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SHIZUOKAせかい演劇祭2026 『うなぎの回遊 Eel Migration』

初日の3本目は、舞台芸術公園 野外劇場「有度」にて。夜は冷えると聞いて防寒対策バッチリで臨んだ(配られたホッカイロにも助けられた)。雨も降らず、最高の観劇体験となりました。

本当に素晴らしい劇場。鈴木先生ありがとう…!

静岡に暮らすブラジルにルーツを持つ人々の声から生まれる物語
静岡県には、日本でもとりわけ多くのブラジルにルーツを持つ人々が暮らしている。地域に深く根を下ろしながらも、言語や教育、仕事、文化の違いによる分断や格差といった課題も抱えている。本作では、静岡で暮らすブラジルにルーツを持つ地域住民を主要キャストに迎え、静岡での生活、移住に至るまでの出来事、仕事や家族の歴史――これまで公に語られる機会の少なかった一人ひとりの人生を、舞台の中心に据える。1年以上にわたるリサーチや対話によって集められた言葉や記憶をもとに、劇作家・石神夏希が、現実と想像が交差する寓話的なフィクションを立ち上げる。

https://festival-shizuoka.jp/program/eel-migration/

初日1本目の『マライの虎』はシンガポール、2本目の『マジック・メイド』はフィリピン&スリランカ、そしてこちらはブラジル。「せかい」はあなたの隣に住んでいる。という演劇祭のテーマに、ここにきてようやく気付いた。

本作は、俳優訓練を受けていない地域住民の方々を主要キャストに迎えた舞台。だから正直申し上げればさほど期待をしていなかったのだが…もう己の不明を恥じる他ない。一人ひとりの個人史が、プレートの移動によって3000kmもの距離を旅して産卵するようになったうなぎの知られざる生態と共に語られる。100年以上に及ぶ日系ブラジル人の歴史が、18,500kmという地球半周分の途方もない距離が、舞台の上でキャストの人生としてつながって、丸ごと寓話に溶け込んで、むきだしの魂としか言いようのない何かに触れることができたと、そう感じるような時間を過ごした。

Blogに創作のプロセスもまとめられているが、地域に声をかけ、声を聞くことで作られた作品である。プロの俳優が完璧な発声/リズムを実現する演劇とは真逆のベクトルにあり、完璧さを指向する一般の舞台とは異なる。しかしだからこそ、やさしく温かで、観客も演者も一体となって心をふるわせた。今年から演劇祭のアーティスティック・ディレクターを新たに務めることとなった石神夏希氏の理念や人柄をすら感じることができたように思われ、この後の演劇祭がより楽しみになっただけでなく、来年や再来年、今後も続く演劇祭と地域コミュニティの未来にも思いを馳せた。

プレトークにてうなぎ研究者・海部 健三氏の著書を宣伝する石神さん

ということで、うなぎの話である。

海を越えて旅する「うなぎ」から、移動するいのちを見つめる
もうひとつの軸となるモチーフは、静岡県西部を代表する特産品のうなぎ。日本の食文化や産業とも深く結びついているが、近年は絶滅危惧種として国際的な議論の対象にもなっている。うなぎは一生のうちに、日本の川からマリアナ諸島付近の深海まで、約3000kmもの距離を旅して産卵する。成長の途中で雄雌が決まるという特異な性質を持ち、その生態は今もなお多くの謎に包まれ、神話や伝承にも登場する“不思議な隣人”として人類の想像力を刺激してきた。創作にあたり、出演者・スタッフは研究者や養鰻業者への取材、養殖現場や研究施設などを見学し、うなぎへの理解を深めてきた。海を越えて移動し、命をつなぐうなぎの生態は、国境や文化を越えて生きる人間とも重なり合い、「移動すること」「生き延びること」「受け継がれていくこと」の意味を、観る者に静かに問いかける。

https://festival-shizuoka.jp/program/eel-migration/

海部先生のお話はたいへん興味深く、語り口も面白いなと思っていたら…

SPAC俳優・吉見亮氏が海部先生そのままを演じていた。

ちなみに、(こんな事を言ったら怒られるようだと前置きした上で語られた)うなぎの最新研究は「日本のうなぎは増えているのか減っているのか」であるという。うなぎは海で生まれ、3000kmを泳いで一つ一つの川に入っていくため、増減のトレンドを掴むと言っても東アジア全域の川を調査する必要があって、そんなことはほぼ不可能に近い。しかも、現在は中国と協力しづらい状況にあって、現場は協力を望んでいるものの上の許可が下りない。自然環境は国境で途切れてはいないのだ。

※日本の食卓に並ぶほぼ5割が「アメリカうなぎ」という品種らしく、カリブ海諸国で獲られる稚魚がマネーロンダリングの温床になっているという話は、実際に舞台でも語られていた。密猟シラスウナギの養殖業者を貴島豪氏が演じており、フロイトとアリストテレスの話をする場面には大笑いでした。

この作品について話していると、よくこう聞かれます。
「うなぎって、移民のことですよね?」
産卵のために数千キロを泳ぐうなぎと、さまざまな事情で海を渡ってきた人々。両者を並べてみれば、たしかに似ているところはあります。けれど、台本・演出の石神夏希さんはこう語っています。

「人生の中で大きな距離を旅する人々と、時間をかけて海から川へ、そして海へと旅する回遊魚のうなぎ。ぴったり重なり合うわけではありません。しかし一度、うなぎの目を通して人間を見てみると、どうして移動をするのか? ふるさととは何か? 自分たちはいったいどこで生まれ、死にたいんだろうか?という普遍的な問いが生まれてきます」SPUR20251224

うなぎは、移民の象徴ではありません。うなぎは、視線の高さを変えるための装置です。人間が人間を見るのではなく、うなぎの目を借りて人間を見てみる。といっても、私たちが本当にうなぎになれるわけではありません。けれど、その想像力を借りようとするだけで、国籍、言語、肌の色、日本で過ごした年月といった分け方が、ふと小さく見えてきます。だからこそ、うなぎは舞台に出演しないのだと思います。舞台に立つのは、人間のほうです。

https://spac.or.jp/blog/?p=35783

移民のイメージがダブるところもあるが、むしろうなぎという生態がよく分かっていない不思議な生き物に、人間存在の不思議が重なる。Covid-19の後遺症による記憶障害に苦しむSPAC俳優・赤松さんが登場して、「何度も何度もおなじ話をしてしまう」と語る場面には胸が締め付けられるような思いがしたが、それでも舞台に上がって声を上げる姿に励まされた。『うなぎの回遊 Eel Migration』は、移民も含めた"わたしたち"の寓話であった。わたしたちは何者なのか。それを探しに生まれた場所へ、大海原を前進して魂の原点へと帰っていく物語であった。

棚川寛子氏による音楽は毎回素晴らしいが、今回特に良かった。魂の鐘を激しく打ち鳴らされた(と、前もそんなことを書いた気もするが…)。

(2026年4月26日観劇)

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