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2026年5月19日詳解③:薬剤師主導の臨床的薬剤レビューは過剰治療を減らせるのか?

皆様
本記事に関心を持っていただきありがとうございます。
2026年5月19日ーポリファーマシーに対する減薬の技法の詳解③:薬剤師主導の臨床的薬剤レビューは過剰治療を減らせるのか?についてです。


Executive Summary

Already Known(従来の理解)

薬剤師主導の臨床的薬剤レビュー(Clinical Medication Review;CMR)はNHSを始め、欧州各国でポリファーマシー対策の中核施策として制度化されています。日本でも2018年診療報酬改定で「薬剤総合評価調整加算」「服薬情報等提供料」が整備され、薬剤師と医師の連携によるCMRが推進されてきました。心血管薬・糖尿病薬の「目標を下回る」過剰治療患者については、減薬の臨床的妥当性が明確で、薬剤師主導CMRはこのカテゴリーで最大効果が期待される領域とされてきました。

What's New(この知見が加えたこと)

Abouらが2025年に発表したLeMON(Less Medicines in Older Patients in the Netherlands)クラスター無作為化試験は、この期待を裏切りました(1)。オランダの地域薬剤師20名・70歳以上の「治療目標を下回る」患者140名(SBP<140 mmHgまたはHbA1c<54 mmol/molで降圧/糖尿病薬服用)を対象に、薬剤師に減薬重視CMRトレーニングを提供した結果、3か月後の心血管/糖尿病薬中止率は介入群32% vs 対照群26%(OR 1.4、95%CI 0.65-2.82、p=0.413)と統計的有意差を達成できませんでした。患者・薬剤師の質的評価(2026年フォローアップ研究)では満足度は高いものの、専門医由来処方への介入困難・症状なき患者への説得困難・施設間データ共有不在の3点が阻害要因として浮上しています(2)。

So What(だから何が変わるか)

「過剰治療の患者なら薬剤師主導CMRで減薬が進むはず」という素朴な期待は、null resultにより無効化されました。減薬の障壁は薬剤師の知識・技能より上位にあり、医師の決定権・患者の不安・専門医処方への介入閾値・組織的インセンティブ不在が階層的に作動します。日本の薬剤師主導CMRも同じ壁に直面します。本レポートはLeMONのnull resultをエビデンスとして読み解き、確信度を再校正し、CMR実装の構造的限界を直視した次の手を描きます。


1. テーマの位置づけと意義

null result——統計的有意差が出なかった試験結果——は、しばしば「失敗試験」として扱われ、ポジティブ試験の影に隠れがちです。しかし、過剰治療の患者という減薬が最も妥当な対象群でCMRが効果を示さなかったLeMON試験のnull resultは、減薬実装研究の方向性を再校正する重要な情報です(1)。

問題は明白です。臨床的に「減らせる薬剤」が見えていても、それを「実際に減らす」までには階層的障壁があります。LeMON試験は薬剤師の能力向上が必要条件ではあっても十分条件ではないこと、医師・患者・組織・制度の各レイヤーで独立した障壁が積み重なることを示しました(1,2)。

本レポートは、エビデンスの読み替え(null resultをどう読むか)、類似構造への外挿(同じ階層問題が他領域にも当てはまるか)、確信度の再校正(CMR推進への確信度をどう調整すべきか)の3軸で、日本のプライマリ・ケアでの実装戦略を再構築します。減薬研究は「介入の有効性」から「実装の障壁」へ問いを移すべき時期に来ています(3)。


2. 論文の深掘り分析

2-1. 従来の標準的理解

薬剤師主導CMRは1990年代の英国NHSポリファーマシー対策を起点に、欧州・北米・オーストラリアで制度化されてきました。Dillsらが2018年に発表した58試験のシステマティックレビューは、薬剤師主導の患者教育的介入と患者個別の薬剤推奨が最も成功率が高い介入要素であると結論しました(3)。心血管薬(抗高血圧薬・利尿薬・硝酸薬)が最も減薬しやすいクラスとされた一方、向精神薬とプロトンポンプ阻害薬は最も介入抵抗性が高い領域と位置づけられました。

過剰治療の患者層で減薬が妥当であることは、OPTIMISE試験で実証されました。Sheppardら2020年の非劣性RCTは、80歳以上569名(SBP<150 mmHg、降圧薬2剤以上服用)を対象に1剤減量vs通常ケアを比較し、12週時点でSBP<150 mmHg達成率は介入群86.4% vs 対照群87.7%(調整RR 0.98)、非劣性が証明されました(4)。Sheppardら2021年の探索的解析では、Ca拮抗薬の減量はSBP上昇と関連したのに対し、β遮断薬の低用量除去は血圧変化なしと、薬剤クラスにより減薬の影響が異なることが示されました(5)。Alsubaieiらの2025年システマティックレビュー・メタ解析は4試験2,173名を統合し、降圧薬減薬は全死亡(RR 1.02)・心血管死(RR 1.11)・全入院(RR 0.95)・MACE(RR 1.09)・転倒(RR 1.00)のいずれも対照群と有意差なしで、「安全に実施可能」と結論しています(6)。Passeyらの2026年ナラティブレビューは、高齢者降圧療法は「厳格な治療目標」から「個別化マネジメント」へパラダイムが移行しており、step-care management(漸増・モニタリング・必要時減薬)と減薬が中核的戦略であると整理しました(7)。

これらの臨床的根拠を背景に、薬剤師主導CMRは「過剰治療の患者で減薬を促進する」介入として制度化されました。オランダ・英国・カナダ・オーストラリアでは、地域薬剤師による定期CMRが法令で義務化または保険償還の対象になっています。

日本でも同様の制度化が進みました。2018年診療報酬改定で「薬剤総合評価調整加算」「服薬情報等提供料」が新設され、6剤以上服用患者の薬剤師レビューと医師への情報提供が点数化されました(8)。2024年6月、厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」は「病院における高齢者のポリファーマシー対策」「地域における高齢者のポリファーマシー対策」の改訂版を取りまとめ、薬剤師・医師連携のCMRプロセスを明示化しました(8)。2025年6月の日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」も多職種連携と薬剤レビューを重点に置きました(9)。2025年8月発刊の日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、75歳以上の高齢者で「収縮期血圧<120 mmHgでの降圧薬減量考慮」が明示され、過剰治療の減薬対象が明確化されました(10)。糖尿病領域でも米国糖尿病協会(ADA)「Standards of Care in Diabetes 2025」第13章「Older Adults」が低血糖リスクと併存疾患を組み合わせたHbA1c目標個別化を推奨しています(21)。Matosらの2026年総説は減薬の概念整理を行い、「害を減らし、ケアを高める」という臨床哲学を明示しました(22)。Romaらの2026年研究は、退院時PIM保有率がSTOPP v3で73%、Beers 2023で56.6%、PRISCUS 2.0で55.6%と、判定ツールにより検出率が大きく異なることを示し、「過剰治療」の閾値定義自体が動的であることを実証しました(24)。

ここまでが「薬剤師主導CMRは過剰治療の患者で減薬を進められるはず」という制度的・臨床的前提です。LeMON試験はこの前提を実証データで検証しました。

2-2. この知見が付け加えたこと

Abouらは2025年に発表したLeMON試験で、20名の地域薬剤師を介入群(減薬重視CMRトレーニング)と対照群に1:1で割り付け、各薬剤師が「治療目標を下回る」70歳以上患者10名ずつをリクルートしました(1)。包含基準はSBP<140 mmHgで降圧薬服用、またはHbA1c<54 mmol/mol(約7.1%)で糖尿病薬服用と厳格に「過剰治療」を定義しました。対象は140名(介入71名、対照69名)、フォローアップはCMR後4週(T1)と3か月(T2)。介入は薬剤師トレーニング・標準化CMRワークフロー・医師との協働強化を含む複合介入です。

主要評価項目は「3か月後に1剤以上の心血管/糖尿病薬が中止された患者の割合」。結果は介入群32%(23/71名)vs 対照群26%(18/69名)、OR 1.4(95%CI 0.65-2.82、p=0.413)でした(1)。「いずれかの薬剤」の中止では介入群51% vs 対照群36%(OR 1.8、95%CI 0.92-3.56、p=0.085)と差は広がりますが、これも有意水準には届きません。

著者らはこの結果を「介入は薬剤師の意識と能力を向上させ、減薬指向のCMRをより成功裏に実施できるようになった」と前向きに記述しましたが、統計的にはnull resultです(1)。

Abouらは2026年に、LeMON試験参加者の質的評価を発表しました(2)。患者62名(44%)の質問紙回答(患者経験測定指標および薬剤治療満足度質問票)では満足度は高く、薬剤師の推奨を評価し、薬剤に関する懸念が扱われたと感じていました。一方、薬剤師への半構造化インタビュー(拡張ノーマライゼーション・プロセス理論枠組み)では3つの主要障壁が浮上しました。

第一に、症状なき患者への説得困難。過剰治療といっても患者は「困っていない」ため、減薬の動機づけが弱い。第二に、専門医由来処方への介入閾値。降圧薬・糖尿病薬は専門医が始めた処方が多く、地域薬剤師が中止を提案することは「専門医の判断への干渉」として躊躇される。第三に、施設間データ共有の不在。地域薬剤師・家庭医・専門医の処方履歴・検査結果・治療目標が統合されておらず、CMR時に判断材料が断片的でした。

LeMON試験の補強となる証拠も2026年に複数発表されました。Tesfayeらが2026年に発表した薬剤師主導減薬介入のシステマティックレビュー・メタ解析(7試験3,607名)は、総薬剤数の平均差-0.55剤(95%CI -2.17 to 1.07、I²=83.1%)、有効減薬達成のリスク比1.85(95%CI 0.63-5.45、I²=73.5%)と、いずれも統計的有意差に届きませんでした(11)。Christopherらが2026年に発表したプライマリ・ケアでの減薬18 RCTのメタ解析では、転倒減少(OR 0.67)・入院減少(RR 1.40)が観察された一方、薬剤数減少は平均差0.17剤と臨床的に小さな効果でした(12)。Zhangらの2025年経済評価レビュー57試験では、44試験が経済的便益を支持しましたが、効果の方向性は介入設計・セッティングにより一貫していません(13)。Ucarerらが2026年に発表した入院機会QUMレビュー21試験では、構造化薬剤レビューと薬剤師統合があれば改善する一方、断片的コミュニケーション・不十分な記録・限られた資源が継続的なPIM残存を生むことが示されました(14)。

国際的にもAnlayらが2025年に発表したベルギーのナーシングホーム入所者244,865名を対象とした中断時系列分析(ARIMAモデル)では、STOPPFrail・PPI・抗精神病薬の国際減薬ガイドライン公表が減薬率に統計的影響を与えないことが示され、ガイドラインの存在と実装の乖離が定量化されました(20)。日本のIeらが2024年に発表した重要RCTも同じパターンを示しました(15)。川崎市の地域病院8内科病棟で65歳以上・5剤以上服用の入院患者442名を対象に、STOPP/START criteria基盤の多職種チーム介入vs通常ケア(薬剤照合含む)を比較しました。退院時PIM保有率は介入群26.2% vs 対照群33.0%(OR 0.56、95%CI 0.33-0.94、p=0.03)、12か月後でも介入群26.7% vs 対照群37.4%(OR 0.45、95%CI 0.25-0.80、p=0.007)と減薬は成功しました。しかし、12か月複合エンドポイント(死亡・救急受診・再入院)は介入群49.3% vs 対照群51.5%(HR 0.98、95%CI 0.75-1.27)で有意差なし——典型的なnull resultです。

「中止率は改善するが硬性アウトカムは改善しない」という構造は、LeMON試験(1)・Tesfayeら2026 SR(11)・Ieら2024(15)で繰り返し観察されています。減薬介入は「介入の標的(薬剤数)」では効果を示せても、「臨床的に意味のあるアウトカム(生存・QOL・入院)」には届きません。

進行中の試験も次の決着を狙っています。Carrらが2026年にプロトコルとしてOPTIMISE2試験を公開しました(16)。OPTIMISE2は3,014名の75歳以上・降圧薬2剤以上服用・収縮期血圧コントロール下・転倒リスクありの患者を対象とした非劣性RCTで、step-down減薬戦略vs通常ケアを比較し、1年以内の緊急入院・死亡複合エンドポイントを主要評価項目とします。LeMONより検出力が大きく、硬性アウトカムを直接評価する設計です。糖尿病領域ではDominguezらが2026年に退院後糖尿病管理の総説を発表し、ポリファーマシー・フレイル・低血糖リスクを統合した個別化が必要との臨床推奨を提示しました(17)。

2-3. 批判的吟味:研究デザインと解釈の妥当性

LeMON試験のnull resultは、いくつかの方法論的留保のもとで解釈する必要があります。

第一に、統計的検出力の不足です。サンプルサイズ140名は、3か月の中止率を介入群50% vs 対照群30%という大きな効果差を検出する設定で計算されており、実際に観察された6%(32% vs 26%)の差を検出するには明らかに不足でした(1)。「効果がなかった」のではなく「効果があったとしても検出できなかった」可能性が残ります。OPTIMISE2が3,014名を募集する設計(16)は、この検出力問題への直接の対応です。

第二に、フォローアップ期間の短さ。3か月という観察期間では、減薬による血圧・血糖変動の長期影響、副作用緩和、QOL改善が観察しきれません。Ieらの日本RCTが12か月複合エンドポイントで有意差なしという結果を示したように(15)、より長期の評価が必要です。

第三に、比較対照の質。LeMON試験の対照群26%の中止率は、通常ケアとしては高い水準です。これは「対照群でも薬剤師レビューは行われている」という背景を示唆し、介入の上乗せ効果を検出しにくくする要因です。Ucarerらの2026年QUMレビューが指摘する「通常ケアの中で構造化レビューが既に進行している施設」では、追加介入の効果検出が困難になります(14)。

第四に、介入の「強度」。LeMON試験の介入は「トレーニング+協働強化」ですが、薬剤師が患者を直接訪問する頻度・医師との対面会議の頻度・専門医との連携プロトコルなどの「実装の強度」は試験間で大きくばらつきます(11)。前回レポートで論じたYinら2026の向精神薬減薬メタ解析が示したように、介入の忠実度が効果を分けます。LeMONの強度が不十分だった可能性があります。

第五に、外挿性。オランダの地域薬剤師制度は、年次CMRが義務化された世界で最も整備された制度の一つです(2)。日本の薬剤師主導CMRは2018年診療報酬改定以降に整備が進んでいますが、オランダのような義務化はされておらず、CMR実施件数・薬剤師の時間配分・医師との対面協働密度は大きく異なります。LeMONのnull resultが日本でどう再現されるかは別途検証が必要です。

第六に、「過剰治療」の定義の問題。LeMONは「SBP<140 mmHgまたはHbA1c<54 mmol/mol」を過剰治療の代理指標としましたが、これは2025年改訂の日本高血圧学会GLが推奨するSBP<130/80 mmHgへの統一とは整合しません(10)。むしろ、現在の日本のGLでは「過剰治療」の閾値はSBP<120 mmHgでの減量考慮(カテゴリー2・3)と、より厳格に設定されています(10)。LeMONの過剰治療定義を日本の現行GLで適用すると、対象患者層が大きく異なり、減薬の臨床妥当性も変わります。

第七に、薬剤師主導CMRの「効果モデル」自体の限界。Abouら2026年の質的研究(2)が示した3障壁(症状なき患者の説得困難、専門医処方への介入閾値、データ共有不在)は、薬剤師のトレーニング強化だけでは解決しません。Breenらが2026年に発表した英国のDEPPLOY研究(フレイル高齢者の問題ポリファーマシー対策をCFIR枠組みで分析)は、減薬介入の阻害・促進要因が薬剤師個人レベルではなく、組織・制度・文化レベルで作動することを示しました(18)。

日本における実装課題も具体的です。第一に、薬剤師主導CMRの加算(薬剤総合評価調整加算など)は実施件数の制限と評価指標の不十分性により、現場での運用は限定的です(8)。第二に、専門医処方への介入文化は日本では特に弱く、家庭医・地域薬剤師が降圧薬・糖尿病薬の中止を発議することは制度的にも文化的にも困難です。第三に、施設間データ共有の不在はLeMONと同じ障壁を生みます。マイナンバーカード保険証連携・地域医療情報連携プラットフォームの整備は進んでいますが、CMR実施時に医師の検査結果・治療目標・処方意図にアクセスする統合システムは未確立です。第四に、日本高血圧学会2025GLが導入した「全年齢で130/80 mmHg未満」という新統一目標(10)は、減薬議論の対象患者層を変える可能性があり、CMR実装は再設計が必要です。

これらを踏まえると、LeMON試験のnull resultは「薬剤師主導CMRは効果がない」と単純結論するのではなく、「現行の薬剤師主導CMR設計では、過剰治療患者でも減薬を進めるには不十分」という条件付き結論として受け止めるべきです。次のセクションでは、null resultをどう実践に活かすかを論じます。


3. 臨床的思考の深化と再構築

3-1. エビデンスの読み替え

LeMON試験のnull result(1)は、過去十数年の薬剤師主導CMR推進の根拠を完全に否定するものではないものの、根拠の質と適用範囲を再評価することを求めます。

第一の読み替えは、「null resultは『無効』とイコールではない」という基本原則の再確認です。p=0.413という結果は、「介入と対照に差がないことを証明した」のではなく、「観察されたデータでは差を検出できなかった」という限定的結論です。検出力不足の試験では、効果が中等度に存在しても見えません。Tesfayeらの2026年SR/MA(11)が同様にI²=83%の高い異質性下で有意差を達成できなかった事実は、現行のCMR効果モデルが集団平均効果として「中等度以下」であることを示唆します。

第二の読み替えは、「何を効果指標とするか」という根本的問題です。LeMON試験のプライマリエンドポイントは「3か月後の心血管/糖尿病薬中止率」で、これは介入の直接アウトカム(proximal outcome)です。一方、Ieら日本RCT(15)・Christopherらメタ解析(12)・Alsubaieiら降圧薬減薬SR(6)が示したように、減薬の臨床的価値は「中止が達成できたか」よりも「臨床アウトカム(生存・転倒・入院・QOL)が改善したか」で評価されるべきです。両者は別の問いです。LeMONはproximal outcomeでnull、Ieら日本RCTはproximal outcomeで有意差・distal outcomeでnullと、減薬研究の「成功」をどう定義するかが研究結果の解釈を分けます。

第三の読み替えは、「サブグループ効果の重要性」です。LeMON試験では「いずれかの薬剤」中止率は介入群51% vs 対照群36%(p=0.085)と差が大きく、心血管/糖尿病薬以外も含めると介入効果が見えやすくなりました(1)。これは「降圧薬・糖尿病薬は減薬の障壁が特に高い」可能性を示唆します。Abouら2026年質的研究が示した「専門医処方への介入閾値」はこの仮説と整合的です(2)。臨床医がCMRを設計する際は、「すべての薬剤」を平等に扱うのではなく、減薬の障壁が低い薬剤クラス(向精神薬・睡眠薬・PPI長期使用など)と高い薬剤クラス(降圧薬・糖尿病薬・抗血栓薬など)を分けてアプローチを設計すべきです。

第四の読み替えは、「過剰治療の定義の動的性質」です。LeMON試験当時(2020-2022年)のオランダGLと、2025年改訂の日本高血圧学会GL(10)では「過剰治療」の閾値が大きく異なります。減薬研究の結果を臨床に応用するには、その研究の「過剰治療」定義が現行GLと整合するかを確認する必要があります。OPTIMISE2試験(16)は2026年プロトコルでこの問題に対応し、転倒リスク・フレイル評価を組み込んだ階層的判定を採用しています。

3-2. 類似構造への外挿

LeMON試験の「null result+階層的障壁」という構造は、他の領域へどこまで外挿可能でしょうか。

外挿0:高複雑性患者層(透析・末期腎不全)での減薬

Zidanら2026年に報告された維持血液透析患者54名のパイロットRCTは、多職種チーム介入で6か月後PIMが対照群より4倍少なくなることを示しました(25)。透析という「複雑性が極端に高い」患者層でこそ、構造化された複合介入が大きな効果を生むパラドックスです。LeMONの「過剰治療の患者で効果が見えない」という結果と対照的で、減薬介入の効果は患者の複雑性とも交互作用する可能性を示唆します。

外挿1:抗血栓薬の終末期減薬

予後の限られた高齢者で抗凝固薬・抗血小板薬を継続するか中止するかは、出血リスク・血栓リスク・QOLのバランスで判断されます。Passeyらが2026年に整理した個別化降圧療法の枠組み(7)は、抗血栓減薬にも応用可能です。ただし、抗血栓減薬では薬剤師主導CMRの効果はさらに限定的でしょう。専門医(循環器・脳神経)への介入閾値が降圧薬よりさらに高いためです。LeMONが示した「専門医処方への介入困難」は抗血栓領域でより顕著に作動します。

外挿2:PPI長期使用の減薬

長期PPI使用は骨折・低Mg血症・感染症リスクと関連し、減薬は推奨されています。Dillsら2018年SR(3)はPPIを「介入抵抗性が最も高い」薬剤としました。理由は症状再燃の懸念と、患者の心理的依存です。PPI減薬では「症状なき患者の説得困難」という壁がLeMONより強く作動します。一方、PPI処方は主に家庭医・消化器内科で行われ、専門医処方への介入閾値はLeMONより低い場合があります。構造は類似していても、各要因の寄与度は薬剤クラスにより異なります。

外挿3:抗精神病薬の減薬

長期療養施設での抗精神病薬使用は、認知症患者のBPSDマネジメントとして広範に行われています。前回レポートで論じたYinら2026のメタ解析(19)はOR 0.91(地域RCT全体)、OR 0.61(高忠実度)と条件付き効果を示しました。LeMONの「null result+階層的障壁」モデルをここに当てはめると、抗精神病薬減薬の障壁は「専門医処方への介入閾値」(精神科医・神経内科医)と「症状再燃の懸念」(介護スタッフの不安)が階層的に作動します。

外挿4:オピオイドの慢性減薬

慢性疼痛のオピオイド減薬は米国で精力的に研究されてきました。CDC 2022改訂GLは強制減薬の害を警告し、患者中心の段階的減量を推奨しました。LeMONの構造をここに当てはめると、「症状なき患者の説得困難」は逆に「症状ありの患者の説得困難」に転化します。痛みという主観的症状は減薬を進める動機よりも、継続を続ける動機を生むからです。階層的障壁の中身は薬剤クラスにより質的に異なります。

外挿の限界

これらの外挿は「階層的障壁」という構造的共通性を根拠としますが、各領域の固有性も無視できません。LeMON試験の貢献は具体的効果量の外挿ではなく、「現行の薬剤師主導CMR設計には、薬剤クラスごとに別の壁がある」という認識を提供する点です。減薬研究は「介入vs対照」の二群比較から、「障壁の種類×介入の質×セッティング」の多次元解析へ進化する必要があります。Breenら2026のDEPPLOY研究(18)がCFIR枠組みで実施した質的解析は、この方向性の先駆けです。

3-3. 確信度の再校正

LeMON試験(1)・Tesfayeら2026年SR/MA(11)・Christopherら2026年プライマリ・ケア減薬SR(12)・Ieら2024年日本RCT(15)を踏まえ、臨床医・薬剤師は「薬剤師主導CMRは減薬を進める」という確信度をどう調整すべきでしょうか。

第一に、「確信度は無条件に下がるのではなく、条件付きで再評価される」点を直視します。薬剤師主導CMRは患者満足度・薬剤師の意識向上には確実に効果があります(2,14)。しかし、「過剰治療患者で減薬を進める」という具体的目的に対しては、現行設計では中等度以下の効果しか期待できません。確信度は「CMRに価値がある」と「CMRが減薬を進める」を分離して評価すべきです。

第二に、「個別患者レベルでの効果予測」が集団効果より重要です。LeMONの介入群32%中止率は集団平均で、個別患者では「症状なし」「専門医処方」「フレイルなし」「家族の懸念」など、減薬障壁の高さが大きく異なります。臨床医は集団平均ではなく、「Aさんで減薬がどこまで進むか」を個別予測する解像度を持つべきです。Parodi Lópezらが2026年に報告したスウェーデン高齢者調査では、78%が医師の提案があれば減薬に同意する一方、自発的減薬希望は27%に留まり、患者の「同意」と「希望」のあいだに無視できないギャップがあることが示されました(23)。「医師が提案するか否か」が患者の減薬意思決定の臨界点であり、CMRはこの臨界点を動かす介入として位置づけ直すべきです。

第三に、「proximal outcomeとdistal outcomeを分離して評価」する習慣が役立ちます。Ieら日本RCTが示した「PIM減少は達成、複合エンドポイントは差なし」(15)という結果は、減薬の中間的成功と最終的臨床利益の乖離を象徴します。CMRの成功を語る際、「薬剤数が減った」だけでなく「患者の生活が変わったか」を追跡する評価軸が必要です。

第四に、「減薬の不成功は失敗ではない」という制度的・文化的承認が必要です。LeMON試験(1)・OPTIMISE試験(4)・Ieら日本RCT(15)のいずれも、減薬達成率は決して100%ではありません。「減薬を試行し、再開する」は失敗ではなく共有意思決定の結果として認識すべきです。日本の診療報酬体系で「中止して再開」が評価対象になっていない現状は、減薬の試行を阻害しています(8)。

第五に、「階層的障壁への階層的介入」を組み合わせます。薬剤師個人の知識向上(LeMONがすでに実施)だけでなく、(a)医師-薬剤師協働プロトコルの明文化、(b)専門医-家庭医-薬剤師の三者ミーティング(年1-2回でも可)、(c)施設間データ共有プラットフォームの利用、(d)患者向け教育資料の整備、(e)減薬を許容する診療報酬設計、の5層を並行して進めなければ、LeMONと同じnull resultを繰り返します。Breenら2026のDEPPLOY研究(18)が示すCFIR枠組みは、この階層的設計の方法論を提供します。

第六に、「OPTIMISE2試験(16)の結果待ち」が次の決定的ステップです。OPTIMISE2は3,014名・1年フォローアップ・硬性アウトカム(緊急入院・死亡複合)という、LeMONの限界をすべて克服する設計です。結果が出るまで、現行のCMR推進は「未確定ながら継続」の状態で、「拡大投資は慎重に」と確信度を中庸に保つのが妥当です。

確信度の再校正は、エビデンスを軽視することではなく、エビデンスの解像度に合わせて判断の解像度を上げる作業です。LeMON試験のnull resultは、CMR推進の方向性を否定するのではなく、その実装設計を精緻化する契機です。


4. 今後の展望:何がわかれば決着するか

3つの研究課題が次の決着の鍵を握ります。第一に、OPTIMISE2試験(16)の結果——3,014名・1年・硬性アウトカム——が、降圧薬減薬の非劣性を確定するかどうか。確定すれば、過剰治療患者での減薬は臨床GLに明確な根拠を持って組み込めます。第二に、日本のNDB・MID-NETを用いた薬剤師主導CMR効果の大規模実装研究です。Ieら2024年RCT(15)が単一施設で示したPIM減少効果が、全国規模で再現するか、診療報酬加算の効果と関連するかを検証する必要があります。第三に、「階層的障壁」の各層に対する介入要素の分解検証です。Breenら2026のDEPPLOY研究(18)が示したCFIR枠組みを基に、(a)医師-薬剤師協働、(b)施設間データ共有、(c)患者教育、(d)診療報酬設計のうち、どの組み合わせが減薬実装を最も効率的に進めるかを階層的試験デザインで検証する必要があります。LeMONのnull resultが残した最大の遺産は、「介入の有無」から「介入の質×階層構造」への研究の問いの移行です。


5. References

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終わりに

最後までお読みいただき、ありがとうございました。本記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。今後とも良い記事を配信していけるよう努めて参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
なお、以下が本記事の元ページへのリンクです。

本記事は生成AI Claudeで作成したものを、一部加筆修正して公開しています。

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