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梅の香りがすると母の台所に帰りたくなる ― 母から受け継いだ初夏の手しごと

梅の匂いを吸い込んだ途端、
一瞬で子どもの頃の母の台所へ戻った私


知り合いの方から、
庭でとれた梅をいただいた。

袋いっぱいの青梅。

箱を開けた瞬間、
ふわっと立ち上がった、
青く甘い香り。

その匂いを吸い込んだ途端、
私は一瞬で、
子どもの頃の母の台所へ戻っていた。

初夏になると、
母は毎年、
梅仕事をしていた。

大きなざるに並べられた梅。

台所に響く、
コトコトという音。

甘酸っぱい香りで満ちる家。

学校から帰ると、
鍋を混ぜている母の背中があった。

あの頃の私は、
それを特別なことだと思っていなかった。

でも今、
自分が梅を煮る側になって、
ようやくわかる。

母は、
季節を家の中に迎え入れていたのだ。

梅を洗い、
ひとつずつ丁寧に拭き、
竹串でヘタを取る。


静かな作業なのに、
不思議なくらい、
気持ちが整っていく。

忙しく流れていく毎日の中で、
季節だけに集中する時間。

それは、
今の私にとって、
贅沢というより、
必要な時間なのかもしれない。

今年の梅しごと

今年は、
スパイス梅サワー、
梅味噌、
梅ジャムを作った。



氷砂糖だけではなく、
シナモン、クローブ、カルダモン、コリアンダー、黒コショウ、スターアニス、干し生姜、も入れる。

炭酸で割ったスパイス梅サワーは、
蒸し暑い日に、
身体の奥まで染み渡る味がする。

梅味噌は、
蒸した野菜にかけるだけで
ご飯がすすむ。
これからの季節のサラダに
さっぱりとした味を添えてくれる。


スパイス梅ジャムは、
焼きたてのパンやヨーグルトに添えると、朝の気持ちまで明るくなる。


枇杷ジャム、
杏ジャムも、
コトコト煮込んだ。
杏を割ってもらったり、
梅を運んでもらったり、
夫にも手伝ってもらいながら、
今年も季節を瓶に閉じ込めている。

そのほかにも、
夏みかんの皮でマーマレードを作り、
オレンジピールも仕込んだ。


鍋の中で、
果物の鮮やかな色が、
少しずつ深く変わっていく。

窓から入る風。
静かに響く煮える音。
甘くやわらかな香り。

その全部が、
「今、この季節を生きている」
と教えてくれる。

保存食は、
完成した瓶が嬉しいだけではない。

作っている時間そのものが、
心を満たしてくれる。

木べらで鍋を混ぜながら、
私はいつも、
未来の自分を思っている。

疲れて帰る日もあるだろう。
ご飯を作る元気が出ない日もあるだろう。

そんな日に、
冷蔵庫の中の梅味噌や梅サワーで作るジュースが、
きっと未来の私を助けてくれる。

保存食は、
未来の自分への、
小さな贈り物なのだと思う。

そして、
母もきっと、
そんな気持ちで作っていたのだろう。

忙しい日にも、
家族がおいしいと思えるように。

季節をちゃんと味わえるように。

子どもたちの記憶の中に、
台所の匂いが残るように。

子どもの頃、
当たり前のように食べていた保存食の中には、
母の時間と愛情が、
静かに詰まっていた。

今、
私もこうして、
季節を煮込んでいる。

けれど、
まだ母のようには作れない。

火加減や、
甘さの具合、
保存瓶を閉じるタイミング。

わからない部分は、
今でも母に聞いてみる。

すると母は、
電話の向こうで当たり前のように、
「それなら、もう少し煮たほうがいいよ」
と教えてくれる。

そんな時間まで含めて、
私は母から、
台所仕事を受け継いでいるのだと思う。

めぐる贈り物

作ったものは、
少しずつ瓶に詰めて、
いつものように、周りの人にもお裾分けしよう。

「今年の梅で作ったから」
そう言って渡す時間まで、
梅仕事の幸せなのかもしれない。

知り合いの庭で実った梅が、
私の手を通り、
また誰かの食卓へ届いていく。

季節の恵みも、
人のやさしさも、
こうやって巡っていくのだと思う。

保存食は、
「長くもたせるため」だけのものではない。

季節を愛おしみ、
暮らしを整え、
誰かを思うためのものだ。

コトコト煮込む時間の中で、
私は何度も、
暮らしに救われてきた。

そして今日もまた、
梅の香りのする台所で、
母の背中を思い出している。

母も今頃、
故郷の台所で、
梅仕事を始めているかもしれない。

遠く離れていても、
同じ季節の香りの中にいる。

そう思うだけで、
なんだか少し、
心があたたかくなる。


1.梅サワー


材料
梅 700g
氷砂糖 420g
りんご酢 500cc
シナモン 2本
クローブ 10粒
カルダモン 10粒
コリアンダー 10粒
黒コショウ 20粒
スターアニス 2個
干し生姜 4枚

作り方
1.青梅をきれいに洗いキッチンペーパーで水気を拭き取り、なり口の黒いヘタを竹串で取り除いておく。
2.青梅を一晩冷凍する。
3.アルコールなどで消毒した広口瓶に梅と氷砂糖を交互に入れ、最後にお酢を静かに注ぎ入れる。
4.スパイスを加えてしっかりフタをして、冷暗所で保存し、1日1回、ビンを軽く揺すって砂糖を溶かす。
5.砂糖が溶けきり、梅にシワが寄る1週間後頃から飲み頃になる。

楽しみ方
・できあがった梅シロップを、水か炭酸水で4〜5倍に薄めて飲みます。
・梅は取り出して、砂糖を加えて煮詰め梅ジャムにしたり、そのまま刻んでドレッシングに入れても美味しいです。


2.梅味噌

材料
梅 500g
砂糖 300g
味噌 500g

作り方
1.チャック付きポリ袋に砂糖と味噌を入れ混ぜる。
2.きれいに洗いキッチンペーパーで水気を拭き取り、なり口の黒いヘタを竹串で取り除いて、一晩冷凍していた梅を入れて合わせる。
3.梅のエキスが出てゆるくなってきたら、冷蔵庫で保管する。

楽しみ方
・ゆでたブロッコリーや、生野菜にそのままかけて。
・オリーブオイル、塩麹、酢で作ったドレッシングに加えても美味しいです。
・梅は取り出して、ミキサーにかけて梅味噌に戻してもさらに美味しくなります。
・取り出しておいた梅は、魚を煮たり、カレーやビーフシチュー、ミートソースなどに加えて煮ると深いコクが出ます。

*冷凍すると、生の梅で漬けるより漬かりが早く、発酵しにくくなります。
良い梅が手に入ったら、冷凍しておくと、今の季節以外でも作れて便利です。


3.スパイス梅ジャム

材料
・3回ゆでて水気を切った梅 400g
・グラニュー糖 160g
・カルダモン

作り方
1.梅を鍋に入れ、かぶるくらいの水を入れ、3回ゆでこぼす。
2.グラニュー糖とカルダモンを加え中火にかけ、アクを取りながら煮て、サラッとゆるめのとろみがついたらで火からおろす。
3.熱いうちに、消毒した保存容器に移し、すぐに蓋をする。

*傷んだ部分を取り除いた梅や、梅サワーに使った梅で作れます。
ゆでこぼしは梅のエグミやアクを抜き、実を柔らかくするための重要な工程です。
ゆるめで火をとめてください。
とろみがついてから火を止めると、硬くなります。

楽しみ方
・青梅でつくると酸味が際立つさわやかな仕上がりに、黄梅でつくると芳醇な香りの仕上がりになります。
・ヨーグルトやパン、クラッカーなどにかけていただきます。
・クリームチーズと合わせると、さらに美味しいです。



4.あんずジャム、枇杷ジャム

材料
あんず、(枇杷) 各400g
グラニュー糖 240g(果物の40%)
レモン汁 大さじ2

作り方
1.フルーツは水でしっかり洗い、水気をふきとる。
へたを取り、割れ目にそって切り込みを入れて半分に分け、種を取り除く。(枇杷は皮をむいてから)
2.鍋に果物とグラニュー糖、レモン汁を加え中火で熱し、沸騰したらアクを取りながら、弱火で15〜20分煮る。
3.柔らかなとろみが出たら火からおろして、消毒した保存容器に移し、すぐに蓋をする。

*酸味の強いジャムが好きなのでレモン汁は大さじ2入れましたが、ちょっと酸っぱいので、減らしてみてください。

楽しみ方
・パンやヨーグルト、スコーンにかけて。
・ホットミルクや紅茶にひとさじいれて、リラックスタイムのまろやかでやさしい飲み物に。
・ケーキやタルトの艶出しに。
・自家製ドレッシングに加えて、フルーティーなドレッシングに。
・ポークソテーや鶏のソテー用に、ジャム、バター、醤油を絡めてフルーツソースに。
・クラッカーにクリームチーズとジャム、チャービルを添えて、ワインに合うおしゃれなおつまみに。


5.オレンジマーマレード

材料
3回ゆでこぼした無農薬夏みかんの皮   
 2個分340g
グラニュー糖 136g(40%)
レモン 大さじ1

作り方
1.夏みかんの皮の内側の白い部分をなるべく除いて、3回ゆでてアクを取る。
2.ゆでた夏みかんの皮を千切りにする。
3.グラニュー糖とレモンを加え、アクをとりながら弱火で煮る。
4.柔らかなとろみが出たら火からおろして、消毒した保存容器に移し、すぐに蓋をする。

*オレンジピールにする分を少し残し、汁がなくなるまで弱火でにつめ、
クッキングシートを敷いた皿に移し
室内で乾燥させる。





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