売茶翁と若冲展ー自由を貫いた人たちに惹かれてー
売茶翁と若冲展、自由を貫いた人たちに惹かれて
大好きな若冲の展覧会が開催されていると知り、早速出かけてみた。
売茶翁(ばいさおう)の穏やかな笑みをたたえた肖像が多数展示されていた。
その柔らかで優しく自由な風貌に
自分の道を歩んだ人の静かな強さが
にじんでいた。
売茶翁とは、煎茶道の租と言われる人物だ。
彼は、佐賀の高僧としての地位を持ちながら
その身分を捨て
61歳で京都の町で“煎茶売り”として生きることを選んだ。
身分制度が厳しかった江戸時代。
高僧が庶民の中に身を置くなど、
常識では考えられないことだった。
それでも彼は、
誰に媚びることもなく、権威にも背を向け、
ただ「お茶を通じて人と心を通わせたい」
と願った。
「茶は、心の交わりを生むもの」──
そう信じた人だったのだろう。
やがて、売茶翁を敬愛する人たちが
集まり始めた。
伊藤若冲、池野大雅、田能村竹田…
芸術家や文人、武士、庶民まで、
立場を超えて彼のもとに座り、
同じ湯を分かち合った。
若冲は、人生でわずか二人しか肖像を
描かなかったが、
その一人が売茶翁であり、
しかも多くの肖像画を残している。
きっと、描いても描いても描ききれないほど、
惹かれてしまったのだと思う。
若冲の他にも、たくさんの画家が
売茶翁の肖像画を描いている。
どれだけ慕われた人だったのかが
それだけでわかる。
展覧会を歩きながら、
私は売茶翁の人生に、強く心を引かれた。
自由に生き、
人を排することなく、
どんな人にも分け隔てなくお茶を差し出した。
その生き方からは
自らの信念を貫き
静かでありながら芯が強く
何かに縛られることのない
風のような自由を感じた。
彼のもとに集った人たちは、
同じような感覚を感じ取ったのだろう。
今このタイミングで売茶翁の
人生に出会い
背中をそっと押してもらったように感じた。
40歳ほど年下の若冲も、22歳で家業を継ぐも、弟に任せて絵画制作に専念し、39歳で隠居し、絵の制作に没頭した。










若冲の絵と二人の人生の両方に
触れることができ
とても充実した素敵な時間を過ごせた。
展覧会は絵に出会うだけでなく、
その人の人生を深く知ることができるのが魅力だ。
窓からたっぷり入る金色の光を感じながら、美術館から博物館への廻廊を歩く。
窓からは数々の彫刻、木々の緑とお堀が見渡せ内側から温かく幸せな気持ちになる。
美術館に行くといつも、贅沢な時間を過ごせる喜びを感じる。
アートに心で触れ、その人の人生を知り豊かな気持ちになる。
アートは心の栄養。
