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qutakuta
【掌編小説】黒猫
その日の僕はひどく疲れていた。
仕事で予想外のトラブルがあり、会社を出たときには22時をすぎていた。家に向かう電車の中で「今から帰ります」というLINEを妻に送ったが、返信はなかった。
彼女がすぐに返信をよこさないことは珍しいことだったので、一瞬、どうしたのかなと思った。しかし、なんといっても、いまは22時をすぎているのだ。お風呂にでも入っているか、あるいはもう眠っているのかもしれない。
家に到着し、玄関の鍵を開けた瞬間、僕はあっと驚くような光景を目の当たりにすることとなった。
そこにいたのは、一匹の美しい黒猫だった。
「おかえりなさい、遅かったのね」と、黒猫は言った。
僕が驚いたのは猫が人間の言葉を話したからではない。黒猫の声が、妻の声そっくりだったからだ。
「どうしたの、何でおどろいているの?」妻の声をした黒猫は不思議そうに言う。「わたしはもともと、こういうものなのよ」と。
もともと、こういうもの? こういうものって何だ?
彼女のあまりにも普通の声に、ああ、そういわれてみれば、そんなものかもしれないなと思った。何故なら、彼女の声はあまりにも黒猫によくマッチしていた。彼女の言うとおり、もともと彼女はこういう姿だったのかもしれない。
黒猫は、すっと僕のひざの上に乗っかってきた。
「今夜は、このままでいさせて」そう言うやいなや、彼女は僕のひざの上で、健やかな寝息を立て始めた。
まあいいや。だって、すべてがあまりにも自然だもの。なにかを深く考えるには、僕はあまりにも疲れている。
僕もそのまま猫を起こさないようにそっと床に寝転がり、深い眠りに落ちていった。
