すべき対象になったのです。

第2に、「単一の固定閾値は、体格によってリスクを取り違える」ことが大規模データで明確になりました。HFmrEF/HFpEFの4つの大規模試験を統合した約14,750例の解析では、BMIが高いほどNT-proBNPが非線形に低くなることが示されました。NT-proBNPが2倍になるごとに心血管死または心不全入院のリスクは40%高まりますが、この関連はBMIが高いほど弱まります。同じ絶対リスク(100人年あたり5件)に対応するNT-proBNP値は、心房細動のない人ではBMI 35以上で158 pg/mL、35未満で450 pg/mLと、約3倍の開きがありました(10)。肥満のある人では、ナトリウム利尿ペプチドが「低く出る」ため、同じカットオフを当てると本来ハイリスクの人を取りこぼします。これは、肥満を背景とするHFpEFがまさに見逃されやすいことと符合します。実際、慢性左心不全の検討でも、肥満や2型糖尿病ではBNPが低値に、慢性腎臓病や心房細動では高値に傾くことが報告されています(8)。

ナトリウム利尿ペプチドが肥満で低く出る背景には、脂肪組織による分解・除去(クリアランス)の亢進や、肥満に伴う分泌調節の変化があると考えられています。ここで重要なのは、これが測定の誤差ではなく、「同じ心負荷でも値が系統的に低く出る偏り」だという点です。したがって肥満患者では、カットオフ近傍の値を機械的に「陰性」と読むと、リスクの高い人を取り逃がします。HFpEFは肥満・高血圧・心房細動を背景に増える病型であり、ナトリウム利尿ペプチドが低く出やすい集団と、見逃してはならない集団がちょうど重なっているところに、この問題の根深さがあります。

この知見は、「閾値を一律に下げる」のではなく「患者ごとに閾値を個別化する」という方向を示唆します。NT-proBNPの診断閾値を患者背景に応じて調整する個別化アプローチの概念実証研究も登場しており、固定閾値からの脱却が現実の検討課題になりつつあります(11)。糖尿病患者を対象としたプライマリ・ケア研究では、HFpEFの有病率が用いる定義によって4%から37%まで大きく変動し、どの基準を採るかで「対象者数」そのものが数倍動くことも示されました(12)。閾値と定義の選び方は、もはや学術的な細部ではなく、現場の紹介量を左右する実務判断です。

第3に、「早く拾い上げる価値」が以前より高まりました。かつてHFpEFは有効な治療が乏しく、早期診断の臨床的意義が限定的でした。しかし近年、SGLT2阻害薬がHFpEF/HFmrEFで心血管死・心不全入院を約2割減らす基盤的治療として確立し、糖尿病の有無を問わず有効であることが示されました(14)。さらに最新のネットワークメタアナリシスでは、GLP-1受容体作動薬(ハザード比0.73)とSGLT2阻害薬(同0.79)がHFpEFの心血管死・心不全入院を有意に減らし、GLP-1受容体作動薬は運動耐容能や生活の質の改善でも最も優れると報告されました(13)。アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)も、心房性機能性僧帽弁逆流を伴うHFpEFで運動時血行動態やNT-proBNPを改善することが無作為化試験で示されています(15)。治療の選択肢が増えたことで、「早く診断して、早く適切な薬を始める」ことの意味が大きくなりました。紹介の精度は、そのまま治療開始の遅速に直結します。

2-3. 情報の限界と専門医視点の吟味

ただし、これらの知見を日本にそのまま持ち込む前に、いくつかの吟味が必要です。

研究デザインの限界。 費用対効果分析(9)は英国NHSの医療費・体制を前提としたモデル研究であり、結論が「下流の治療仮定」に強く依存することは著者自身が強調しています。利尿薬の使い方や心エコーへのアクセスが異なれば、最適な閾値は変わりえます。日本へ機械的に「だから高い閾値が良い」と移し替えることはできません。

スコアの感度の限界。 プライマリ・ケアでHFpEFの事前確率を見積もるために、H2FPEFスコアやHFA-PEFFスコアが用いられます。原因不明の呼吸困難を対象とした検討では、H2FPEFスコア(AUC 0.845)がHFA-PEFFスコア(AUC 0.710)より優れ、低スコアでの偽陰性率もH2FPEFの25%に対しHFA-PEFFは55%と高いことが示されました(7)。一方で、これらのスコアは「除外(rule out)」の感度が必ずしも高くなく、特に肥満例ではナトリウム利尿ペプチドも拡張能の指標も左室充満圧を過小評価しがちです(6)。高齢入院患者を対象とした研究では、年齢補正後のNT-proBNPが上昇していたのはESC基準を満たした患者の52%にとどまり、H2FPEFスコアの感度はわずか0.07と極端に低く、慢性腎臓病などの併存疾患が判断を強く撹乱しました(16)。スコアもバイオマーカーも、高齢・肥満・腎機能低下という日本の外来に多い背景のもとでは万能ではありません。実際、HFPEFスコアとHFA-PEFFスコアは予後予測の能力を持つ一方、同じ患者を5割以上で食い違って分類するという不一致も報告されています(17)。

加えて、紹介の「入り口」をどこに置いても、その精度は最終的に「出口」である心エコーの実施可能性と読影の質に依存します。地域によっては心エコーの予約待ちが長く、本来緊急度の高い患者がその他の依頼に埋もれてしまうこともあります。ナトリウム利尿ペプチドの閾値だけを精密に議論しても、心エコー資源の配分と一体で考えなければ、見逃しと過剰検査のトレードオフは解けません。閾値の設計は、診断検査へのアクセスという制約と切り離せない問題です。

実装と過剰検査の限界。 紹介の入り口を広げる技術も登場しています。スマートフォンアプリで危険因子と症状から心不全を拾い上げる地域スクリーニングでは、約3分の1で新規心不全が見つかり、その7割がHFpEFでしたが、スコアの特異度は35%と低く、多くの「心不全でない人」も拾ってしまいました(18)。人工知能(AI)を用いた心エコーを過疎地に展開し、心機能障害や弁膜症を早期に検出する試みも進んでいます(19)。これらは見逃しを減らす一方、過剰検査と医療費を増やす両刃の剣です。また、息切れの原因は心不全だけではありません。労作時呼吸困難の鑑別には肺高血圧症も含まれ、これも初期評価でナトリウム利尿ペプチドと心エコーが手がかりになりますが、確定には専門施設での右心カテーテルが必要です(20)。一つの閾値に頼って心不全と決め打ちすると、別の重要な病態を見落とすこともあります。

日本における実装課題。 日本ではBNPが主に用いられ、JHFS 2023ステートメントが外来紹介の閾値をBNP 35/NT-proBNP 125へ引き下げました(5)。これは拾い上げを増やす方向ですが、同時にBNP/NT-proBNPの頻回測定は保険上の査定対象になりやすく、検査の運用には地域差があります。心エコーへのアクセスは日本では比較的良好ですが、過剰検査の抑制と見逃し防止の両立は、英国とは異なる文脈で考える必要があります。なお、肥満による偽低値の問題は、欧米に比べ高度肥満の頻度が低い日本では相対的に小さいものの、肥満を背景とするHFpEFは日本でも増えており、無視できません。これらの論点を踏まえ、次章ではジェネラリストの実務に落とし込みます。


3. ジェネラリストの視座による知識の統合

3-1. 紹介トリガーの再設定:単一カットオフから「閾値+修飾因子」へ

これまで多くのジェネラリストは、「BNP(またはNT-proBNP)がカットオフを超えたら循環器へ送る」という単一の数字で紹介を判断してきました。新しい知見は、この運用に2つの修正を迫ります。

第1の修正は、閾値の高低が「見逃し」と「過剰検査」のどちらに振れるかを意識的に選ぶことです。低い閾値(日本のJHFS 2023基準:BNP 35/NT-proBNP 125)は、前心不全を含めて広く拾い上げる設計であり、見逃しを減らします(5)。その代償として、心不全でない人への心エコーが増えます。英国の費用対効果分析が示したように、高い閾値は資源効率に優れますが、これはあくまで医療制度と下流治療の前提に依存する結論です(9)。日本では紹介基準が引き下げられている以上、ジェネラリストは「広く拾う」方針を共有しつつ、紹介先の心エコー資源を圧迫しすぎないよう、後述の初期評価で紹介の質を高めることが現実的です。

第2の、そしてより重要な修正は、ナトリウム利尿ペプチドを「単一の固定値」ではなく「患者背景で補正して読む値」として扱うことです。具体的には、以下の方向に閾値の意味を読み替えます。

  • 肥満(BMI高値)の患者:ナトリウム利尿ペプチドは見かけ上低く出ます。BMI 35以上では同じリスクに対応する値が35未満の約3分の1という報告を踏まえると(10)、「カットオフをわずかに下回るから心不全は否定的」と即断してはなりません。症状が説明できない肥満患者では、値が境界域でも紹介・精査を検討します。

  • 心房細動・慢性腎臓病の患者:これらは逆にナトリウム利尿ペプチドを高くします(8)。値が高いからといって即座に心不全と決めつけず、心房細動や腎機能低下という交絡を念頭に置きます。

  • 高齢者:年齢とともにナトリウム利尿ペプチドは上昇し、一方でスコアの感度は低下します(16)。高齢者では「値が高い」ことの特異度が下がるため、症状と身体所見を併せて総合的に判断します。

なお、これらの補正は「紹介するかどうか」を一律に変えるものではなく、「境界域の値をどちらに倒すか」という迷いの場面で効いてきます。明らかに高値で症状もある患者は従来どおり紹介し、明らかに低値で症状も乏しい患者は経過観察でよいでしょう。判断が割れるのは中間域であり、そこでこそ体格・併存症・年齢という修飾因子が決め手になります。「肥満があるなら低めの値でも重く見る」「心房細動や腎機能低下があるなら高めの値を割り引く」という読み替えの感覚を持つことが、紹介の質を左右します。

従来は「BNPの値があれば紹介の可否は決まる」と考えられてきましたが、これからは「BNPの値+BMI・心房細動・腎機能・年齢」をセットで読むことが、紹介トリガーの新しい標準になります。紹介基準そのものが消えるわけではありませんが、その解釈の精度を一段上げる必要があります。

3-2. 紹介前の初期評価の更新:何を添えて送るか

紹介トリガーが「閾値+修飾因子」へ変わると、紹介前にジェネラリストが整えるべき情報も変わります。専門医が心エコーの予約枠を効率的に使い、適切な患者を優先するためには、紹介状に次の要素が揃っていることが望まれます。

  • 症状の質と経過:労作時呼吸困難の程度(どのくらいの労作で出るか)、起座呼吸・発作性夜間呼吸困難の有無、むくみや体重増加の経過。HFpEFは「原因不明の労作時息切れ」として現れやすいため、その性状を具体的に記載します(6)。

  • ナトリウム利尿ペプチド値と背景情報:BNP/NT-proBNPの絶対値だけでなく、BMI、心房細動の有無、推算糸球体濾過量(eGFR)を併記します。これにより専門医は「この値を背景込みでどう解釈すべきか」を判断できます。前述の通り、肥満では低めに、心房細動・腎機能低下では高めに出るためです(8,10)。

  • 基本的な初期検査:心電図(心房細動・左室肥大・虚血性変化の有無)、胸部X線、血算・腎機能・電解質。これらは心不全の評価と鑑別の出発点です。

  • 事前確率スコアの活用:H2FPEFスコアなど、ジェネラリストでも算出できる事前確率の指標を添えると、紹介の優先度づけに役立ちます。ただしスコアは「除外」には不向きで、特に肥満・高齢では偽陰性が出やすいことを踏まえ、低スコアでも症状が強ければ紹介を見送らない姿勢が必要です(7,16)。

特に紹介状で価値が高いのは、ナトリウム利尿ペプチドの絶対値に背景情報を添えることです。たとえば「NT-proBNP 130 pg/mL、BMI 32、心房細動なし、eGFR 70」という情報があれば、専門医は「肥満を考えると、この値は見かけより重い意味を持つ」と読めます。逆に「NT-proBNP 600 pg/mL、心房細動あり、eGFR 35」であれば、「値の高さは心房細動と腎機能低下の寄与が大きいかもしれない」と割り引いて解釈できます。同じ数字でも、背景を添えるかどうかで専門医の受け取り方は変わります。数字に文脈を付けることが、紹介の質を最も効率的に高めます。

従来は「BNPが高い」という一点で紹介状を書けば十分とされがちでしたが、今は「値+体格+併存症+初期検査+症状の質」をひとまとまりで送ることが、過剰検査を抑えつつ見逃しを防ぐ紹介の質を担保します。これは紹介量を増やさずに紹介の精度を上げる、現実的な落としどころです。

3-3. 逆紹介後の管理への影響:確定後に何が変わるか

紹介の精度が問われるようになった最大の理由は、心不全(とりわけHFpEF)が「診断しても打つ手が乏しい病態」から「診断すれば有効な治療がある病態」へ変わったことです。これは逆紹介後のジェネラリストの役割を大きく変えます。

専門医がHFpEFと確定し、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬、必要に応じてARNIやミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を導入したあと、その継続管理の多くはジェネラリストに戻ってきます(13,14,15)。ここで注意すべき点は次の通りです。

  • SGLT2阻害薬の導入後管理:日本ではSGLT2阻害薬は心不全に対して保険適用があり、導入の障壁は小さくなっています。逆紹介後は、脱水・尿路感染・まれな正常血糖ケトアシドーシスに注意しつつ、シックデイの休薬指導を継続します。実臨床のデータでも、駆出率や糖尿病の有無を問わず幅広い心不全患者で使われるようになっています(21)。

  • GLP-1受容体作動薬を併用する患者:肥満を伴うHFpEFでGLP-1受容体作動薬が用いられる場合、消化器症状や体重・血糖の変化をフォローします。減量に伴ってナトリウム利尿ペプチドや症状が改善するため、フォロー指標の解釈も更新が必要です。

  • モニタリング項目とフォロー間隔:腎機能・電解質・血圧・体重・症状を定期的に確認します。逆紹介後のナトリウム利尿ペプチドは、治療効果の判定にも使えますが、肥満や腎機能で値が動くことを念頭に「絶対値の変化」を文脈込みで読みます。

  • 再紹介のタイミング:症状の増悪、体重の急増、新規の心房細動、腎機能の悪化などがあれば、早めに専門医へ差し戻します。

逆紹介後にもう一つ重要なのは、患者教育の継続です。HFpEFは「心臓のポンプ機能は保たれているのに心不全」という、患者にとって直感に反する病態です。「駆出率は正常ですよ」という説明だけが独り歩きすると、患者が病気の重みを過小評価し、服薬や減塩・体重管理が緩むことがあります。専門医が始めた治療の意味を、かかりつけの立場でかみ砕いて伝え続けることが、再増悪の予防につながります。とりわけ肥満を伴うHFpEFでは、減量そのものが治療の柱になりうるため、生活面の支援はジェネラリストの重要な役割です。

つまり、紹介の入り口(3-1)で精度を上げ、初期評価(3-2)で質の高い情報を添え、逆紹介後(3-3)で新しい治療を確実に継続・モニターする ― この一連の流れ全体が、ナトリウム利尿ペプチドの閾値をめぐる知見の更新によって書き換えられています。閾値はゴールではなく、連携の質を測る一つの入り口に過ぎません。


4. 今後の展望:専門領域の次の動きと連携への示唆

ナトリウム利尿ペプチドの紹介閾値は、これから「一律の固定値」から「患者背景で補正する個別化された値」へと、緩やかに移行していくと考えられます。肥満・心房細動・腎機能・年齢に応じた補正の概念実証はすでに始まっており(10,11)、将来的にはBMIや併存症を入力すると補正後の解釈を返す支援ツールが、電子カルテに組み込まれる可能性があります。

ジェネラリストとして注目すべきは、第1に各学会が紹介基準をどう更新するか、第2にHFpEFに対する薬物療法のエビデンスがどこまで広がるかです。GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の適応が拡大すれば、「早期に拾い上げる」価値はさらに高まり、紹介閾値を下げる圧力が強まります(13,14)。一方で、過剰検査と医療費の問題は残り続けます。

次にこの領域のアップデートを読むときは、「紹介閾値が患者背景でどう補正されるようになったか」と「HFpEFの治療適応がどこまで広がったか」の2点を確認してください。この2つが、ジェネラリストの紹介行動を次に変える分岐点になります。


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終わりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
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本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。

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